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マイ書庫コミュの新宿センタービルメモリーズ

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大学時代は西新宿でバイトをしていた。その頃のちょっとした思い出話。

大学2年生の頃、新宿センタービルの中にある○成建設の社員専用ラウンジレストラン&バーでホールのバイトをしていた。

普段のシフトは17時から22時までだったけれど、マネージャーから夏休みの間だけ昼のシフトにも入って欲しいと相談されて期間限定で昼から夜まで通しで働く事になった。

昼のシフトはパートの女性が中心で年上ばかり。あるパートの女性とよく顔を合わせていたけれど、私に対して何か気に食わない事でもあるかのような態度を取られていて口をきいてもらえなかった。

ランチタイムは大勢の○成建設社員がランチにやって来るので右往左往の大忙し。両手に持てるだけのプレートを持って厨房とテーブルの行き来が続く。

そんなある日、その女性が配膳中であったにもかかわらず、一方的にオーダーを押し付けようとする中年社員がいた。強引かつ強めの語気からくる威圧感で彼女が困惑しいてたところに私が割って入り対応してあげた。

ランチタイムも過ぎてやっとひと息ついた頃、後ろからトントンと肩を突かれた。振り返ると彼女だった。

「さっきはありがと」
小声でちょっと照れくさそうに言うその仕草は、今までの私に対する冷めた印象がすっかり消え去っていた。

その日以降、バイト入りの時は挨拶を交わしたり休憩時間には彼女から話し掛けてくれるようになって、ちょっとした冗談も言い合えるくらい仲良くなっていった。

夏休みの終わりが近づいたランチのシフト最終日、彼女にも今日でランチタイムが最後になることを伝えた。

すると彼女は残念そうな顔をして、しばしの沈黙の後、夜のシフトは何曜日に入っているのと質問された。

当時の私はインカレのテニスサークルで週2回の練習があり、それ以外、特別な用事がない限りバイトを入れていたのでその通りに伝えた。

大学の後期が始まって夜のシフトに戻ったある日の夕方、バイト先へ向っているとセンタービルのエレベーター前で彼女と遭遇。どうやら仕事を上がった後、私の入り時間まで待っていてくれたようだった。

少し驚きならもちょっと立ち話をしてから

「それじゃ私帰るね〜」
そう言って彼女は手を振って何度か振り返りながら帰っていった。

そんな事が何度か続き、バイト前は彼女と話すのが恒例行事になってきた頃、彼女からもう少し早く来て欲しいなと言われた。

何故かと訊ねたら、立ち話ではなくお茶をしたいとの事。センタービルの1階にはカフェがあったので、そこなら直ぐにバイト先に行けるでしょ、という訳だ。

特に断る理由もなかったし女性からの積極的なアプローチにまんざらでもなかったので、月に1、2回だけどお茶をするようになった。

当時流行っていた工藤静香を模したような見た目の割に、穏やかな口調で話すそのギャップに好感を持てたし、学生仲間の話とは違う話題にも面白さがあった。

そのうち彼女は自身の素性を話すようになった。高校卒業後、高校時代から付き合っていた彼氏と10代で結婚。彼氏は浮気癖があって何度も繰り返される嘘と朝帰りに我慢の限界がきて離婚。今は保育園に通う一人息子と中野区の実家で暮らしているとの事。

私はほぼ聞き役となり、頷きと相槌、そして唐突にやって来る質問に答えているとあっという間に時間が過ぎていった。

突然、彼女がもっと話がしたいから近所へ引っ越そうかなと言い出した。

「それって本気で言ってるの?」
私はちょっと困った顔で答えたら、くすくす笑いながら

「冗談よ」
と彼女は笑いながら言った後、

「じゃあ引っ越さない代わりに自宅の電話番号を教えてよ」
電話番号くらいはいいかなと教えると、次の日から夜中になると彼女から電話が掛かってくるようになっていた。

「今何をしてるの?」
とか

「今日は楽しい事あった?」
とか

話題が尽きたら何分も無言が続いたけれど、それでも彼女は電話を切らない。

何かを思いついて話し始め、また無言…なんだかんだで1時間くらい電話が続いた。

人から好意を持たれるのはいい気分だったし、最初はこの状況に抵抗感が無かったけれど、私の頭の片隅にはどうしても気になる事があった。

「彼女には子供がいる」
学生の自分にとって「子供がいる」というのはなかなかのプレッシャー。

告白された訳でもないので付き合ってはいないけれど、その積極的な行動に

「もしかしたら…」
なんて考えも頭の中をよぎったり。学生の自分にとって「元人妻の年上女性」はとても魅惑的なワードである反面、とてもリスキーでもあった。

勢いに任せてホテルに行って、あんな事やこんな事をしてしまい

「責任を取ってねハート
なんて言われたら…あぁ大学生で子持ちなんてあり得ないし恐怖でしかない。

まだ何も起こってないのに想像だけがどんどんと膨らんでいった。

彼女に対する好奇心…いや、そんなキレイゴトじゃない、積極的な女性からのアプローチに若さ故の溢れる欲望を捨てきれない自分。

「あぁ、情けない」
と思いながらも、

「これってチャンスだぞ」
何かのドラマで観たような葛藤。

悶々とした日々を過ごしていくうちに運命の日がやって来た。

「今度一緒にカラオケに行こう」

個室で2人きりだよね?
ZERO距離だよね?
ムーディーなバラードなんて歌ったら…もう2人だけのアイランドハート

そう思う一方で

これで手を出したら思う壺で詰みじゃね?
なんて思いもあったけれど、断る理由もなかったので行くことにした。

当日はアルタ前で待ち合わせをして、歌舞伎町のカラオケボックスへ。受付を済ませてから4人用のボックスに入った。

彼女はノリノリで入店早々にリモコンで入力開始。流れて来た曲は「今すぐKiss Me」だった。

彼女の歌声を聴きながら、心の中では

「これって何かのメッセージ!?」
なんて煩悩でしかない思いもよぎり、密着気味で歌う彼女の横顔を眺めたら緊張感で変な汗がじわっと出てきた。

思いっきり歌ってスッキリしたのか満足げな顔をした彼女から

「次はたいちゃんの番だよ」
頭の中は歌どころじゃないけれど、まずは一曲歌って気持ちを落ち着かせようと思い選曲したのは

「B-BLUE」
洋楽ばかり聴いていた私は流行りの歌なんて全く分からず、BOOWYの曲くらいしかまともに知らなかった。

必死に目で歌詞を追っている姿はどこにも氷室感はなかったと思う。自分ではクールに歌いあげたつもりだったけれど…

「あはは、たいちゃんのオリジナルソングだね」
そう、私はとてつもない音痴。私が歌うと聴き慣れた歌も別の歌になってしまうので、普段のカラオケは手拍子やタンバリン担当なのだ。

そんな感じで歌うまの彼女と歌下手の私はアンバランスなカラオケを楽しんでいた。

彼女は歌いながら私の腕に自分の腕を絡めてリズムを取ってくるので、私の肘にお胸様の感触が伝わってくる。

(うわ〜っムニュっと…)
私の全意識が肘に集中しそうになりドキドキが止まらない。だからといって表情に出せないし、表向きには何事も起きていないように彼女の歌を楽しんでいるフリをした。

2人きりのカラオケで密着度も高い上に、彼女がさりげなく私のドリンクを指差して

「ひと口飲ませて」
なんて言い出して、飲んだ後はストローに付着したリップを軽く拭き取る…そんな姿なんて誘惑でしかない。

(あぁ〜もう"抱きしめたい")
カルロス・トシキの「アクアマリンのままでいて」が頭の中でリフレイン。

そんな悶々とした気持ちとは裏腹に

(手を握ったら詰む…抱きしめたら詰む…キスなんてしようものならもとの世界に戻れない…)
理性崩壊を必死に押し留めている自分がいた。

体と思考が不一致な状態が続くなか、理性を無視して勝手に動こうとする腕を齢20で培った精神力と忍耐力で最後まで制御しきった。

「今日はありがと、楽しかった〜」
カラオケを終え、彼女は保育園のお迎えがあるからと言って帰っていった。

お互いに笑顔で別れたけれど、私の体は自制心を振り絞ったせいか精神疲労が半端なく体の力が抜けていた。

ただ、頭の中は何事も起こらなかったホッとした気持ちと、チャンスを逃したものすごく損をした気持ちが交互に押し寄せていた。

時間が経つにつれ、(やっぱりもったいなかったかな)とそんな喪失感を抱きながら肘に残るお胸様の感触を思い出しつつ電車に揺られていた。

それ以降、彼女からの電話も段々と減っていき、3ヶ月もすると夜中に電話が鳴らなくなっていた。

時は流れその年の年末、気の合うバイト仲間達で忘年会を開いた。

例の彼女も参加した忘年会はかなりの盛り上がりを見せ、酔った勢いで過去の恋話が始まった。

切ない話、ばかげた話、ワクワクする話など、みんなが恋の初心者だった頃のネタは聞いているだけでもとても笑えて楽しかった。

そのうちに彼女の番がやって来て、突然私を指差した。

「私、たいちゃんに振られたんだよ〜」
言い終わった後は、彼女はあははと笑いグイッとグラスを高く傾けグレープフルーツサワー飲み干した。

「お前いつの間に!ひでぇ奴だなぁ」
周りからは非難轟々。酔いをいい事にみんながある事ない事、訳の分からない事を私に向かって言い出して散々だった…まあ酔っ払いのよくある風景だけれども。

「いやいや、マジで付き合ってないし」
必死に否定する私を見て、彼女は笑いながら

「うそうそ、みんなごめんね〜」
彼女はあははと笑い続けて別の恋話をし始めた。

忘年会も終わり、皆んなで駅へ向かっている途中、彼女が私に腕を絡めてきた。

「さっきはごめん、でもたいちゃんって何もしてこなかったんだもん」
酔いでなのか寒さでなのか顔を少しほてらせながら笑顔で話す彼女。

(何もしてこなかった)の意味はすぐに分かったけれど、私はとぼけた素振りで話をはぐらかし、みんなでワイワイと家路に着いた。

そんな感じで彼女との関係はその後もこれといった進展もなく、時間の流れと共に何事も起きずに終了した。

思い返すと「好き」という感情はなかったと思う。年上女性への「憧れ」と「期待」はあったけれど、お子さんの存在を冷静に考える自分がいて、ワンナイや恋愛に発展させなかった。

でも、あの時もう一歩を踏み出していたらどんな未来になっていたのか…なんて意味のないタラレバを考えたりもした。

ただ、あの時のカラオケボックスで間近に見た彼女の綺麗な横顔よりも、肘に感じた胸の感触の方が今でもはっきりと覚えている。

そんな自分がいとおしい…

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