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 あなたの物を整理してから、この家もすっかり広くなりました。元々二人で使うには大きすぎた下駄箱には、私の下履きが三足と、消火器しか入っていません。
 あたたが書斎に使っていた部屋は、書斎といっても本なんかちっとも置いてなかったけど、その部屋にわたしの荷物を移しても良かったんだけど、なんだか億劫で、今でも空けてあります。本当を言うとね、あの部屋、わたしが使いたかったって気持ちもあるんだけど、いざとなってみると、どうしていいか見当もつかず、そのままにしてあるだけ。
 お食事はね、毎度作っています。でも、どうしても作りすぎてしまうから、前の晩の残りを温めるだけになることがほとんどだけど、だけどお味噌汁だけは、毎回炊くようにしています。温めなおしたのは、どうしたって美味しくはありませんから。
 家具らしい家具と言ったら、わたしが嫁入り道具で持ってきた、三面鏡ぐらいしかもうないのだけど、それも鏡の二つにヒビが入っているもんですから、ずっと閉じたまま。だけど、まゆ墨くらいは、洗面台で書くようにしています。別に誰に見せるわけでも、見られるわけでもないのだけど、身だしなみとしてね。だから洗面台の鏡は、もっと綺麗に磨いた方がいいって、いつも思うのだけれど、あんまりはっきり見え過ぎるのも、どうかしらとも思ってしまうの。あら、これはお掃除をさぼった言い訳でしたね。
 お掃除と言えば、エアコンの掃除は結局やってくれませんでしたね。高いところだからお願いしますって、あれほど言ったのに。だけどもう、あたなたの方が立つのもやっとだったものね。だからもう、そのことは構いません。どうせ、エアコンの風は好きじゃありませんから。
 がらんどうになった押し入れから、ビー玉が出てきました。いつだったか、あなたが買ってきたビー玉。

 ビー玉なんて、なんにするの?
 あの子が喜ぶと思って。
 まさか。いくつだと思ってるの?
 いくつになったかな。
 もう、お勤めに出てますよ。
 そうか。じゃあ、お前にやろう。

 あなたの物を整理してから、わたしの物もずいぶん整理したけど、あの時のビー玉だけは、捨てられずにいました。あなたがわたしにくれた、最後の物でしたから。だから、ずっと、大事にしていたのだけど、どこへやってしまったのかしら。あなた知らない?
 ああ、わたしも、もうすぐ出かけなければいけないのに、ちっとも出てきてくれないの。ねえ、お願いだから、後生ですから、意地悪なんかしないで、出してくださいな。きらきらと光って、青いまだら模様の、あなたが最後にくれた。
 あなた。あなた。あなた、おかえりなさい。思ったより、早かったのね。大丈夫、お味噌汁なら炊いてありますから。食べ終わったら、エアコンの掃除、お願いできるかしら?わたしなら、いつでも出かけられます。眉だって、整えてあるし。
 あなた。あなた。あなた、どうしたの?そんな顔をして。


(終)

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