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2016年05月22日11:07

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くくるくくぱろま(6)

ふり返って、後ろを見ては、絶対に、いけない。そう、本能的にそう感じて、私はただ、ひたすら、エレベーターのボタンを、狂ったように、押し続けた。
しかし、エレベーターは止まっている階から、降りてくる気配はまったく、ない。
開いたドアが、ドーンという大きな音を立てて閉まり、ズルズルと、何かがこちらに向かって、近づいてくる気配がする。足を引きずっているのか、あるいは、何かを引きずっているのか・・。
私は、エレベーターのボタンを、ひたすら、押し続けた。その時、ガタンと、大きな音がして、エレベーターが、いきなり動き出し、止まっていた1階から、ゆっくり、地下へと降りてくる。
た、助かった。でも、足を引きずるような、何かを引きずるような、背後の音は、もうすぐ、そこまで、迫っていた。
「早く、早く」と、私は大声を出して、絶叫する。
再び、ガタンと大きな音を立てて、エレベーターが止まり、ドアが開く。私はその中に飛び込んで、しかし、ドアを閉めるためには、ふり返る必要がある。イヤだ。でも、ふり返って、ドアを閉めねば・・。
私は、意を決して、ふり返って、ドアのボタンを押した。そして、閉まるドア越しに、私は見たのだ。
閉まるドアの向こうにいたのは、あれは、スッカリ、血の気を失い、目を大きく見開いた、義男の・・。
そこで、目が覚めた。私は、再び、病室の、自分のベッドに寝て、見上げた天井に、何か、黒々としたものがへばりついていた。そして、それがいきなり、私の上に覆い被さってきて・・。
そして、目が覚めた。ベッドの上。多分、夜。すべては、夢?
いや、そうではない。閉まったカーテン越しに、ゼイゼイという誰かの寝息。出し抜けに、隣のベッドの明かりがつき、黒々とした男のシルエットが、ゆっくりと、上半身を起こし、そして、カーテンに手を・・。
「柚木さん、柚木さん」
看護師の、緊迫した声がした。私が目を開けると、見慣れた看護師の吉岡さんの顔が、そこにあった。
「柚木さんが、急に大声を出して、何かを叫んでいると、部屋の人からナースコールがあったので」と、吉岡さんが、いう。
室内が明るい。今は、明らかに、夜ではない。
「な、何時?」と、私は、声を絞り出すようにして、聞く。
「もうすぐ、お昼ですよ。いやだぁ、寝ぼけたんですかぁ?」と、吉岡さんは、ようやく、表情をゆるめて、笑顔になった。
「ど、どうも、そうのようです。すいません」
だが、私にはわかっていた。あれは、夢なんかではないと・・。
私は、私の左手に、クッキリ、赤い指の跡がついているのを、見てしまったのだった。それは見る見る内に、薄れて、消えてしまったが、私は気を失う直前に、左手首をあれに、強く、握られたのを、覚えていた。
ハッキリ、いってしまおう。あれではなく、あれは間違いなく義男の、血の通っていない、冷たい手だったのだ。
私は、思い出した。そう、あの日のことを。
(続く)


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