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2010年04月11日13:24

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井上ひさし

 『ブンとフン』の評価が高いみたいですが、私は「いかにもおもしろい話が展開している」と言いたげな語り口と、しかし、実際にはちっともおもしろくない内容に困惑しながら読み進めた記憶があります。
 でも、おもにこまつ座が上演していた一連のお芝居、特に『人間合格』や『頭痛肩こり樋口一葉』など、作家の評伝ものは文句なしにおもしろかったです。一方で、お芝居でも『貧乏物語』や『父と暮らせば』など、作者の政治的な傾向や思い入れが強くなると、私はそこには共感できなくて、おまり楽しめませんでした。
 小説はほとんど読んでいませんが、たまたまコメ問題などを扱った本にあたってしまうことが多く、独特のウエットな論理構築が肌に合いませんでした。

 熱心な共産党のシンパでありながら、新国立劇場杮落とし公演の脚本を書いたのは、書かせた方も書いた方もえらいもんだなと思います。典型的な戦後民主主義の信奉者で、いささか空想的な憲法9条護持論者でもあります。それはまあ世代的にもそんなものでしょうし、個人の思想信条の問題なのでどうでもいいのですが、家庭では前の奥さんを殴っていたというのが、そんなものかという気もすれば、やはり天才というのは理解しがたいものであるなあということのようでもあります。少なくとも前の奥さんは安全保障について、夫とは別の見解を抱いたことでしょう。

 遅筆堂と自分でも言っているくらいでして、筆が遅いのは周知の事実です。テレビでインタビューに答えていて、「クオリティについて責任があるからどうしても遅れがちになる」と言っていました。しかし、舞台の脚本についていえば、早くあげてスタッフやキャストのために十分な余裕を確保することもまたクオリティです。
 たしか、脚本の完成があまりに直前であったため、ベテランの女優が出演を拒否して、公演が流れたことがあったと記憶しています。細切れであがってくる脚本にあわせて場面ごとに稽古をするというのはけっこうあるそうでして、かの女優もそれぐらいなら許容したでしょうが、俳優が幕を上げさせないという判断をするのはよほどのことであって、けっこうすごい状況を想像させます。

 なんだか批判がましいことばかり書き連ねてしまいましたが、朴訥な容貌に反して、なかなか複雑で扱いづらい人ではあったみたいです。あと、奥さんを殴るのはよくないです。でも、舞台はおもしろい。会話が生き生きしていてリズミカルで、それはやはり脚本の力だと思います。新劇畑の人でなくて、浅草のストリップ劇場の幕間のコントでしたか、それは戦前の軽演劇からつながるものでしょうが、あの軽妙さにはたしかにそういうバックボーンが垣間見えます。NHKの芸術劇場あたりで、舞台中継を再放送するでしょうが、おすすめです。

 考えてみれば、作家は自分の評伝を書けません。井上ひさしの書いた井上ひさしの評伝はかなりおもしろかったろうなと思います。

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