当事者たちの内情を見よう。唯一陣容が整わないのはパレスチナ人だ。昨年11月9日に予定されていた、ファタハ、ハマース、その他の諸党派を集めた和解会議は、直前になって延期された。イスラエル軍によるガッザ地区攻撃を経た、2月26日の会議では、5つの委員会設置で合意、(1)統一政府の形態、(2)PLOの再編成、(3)自治政府大統領と立法評議会(自治政府の議会)選挙など、問題ごとに細かい詰めを行うことになった。 3月16日までに小委員会の報告がまとめられ、2010年1月に大統領と議会の同時選挙を行うことで一致した。ファタハとハマースの主張の相違点は、諸党派の連合する「挙国一致」内閣の構成や、イスラエルとの諸協定に関するものだ。ファタハは、テクノクラートから閣僚を選任、この内閣がイスラエルとの協定順守を表明する方式を主張した。ハマースは、協定「遵守」に代えて協定「尊重」を提案した。これら小委員会の報告は高等委員会に送られ、ここで意見対立の調整を行うことになった。 次の会議は、ファタハとハマースの2大党派だけで、4月2日の予備交渉を経て、27,8の両日、カイロで開かれた。エジプトがあらたな調停案を提出、両派が持ち帰り、5月18日に次回会談を開くという。調停案は、アッバース大統領が暫定内閣を任命、ハマースはこれに加わらないが、政府に対して一定の発言権を持つ諮問委員会に参加するというものだ。また、ガッザ地区「統治」について次のような提案もあったという。アッバース大統領のもとに、ファタハ、ハマース、ジハード、PFLP、DFLPなどからなる行政委員会(an executive committee)を設置、この機関が当面その任に当たる。 ファタハの幹部によると、その他の問題、つまり、選挙制度、治安機関改革、ハマースのPLO加盟問題などでは進展があったという。 詳しいことはわからないが、難航していることはうかがえる。ファタハ、ハマースとも1枚岩ではない。ファタハには、欧米からの援助資金を独占してそこから派生する利権を維持したいという勢力もあるだろう。ハマースの中には、オスロ合意体制を容認するような「諸協定順守」に強い抵抗があっても不思議はない。 来年1月に予定されている、大統領と議会の選挙までに和解できるか。ひとつのヒントは、イスラエルのガッザ作戦後、アッバース大統領、ファイヤド首相の人気が低下、ファタハ支持も減り、ハニヤ首相とハマースの支持率が伸びたことだ。今、アッバース対ハニヤで大統領選挙をやれば、ハニヤ氏が勝つ可能性が高い(3月5〜7日、PSR*の世論調査では、45%対47%で、後者の支持率が上回る)。議会選挙について、別の世論調査(1月29〜31日、JMCC**)によると、ファタハ27.9%対ハマース28.6%で、ハマースが若干有利となっている。 (*:Palestinian Center for Policy and Survey Research、**:Jerusalem Media and Communication Centre) あとでみていくが、欧米がアッバース=ファタハ体制への一方的なテコ入れを見直した場合、西岸政権はジリ貧となる。これは、パレスチナ陣営内再統一にとってはプラスになる可能性が強いだろう。
○イスラエルネタニヤフの強硬策○
次にイスラエル。誰が見ても、近い将来、入植活動と「壁」建設を止める可能性はゼロに近い。ガッザ作戦以来の世論右傾化は、2月10日のクネセト(イスラエル国会)選挙結果を見れば明らかだ。あの狭い人口密集地で1400人以上を殺し、5300余人に重軽傷を負わせ、数千戸を全壊させた作戦を、イスラエル人の多数は「まだ不十分」だという。彼らは、「敵を徹底的に叩きのめす」という見果てぬ夢をみているらしい。 選挙では、オルメルト首相(当時)の与党カディマ(28議席)が辛うじて首位だったが、右派リクード(27)が僅差で続き、極右イスラエル・ベイテヌ(15)が第3党、建国前後の長期にわたり圧倒的な力を誇った労働党(13)は、リクードの半分にも届かなかった。宗教政党シャス(11)が労働党に2議席差でせまった。以下、3〜5議席の小政党7つが続くが、右派・宗教派が合計65で、軽く半数を超えた(定数120)。 この結果を受けて、ペレス大統領は、2月20日、第2党リクードのビンヤミン・ネタニヤフ党首に組閣要請。3月31日、リクード、イスラエル・ベイテヌ、労働党、シャス、ユダヤの家(3議席)からなる連立政権が69対45、棄権5で成立した。労働党内には「右派主体の政権と労働党の世界観は矛盾する」と反対意見もつよく、中央委員会は680対507の僅差でようやく連立参加を承認した。だが、クネセトの信任投票で、同党左派の造反はなかった。 面白いのは、この選挙結果と連立政権に対して、有権者の大多数が「不満足」としていること。選挙結果に「満足」はわずか17%(シュタインメッツ・センター*による2月の世論調査)。また、政権発足直後の世論調査(4月1日Haaretz)によると、新内閣の陣容に54%が「不満足」で、主要閣僚中、イスラエル・ベイテヌ党首アヴィグドル・リーベルマン外相の支持率は4分の1、シュタイニッツ蔵相は、わずか22%。先のガッザ作戦を主導したエフード・バラク国防相(労働党首)の人気だけが突出し、3分の2が「適任」と答えた。(*:Tami Steinmetz Center for Peace Research) 右傾化とはいっても、政策選択や政治家に対する期待や要求では、イスラエル世論は分裂が激しく、今後の動向は見極めが難しいのだ。かつて、ユダヤ系市民に限っていえば平等社会といわれたこの国で、過去10年くらいの間に貧富の格差が広がり、貧困層がかなりの部分を占める。先月、イスラエル中央銀行のスタンレイ・フィッシャー総裁は、世界的な不況で今年の成長率がマイナス1.5%となり、解雇と失業率がともに増えると述べた。社会的不満がどこへ向かうかわからず、政権の長期安定はないだろう。 その場合、政府指導者にとっては、強硬策と新たな戦争への誘惑が高まる。 ネタニヤフ政権1か月の実績をみると、就任翌日の4月1日、リーベルマン外相は、外務省職員の前で、07年11月のアナポリス合意について、「すでに効力はない」と演説、物議をかもした。この合意は、前政権とパレスチナ自治政府が約7年ぶりに和平交渉を再開する根拠となったものだ。このほか、エルサレムでブルドーザーを暴走させ通行人を死傷させたパレスチナ人(現場で射殺)の家族が住む家を爆破(4月7日)、オバマ大統領とクリントン国務長官の警告を無視し、東エルサレム地区のパレスチナ人が住む「違法建築」1戸破壊(4月22日)、西岸地区最大の入植地「マアレ・アドミーム」のさらなる拡大計画発表(4月26日)などが目にとまる。さらに計画されているエルサレム東部シルワン地区88戸の破壊計画は当面保留中。また、兵役忌避を呼びかけたというイスラエル人フェミニスト・グループNew Profileに対する、一斉手入れ(同日)も、新たな動きといえる。兵役拒否の将兵が投獄されることはあるが、インタネット上での呼びかけが刑法に問われたケースは聞いたことがない。 もっとも、イスラエルのエリートのなかにも、ハマースとの政治取引が可能と考えたり、西岸地区にある入植地を一方的に撤去すべきだと主張したりする人々は居る。彼らは、左派系とは限らない。 元シン・ベト(国内情報機関)長官イラン・ハレヴィ氏は、著書のなかで、ハマースとも交渉すべきだと書いている。最近では、ハマースの精神的指導者、故アハマド・ヤーシン師(2004年暗殺)を尋問したことのある元警察幹部ツヴィ・セラ氏が、同師のもとでハマースと一種の平和協定を結ぶことは可能だったと語った(4月18日、Haaretzとのインタビュー)。また、近くイスラエルの駐米大使任命が予定されているマイケル・オレン博士は、先月、アメリカのジョージタウン大学で講演。平和を達成するには、西岸地区から一方的に軍隊を引き揚げ、大部分の入植地を撤去することが必要で、それが紛争終結につながることに納得すれば、多くのイスラエル人は反対しないだろうと語った(4月24日Haaretz)。 当面、ネタニヤフ政権がこうした政策を取るとは考えられない。だが、強硬策はやがて行き詰り、それは一方でアッバース=ファタハ体制をさらに弱体化する。その時、あらたな選挙が行われ、これらの意見が政策に反映される日がくるかもしれない。