ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

スピリチュアリティーの学際研究コミュの心身医学2006、9,10月掲載論文

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
表題:心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけ
―トランスパーソナル心理学的接近からみたBio-Psycho-Socio-Spiritual Model


キーワード:スピリチュアリティー・サイコシンセシス・トランスパーソナル・非局在的な意識・モデル

抄録:
 心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけについて、「心身を超越かつ内在する非局在的な意識」と定義し、トランスパーソナル心理学の理論を用い次の点を明らかにした。
1.スピリチュアリティーは、経験科学のみならず自然科学の分野においても操作的定義により接近可能な概念である。
2.精神過程に大きく関係があるが、その部分に限定されるものではなく、個人を超えた非局在的な意識である。
3.内面から湧き上がる喜びに支えられたものであり、いわゆる倫理感や道徳意識とは異なるものである。
4.自然や他者とのつながりというエコロジカルな概念(水平方向)のみならず、垂直方向の実存的つながりも強調するものである。
精神と区別され、倫理、生態学を包括した概念であるスピリチュアリティーを従来のモデルに加えた心身医学モデルとして、bio-psycho-socio-spiritual approachを提唱した。

Abstract:

The objectives of this study is to place ‘Spirituality’ in Mind-Body medicine and to propose a new model of psychosomatic approach..
[Background]
Spirituality is an essential element in the quality of life (QOL); however, it carries an anti-scientific image that is not well regarded in medicine in Japan. Ikemi has proposed the importance of a prayer-like attitude of devotion and a positive acknowledgement that spontaneous regression of cancer can occur. He does not use the term, spirituality; however, the prayer-like attitude he refers to must be spiritual and plays an important role in the healing process. Recently, the term, spiritual, has been translated into the terms as ecological and ethical and the Psychosomatic medical models added these terms have been used. With this re-definition, some of the concepts relating to spirituality are becoming accepted in scientific areas. However, certain aspects of spirituality, such as the transpersonal concept, which is essential to spirituality, have been abandoned.
[Method]
In this paper the author will explain Spirituality from the Transpersonal Psychology view point, as applied to the Wilber Model and Assagioli’s Psychosynthesis Theory, then clarify misunderstandings about spirituality focusing particularly on the following:
[Results]
1. Spirituality is a scientifically acceptable concept both in the physical sciences and in empirical sciences with its operational definision. While it is true that there are some scientifically unproved areas in spirituality, as with several other sciences, this should not cause us to avoid spirituality in medicine. 
2. Spirituality is highly related with mental process but not a part of it. It is a nonlocal conciousness beyond individual limited being.
3. Spirituality is not an application of ethics, whereby an individual considers what he or she must do or not do; rather, it is an attitude of spontaneous joy.
4. The ecological point of view emphasizes a horizontal relatedness with nature and other people. Spirituality also has in addition a vertical relatedness with something we might consider greater.
[Conclusion]
Spirituality is indispensable for Holistic/Integral Medicine, and is best understood with the model of bio-psycho-socio-spiritual approach in Psychosomatic Medicine.
Spirituality plays a potentially vital role in psychosomatic medicine and will be recognized and applied not only in the spiritual care of hospice patients but also in such health-promotion areas as salute genesis.
Bio-Psycho-Socio-Spiritual approach is proposed with the concept of Spirituality, which is separated from mental process ,and which includes both ethics and ecology.





英文抄録翻訳


本研究の目的は、心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけを明らかにし、新しい接近モデルを提出することである。
背景:スピリチュアリティーはQOLの重要な要素であるにもかかわらず、その言葉の持つ非科学的イメージによってわが国の医学においてあまり省みられていない。池見はがんの自然退縮が起こる際の、信仰といった祈りに似た態度と積極的な感謝の重要性について記述している。彼はスピリチュアリティーという言葉は使用していないが、彼の言及している、祈りのような態度とはスピリチュアルなものに違いなく、それが癒しの過程に重要な役割を果たしているのである。近年、スピリチュアリティーという言葉は生態学、倫理といった言葉に置き換えられ、これらの言葉を付け加えた心身医学のモデルが使用されている。このことにより、スピリチュアリティーに関連するいくつかの概念は科学的領域で受け入れられるようになってきた。しかしながら、スピリチュアリティーの中心的概念である超越的概念といった側面は捨て去られてきた。
方法:この論文では、ウイルバーモデルやアサジョーリのサイコシンセシス理論といったトランスパーソナル心理学における見解よりスピリチュアリティーを説明し、特に次に述べる事柄にフォーカスしてスピリチュアリティーに関する誤解を明らかにしていくこととする。 
結果:
1.スピリチュアリティーは、経験科学のみならず、自然科学の分野においても操作的定義により接近可能な概念となる。科学の他領域と同様に、科学的に証明されない部分があるのは真実であるが、それによって、スピリチュアリティーが医学で避けられる原因となるべきではない。
2.スピリチュアリティーは精神過程に大きく関係があるが、その一部分に限定されるものではない。それは、個人の限りある存在を超えた、非局在的な意識である。
3.スピリチュアリティーは、個人がこうすべきである、あるいはすべきではないというような道徳的応用ではなく、内面から湧き上がる喜びといった態度である。
4.エコロジカルな見解は自然や他者とのつながりを強調する。スピリチュアリティーはそれに加え、垂直方向の、大いなるものとの実存的つながりも強調するものである。
結論:スピリチュアリティーは、ホリスティック医学・統合医学にとって非常に重要な概念であり、心身医学の、生物―心理―社会―スピリチュアルなアプローチというしいモデルによってうまく説明できる。スピリチュアリティーは心身医学において潜在的にきわめて重要な役割を果たしており、ホスピス患者のスピリチュアルケアーのみならず、健康成生論のような健康増進の分野においても認識され応用されるであろう。精神と区別され、倫理、生態学という言葉を包括した概念であるスピリチュアリティーを、従来のモデルに加えた心身医学モデルとして、bio-psycho-socio-spiritual approachを提唱した.
心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけ
―トランスパーソナル心理学的接近からみたBio-Psycho-Socio-Spiritual Model


1. はじめに

わが国の心身医学の歴史において、スピリチュアリティーは古くから重視されてきた。それは、近年合衆国NIHのDosseyがその著書で(1)再三引用している、池見らのがんの自然退縮の報告においても明らかである。池見らはその中で、スピリチュアリティーという言葉は使用していないが、祈りに似たような、すべてを受容し、ありのままを感謝して生きる態度が、がんの自然萎縮の起きた個人に見られた事を報告している。彼は、がんが治るように祈ったわけでもがんと戦ったわけでもないのである。このような態度は、トランスパーソナル心理学において、スピリチュアルな態度と呼ばれるものである。
一方では、WHOで1998年に提出されたスピリチュアルな、あるいは霊的な健康という概念は一時注目を浴びたが、現在では、「エコロジカルな」あるいは「倫理的な」といったよりわかりやすい言葉で置き換えながら説明を試みようとする流れがある(2)。このような言葉の置き換えによって、スピリチュアリティーの、環境や他者とのつながりという概念や、愛他精神、生命の尊重などが再認識され強調されてきたことは望ましいことである。しかしながら、スピリチュアリティーの持つ本質的な概念は、言葉の置き換えによって、意図されないままに切り捨てられてきた恐れがある。そこにはやはり、スピリチュアリティーという言葉に対する、受け入れがたい印象が付きまとうからかもしれない。
このように従来の医学体系では、スピリチュアリティーという言葉に対する誤解が広く観察される。これは以下の3点から説明できるであろう。第1に、スピリチュアリティー、あるいは日本語の霊的という言葉の中には、非科学的な、宗教的なあるいは主観的なというニュアンスがつきまとうこと。第2に、代替医療・ホリスティック医学、また患者中心主義などのさまざまな医療のありかたや倫理観の議論と混同され、スピリチュアリティー本来の意味が、必ずしも伝わっていないこと。第3に、心理、あるいは精神といわれるものとスピリチュアリティーの違いが明確にされないまま、精神療法などの効果として渾然と扱われる傾向にあること。
この小論では、上記に掲げたスピリチュアリティー概念をめぐる混乱に対し、次のような方法で説明を試みる。すなわち、はじめに、スピリチュアリティーにおける、科学性、宗教性、主観性について、トランスパーソナル心理学での立場から論を進める。次に、補完代替医療、ホリスティック医療、心身医学の中に現れるスピリチュアリティーについて、Dosseyの癒しに関する分類を参考に論じる。さらに、臨床心理学、精神医学におけるスピリチュアリティーの位置づけを整理する。これらの方法を通し、心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけを明らかにし、スピリチュアルな概念を使った心身医学のモデルを提言することを目的とする。

2. スピリチュアリティーの科学性・宗教性・主観性のあつかいかた

スピリチュアリティーの日本語訳は「霊性」となり、超自然的なものとの関りも連想させ、オカルト的な印象や、あるいはあえて触れないほうがよいという精神的な抵抗感があるのが一般的であろう。医療の中でスピリチュアリティーというと、スピリチュアルケアーといった概念でQOLとの絡みで扱われることが多い。また、補完代替医療のような、現代西洋医学の枠組みでとらえきれないカテゴリーを連想されることも多いのは事実である。
このようなとらえられ方をするとき、スピリチュアリティーは科学的な扱いを受けておらず、科学的には語りえない、倫理学のような形而上学的な文脈で語られることが多いという印象がある。しかし、トランスパーソナル心理学の分野におけるWilberのインテグラルアプローチにおいては、スピリチュアリティーは、科学的思考、合理的思考を否定せずに、むしろ支持するものであるという立場をとる。科学の中には純粋に物質の秩序のみを取り扱う唯物主義的な科学と、個人の経験を重んじ社会学や文化人類学のような科学がある。現代ではその両方の分野の科学において、スピリチュアリティーの説明が可能になろうとしている。前者は理論物理学、特に量子力学の非局在性の理論などにおいて、(3)後者はポジティブ心理学の理論などにおいて、その存在を記述する試みがなされてきた。
心身医学的文脈では、たとえば、祈りの効果について、二重盲検法など厳密な科学的スタイルで報告している論文において、スピリチュアリティーの科学的根拠が概観できるであろう(1)。 
 さて、WHOの健康憲章改定の動きの中で、スピリチュアルな健康の側面が議論されながらも、採択されないままになっている現状がある。スピリチュアルという言葉には、人類に普遍的な宗教に限定されないスピリチュアリティーと、宗教的な文脈におけるスピリチュアリティーが含まれる(4)。ホリスティック教育の分野でスピリチュアリティーを扱う際に、ダライラマが、宗教性を排除した世俗的スピリチュアリティーを提唱しているのも、偏見や感情的なとらわれを最小限にしていく上で重要な点であると考えるからであろう。宗教的信念において癒しの効果などが存在するのは事実であるが(5)、医学モデルとして扱う場合にも、教育界と同様に、厳密に宗教と切り離して考える必要があると著者は考える。客観性と普遍性を保つために、また不必要な偏見や脅威を除いて議論するためにも必要だからである。また、健康に関係するスピリチュアリティーは、宗教的習慣や信念と切り離されたものであるという報告もみられるようになってきた(6)。

3. Dosseyによる医療の分類とスピリチュアリティー

 Dosseyは、医療の新しい段階としてスピリチュアルな次元を提唱し、医療を歴史的に次のように3段階に分類している。第1段階は、物理的な医療、第2段階は心身相関を認める医療、第3段階は肉体や個を超えた意識レベルとして、スピリチュアルなものの介在を認める医療である。
Dosseyの分類においては、一般に補完代替医療と一括して捉えられているものも、第1段階から第3段階までにわたっている。たとえば、漢方薬、ハーブ、リフレクソロジー、食事療法、運動療法などは、第1段階であり、手かざしや気功などは第3段階であろう。第2段階には各種心理療法、ボディーワークが含まれる。
 心身医学は、Dosseyの分類によると、第2段階に属する。つまり、こころと身体を有機的な個体内にあるものとして、その関係を治療行為に生かそうとする考え方であるが、現状では心身医学として扱われる療法も、第1段階から第3段階まで散らばっている様相が見られる。心身医学の学術雑誌からキーワードを拾ってみれば、たとえば断食療法などは第1段階のものであり、第2段階には、バイオフィードバックや自律訓練法から、各種行動療法的なアプローチ、またブリーフセラピー、解決志向セラピー、コラージュ、箱庭など臨床心理学的なアプローチが含まれる。さらに第3段階としては、プロセス指向心理療法やフォーカシング、座禅・瞑想なども含まれる。この分類は、キーワードから連想される一般的な印象であるため、臨床場面では、さまざまな段階の癒しが分離されずに応用されているに違いないが、スピリチュアリティーの定義を明確にすることによって、心身相関を、マインドのレベル・スピリットのレベルと分類整理することができよう。

4.トランスパーソナル心理学

 心理学では「こころ」の作用を細かく分類しており、以下のすべてを含んでいる。
 すなわち、視覚・聴覚といった知覚や感覚のレベル、感情、気分、情動、またより高次の認知機能である記憶、思考、といった知性のレベル、意思、判断、想像力といった道徳や価値観にかかわるレベル、またさらに、直感なども含まれる。社会心理学や環境心理学などでは、個人内の精神作用のみならず、人間関係、集団心理といった場の心理やシステム論的考え方、環境・社会の心理的現象も視野に入れている。さらにトランスパーソナル心理学においては、スピリチュアルな意識という概念で、神聖なるもの、あるいは宇宙との一体感というような、「意識の拡張」まで論じている。垂直方向の意識の拡張は生きる意味や意志といった実存的な概念とつながるものである。また、水平方向の意識の拡張とは、人間関係や生態系など、人と環境との関係などに現れるつながり意識のようなものであるが、このように、個人を超えた意識まで研究対象としている。つまり、トランスパーソナル心理学は、伝統的な心理学理論を含みながら超えていく構造を持ち、時間、空間、個人を超える意識の場までの広がりを持つ。それがトランスパーソナルと呼ばれている概念である。
 心理学におけるトランスパーソナルな考え方は、Jungの集合無意識、元型といった概念に端を発している。人間が文化や環境に関係なく普遍的なシンボルをもっているのは、無意識のレベルでつながっているのだという考え方である。またMaslowも、自己実現の概念の中で、至高体験といった悟りに似た意識状態を、人格成長モデルの頂点に上げており、これは、Franklの自己超越の概念につながる。Franklは、実存分析の中で実存という言葉の代わりに、「ノエティック」という言葉を使って、いわゆる心理的な現象と区別している。彼によると、心理的現象とは自動的に生じてくる反応であり、ノエティック(精神的現象)とは、意志・選択・決断といった精神の反発作用である。また、「ノエティック」とは本来はスピリチュアルという意味であるが、そこから宗教的、神秘的なイメージを除くためにあえて使ったと説明している(7)。
また、サイコシンセシスを提唱したAssagioliは、自我を、意識の中心的機能を果たすパーソナルセルフと、自我の枠、時間空間を超え、かつすべてを包括しているトランスパーソナルセルフとに分けている。このトランスパーソナルセルフの元に統合されていくときに、人格の成長、真の自己実現が可能となるとしている(8)。その統合に際して重要な役割を果たすのが、意志のはたらきであると述べている。サイコシンセシスでいう意志のはたらきとは、欲求や衝動に対して抵抗し克服していくといった対立概念ではない。むしろ、それらを方向づけ、健康的な調和の中で協力して自己実現へと向かうものであるとしている(9)。FranklもAssagioliも、このように、スピリチュアルなものを、意志といった意識的な精神作用であると説明しており、感性、感覚的なものはあえて強調していない。これは、神秘家で知られる Steinerがその著書で強調している「純粋思考により、あらゆる感覚を排除したときに超感覚的意識状態に到達する」(10)と一致しているように思われる。

5.ヴィジョンロジック

トランスパーソナル心理学の意識モデルは、Wilberによると次のような構造を持つ。つまり、人間は発達的に、前個的(プレパーソナル)、個的(パーソナル)、超個的(トランスパーソナル)の順に意識が拡張していく。自己実現は、個的な段階、自己超越は超個的な段階である。それぞれの段階はホロンという構造を持ち、上位のレベルは下位レベルを否定するのではなく、含んで超えて行く(11)。
Wilberの意識モデルにおいて、個的段階の最高位にヴィジョンロジックという段階がある。Wilberによると、これは、スピリチュアリティーの段階でも超個的段階でもない。しかしながら筆者は、現時点では、ヴィジョンロジックの立場にとどまりつつ、時として現われてくる神秘的な様相を、現象として受け止めていくことが、心身医学におけるスピリチュアリティーのとらえ方として妥当であると考える。つまり、本来は超越的な概念であるスピリチュアリティーに対し、医学の文脈で記述し得る実存性や生態学的連関に基づく概念としてスピリチュアリティーを説明可能にするのが、ビジョンロジックの段階であると捕らえるのである。意識の段階は連続的なものであり、ひとつの段階においてはその上下の段階を15パーセント程度含んでいるというWilber自身の記述もある。ヴィジョンロジックの上方向が純粋にスピリチュアルな段階であり、下方向が科学的合理的段階である。とすると、ヴィジョンロジックの立場は、従来の医学体系と対立することなく、スピリチュアリティーの概念を論じることができるということになる。
Wilberはまた、心的事象を物質レベルのみで検証しようとする態度は、カテゴリーエラーであるとしてその無意味さを指摘している(12)。確かに、スピリチュアリティーをヴィジョンロジックの立場で説明すると、実存や生態学的な言葉で話すことになり、脱落する部分はあるかもしれない。しかしながら、この段階が、現代の心身医学における限界であろう。それ以上となると、現在のところ、形而上学的、あるいは哲学的語りになることは免れない。すなわち、従来の医学体系の領域では対象外とされるのである。しかしながら、そこに働く超自然的エネルギーは、超心理学や先端物理学の世界で解明されつつあり、将来的には物理学での説明も可能となるかもしれない(13,14)。
ヴィジョンロジック的な態度であれば、超自然的な存在を否定するのではなく、知識の一つとしてニュートラルな態度で捉えることになるであろう。
スピリチュアルな次元が論理科学的態度の上位にあることになるため、科学的に厳密な接近無くしてスピリチュアリティーへの接近は不可能である。科学的、論理的思考なしでスピリチュアリティーへ到達しようとすると、前近代的で呪術的、魔術的な段階へと後戻りしてしまう。これが、Wilberがその著作で強調している、前(プレ)/超(トランス)パーソナルの虚偽である。このように見てくると、スピリチュアリティーは科学的思考と対立するものではなく、すべて肯定し受容しながら新しいものを付け加えていくものであることが明らかとなる。
 いのちある人間そのものを対象とする医療においては、科学的態度でありながらも、唯物主義にとどまることはできない。心身医学においては、心理的世界も見据えたモデルを展開しているが、ここで提唱したいのは、Dosseyが新しい段階であると分類するスピリチュアルな世界をも視野に入れた、ビジョンロジック的立場からの健康モデルである。
すなわち、bio-psycho-socio-spiritualなモデルである。
 
6. スピリチュアリティーの心身医学における適用

歴史的に考察すると、心理学は、精神分析学、行動主義、人間性心理学から、現在は第4の流れとしてのトランスパーソナル心理学への移行期であるといわれて久しい。それぞれの立場から、それぞれに対応する精神分析療法、行動療法、カウンセリングといった精神療法が開発されており、これらが心理的な成長を促すだけでなく、身体的にも健康増進をもたらすことから、心身医学分野で応用が実践されている。
最近のサイコセラピーの中には、スピリチュアルなレベルにフォーカスしてアプローチする療法が存在している。フォーカシングにおけるフェルトセンス、プロセス指向心理学におけるドリームボディーなどは、心と体を深いところでつないでいるもの(つまり、スピリチュアルなもの)に気づくための手法である。
摂食障害の難治例のように、症状があることによって患者が何らかのポジティブな影響を受けている場合には、たとえ症状が消失してもまた違ったかたちで訴えや症状が現れる場合が多い。このようなケースには、認知行動レベルのみならず、スピリチュアルなレベルでの治療が効果的である。すなわちサイコシンセシスで言う超意識に働きかけるようなアプローチが必要となるであろう。深層心理にアプローチしても、トラウマに対する気づきのみにとどまっていては、治癒は困難である。個人のうちにあり、また外界へと超越している、命やエネルギーの源である超意識の方向、つまり健康的なスピリチュアリティーへと意識を向けることにより、初めて癒しへと向かう。

7. 心身医学におけるスピリチュアリティーの位置づけ

 WHOのように、スピリチュアリティーを、肉体・精神・社会に対して独立したひとつの軸として扱うのは、実存的うつ状態や、末期患者のQOLを考えるときに有効なとらえ方である。メンタルヘルスとスピリチュアルヘルスの概念を明確に分けることによって、現代人の陥りやすい実存神経症や、引きこもり、援助交際、リストカットなどの社会現象の理解も深まる(15)。
しかしながら、スピリチュアリティーには、これらすべてを同時に包括しているという位相も存在する(16)。精神(メンタル)・肉体・社会といった側面をスピリチュアルな視点により統合していくことで、より包括的な健康モデルが可能となる。スピリチュアリティーとは本来包括的なものであり、垂直方向に医療倫理や実存的な広がりを持ち、また、水平方向には、場の意識やエコロジカルな視点ももつ。さらに時間軸も超えた超越的な、いのちや存在といった根源的な視点も持つ概念である。(Figure 1) 同時に、使われる文脈によって強調点や定義が異なるのも受容できる柔軟な概念でもある。
心身医学におけるスピリチュアリティーは、精神の中に組み込むことなく、倫理観や環境学に還元することなく、生きる根源を支える源として捕らえ、その意味するところを探っていくことで、この分野の発展に貢献していくと考える。スピリチュアリティーとは、その定義からして、超越していて測定など不可能なものではあるが、操作的には、スピリチュアルな態度、行動、感性などとして測定が可能であると考える(17)。また、健康生成論で注目されているSOC (首尾一貫感覚)も、スピリチュアリティーとの関連があることが報告されている(18)。

8. まとめ

 心身医学で扱われるスピリチュアリティー概念について、トランスパーソナル心理学の立場から説明を試みた。すなわち、非科学的である、主観的に過ぎる、あるいは形而上学だと排除されがちなものに対し、従来の医学体系によっても説明可能な科学的概念であることを示し、心身医学の発展に寄与する概念であることを論じた。また、このような捕らえ方によって、行動、倫理、生態学という言葉をすべて包括した概念であるスピリチュアリティーを、従来のモデルに加えた心身医学モデルとして、bio-psycho-socio-spiritual approachを提出した。







Figure 1


文献

(1) Dossey L: Healing Words.Harper,1993
(2) 石津宏,比嘉盛吉、仲本政雄ら: 心身医学が進むべき方向ー精神医学的視点と課題、心身医学 45: 298-306, 2005
(3) Josephson B D and Pallikara-Viras F:Biological: Utilization of Quantum Nonlocality. Foundation of Physics 21: 1993
(4) Wiedemann F: Between Two Worlds, 1986 (高野雅司(訳): 魂のプロセスー自己実現と自己超越を結ぶもの、コスモスライブラリー、1999)
(5) Byrd R C: Positive Therapeutic Effect of Intercessory Prayer in a Coronary Care Unit Population.Southern Medicai Journal 81: 7, 1988
(6) Laubmeier K K, Zakowski S G, Bair J P: The role of spirituality in the psychological adjustment to cancer:a test of the transactional model of stress and coping. Int J Behav Med. 11(1): 48-55, 2004
(7) Frankl V: Psychotherapy and Existentialism: Selected Papers on Logotherapy, Simon and Schuster, 1967
(8) Assagioli R: Psychosysthesis, Psychosynthesis Research Foundation, 1965 (国谷誠朗、平松園枝(訳):サイコシンセシス、誠信書房、1997)
(9) Assagioli R: The Act of Will, Psychosynthesis Institute, 1973 (国谷誠朗、平松園枝(訳):意志のはたらき、誠信書房、1989)
(10) R. Steiner: (高橋巌訳、いかにして超感覚的世界を獲得するか、筑摩書房、2001)
(11) Wilber K: The Spectrum of Consciousness, Shambhala, 1977 (吉福伸逸、菅靖彦(訳):意識のスペクトル、春秋社、1985)
(12) Wilber K: Sex, Ecology, Spirituarity: The Spirit of Evolution, Shambhala, 1995 (松永太郎(訳): 進化の構造、春秋社、1998)
(13) Oku T: A study on consciousness and life energy based on quantum holographic cosmology, J. Intl. Soc. Life Information Sci. 23(1): 133-154, 2005
(14) 奥健夫・水木太喜・井上誠哉・尾崎真奈美:心と生命のホログラム−スピリチュアリティーと超弦の出会い、三恵社、2005
(15) 尾崎真奈美:教育現場におけるスピリチュアルヘルス、トランスパーソナル心理学・精神医学5(1): 2004
(16) 西平直:スピリチュアリティ再考、トランスパーソナル心理学・精神医学 4(1): 2003
(17) 尾崎真奈美・石川勇一・松本孚: 相模女子大生のスピリチュアリティー特徴と「スピリチュアル教育」マニュアル作成の試み、相模女子大学人間社会学科紀要、2005
(18)Ozaki,Manami :Spirituality determined by Will and Joy plays a part in Salutegenesis, Journal of Psychosomatic Reserarch58(6)S90,2005
(19)Ozaki,manami:Development of an Assessment Tool on Spirituality Explained by Three Domains, Will, Joy and Sense: From a Holistic Educational Approach, J. Intl. Soc. Life Information Sci. 23(2)364-369,2005

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

スピリチュアリティーの学際研究 更新情報

スピリチュアリティーの学際研究のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング