小説　空の高さから海の深さまでコミュの空の高さ⑧

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「マサキちゃん、おはよ」
　3日ぶりに乗る電車はいつもと変わりなく走っている。線路の上を決められた時間に決められた本数だけ。僕も毎日を同じように生き同じ事を繰り返し考えている。
　あれから2日間僕は家にこもっていた。そして久しぶりに学校へ向かう気になり、そんなことを考えプラットホームに立っていたところ猛に声を掛けられた。
「んっ、おはよ」
「どしたの？元気ないじゃん。俺なんか2日間もおねーたまの家であんなことやこんなことしてたから元気で元気で」
「はいはい、今度はどこのおねーたまだよ」
「駅で声掛けられたから着いていったら飯とか奢ってくれちゃって、お礼になんかしようと思ったらそのまま、お部屋へゴーって感じかな」
「いつか絶対なんか変な事に巻き込まれるな、お前」
「いいねぇ、そん時は助けにきてね、相棒！！…いや、やっぱいいや」
「なんで？」
「いい女の腹の上で死にたいから」
　僕がそれを流そうとしたところで後ろから声がした。
「はいはい」
　振り返ると貴子が呆れた顔でたっていた。
「うわっ、でたな。このお節介女」
「別にあんたに会いたくてきたんじゃないの。和也君が2日も学校こないなんて珍しかったから風邪でもひいたのかなぁ、と思ってたところ馬鹿な声が聞こえたから見に来たの」
「マサキちゃんガッコ行ってなかったんだ。もしや、また朝帰り？」
「えっ、和也君が朝帰り？」
　猛が言った一言に貴子は本気で驚いている。僕は慌てて言った。
「馬鹿、猛！違うよ、吉村。うん、そう。ちょっと風邪ひいててね」
　貴子の見えないところで僕は猛の背中を拳で殴った。
「って！！なにすんのマサキちゃん」
その時、快速がホームに入ってきた。
「電車きた」
　僕はそんな猛を無視し電車に乗った。

　僕と猛、そして貴子は学部が違うものの同じ大学に通っている。そこそこの有名大学で、平日でも人で賑わう都会の中央を陣取っている割には広大な土地を持っており、造りも独創的で人気がある。
　全面ガラス張りの開放感あふれる学食で僕と猛はコーヒーを飲んで昼のひと時を過ごすことにした。
「で？なんかあったの？」
猛がクリープを混ぜながら僕に聞いた。
「なにが？」
「休んだ理由」
「別に」
「別にじゃないでしょ。マサキちゃんがガッコ休むなんて中々レアじゃん」
「俺だって色々あるの」
「ふ～ん。で、あの子とはあれから連絡取ってるの？」
「全然」
僕はカップを口に運んだ。苦味が口の中に広がる。
「そうなんだ。あーあ、なんか悩ませてるみたいだし合コンなんて誘わないほうがよかったかなぁ」
　紙袋に入ったグラニュー糖を2ついれ、また混ぜ始めた。
「別に、いいよ。楽しかったし。でも、あれはあの時だけの時間。未来にはつながらない」
「そうですか。まぁ、いいや。沙耶ちゃ…わり。ただもういいんじゃないのかな。そんな深く考えるのは。もう２年だぜ。まぁあんま言うと怒るから言わないけど」
「大人びたアドバイスどうも」
「俺がこの話題に触れるといっつもこうだもんな。嫌な感じ」
「じゃあ俺、講義だから行くな」
「はいはい、我が道を行ってください」
　犬を追い払うように手を振る猛を背に教室に向かう。
　分かってるんだ、もう考えても仕方のないことぐらい。
　でも、考えることを止めるのが怖いんだ。僕が壊れそうで。
　僕は今何処に立っているのだろう。