芸術の日本　美術・評論を中心にコミュの稚児灌頂と秘密灌頂について

三大性愛絵巻を総括します

「小柴垣草紙」、「袋法師絵詞」、「稚児之草紙」ですね

小柴垣草紙と袋法師絵詞はヘテロセクシャルの物語で、小柴垣草紙は“斎宮の密通”という天皇の地位を揺るがす事件を元に制作されています

袋法師絵詞は尼御所というお気軽な設定(尼御前も侍女も剃髪なし)で諧謔性があり、小柴垣草紙よりおかしみがありますね

斎宮(斎宮が潔斎(穢れを祓う)する一時的な住居＝野宮)を象徴する小柴垣

袋法師絵詞の尼御所(皇女などが住持となった尼寺)、尼御前の後ろには袋法師、右の屏風には小柴垣がえがかれている　図①

明らかに、小柴垣草紙を意図したもので、尼御前が早く袋法師と“したい”という欲情を表している

袋法師絵詞では、尼御所でのお楽しみを耳にした、従妹で剃髪した比丘尼の参加で盛り上がる　

袋から魔羅を引き出す比丘尼、このあと法師が袋から出て坊主頭が二つになります　図②

斎宮が伊勢神宮に群行

(伊勢神宮への行列)を行わず、

退下する例がかなりあります

斎宮の任期中に天皇の崩御、譲位による退下が多いですが、“潔斎中の密通”という例もあります

真相は不明ですが、伊勢物語(9世紀)に登場する第32代斎宮恬子内親王、小柴垣草紙のモデルになった第42代済子女王がよく知られています

小柴垣草紙の斎宮の密通、袋法師絵詞の尼御所での情事は、両方とも女性が男を誘惑し、弄ぶという、『春画』に繋がる、女性の性欲の積極的肯定がありますね

また、小柴垣草紙が建礼門院の嫁入り道具、袋法師絵詞が江戸城大奥に秘蔵されていたのには頷きます

一方、「稚児之草紙」はホモ・セクシュアルで、日本密教の『性』に対するラディカルな問題をあぶり出す

空海が持ち帰った密教は、「中期密教」・チベット仏教では、行タントラ、瑜伽(ゆが)タントラと呼ばれ『煩悩即菩提』でありながら女性との関係は禁忌であり極めて禁欲的で、チベット仏教「後期密教」・無上瑜伽タントラの男女の性秘技・性的ヨーガの実践による成仏の思想はありません

稚児之草紙の五つのエピソードは、仁和寺(真言宗)、新かまの里(不明・野原)、嵯峨、法勝寺(天台宗・廃寺)、北山の密教寺院？の僧と稚児がキャストで、当時の密教大寺院が舞台です

稚児は、観音様の生まれ変わりと言われるように、高僧だけでなく下級の僧にも想いが純粋なら体を開く、慈悲深い存在として描かれています　図③

ここで、『稚児灌頂』という秘儀が重要になります

作家で、天台宗の大僧正だった今東光(1898～1977)が、「稚児」(1947)を発表し、序文を書いた谷崎潤一郎をはじめ、川端康成、三島由紀夫などが絶賛しています

今東光は、天台宗の秘本『弘児聖教秘伝私』（こうちごしょうぎょうひでん）を天台僧として閲覧の機会があり、「稚児」として小説化しました

この作品により、秘密のベールに包まれていた『稚児灌頂』への関心がにわかに生じたといわれています

ちなみに、昭和の4大男色研究家は、岩田準一、南方熊楠、江戸川乱歩、稲垣足穂と云われています

弘児聖教秘伝には稚児灌頂の儀式の式次第が詳しく記されており、

「稚児は灌頂を受けることで観世音菩薩となり、慈悲をもって一切衆生を救う」と書かれてあるそうです

平たく言うと、灌頂を受けた稚児は、僧侶の性的行為の対象となる

天台密教で最も大切な経典「理趣経」で男女の性交を肯定しつつも、仏陀の不邪淫を守るため、『稚児灌頂』に至った「中期密教」

一方、「理趣経」の教義『煩悩即菩提』を推し進め、チベット密教となった「後期密教」無上瑜伽タントラ・秘密集会(ひみつしゅうえ)タントラ、は、性秘技・性的ヨーガの実践に至ります

チベット密教の灌頂（かんじょう）には、以下の4つがある

『1.瓶灌頂（びょうかんじょう） - 日本の真言密教と類似のもの。守護尊を決める「投華得仏」と、金剛杵・金剛鈴・金剛名授与など。

2.秘密灌頂（ひみつかんじょう）※ - 師に「大印」（女性パートナー（主に美しい十六歳の処女））を捧げ、両者の「性的ヨーガ」によって生じた精液・愛液混合物を、自身（弟子）の口内に「菩提心」として投入する。

3.般若智灌頂（はんにゃちかんじょう）※ - 自身（弟子）が「大印」（女性パートナー）と「性的ヨーガ」を行う。（体内に投入された「菩提心」の放出と看做される）射精は禁じられ、「菩提心」を身体の各チャクラに適宜とどめて、歓喜を味わう。

4.語灌頂（ごかんじょう） - 「言葉の灌頂」、または「記号の灌頂」とも訳される。師僧が儀式の中で弟子に象徴性そのものを直接与える。

（※「大印」（女性パートナー）については、インド及び初期のチベットにおいては実際に性行為が行われていたらしいが、ツォンカパ以降のゲルク派では、「性欲を完全に克服できる段階に達しているなら、実際の女性を相手に実践して構わないが、そうでないなら、あくまでも観想でのみに留めるべきであり、その原則を侵すなら、堕地獄の苦行が待っている」という扱いだという。）』引用元ウェキペディア

以上で分かる通り師(ラマ)が、「美しい16歳の処女」とただSEXをしたいだけでしょう！と、当然民衆に批判された

チベット密教のゲルク派は、仏陀が示した厳しい戒律を守りながら、性的ヨーガを観想のみに留める修行に替えることで民衆に受け入れられ、チベット仏教の主流となっています

『稚児灌頂』と『秘密灌頂』はまさに煩悩無尽の結晶ですね

煩悩無尽誓願断(尽きることのない煩悩を断ち切る事を誓願する)

四弘誓願

(しぐせいがん)

衆生無辺誓願度

煩悩無尽誓願断

法門無量誓願学

仏道無上誓願成

写真は左①袋法師絵詞　小柴垣屏風と尼御前の後ろに袋法師　中央②剃髪した従妹の比丘尼が袋法師の魔羅を引っ張りだす　右③稚児之草紙　第一段で、ちょっと大人になった稚児が挿入が上手くいかず、めのと子の男に張形を入れてもらって練習している