中国にマイナス成長危機、隠された李首相「10万人集会」
編集委員 中沢克二
2022年6月1日 0:00
習近平(シー・ジンピン)政権による不動産、IT(情報技術) 業界への圧力が象徴する経済政策のミスと、新型コロナウイルスを封じ込める厳格な「ゼロコロナ」政策のダブルパンチで中国経済は大きなダメージを受けている。
危機感を抱く首相の李克強(リー・クォーチャン)が率いる国務院(中央政府、内閣に相当)は5月25日、経済安定へ全国の幹部らを動員する異例の大規模テレビ電話会議を開いた。李は経済の最前線に立つ全国2800以上の地域の計10万人を超す幹部らに直接、テレビ電話で呼びかける効果的な手法を選んだのだ。
「3月、特に4月以降、各種の経済指標が明らかに低迷し、ある分野で一定程度、2020年の新型コロナ感染が深刻だった時期に受けた衝撃よりも大きな困難に直面している」「コロナ対策と経済発展を効率よく統合させて困難に立ち向かおう」
中国の公式報道によれば、李はコロナ対策と経済発展の効率的なバランスという新しい微妙な表現を使いながら、4〜6月の経済について「合理的な成長」を確保するため努力しようと号令をかけた。だが、実際に演説を聴いた多くの官僚らから漏れ伝わってくるのは、もっと深刻で率直な状況認識だ。
4〜6月は「ともかくプラス成長」が目標
出回っている「李発言要約メモ」によれば、主要目標として挙げられたのは、マイナス成長を回避し、プラスに持っていくこと。そして急激に上昇した失業率を下げに転じさせることである。
一部メディアの報道・解説などによると「とにかくマイナス成長を全力で回避せよ」というニュアンスが強かった。そのために債券発行の拡大、消費奨励金の給付、減税・還付、社会保障費の納付猶予、炭鉱採掘の再開など手を尽くすので、各地の現場も全力で取り組んでほしい、という激励と叱咤(しった)だった。社会不安を避けるには当然だろう。
李はもう一つ、手を打った。国務院が全国12省へ、統計に関する監督・査察チームを派遣すると同時に発表したのだ。4〜6月の経済統計を巡り、成果を必要以上に誇示したい地方幹部らによる「水増し」を許さない厳しい姿勢である。裏にあるのは、いまだに目立つ統計不正の横行を許したまま来春、首相から退任すれば、地味ながら10年間、積み上げてきた自らの業績に傷が付くという思いだろう。李の本気度が分かる動きだ。
初めて新型コロナの直撃を受けた20年1〜3月の中国の成長率は前年同期比マイナス6.8%だった。李が触れたように現状がさらに厳しければ、5月下旬までの実績は、明らかなマイナスだったと推測できる。緊急事態だ。国家主席の習近平としても、もはや事態を放置できず、李に出血を止める当面の対策を任せるしかない。ふたりの間に一定の妥協が成立したという解釈も可能だ。
すぐさま政官界や一般社会で問題化したのは、国民生活の窮状を救う国務院大会議の公式報道上の扱いが極めて小さく、矮小(わいしょう)化されたことだ。とりわけ「10万人」という驚くべき参加人数の多さは、まず民間色の強い一部中国メディアだけが早い段階で報じた。この数字は瞬く間に確認され、当日夜までに全国的な話題になった。
一方、当日の5月25日夜、国営中央テレビが放映したメインニュースの扱いは5番目にすぎず、極めて地味だった。翌日付の共産党機関紙、人民日報1面の扱いも5番手で目立たない。もちろん10万人という規模も無視した。中国のインターネットの主要なポータルサイトでもトップページになく、検索しても出てこないケースさえあった。
代わりに多くのメディアでトップに置かれたのは、習近平関連のさほど興味をひかないニュースである。共産党の宣伝担当部門が「10万人大会」の扱いを抑えるよう強く指示していたのは明らかだ。
報道矮小化への不満は権力闘争の兆し
ネット上で宣伝部門への不満が噴出したのは当然だった。「10万人もが動員されたのに、なぜ5番手なんだ」「庶民生活に影響する最も大事なニュースの扱いが小さすぎる」「おかしい。4人の副首相のほか軍、警察の担当閣僚まで顔をそろえた極めて重要な会議のはずだ」
当日夜から翌日にかけて、中国のネットでは、反発する見出しの文章、書き込みが目立った。それらは監視当局によって次々、削除され、すぐに閲覧不能になった。
「(宣伝部門への)不満が目立つ形で文字、文章になり、すぐに閲覧できなくなったのは、内部での(権力)闘争の兆しとみてよい」。党内事情に通じる関係者は、この現象を李がいま直面する政治的な危うさの象徴だとみている。
噴出した不満の裏には、中国経済を救う覚悟を示した李への幅広い期待と声援が隠れている。これまでなら考えにくい「消防・救急隊長」としての李の人気急上昇。逆にいえば、この「怪現象」は、経済をないがしろにしてきた習ら主流派への言外の批判でもある。
仮に李自身に、別格の地位を指す「核心」である習に政治上、盾突く意思がないとしても、やりすぎだった習の首に鈴を付ける危険な役割を結果的に担わざるをえないかもしれない。秋に共産党大会を控える特別な時期だけに、政治的には極めて危うい状況だ。
中国経済を救おうとする李の動きをあえて小さく扱う奇怪な動きについて、老党員は興味深い解説をする。「1962年に秘密裏に開かれた『7千人大会』を思い出せば理解できる」。全国各省・自治区、主要工場、軍から県党委員会級以上の幹部を集めた7千人大会は、共産党中央拡大工作会議の別称だ。
毛沢東が主導した「大躍進」(58〜62年)で農村経済が徹底的に破壊され、数千万人ともいわれる餓死者を出した経済工作(政策)上の「左」傾斜失敗を総括し、経済立て直しにカジを切った歴史的な会議だ。
会議には当時としては空前の大人数である7千人が全国から参加したのに、開催の事実は一切、公表されなかった。失敗で権威を失いつつあったカリスマ、毛沢東の体面にも配慮し、存在自体を隠したのだ。毛の「左」の指導思想自体の誤りを根本的にただすこともなかった。今回の李による10万人大会の扱いが、極めて小さい理由も似た面がある。
この話には恐ろしい後日談がある。7千人大会を経て経済再建の立役者となった当時の国家主席、劉少奇は、その4年後に毛沢東が主導権回復を狙って仕掛けた「文化大革命」(66〜76年)で打倒の対象になり、命を落とすことになる。
ここ数年、習主導で打ち出された「左」志向の各政策は、経済の基本原理・原則を無視した点で「ミニ大躍進」と評されることがある。これらは、中国経済が急減速する緊急事態下で目立たない形で事実上、修正されつつある。主導するのは李だ。
巨額経済対策の実態注視
だが、習が秋の党大会でトップとして続投した場合、数年後に「左」系政策がさらに極端な形で再登場する可能性は残る。中国共産党の歴史を振り返ると、経済を巡る大政策、大方針と権力闘争は表裏一体だ。「ミニ大躍進」の総括は、そう簡単ではない。
今回の「10万人大会」で李は5月末に経済対策の実施細則を俎上(そじょう)に載せる考えを示していた。中央、地方、国有企業などを総動員し、原発建設の再開などインフラ整備を前倒しで実施。4〜6月のマイナス成長を回避し、7〜9月には「5.5%前後」という年間目標に向けた巡航速度の回復をもくろむ。
その経済対策の規模については「16兆元(約310兆円)はある」「いやいや、30兆元を超す」といった考えにくい巨額の数字まで出回っている。これは、あくまで、これまで打ち出された様々な数字の合算にすぎず、いわゆる「真水」ではない。
上海市のロックダウン(都市封鎖)が6月1日に事実上、解除されても、各地ではゼロコロナ政策の経済への打撃が続く。国家統計局が5月31日発表した5月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は好調・不調の境目である50を3カ月連続で下回った。
加えて重荷になっているのが不動産不況だ。こちらは効果的な景気刺激策を打ち出したい地方政府の財政的な機動力をそぐ。いまの段階で楽観的な見通しは立てにくい。急減速する経済が駆け引きの材料になる権力闘争の波風は当面、収まりそうもない。(敬称略)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK300YV0Q2A530C2000000/
今年、中共肺炎禍への対応で供給された資金が回収されます。
当然、海外からの投資が引き上げられるのは時間の問題です。
習近平の失政と相まって、中共のマイナス成長は避けられません。
岸田じゃ乗り切れないよ^^;
緩和マネー、年2兆ドル収縮へ 世界の中銀が資産圧縮
2022年6月1日 2:00 (2022年6月1日 6:23更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN310040R30C22A5000000/
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