Nos さんの問題提起により、橋川文三氏の『ナショナリズム』(紀伊国屋書店)を読んだ。読みながら「あとがき」をちらりと眺めたら、橋川氏は自ら「失敗作」と書いていた。橋川氏がそう思うのはどのあたりに原因があるのかな、と思いながら読み進めてみると、半分くらいにきて、「失敗作」の予感が私の頭にも過ぎり始めた。
ホッブズの『リヴァイアサン』が生成してくる17世紀英国は、当時のフランスなどの絶対王政とはちがう「制限・混合王政」である。どういうことかと言うと、ジェントリ層から発展した議会と王政が sovereign power つまり主権を争うという激烈な政治闘争の時代である。この闘争によって国王の首ひとつが落とされるわけだが、ホッブズは、人民の安全を期すために、自然法を絶対的に守護する主権者の確立と、その主権者と人民との間に結ばれる社会契約の必要を説く。 社会契約によって守られた身の安全。この安全を第一にする自然法と慣習法の行き届いた Commonwealth 。ここにおいて近代的ナショナリズムが生誕した。