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意味不明小説(ショートショート)コミュの彼が不発弾な場合

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【放課後、人類を滅亡させよう】

 倫社のノートの空白に、HBの鉛筆で殴り書きされた一行を認めて、私はたじろぐ――袴田くん、一体何を書いているの?
 指についたチョークの粉感をハンカチで拭き取りながら、椅子に座る。袴田くんの背中が目の前にある。席に着く通りすがりに、何気なく覗き見てしまったノートの一行、リフレインする。

【放課後、人類を滅亡させよう】

 真っ直ぐ過ぎる字体自体が事態の深刻さ雄弁に物語っていた。悲壮な決意すら――も。網膜に焼き付いて離れない。

********************

「こんなところに呼び出して、なんの用だ?」
 いつも不機嫌そうな袴田くんが普段から寄ったままの眉根を更に狭めて、問い正す。私は努めて明るい口調で。
「見ちゃったっんだよねさっき……」
「何を?」
「ノート……倫社の授業の時、何かそのぉ……『人類をなんとかする』みたいなこと、書いてなかった?」
「ああ、あれか」
「ねぇ、あれって、詩か何か書こうとしてたの?実は私も詩を書くのが趣味で……」
「違う。そんなんじゃない」
「え?……じゃあ、ただの落書きか何か?授業が退屈だったから?」
「そうじゃない」
「じゃあ……何?」
「気になるのか?」
 私は視線をそらせて、コクンと頷いた。

「ただのメモだ」
「メモ?」
「そうだ。もう行っていいか?」
「待って!ちゃんと説明して、メモってどういうこと?」
「……お前、高校生にもなってメモの意味も知らないのか?つまり、買い物に行く前に、何を買うか、忘れないように紙に書いておいたりするだろう?それがメモだ」
「それくらい私も知ってるよ」
「じゃあ理解したな?俺は、人類を滅亡させることにした。それを忘れないようにノートに書いた。それをお前は見てしまった。それだけのことだ。もう行くぞ」
「ちょっと待ってよ!意味がわかんない。ちゃんと説明して―――
―あ、分かった!今ハマってるゲームかなんかの話?」
「違う」
「じゃあ何?!」
 私は、袴田くんを見つめる――半年前に転向してきた彼、いつも寂しそうな眼をしている。クラスの誰にも心を開かない。クラス委員長の私としては、ほっとけない存在。特に問題を起こしたりするわけじゃないけど、もっとこのクラスに打ち解けて欲しい。何か、悩みごとがあるのなら、教えてほしい。そう思っている。
 袴田くんはきっと、そんな私を鬱陶しく思っている。何かにつけて絡もうとする私を、いつも短いセリフで追いやろうとするから。
「どうせ話したところで、何が変わるわけでもないし、いいだろう。話してやろう」
 私の心臓がキュッと鳴いた。網の上で丸まるスルメイカのような声で。

「俺は高性能爆弾なんだ」





 音楽室の窓外で、遠くのクラクションが聞こえる。
「……からかってるの?」
「違う。真実を言っている。俺は外宇宙からやってきた兵器だ」――真剣な眼差し。からかっている様子ではない。
「さっき俺は爆弾だといったが、爆発して何かを破壊するようないわゆる爆弾ではない。俺はウイルス爆弾なんだ。この体の奥に、人類を滅亡させ得る殺傷力と、感染力を持ったウイルスが仕込まれているて――」
 ――どうリアクションしていいかわからない。が、取り敢えずは最後まで聞こう。
「――俺の意思で、ウイルスの散布が始まる。ウイルスの潜伏期間は半年、潜伏中は軽い咳といった症状しか表れない、が、発症した場合には、一瞬で死ぬ。心臓発作のような症状で一瞬にしてな。人類の科学力ではワクチンを作り出すことは出来ない。だから滅亡は必死」
「――――で?」
「明日の放課後、俺はセンター街で大きなくしゃみをする。それが人類滅亡の合図だ」
「つまり、ウイルスを散布するということ?」
「そうだ」
「つまりつまり、袴田くんのくしゃみ一発がきっかけで、60億の人間が死んじゃうってこと?」
「そういうことだ」
「ふふ……ふはっ……ふはっははは!」
 私は笑った。最初は小さな笑いだったが、声を出してるうちに、だんだんと大きくなり、しまいに身体をくの字に曲げ、多分後ろから覗いたら、パンツ丸見えなほど前かがみになって、小刻みにケタケタと振るえながら鳴りながら、涙を流して笑った。
「あー、おっかし、袴田君ってサイコーね」
 そんな私を冷めた眼で見据えていた袴田くん、流石に少し苛立ったのだろうか、吐いて捨てるように。
「もういい。言っておくが俺は、真実を語ったまでだ。お前がそれを、信じようと信じまいと、どうでもいい。じゃあな」
「待って!」
 私は急に真顔になって、袴田くんを引き止める。
「私が笑ったのはね。何もアナタの言っていることを冗談だと思ったからでも、信じていないからでもないの」
「どう――いうことだ?」
「袴田君の致命的欠陥は、人間社会に溶け込み、秘密裏に任務を遂行させるために、『自我』を持たされたことね」
「何ぃ?!」
「だってそうじゃない?どうしてそんな大事な任務を私に打ち明けたりしたの?いや、もっといえばメモに残したの?本当は怖いんでしょ?誰かに止めて欲しいんでしょ?自我を持ってしまったが故に、恐怖を覚えてしまった。60億の人間を消滅させるという行為の意味を、アナタは考えてしまった。自らの威力に恐れおののく兵器、それがアナタよ」
「くっ……それは違う。俺は怖れてなんかいない。俺は……俺は、立派に任務を遂行してみせる」
「無理ね。私には分かる。だって、ウイルスを散布すればアナタも無事では済まない。違う?人間として作られたアナタのボディーも、きっとウイルスに感染してしまう。でないならば、アナタが実は――ウイルスを抑制する因子を持っているということになる。しかしそれはない。そんなものが存在してしまえば、計画の確実性が薄れてしまうから。どう?」
「ぐ……」
「私には分かるの。アナタの自我は死を恐れている。自爆テロみたいなこと、袴田くんには、できっこない」
「クラス委員長……お前は一体……」

「私は、ワクチンです」

「何?!」
「銀河帝国が企んだ人類滅亡の陰謀、ウイルス兵器がこの星に送り込まれたことを知ったアルバート博士が、計画を阻止する為に作り出したワクチン、それが私」
「ば、ばかなそんなことが……」
「ふふ、アナタに人殺しはさせない。今から、アナタの保持しているウイルスを無害化する」
 私は、袴田くんに近づき、その首に両腕を回して、キスをした。彼の中の何かが、音を立てて壊れる。
「アナタは、兵器にしては優しすぎる」
「な……なんてことだ」
 袴田くんは、がっくりと膝を落とし、呻いた。
「俺はこれから……どうすればいいんだ……」
「威力を失った兵器、対象を失ったワクチン、私達……案外、似たもの同士かもね」
 袴田くんが、茫然自失なままなので、思い切って私の方から切り出した。




「付き合っちゃおうか。私達」

コメント(2)

委員長のとっさの機転だったのか
はたまた、本当にワクチンだったのか…

こういう女性は好みです(笑)
>>[1] 僕もですw 出会ったことないですけどねorz

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