「思い出したくない」の章
兵長(狙撃兵)
「もうすぐ18というときに戦争が始まって、敵がモスクワに迫ってきた、って言われた。
父はもう出征していた。徴兵司令部に行くともうたくさんの女の子がいた。
数日後に召集令状が来て、徴兵司令部に行くと、
出てきたときはお下げは切られて刈上げ、ワンピースも取り上げられて制服に。
母に何かを残してくれと言われてたけど、髪や服を渡す時間はなかった」
上級軍曹(狙撃兵)
「はじめて人を撃ったときは怖かった。何も知らない相手を殺しちゃったって。
しばらくしてそういう気持ちはなくなった。
ウクライナで、黒焦げになった人骨がわが軍の制服を着ていたのを見てからは。」
「前線から戻った時は21歳で、脳挫傷があって片耳が聞こえなかった。
兄は戦死していた。母はわたしが帰ることを昼も夜も祈っていたと言った。
家の近くに鉱石採掘場があって、発破の音がすると、
夜中でも軍外套をつかんで逃げようとした。母が捕まえて抱きしめてくれた。
戦争は終わったのよ、ここはあなたの家よ、あんたのおかあさんよ、って。」
「食料隊が砲弾にやられて食料が尽きて、三日間乾パンばかり。
うつくしいふさふさしっぽの子馬がのんびり歩いているのを見つけた。
そのときドイツ狙撃兵に見つかった。何も考えずに撃ち、子馬はどうっと倒れた。
子供のころから動物好きで、ウチの牛を屠殺したときは2日間泣き続けたのに。
夜、料理番が夕食をもってきた。
でかした、狙撃兵。今日は肉入りスープだ。」
「同じ隊だったマーシャは、歩兵師団長救出に行って負傷した。
前方で砲弾が破裂して、師団長は即死、マーシャは両足がぐしゃぐしゃになった。
撃ち殺して、このまま生きていたくない、と言われたけど病院に送るしかなかった。
それからどうなったか、全くわからなかった。ありとあらゆるところに手紙を出した。
戦後30年たって、とても遠くの身障者施設にいるとわかった。
いくつもの施設を転々として、何十回と手術をしたって。
お母さんにも連絡しないでいた。戦友会の集まりに連れ出してお母さんに会わせた。
お母さんは言った、わたしは何て運がいいんだろう、ねえマーシェンカ。
マーシャは言った。今はもう会うのが怖くないわ、年取ってしまったから。」
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