「いまいましい女と5月のバラの花」の章
大尉(軍医)
「私は夫と一緒に出征していったんです。東プロイセンを進軍しているときのこと。
みなが勝利を口にしていました。その時にあの人が死んだんです。一瞬のことでした。
破片が当たったのです。1秒で死に至ったのです。」
「戦争のときはその場ですぐ埋葬するんです。あの人をその場で埋葬させたくなかった。
もう一晩だけ一緒にいたいと、そばに座って眺めてなでていたいと。」
「朝になって、私は夫を家に連れて帰ることにしました。ベラルーシに。
千キロ離れたところです。みな私が悲しみのあまり気が狂ったのだと思いました。」
「将軍をひとりひとりたずね歩き、前線の総指揮官に行きつきました。
「どれだけの人が異国の地に合同埋葬されていると思っているのか?」
「私たちには子供がいません、家も燃えてなくなりました、写真もありません。
夫を国に連れていけたらお墓なりとも残ります。戦争が終わって帰る場所ができます」
将軍は黙って、部屋の中を行ったり来たり。
「同志、元帥!あなたは恋をしたことがおありですか?
私は夫を葬るんじゃありません。恋を葬るんです。」
指揮官は長いことだまっていて、それから近づくと私の手にキスをしました。
一晩だけ私に特別の飛行機をだしてくれました。
私は機内に入って棺を抱きました。そして気を失ってしまいました。」
二等兵(衛生指導員)
「夫が負傷しました。重症です。破裂弾で包帯も巻けません。
夫を野戦病院に運んでいるうち、すでに敗血症がはじまっていました。
彼が死ぬのだと感じました。
夫が目をあけて「天井が青くなってきた」と言いました。
「違うわ、ワーシャ、天井は青じゃなくて白よ」でも彼には青く見えるんです。
隣のベッドの人が言います。「生き延びられたら奥さんを一生大事にしろよ」
「ああするとも」たぶんあの人は自分が死んでいくのがわかったんでしょう。
私の手をとって体を引き寄せるとキスをしました。これでお別れと言うように。
「みんな正月なのに、俺たちはここにいるんだ…でもがっかりするな。
まだまだこれからさ」
「1月1日に夫を葬った。その35日後に息子が生まれました。
1944年生まれで、今はもうその子にも自分の子がいます。
夫の名はワシーリィ、息子の名もワシーリィ、孫の名もワシーリィです。」
衛生指導員
「恋のこと?私は本当のことを言うのも怖くないわ。
私は戦地妻だったの。戦争の間だけの現地妻、第二夫人よ。大隊第一隊長の。
いい人だったけど、愛していたわけじゃないのよ。まわりはみんな男ですもの。
みんなを恐れているより、誰かひとりと一緒のほうがいいじゃないの。
第一大隊長は地雷の破片で戦死したわ。」
「第二大隊長は…彼のことは好きだった。
彼には愛する妻とふたりの子供がいたけれど、私は彼が好きだったの。
戦争が終わって生き残れればその人たちのところに帰ってしまうとわかっていた。
でもどうだったと言うの?本当に二人で幸せなときがあったもの。」
「戦争が終わるころ、私は子供を身ごもっていた。私が望んだの。
でも娘は一人で育てた。彼は何ひとつしようとしなかった。
それでも彼に感謝しているわ。生涯の恋をしてしまったの。
何年もその気持ちは変わらない、後悔してないわ。」
軍曹(射撃兵)
「戦争中のこと。隊に連れていかれたとき、司令官の最初の言葉は
「毛皮帽子を脱いでください」でした。私は帽子を脱ぎました。
刈上げが少し伸びて、子羊のような短い巻き毛になっていました。
司令官はしげしげと私を見て言いました。
「この2年間、女の人を見ていない。せめて見るだけでも」
「戦争が終わってから、私は共同住宅に住んでいたんですが、
同じ住宅の女の人はみなご主人といっしょに住んでいて、私を侮辱しました。
いじわるを言うんです。「で、戦地ではたくさんの男と寝たんでしょ?」
共同の台所でじゃがいもを煮ている鍋に酢を入れられたり、塩を入れられたり。」
「私の司令官が復員してきました。私たちは結婚式をあげました。
1年後、彼は他の女の人のところに行ってしまいました。
「彼女は香水のにおいがするんだ。君は軍靴と巻き布のにおいだからな」と。
それっきりひとりで暮らしています。天涯孤独の身です。」
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