昨日、作家の井出孫六さんが、8日に亡くなったとのニュースがありました。
井出さんは、1974年(昭和49年)に、「アトラス伝説」で直木賞を受賞しています。
その直後だったと思いますが、この本を読みました。
井出さんの他の本も読んだような気がしますが、
「アトラス伝説」の印象が強くて、他の記憶がありません。
他の本は余り面白くなかったので、読まなくなったのかも知れません。
「アトラス伝説」は、野口英世の事を書いた本だとばかり思っていましたが、
井出さんの訃報で「アトラス伝説」を思い出し調べてみたら、
表題作の外に、「非英雄伝」、「太陽の葬送」の3編の短編小説の本で、
「アトラス伝説」は川上冬崖を描いた小説であるのが分かり、
おぼろげながら思い出しました。
野口英世を描いていたのは、「非英雄伝説」で、そこではN博士となっていました。
野口英世は言うまでもなく、極貧の農家に生まれ、
幼児期の大火傷のために左手が不具になるという恵まれない状況の中から、
本人の必死の努力によって世界的な細菌学者になった人で、
多分、多くの人が子どもの頃にその伝記を読んだと思いますし、
野口英世を尊敬する人物として挙げる人も多かったろうと思います。
2004年からは千円札の肖像になっています。
その野口英世が、金銭感覚にルーズで
借金を繰り返していた人物として描かれていました。
だいぶ前に読んだ本なので、「非英雄伝説」に描かれていたのか、
後から得た知識なのかハッキリしない面もあるのですが、
ともかく、いわゆる偉人だった野口英世が常識のない人物だった事に驚き、
そのために、とても印象に残る本でした。
歴史小説などを読むと、主人公を完璧な人物として描き、
生身の人間として描かれていないのが不満に感じるようになりました。
その傾向が強いので、NHKの大河ドラマは見なくなりました。
司馬遼太郎の歴史小説は、キチンと史実を踏まえて、
そこに人物像を膨らませていくので、それなりの臨場感を感じますが、
それでも、余りにも立派過ぎないかいと言う感じを持つことがありました。
そうした意味で、歴史上の人物を史料に当たりながら、普通の人物として描くのが、
余り読まれていないかも知れませんが、野口武彦さんです。
その「巨人伝説」は、安政の大獄の時の主要人物である、
井伊直弼と長野主膳を普通の人間として描いているような感じで、
とても斬新な感じがしました。
「異形の維新史」とか「元禄六花撰」などを読んでも、
こんな奴いるよなぁとか、社会はこんなだっろうなぁとの感じが持てました。
歴史小説を読む目的は、人それぞれだと思いますが、
僕は、なるべく史実に近く生身の人間として描かれている方が好きです。
そんなきっかけになったのが、
井出さんの「アトラス伝説」ならぬ「非英雄伝説」のような気がしました。
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