昭和35年(1960)、岸内閣の後を受けた池田内閣が唱えたのが、月給2倍論でした。GNP (国民総生産)を毎年8.8パーセント上げていくと、10年後には2.3倍になる、すると必然的に私たちの月給は一人当たり1.9倍になるというものです。
ただ往々にして間違うのですが、実際は池田内閣ができたからいっぺんに経済成長がはじまったわけではなく、すでに昭和28年(1953)頃から日本人がどんどん働きだして、ある種の高度成長時代に入っていたのです。
朝鮮戦争の神風が吹いたこともあり、日本人の労働力はぐんぐん増してきましたし、昭和30年くらいには国民の生活はすでにかなり裕福になっていました。その頃のお話を同志に聞くとかつては焼酎しか飲めなかったのが、やがてトリスになり、オーシャンになり、サントリーの角(角瓶)になっていったといっていました。
そういえば隅田川でボート選手だった昭和26、27年頃は、先輩が吾妻橋あたりでビールを飲ませてくれるというと感涙にむせぶくらい嬉しかったのが、この頃になるとビールなんてガブガブ飲めるようになっていました。
それにつれて隅田川の水がどんどん汚くなりました。川上にある工場群が大いに稼働しはじめたからです。実際、昭和30年から35年までの5年間でGNPの年平均成長率は8.8パーセントを上回って年10.4パーセントで成長し、一人当たり給料が2.7倍になるほどだったのです。
ところが日本の経済学者はいつだって大間違いをする癖があるようで、そんなことできるわけないじゃないか、と池田内閣の政策についてはクソミソでした。そこで池田さんの最大のブレーンだった開発銀行理事の下村治さんがいみじくも言った言葉があります。
「日本経済についてありとあらゆる欠点を並べたててあざ笑う人々を見ていると、私はアンデルセンの『醜いあひるの子』を思い出す。日本経済は白鳥の子らしい特徴をもった発育を示しているのに、あひるの目で見れば異常なのかもしれない」(『日本経済は成長する』弘文堂)
これを読んだ時、「えっオレたちは白鳥なのかな。いや、まだアヒルなんじゃないの」なんて言ったものです。ともかく下村さんは断然たる自信を示しました。そんな時にはやったキャッチフレーズが「国民よ大志を抱け」クラーク博士の “Boys be ambitious.” をもじったものです。また「育ちざかりの日本経済」なんてことも言われました。
さて、そういった政策を受けて、すでに頑張りはじめていた各企業は、「政府の後押しがあるならば」とさらにハッスルします。これまでに続けてきた設備投資をもっともっと進めようじゃないかと積極的になっていきました。生産を上げるための設備投資によって生産が上がればさらに投資するというかたちで生産力をどんどん膨らませていきます。
また国民も、月給が二倍になるというのでマイホームへの夢を膨らませはじめます。それまでは、狭い家に何人もの家族がゴタゴタと一緒に住んでいたのですが、昭和30年代半ばからマイホームへの夢が膨らむと同時に、家族の一人ひとりが自分の部屋をもつことをものすごく願うようになりました。
考えてみれば、これが核家族のスタートだったのでしょうが、人間は夢が膨らむにつれて一人になりたいという思いが強くなっていくようです。そして現在、景気も上がらず、国が借金漬けという状態になってしまいました。
物価が高騰する中、それに見あった賃金の上昇を伴う景気を作る、本当の景気対策は、景気とはお金が回る状態、という基本中の基本に立ち返って、生きたお金を市場から吸い上げないことですから、国が借金をしないことです。
金持ちや大企業、公益と称する団体の票を背景に、それらの人や集団に有利になるように改悪されて来た、税制の在り方を、本来あるべき姿に変えていくことが必須です。法人税率を以前のように戻す。これらを軸に具体的なやるべきことはいくらでも出て来ます。
景気対策についても、一人一人が、周囲に何をしてあげられるだろうか、お金を回して、みんなが潤う良い景気を作り出します。それを呼びかけるのが、本当の景気対策というものです。円安物価上昇に見合う賃金引上げを伴う好景気によるお金の循環、それは、制度や仕組みだけではない、一人一人の心によって生まれるのです。
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