高齢者情報コミュの香港　軽妙ウエーター生涯現役

香港　軽妙ウエーター生涯現役

「いらっしゃいませ。ようこそ銀杏館へ」

香港屈指の繁華街・中環の路地を入ったところにあるイタリア料理店「銀杏館」。ドアを開けると、ウエーターの陳福全さん（６８）が穏やかな笑みで出迎えてくれた。パスタ専門店で３０年の勤務経験があるだけに、さすがに落ち着いた接客ぶりだ。アイロンがきっちりかかった白いシャツに、赤い蝶(ちょう)ネクタイと黒いベストがよく似合う。

銀杏館は、二十数人の店員のうち９割が６１～７３歳の定年退職者というレストラン。香港で老人ホームを経営する「楽天集団発展有限公司」が１８０万香港ドル（約２７００万円）を投じて２００６年６月にオープンさせた。店名に使った「銀」の文字は、「銀髪」に由来する。

「定年後に老人ホームに入居する人たちと接していて、まだまだ働きたいという意欲のある人が多くて驚いた」。同社の麦敏媚さんは開店のきっかけをそう語る。小学校校長、警察官、銀行員、ホテルマン……と店員の経歴は多彩。共通するのは「まだ元気なのに隠居するのは嫌だ」（陳さん）という思いだ。

ホテルや洋食店での勤務歴が長い何維さん（６８）は経歴を買われてホールで接客を担当している。昼の混雑時には、１階の調理室と２階のホールを階段で何度も往復する元気ぶり。軽妙な語り口も評判で、「自分のおじいさんと話しているみたい」と若者客の間でも人気という。

仕事を辞めるのはいつですか？　何さんにそう尋ねると、大きな笑い声とともに、「死ぬ時が辞めるときだよ」と一言。日本で定年後に第二の職場で仕事を続ける父親と姿がだぶった。（香港　吉田健一）

読売新聞
2008/2/12
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