机上の空論コミュの嘘800万ボルト～其の四拾

「帆布亭ダンプその10」

ヤズィさんとキーターに
ジパンゴ暗殺の命を下した紳士ムッシューは
若き日の帆布亭ダンプこと長瀬トモヤと戦場で出会っていた。

第13准旅団はフランス外人部隊の極秘任務を担う、いわば隠密部隊。
常に不穏な影がつきまとい『死神』と言われている。
そしてあのムッシューは、義よりも利で動くと悪評高い男だった。
ゼネラルは説明してくれた。
「ダイヤモンド資源のためだ」
「？」
「A国で起こったクーデターもおそらく第13准旅団主導のものだろう。
　この調停自体、要人を首都から引き離すための茶番だったのだろう…」

トモヤは言葉を失った。
それと同時に怒りや猜疑心で混乱してしまった。
クーデター政府の後ろ盾となる第13准旅団＝フランス政府の目的が
もしも「A国のダイヤモンド資源の独占」だったなら…
ボダはなんのために命を失ったのか…！

ゼネラルは言った。
「この件は作戦終了後、上層部に報告する。だが覚えておけ。
　フランス政府の一部の閣僚と軍部高官の間には癒着がある。
　我々の敵は国の外にいるとばかりは限らないのだ」
ゼネラルは残りの兵士に指示を出し、事態の収拾に取りかかり始めたが
トモヤはしばしそこから動けなかった。

南仏ニームの駐屯地に戻ったトモヤは新たな任務を得た。
俊敏さをいかして偵察、索敵にあたる前衛の斥候だ。
トモヤは勇猛果敢に行動し、数々の功績をあげた。
次なる海外派遣先は国境紛争が続く中国～ロシア国境だった。

ここはロシアの辺境ツンツクーツク。
国境線にまたがる川の利権を巡って古くから争いが絶えない地域だ。
戦況は圧倒的物力を礎に、ロシアに有利なはずだった。
しかし中国兵が数の不利を跳ね返すほどの攻勢を見せ、戦局は長期化。
トモヤら第２外人歩兵連隊はロシア軍と交渉し、停戦を提案していた。

夜になり、相手側の状況を推し量るためトモヤは中国側の兵舎に侵入した。
ろくな兵装もない兵士たちは一様に疲れきっているように見えた。
夕食を食べ終わると、簡易ステージへと続々と集まる兵士たち。
何が始まるのかとトモヤも物陰から息を殺して見ていると、
陽気な出で立ちの３人組が出て来た。
「笑☆介石で～す」
「鄧☆笑平で～す」
「毛沢山（もう、たくさん）でございます！」
のっけの挨拶から観客の兵士たちは大いに笑い、
先ほどの生気のない顔とはうってかわって陽気に見えた。

彼らは「トリオ・ザ☆大三元」という慰問部隊のコメディアンだった。
国の皮肉や、敵対国の批判などを折り込んだコントは
ただおかしいだけでなく機知に富んでいた。
観客の兵士はなぜ戦うのかを彼らの寸劇から学んだ。
よもすれば忘れがちな、戦う理由。
そして疲れを吹き飛ばしてしまう笑い…
それは一種のマインドコントロールのようでもあった。
なるほど、中国兵が強い訳だと悟り、トモヤはロシアへと戻った。
（つづく）