絞りの技法の中で最も細かく繊細で高度な技術を必要とし、手間がかかるのが「本疋田(ほんびった)」(別名:京鹿の子絞り)です。“疋田”とは、田んぼに線を引くという意味で、絞りの一目を田んぼに見立て、その数が多いほど高級とされました。疋田は唯一、日本独自の技法です。
1尺(約40cm)の間に45粒〜70粒! 着物1枚で、18万粒〜26万粒にもなるという神業です。
絞った状態の生地を染め、125度で蒸した後に糸をほどくと、四角い立体的な粒が細かく浮き上がった、非常に豪華で優雅な本疋田が完成します。立体的な分、空気をたくさん含むため、保温力に優れ、また、絞りの中でも圧倒的に細かいので、非常に表情豊かで優雅なドレープが出ます。そのあまりの豪華さに、徳川時代には『奢侈禁止令(しゃしきんしれい)』という贅沢品禁止令により、徳川御三家以外は着ることを禁止されたといいます。
疋田の歴史は平安時代にさかのぼり、京都の大原の農家で、冬の豪雪の間の内職として発達した技術です。働き者の女性は、8歳〜10歳の頃から疋田の技法を親から学んだといいます。現在では、ほんの数人の職人しか残っていません。