ワシらお産に立ち会う医師にとっても、経膣分娩(いわゆる自然分娩)は理想だ。
ただ見てれば「通るべき道」を通って赤ん坊が出てきてくれるわけで。
ただし、100人の妊婦がいたとして、100人全員が
「つるっと経膣分娩」できるわけではない。
それを言うなら1000人が妊娠したとして、全員が
10ヶ月後に自分も元気で元気な赤ん坊抱いて退院できるわけじゃないんだが、
その話はすごく長くなるので今回は置いといて。
分娩ってのは始まってから赤ん坊が出てくるまで、
常に「生と死」が隣り合うような状態だ。
順調に進行しているように見えてもくるっとひっくりかえる。
突然の大出血開始、胎児心拍が低下して戻らない、妊婦がけいれんして意識消失。
冗談じゃなく、いつ起きてもおかしくない、予想はできない。
だからワシらが立ち会うのだ。
その場にいなくてもいつでもベッドサイドにかけつけられるように待機する。
‥「お産当番」ってやつですな。
複数の分娩が同時進行して同時に状況悪化することもあって、
アドレナリンいくら出しても足りないくらい頭と体を回転させる。
呼べる人間がいたら全部呼ぶ。
結果的に経膣分娩できて赤ん坊がおぎゃーとないたら
「はい、自然分娩おめでとうございます」となるけど、
結果論でしかない。
(途中経過はともかく自然分娩なら保険適応で一律同じ料金ってなったら
お産とる医者はいなくなる、というのがわかるかな)
で、この途中経過で「こりゃダメだ」となった場合が帝王切開になる症例。
今もうすぐすぐ母子の命が瀬戸際とか、
このまま進めれば絶対に母子の命が危ないとか、
そういう状況で帝王切開を決断する。
患者には選んでいる暇はなく、家族には拒否する時間はない。
だって「今今すぐすぐ」だから。
手術室だって「緊急帝王切開です!」と電話したらすぐに入れてくれる。
他科予定手術をずらしてでも、人員足りなきゃ休暇の人を呼び出しても。
帝王切開とはそういう手術。
お産開始前に「じゃあ帝王切開を予定しましょうか」となるのは
「おそらくかなりヤヴァい状態になるのでそんな危険は避けましょうね」の意味。
たとえば骨盤位、いわゆる「逆子」。
最近は「逆子はまず経膣分娩でやってみてダメなら切る」とこもあるようだが、
一般論として逆子お産は時間がかかるので「かかってる時間」の間に事故起きやすい。
でかい頭が一番最後に出てくるから、頭圧迫による胎児状態悪化も起きやすい。
一生に産む子の数が1か2なら、その1か2を無事に出してあげたほうが
「自然分娩した満足感」なんかよりずっと大切なことなんではないか?
逆子以外でも、骨盤が小さくて赤ん坊が通らなさそうとか、
(お産のときは骨盤のつなぎめが広がるので通るかもしれない)
母親に持病があって分娩時の痛みや疲労で悪化する可能性が高いとか、
(悪化しないとか悪化しても命にかかわらないかもしれない)
胎盤の位置がまずくて経膣では大出血が高確率に予想されるとか。
(出血しないかもしれない)
「試しに経膣分娩やってみてダメなら切りましょう」などとお気軽に提案…
するのはいいが、もし取返しつかないことになったらどうするんだ??
前回が帝王切開の場合も「まず経膣分娩でやってみて」というとこがあるようだが、
ワシは覚えている。
前回帝王切開の看護婦、勤務先の福島県立医大で「経膣分娩」を希望した。
ありとあらゆる場合を想定して試験分娩に臨んだが、
「子宮破裂」(前回切った子宮の傷が開く)が起きて、急激に胎児仮死が進行。
判断してから30分以内に赤ん坊を出したが、
赤ん坊は泣かず動かず生命維持装置がはずせず、4年後に亡くなった。
この看護師の夫が弁護士で、ネット上では
大学側がいかにまずい対応をしたかを延々と書いている(今も読める)けど、
「じゃあそもそも、経膣分娩なんか希望しなきゃよかったじゃん」なのだ。
医療について知識のある看護師であってもこうなれば病院相手に訴訟する。
ましてや素人さんでは、執刀医や産科スタッフを包丁で襲いかねない。
つまり医師にとっても危険。
まとめると、帝王切開は「そうするしかない」場合にのみ選択される分娩形式で、
「楽なお産」呼ばわりはいかにも「知識のない人間のおバカ発言」でしかない。
周囲の人間の言うことなど全く気にする必要なし!
帝王切開を経験したあと「自然分娩も経験したい」などあこがれる必要もなし!
「結婚式は打掛白無垢色振袖だったから、ウエディングドレスでもう一回」
などという話とはわけが違う。
上記した「子宮破裂」はいつ誰に起きるかわからない。
ワシも35年の医者人生のうちお産をとった20年間で、
「赤ん坊が死んだ」ことで記憶に残る子宮破裂が2例もある。
なんとかぎりぎり助かった例はもっとある、ってことだ。
帝王切開はするしかない手術ではあるが、受け入れるのはそう簡単なことではない。
術後の傷の痛みもあれば傷跡も残り、あとあと「腸管癒着で腸閉塞」の危険もある。
そういう危険をすべて「赤ん坊の無事のため」に飲み込んで手術を受ける。
帝王切開でお産したお母さんがたは、お産という人生の一大事のときに
「手術を受ける」というさらに大きな決断を強いられて乗りこえた、
偉大なお母さんたちだと思う。
かといって自然分娩だって楽でもなければ100%安全でもない。
妊娠を経験した(初期流産や中絶であっても)すべての女性はすごい。
そうしか言えない。
■<自然分娩マウント>義母が「帝王切開での出産は楽」と責めてきた。頭に血がのぼって反論した結果
(ママスタセレクト - 06月19日 19:30)
https://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=176&from=diary&id=7907657
ログインしてコメントを確認・投稿する