少し前になりますが、久しぶりに良い小説を読みました。
それが『八月の青い蝶』で、作者は周防柳さんです。
周防さんの小説は、これまで何冊か読んで来ました。
最初に読んだのが『逢坂の六人』でした。
『古今和歌集』の編纂を命じられた紀貫之を主人公として、
幼少時代の歌と人との出会いを思い出していく話で、
後に六歌仙と呼ばれる
在原業平、小野小町、大友黒主、文屋康秀、僧正遍照、喜撰法師などとの話が、
幻想的に描かれていて、最後にアッと驚く話も出て来ます。
とにかく、凄い作家だと思いました。
その周防さんのデビュー作が『八月の青い蝶』です。
2013年、第26回小説すばる新人賞を受賞し、作家活動に入っています。
周防さんは、東京都練馬区で生まれ、
5歳から小学3年生まで広島県大竹市で、
小学4年生から高校卒業まで山口県岩国市で育ち、
早稲田大学を卒業後三井石油化学に入社した後、
編集プロダクションを経て作家になったと、ウィキペディアに載っていました。
父親が旧陸軍の軍人で、被爆二世との事です。
『八月の青い蝶』は、少年と父親の妾との間の淡い恋愛を述べながら、
戦争と広島の原爆の被害、被爆者のその後の生活などを描いています。
広島市は軍都でありながら、原爆までは空襲の少ない街で、
広島の住人は、川が多いので、大きな火災にならないために空襲がないとか、
広島からアメリカに移民として行った人が多いためなどと噂していましたが、
アメリカ軍が原爆の威力を正確に把握するために、
意図的に空襲を行わず、無傷の街を残していたとの記述もありました。
主人公の父親は陸軍航空隊の偵察機乗りで、航空学校の教官をしていた時に、
総理大臣の東条英機が何の前触れもなく訪れ、
「敵機を落とすのは、機関砲でも戦闘機でもなく精神で堕とす」と
訓示する場面があり、
旧日本陸軍の愚劣さを端的に描いていました。
そして、1945年8月6日の朝、
主人公と彼女は、蝶の羽化を見るために待ち合わせしますが、
主人公は学徒動員から抜けられずに困っていた所に原爆が投下されます。
奇跡的に主人公は助かり、
投下後の地獄のような悲惨な状況の中で待ち合わせ場所に急ぎます。
その時の悲惨な状況もよく描けていると思いました。
そして待ち合わせ場所には、彼女の下駄と虫籠が残っているだけでした。
戦後、主人公は会社を興しそれなりの結果を得ていました。
被爆者として、娘の学校の教師から体験を語る事を求められ、
慰霊碑の「安らかに眠って下さい。過ちは繰返しませぬから」に対する、
強い違和感を述べ、
12ページほどにわたって自分の気持ちを熱弁します。
小説全体の文章の調子からは、全く違ったトーンで述べられているので、
ここが周防さんの言いたい事なのかと感じました。
以上のような内容の小説でした。
記述が全て歴史的に正しいのかどうかは分かりませんが、
改めて、原子爆弾の非人間性、それを投下した事による悲劇、
戦後の被爆者の方の心情などが良く描かれていると思いました。
【今日の一句】
友人と 彼女の数を 競い合い
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