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★ケルダー=シルク★コミュの【若りしケルダー〜トレルハイム伯爵との出会い・前編〜】

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 水平線に陽が沈み空には夜の帳がおりてすでに数時間が過ぎている。夜はすっかり老け込んでいると言うのに、ガリオンはまだ寝るのが惜しいと感じていた。旅をはじめてから少したって、今はもう子どもじゃないと自分に言い聞かせてもいる。それにもう十四歳になったんだからポルおばさんに「あんたはもう寝なさい」と言われる筋合いはないような気がしたのだ。まだテーブルを囲んでいるのはシルク、バラク、ミスター・ウルフとそして彼自身だ。ポルおばさんは夕食後いつの間にか姿を消していた。、ダーニクは馬の世話に行ってしまった。大人の男性三人の話は難しい話題になったりもするが、今は一区切り付いて少し間が空いたようだ。
「そう言えばシルクとバラクの二人は随分前から知り合いみたいだけど、どれくらい前に知り合ったの?」
ちょうど良い間が空いたと思って、兼ねてから聞こうと思ったことを口にしてみた。シルクとバラクの二人はちらりと視線を交わしてにやりと笑い合った。
「ちょっと刺激的な話になるかも知れませんが、構いませんか?」
シルクが馬鹿丁寧なそれでいてやんわりした口調でミスター・ウルフに尋ねた。相変わらずにやにや笑いを浮かべている。ミスター・ウルフは思案気なふりをして顎髭をしごいた。そしてさも悩みきったかのような顔をすると
「まぁ、さしあたって問題はないだろう」と言った。

 そんなわけでガリオンの好奇心に当事者二人と二人をよく知る一人の老人がのるというかたちで昔話が話され始めた。


 その小さな影を作る男は一度だけ舌で上唇をひと舐めすると、音もなく移動を始めた。目指しているのは最近王座についたばかりというアンヘグ王の宮殿内。小男が目指す先はアンヘグが会議を開いている部屋を覗き見出来るポイントだ。
小男の名前はシルク。本名をケルダーという。彼はつい最近ドラスニアの他国にはない学校を卒業してはじめて国家的な任務に当たっている。今回はさしあたって問題のなさそうな内容の会議を漏らさず聞くこと。そして誰にもバレずにその内容をおじであるローダー王に届け伝えること。それが今のシルクに求められている任務内容だった。
「今年はどうも例年より冷え込みそうだな」
もう誰も通らないような廊下をぶらぶらと歩いていると、とうとうアンヘグの声が聞こえる場所を見つけることに成功した。どうやって来たか覚えていないなどという初歩的ミスなど犯すわけもなく、彼はしめしめと言った表情で会議に耳を傾けた。
「そうなると俺は何をすればいいんだ?」
低いどら鐘の様な声をしたトレルハイム伯爵ことバラクが尋ねていた。下調べは完璧だったので会議にいるメンバーの顔と名前は完全に一致していた。しかし壁に空いている隙間からなんとか覗けた顔はそのバラクとアンヘグ王の二人だけだった。
「ここじゃあ完璧な仕事はこなせそうにないな…」
ぽつりと独り言を漏らした瞬間、バラクの眉がピクリと動いたような気がした。だが、彼は何事もなかったようにまた会議に集中しはじめた。シルクは一瞬、気付かれたのかと思い焦ったがしばらくじっとバラクを観察して何の反応もなさそうなのでさらに壁の隙間が大きい場所に移動した。
 小一時間も経つと会議はさっさと終わりを迎えた。どうやら今回の会議は大して重要な内容というわけでもなく、名目上やっているような感じすら受けた。だが、任務は任務なので面白くはなかったがこの内容をおじに伝えるまでは彼のいちスパイとしての身体は解放されないのだ。シルクは盗み聞きをしていた場所から一歩下がって、伸びをすると後ろに手を組んでぶらぶらと来た道を引き返しはじめた。もう少しで人通りもそこそこにある廊下に出るという所で前方からガチャガチャと鎖かたびらの音が聞こえてきた。確実にこちらへ向かって真っ直ぐ歩いてきている。シルクはすでに自分に逃げ道がないことを自覚していた。彼の足なら物音を立てずに元来た道を駆け戻り、適当な暗がりに隠れることも可能だった。しかし彼はそれをしようとはせずに何食わぬ顔で音のする方向へと歩き出した。逃げる方が怪しいということくらい分かりきっていたからだ。やがて鎖かたびらを鳴らし歩いている主がぬっと現れた。その身体は巨人のようにでかく、赤い髪は編み込まれ髭も伸ばし放題といった感じの男だった。シルクはその男が誰だか瞬時に見分けることが出来た。さきほどの会議にも参加していたトレルハイム伯爵であるバラクだ。すれ違った瞬間に足を止め振り返ったバラクがシルクを呼び止めた。
「見ない顔だな?」
ピタリと足を止めたシルクは振り返るとバラクを見上げてにっこりと微笑んだ。
「そうですかね?私はあなたをよく存じておりますが」
「俺はお前を知らないぞ?」
再び問いつめるように凄んできたバラクは剣の柄に手を置き、目を細めてシルクの顔を覗き込んだ。相変わらず笑顔を浮かべたままのシルクはあまり沢山言い訳をするのは賢明ではないと判断した。トレルハイム伯爵は見かけによらずそれほど馬鹿でもないらしい。しばらく沈黙が流れると口を開いたのはまたバラクの方だった。
「ドラスニア人がこんな所で何をしてるんだよ?」
もうほとんど臨戦態勢のバラクは相変わらずどすの利いた声で訊いてきた。
「何しろ大きな宮殿で、使われてない廊下もたくさんあるので道に迷ってしまいましてね」
肩をすくめたシルクはペラペラと嘘を並べた。だが明らかに訝しんでいる様子のバラクはしばらく品定めでもするようにシルクの顔をまじまじと観察している。だがとうとう剣を抜くと脅すようにそれをシルクに向けた。
「それはおかしいぜ。この辺は滅多に人は通らない。迷うならもっと手前の廊下にいるはずだ。それに人の気配はもっと前でなくなるんだから、こんな奥までわざわざやってくるはずもない。貴様、何者だ?」
意外にも鋭い観察力でシルクの正体を明かしかけている目の前の大男をジッと見詰めたシルクは素速く一歩下がるとどこからともなく出した短剣をバラクの肩目掛けてシュッと投げつけた。こんな所で殺されるわけにも、また捕まるわけにもいかなかったので逃げるきっかけとしてそうしたのだ。だがこの大男が見かけによらず素速い動きで短剣をかわしたので、短剣は空を切って向こうの壁にぶつかると乾いた音を立てて廊下の上に落ちた。これは分が悪いとすぐに悟ってさらに相手との間合いを空けると、バラクは目を細めてシルクを見詰めていた。バラクの剣は恐ろしく大きいので通常の間合いでは簡単に切られてしまう。さらにそんな大きな剣を一太刀でもあびれば致命傷は間違いないのだ。ゆっくりと後ろ足で下がってみても、同じくゆっくりとバラクはついてくる。
「仕方ない…」
ボソリと呟いた瞬間、シルクは素速くもう一本の短剣を抜くとバラクの顔目掛けて投げつけた。瞬間的にバラクはその短剣を自らの大剣で弾いた。だがその短剣が床に落ちる時にはすでに、ねずみ顔の小男は廊下の角を曲がって逃げ去っていた。
 殺されるかと思った、とはこういった場合に使うのかも知れない。シルクはそんなことを考えながら宮殿の外に脱出した。バラクから上手く逃げてから宮殿を抜け出すのは簡単だった。人混みに紛れて入る時に使った場所からまた音もなく出て行けばいいだけだったからだ。
「まったく、チェレク人ときたら…。好戦的ってのも難ありだぜ」
ブツブツ独り言を言いながらシルクはドラスニアに向かって馬を駆った。

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