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2009年08月02日15:28

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一條和樹『出張ホスト 僕は一晩45000円で女性に抱かれる』

久し振りに全てを再読した。確か三度目かな?この小説、やっぱりとってもいい。好きだ。好きな文章をたっぷりと引用したい。



宇都宮から来たホステス
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「本当にいやなの。そんなつもりじゃないの。そばにいてくれるだけでいいのよ」

 僕はバスタオルをはがすのを諦め、お客さんに腕枕をしてあげた。そうなればなったで、急にむらむらしてくるから不思議なものだ。
 シャンプーとボディソープ、それに化粧品の残り香が混ざった濃密な香りが、お客さんの体から漂っている。バスタオルを巻いていてもはっきりとわかる、むっちりとした豊満な肉体も魅力的だ。僕は彼女を抱きたくなってしまった。
「むらむらしてきちゃったの?」
 唐突にお客さんがきいた。僕が性欲を感じていることに気づいたらしい。
「してあげようか」
 してあげる?お金を払ったのは彼女なのだ。それなのに、してあげるとは。こんな客がいるだろうか。
 お客さんが体を起こし、僕のバスタオルをむしり取った。恥ずかしかった。彼女を抱きたいと思っているのが明らかだったからだ。
 そこに彼女はゆっくりと顔を近づけてきて、僕のペニスを口に含んだ。
 温かくて優しい行為。
 射精が近くなった。
「もう、いいよ」
 お客さんの唇が離れ、今度は手が僕を包んでくれた。僕は彼女の温かい手の中で、静かに果てた。
「ごめんね。あたしとセックスしたかった?」
 ふたりは仰向けに寝転がっており、僕は彼女に腕枕をしている。
「うん、君は魅力的な人だからね」
「今も不倫中だっていったでしょう。彼のこと、ほんとに好きなのよ」
 お客さんはそれだけしかいわなかった。少しは興奮したのか、頬が赤くなっている。僕はそんなお客さんがいとおしく思え、顔を見つめていた。
「そんなに見ないで」
 恥ずかしそうにそういうと、毛布を被ってしまった。しばらくして、小さな寝息が聞こえ始めた。
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著者がホストをすることになった原因:

勘違いの後始末
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 2000年の末から翌年の初めにかけて、僕は株を全部手放す決心をした。こんなことを続けていると、本当に自殺でもしかねないと思ったからだ。
 この一年はいったい何だったんだ。せめて先輩みたいに車でも買っておけばよかった。株で成功する夢も破れ、1800万円の借金だけが残り、僕は完全に自信を失ってしまった。
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大阪から来た美術教師
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 彼女は寂しげに笑った。大阪勤務を終えた彼が東京に戻った後も、彼女は月一回のペースで上京し、遠距離恋愛を続けていたらしい。
「離れてもな、浮気なんかできる人やなかってん。そやから、安心してたんやけど」
「浮気されたの」
 彼女は首を振り、
「ううん。違うんや。今思うと、バカな話やね。彼の部屋で、風俗店の割引チケットを見つけてしもうたんや」
 酎ハイを空けるペースが速くなった。
「本人はすぐに認めてな、素直に謝ってくれたのに。あたしが子供やったんやろうね」
 それ以来、お客さんは彼を信じられなくなり、軽いノイローゼ状態に陥ってしまったらしい。ほかに女がいる妄想に襲われるようになり、突然、新幹線に飛び乗って彼の部屋を訪れたこともあるという。
「そんなことされたら、誰かて嫌になるわ。風俗で遊ぶなんて、男の人なら誰でもすることやんか」
 彼女が新しい缶酎ハイのプルトップを引く。
「そのうち、本当に新しい女の人ができてもうた。あたしが追い込んだんやね」
 一息で酎ハイを飲みほした。
「ほんまに好きやったんや……」
 自分に確認するようにつぶやいた。
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赤いメルセデスの女
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「あたしね、ずっと自分が日本人のつもりだったの」
「もちろんそうだよね。こっちで生まれたんだから、そう思うよね」
「でもね、昔、好きになった日本人の男の人に振られたことがあるの」
「その人とは相性が悪かったのさ」
 お客さんは首を振った。
「その人、あたしが韓国人だから、好きになれないっていったの。それ以来、あたし、男の人とつきあうのが怖くなっちゃって」

「勘違いしないでね。自分が日本人じゃないっていうことにコンプレックスがあるんじゃないのよ。面と向かって韓国人っていわれても、何ともない。だって、本当にそうなんだもん。だけど、日本人の男の人だけは駄目なの」
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処女を捨てにきたOL
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「卒業したあとはね、広告代理店に勤めたの。小さな会社だったから出会いも少なくて、気が付いたらバージンのまま26になってたのよ」
「出会いがあれば、すぐに彼氏ができるよ」
 彼女が首を振った。
「だめ。もう何年も出会いなんてないし、いいなあと思う男の人に会っても、あたし、アプローチできないの」
「どうして」
「バージンだから」
 いっている意味がわからなかった。

「好きになった女の子がバージンだったら、男は誰だって嬉しいよ。気にすることはないさ」
 嘘をついたつもりはなかった。

「実はね、あたし、好きな人がいるの。ほんとに好きなのよ。その人に嫌われるのはいやだから、自信を持って接したいの。だから」
「今晩、バージンを捨てようと決めたの?」
「そう。だって、もしその人とそんな関係になったら、バージンだと迷惑かけちゃうかもしれないし。初めての女って、とても面倒なものなんでしょう。それで嫌われるのはいやなの」
「気持ちはわかるよ」
 彼女の顔に華やいだ笑みが浮かんだ。今までの、どこか作りものめいたこわばった笑顔とはまったく違う、本当の笑顔だった。
「シャワー、浴びてくるね」
 彼女がいった。
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年下の部下のことが好きになった女性
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「あたしね、最近、会社で好きな男の子ができたのよ」

「その頃だったわ。あたし、彼に相談を持ちかけられたのよ。好きな子ができたから、力になってほしいって」
 その女性は、お客さんと同じ部署の、若い女の子だったらしい。

「それをきっかけに、ふたりはつきあうようになったんですか」
「そうなのよ」
 お客さんがうつむいた。
「それでいいと思ってたのにね。そうなればなったでつらくなるなんて、あたしもバカな女ね。こんないい年なのに」
「そんなことないよ」

 しばらく経って、仲を取り持ってくれたお礼にと、彼が飲みに誘ってくれたらしい。同僚何人かと飲みに出ることはあっても、ふたりきりで飲むのは初めてのことだった。
「その時ね、あたし、とんでもないことをしちゃったの。あたし、あまり強いほうじゃないから、かなり酔っぱらっちゃって」
 お客さんは、もう一度ビールを舐めた。
「二件目のお店でね、彼女ができたお礼に、あたしを抱いてっていっちゃったのよ。すぐに、いけないことをいったと思ったわ。でも、その時に彼、なんていったと思う」
「わからない」
「あなたのような尊敬できる女性がそんなことをいわないでください。もし、あなたとそんな関係になったら、こうして気軽に会うことができなくなりますからって。あたし、顔から火が出るかと思ったわよ」
 長い語りだった。話がどこに到着するのか、まるでわからない。時間だけが過ぎていく。
「恥ずかしくなったわ。年甲斐もなく、若い男の子を好きになって、空回りしている自分。とんでもないことをいって、ずっと年下の子に諭されてる自分が。それで、親しいお友達に相談したの」
「なんていわれたの?」
「本当はただ抱かれたかっただけじゃなかったのって。若い男の子とのセックスに興味があっただけじゃないのっていわれたわ。全部がそうとはいわないけど、きっと半分はそうよって」
 お客さんが、残りのビールを一息で飲んだ。
「今はね、きっとそうだったんだと思えるようになったの。やっと、自分でもそう認められるようになったのよ」
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マリッジブルーの女
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 チェックのスーツに薄手のコート。目印どおりの女性を見つけて驚いた。お嬢様、という言葉がぴったりの女性だったからだ。手入れが行き届いたセミロングの髪。ブランドもののバッグにきれいに磨き上げられた靴。そのどれもが育ちの良さを感じさせる。
「はじめまして」
 お客さんが丁寧に頭を下げる。きちんとした躾を受けた女性らしい態度だった。

「私、彼が思ってるほど、真面目な女じゃないんですよ」
 彼女がいった。
「どういうこと?浮気でもしたの」
 お客さんはセミロングの髪を揺らしていった。
「ううん。浮気はしたことない。でも、彼に黙って合コンに出たりしたことはあるの。その時に会った男性をすてきだなって思ったわ」
「そんなこと、誰だって思うよ」
「でもね、私、その男の人に抱かれたいって思ったのよ。いけないことでしょう」
「抱かれてないんだろ」
 彼女がうなずく。彼と交際してきた五年間、一度も浮気をしたことがないどころか、男性と二人きりで会ったこともないらしい。それなのに、合コンで会った男性に心惹かれ、自分がとても不真面目な女性だと思ってしまった。
「それで気がついたの。私は、彼が思ってるような女じゃないって。だってね、合コンで会った人に抱かれたいと思ったあと、私、わかったのよ。彼以外の男性に抱かれたいんだって」

「どんなふうにしてほしいの」
 僕はきいた。彼女のしたいようにしてあげようと思った。
 彼女が僕にきつく抱きついてきた。一度、大胆に振舞ってしまうと、あとはもう、彼女は自分の感情を隠すことがなかった。感情のおもむくまま、欲望の命ずるままに僕を求めてくる。
 僕はゆっくりと中に入っていった。喘ぎ声が聞こえる。激しく乱れながら、僕を受け入れている。
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次は一番好きなエピソード。これは何度も読み返している。

寂しい看護婦
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 初めて、その女性に呼ばれたのは、まだ春先の寒い日のことだった。場所は自由が丘の自宅マンション。彼女はその時、25歳で、都内の病院に勤める看護婦だった。

「一年前に、同棲していた彼と別れたの。ゆくゆくは結婚するだろうと思ってた人だったから、ショックが大きくって」

「でもね、いつまでもこのままでは寂しいじゃない。だから、変化を求めてホストの人を呼ぼうと思ったの」

 三度目の予約のとき、始めてゆき子は「泊まり」を指定してきた。夜の10時過ぎに部屋へ行くと、彼女はちょうど帰ってきたところだった。

 彼女は離してくれなかった。僕たちは、時間が過ぎていくのを惜しむようにつよくつよく抱き合い、朝まで体を重ねたままでいた。外はまだ肌寒いというのに、僕たちは毛布の中で全身にびっしょりと汗をかいた。
「ねえ、仕事以外で会えないの」
 ベッドの中でゆき子がぽそりといった。
 僕も彼女に魅力を感じている。でも、本当にうまくいくのだろうか。僕は裸のゆき子を、左腕で抱きながら天井を見つめ続けた。何もかもが現実味を失っている。
 ゆき子がこちらを見ている。何と答えたらいいのだろう。
「一條さんはどうしてこんな仕事をしてるの」
 ゆき子が聞いた。よく聞かれる質問だ。そんな時、いつも適当にごまかしている。なのにこの時ばかりは、本当のことを話してしまった。多額の借金を抱えていることも、その理由も全部話した。
「そうだったの」
 ゆき子は驚いて体を起こした。
「ねえ、どうして早くいってくれなかったの。いくらあるか知らないけど、一緒に返してあげるよ。ね、いいでしょう。そうしようよ。今まで貯めた貯金もあるし、仕事が忙しすぎて、お給料、あんまり使わないから」
 今度は僕が驚く番だった。
 どうして彼女は、こんなことをいってくれるのだろう。僕が彼女に、いったい何をしてあげたというのか。
 ホストの仕事を辞めて、ゆき子とつきあいながら、ふたりで地道に借金を返していく。それはそれでとても幸せなことのように思えた。でもそれは、何かが少しだけ間違っている。そう考えると、胸の中を風が通り抜けていくような気になった。


 あれは確か五回目の朝を一緒に迎えたときだった。彼女の気持ちが揺るがないよう、強い口調でいった。
「気持ちはありがたいけど、僕たちはホストとお客さんの関係のままがいい」
 ゆき子が後ろを向いて泣いている。小さな肩がふるえているのがわかった。
 その後、ゆき子からの指名はない。
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昨日、処女を捨てたばかりのOL
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 出張ホストの仕事を始めて、ひとつだけ意外だったことがある。若いお客さんが多いということだ。最初は金持ちのミセスか水商売ばかりと思っていたけどまったく違った。

 20代なかばのおとなしそうなOLふうの女性だ。

「あたし、昨日まで処女だったんですよ」
「昨日まで?」
「そう。彼に振られちゃって、もうどうでもよくなったの。だから、テレクラに電話して」
「知らない人にあげちゃったんだ」
 彼女はうなずいた。
「中年の男の人だった。でもね、処女を失ってみると、なんか新しい世界が広がったみたいだったわ。今までのあたしって処女だったし、恋愛経験も少なかったでしょう。その反動なのかな、急にセックスに興味が湧いてきたの。ホストみたいなカッコいい男の人ともしてみたくなっちゃって」

 鏡に僕たちの絡み合った姿が映っている。
 僕が挿入していくと、彼女は何度も、
「あたし、セックスしてるのよ。ねえ、あたしがセックスしてるのよ」
 と鏡に映った自分を見ながら、まるで呪文のように繰り返した。


 みんな必死なんだ。寂しさで心まで凍ってしまわないように、一生懸命あがきながら生きているんだ。
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嗚呼!!!切ねぇーっ!!!滅茶苦茶切ないよ。。。たらーっ(汗)たらーっ(汗)たらーっ(汗)


一條和樹『出張ホスト』[2007年09月24日]
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