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意味不明小説(ショートショート)コミュのBOY MEETS GIRL (前編)

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 向原橋の袂に、手入れの行き届いた真っ赤な自転車が1台止めてあった。側に近づいて確認するまでもなく、太一にはそれが誰の持ち物なのかすぐに分かった。ペダルを踏み込む足に力を入れて自転車を急がせると、勢いよく両方のブレーキを握り、耳障りなブレーキ音を辺りに響かせて向原橋の袂に停まった。
「おーい、美鈴。お前、そんな所で何やってんだ!」
 欄干の上から自分の声を呼ばれて、美鈴の動きが一瞬止まった。顔を見なくても声の主が誰かは分かったが、それが誰であろうと、初めから聞こえなかった振りをする事に決めていた。自分の知り合いならもちろん、幼馴染の杉浦太一ならなおさらだった。今の自分の姿と言ったら、女子高生が制服を着たままの女の子が川の中で膝まで水につかっているのだ。傍から見れば随分と奇妙な光景だと思われるだろうし、少し常識を働かせれば何かを必死で探している最中だという事くらい、誰にでも分かりそうなものなのだ。それなのに、よりにもよって近所迷惑なくらいに大きな声で「何やってんだ!」と聞くなんて、まったくデリカシーの欠片もない。太一は自分をからかって楽しんでいるのだ、そう思うと腹が立った。
 美鈴が再び何事もなかったかの様に作業を始める姿を見て、太一は欄干から身体を乗り出した格好でもう一度声を掛けた。
「おい、無視すんなよ!聞こえてんだろ?そんな所で何やってんだよ!」
「・・・・・るさい」
「お前さぁ、いくら暑いからって、そんな所で水遊びするか?普通」
「・・・・・ぅるさい」
「何だよ。何言ってるか聞こえねぇぞ。“霧島、先生にも聞こえる声で話せ!よく分からんぞ”どう、森田の真似。似てる!?似てるよね?」
 美鈴たちの担任でもある森田先生の物真似は、太一の十八番で、美鈴を含めてクラスのみんなをいつでも爆笑の渦に巻き込んだものだった。この前の全校集会の最中も、太一が突然森田先生の物真似をするものだから、笑いをこらえきれなかった生徒の数名が、後で職員室に呼ばれてお説教をされたって話だったし、その原因を作った太一は、一人で居残り掃除を命じられたはずだった。いつもは笑えるはずの太一の物真似が、その時に限っては自分への嘲笑と悪意にしか感じられなかった。
「うるさいわね!あたしがここで何してようと、あんたには関係ないでしょ!」
 橋の下から太一を見上げる格好で、美鈴は睨みつけるようにしてそう叫んだ。
「な、なんだよ。何もそんなに怒鳴る事ないだろ。邪魔して悪かったな。じゃあな」
 太一が欄干から引っ込むと、自転車のスタンドを戻す音がした。そして、タイヤが路面を擦る音が消えてしまうと、後に聞こえてくるのは川の流れる音だけになった。
 太一に当たっても仕方がない、そんな事は自分が一番良く分かっていたはずだった。けれども、気付いた時にはそれまで我慢していた不満が爆発してしまい、言葉が口をついて出てしまっていたのだ。そう考えると、太一に悪い事をしたと思ったが、よくよく考えてみれば、太一のデリカシーの無さが悪いのだ。自分は悪くない。美鈴はそんな風に考える事にした。
 邪魔者が居なくなるとすぐ、美鈴は作業を再開した。ゆっくりしている暇はない。どうしても日が暮れるまでには見つけ出す必要があった。その思いで必死に水草の間を探し回っていた。
 太一が去った後も、何人かの人影が向原橋を通る気配がした。立ち止まって美鈴の様子を窺いながら、何やらひそひそと話している声が聞こえた事もあったが、大半の人は見て見ぬふりをして通り過ぎて行き、太一の他には美鈴に声を掛けてきた人は一人も居なかった。夏の暑い盛りで、水辺とはいえ直射日光にさらされる為、体力の消耗は激しかった。生温い川の水は清涼感とは程遠く、流れ落ちる汗で髪はバサバサ、体はベトベトしていて気持ちが悪かった。おまけに、足の裏に感じるのは、川底の泥土と水草の感触で、投げ捨てられた空き缶やペットボトル、お菓子の袋が大量に浮かんでいた。それでも美鈴は、作業を止めなかった。
 長かった夏の日も暮れ始め、美鈴の黒い影が長く伸び始めた頃だった。美鈴の耳に誰かの近づいてくる足音が聞こえた。見るとそこには太一の姿があった。
「何しに来たのよ!邪魔するなら帰ってよね」
「別に俺の勝手だろ。それで、何だ?」
「・・・何だって、何よ!」
「何を探せばいいのかって、聞いてんだよ」
「・・・・別に、何だって良いじゃない」
「大事な物なんだろ?見つけたいんだろ?だったら、妙な意地張る事ないだろ!」
「・・・・・・ボタン、向原中学の。制服に付いてるやつ。でも、こんだけ探してないんだから、どっかに流されたかも・・・」
「日が暮れるまでに探しだす。あっち側は探したのか?」
「・・・探したけど、きっともう、何処にも無いんだよ」
 そう答える美鈴に背を向けて、太一は下流の方へ走っていくと、勢いよく川に足を入れた。そして、魚でも捕まえる様な格好で勢いよく川の中を探し始めた。もう、辺りはすっかり薄暗くなっていて視界は昼間よりも悪く、思ったよりも作業ははかどらなかった。それでも、二人は、黙ったまま必死に川底を手探りしながら作業を続けていた。
 いつしか、街灯の照明が一つ、また一つと灯り始める時刻となっていた。
「太一、もうイイよ。ゴメンね、付き合わせて。ねえ、帰ろう」
 太一の後姿を見つめる美鈴の口から、ポツリとそんな言葉が漏れた。
「なあ、お前が探しているのって、これじゃないか?」
 そう言って太一がこちらを振り返って、美鈴に向かってボタンを見せてくれた。こんな薄暗がりでなくても、二人が立っている距離からでは、それが美鈴の探しているものかどうかなんて見分ける事は出来ないというのに、太一の手に握られたボタンは、一瞬輝いて見えた。そして次の瞬間、美鈴の瞳からは一筋の涙がつぅっと頬を伝い落ちて、それからは、堰を切ったかのように涙が溢れて、自分でも抑えようがなかった。慌てて涙を拭おうとするのだが、目の前に差し出される自分の両手は、乾いた泥がこびりついており、行き場を失って宙をさまようばかりだった。
 そうするうちにも、水音をバシャバシャと立てながら太一は美鈴の傍まで来ると、美鈴の腕を取って右手にそっとボタンを手渡してくれた。
「・・・じゃあ、帰るか」
 美鈴は黙って頷くと、自分の前を歩く太一の後に従って土手を昇って行くのだった。




 翌日、学校で美鈴と出会った時の太一は、昨日の出来事など何もなかったかの様に振る舞っていて、美鈴の方でもあえてその話題には触れなかった。お互いに同じクラスメートとしての適度の距離を保ちながら、その日は何事もなく過ぎて行った。
 その日の放課後、美鈴の姿は学校の自転車置き場にあった。向こうからやって来ひと際背の高い男子生徒を見つけると、美鈴は駆け寄って声を掛けた。
「牧亮介ってあなたよね。悪いけど、ちょっと話があるんだけど」
 声を掛けられた相手は、不思議そうに美鈴の方を見つめるばかりだったが、周りにいた生徒たちは突如として色めきたって騒ぎ始めた。
「おっ、何だ何だ!告白か?相手は誰だ?」
「あら、知らないの?3年の牧亮介先輩。結構人気あるって有名よ」
「へぇ。確かにイケメンだけどさ、何かこう、すっげぇー無愛想な感じじゃね?」
「それより何、あの子?牧先輩の事を呼び捨てにしちゃって。1年生?」
「そう言えばこの前もさ、1年の女の子で、何て名前だったかなぁ。真っ赤な顔して手紙を渡しに来たのに、牧のヤツ、知らん顔して通り過ぎたんだぜ」
「そうそう。結構可愛い子だったのにな、あっさりふっちまうの。勿体ねぇよな」
「・・・・・・あのさ、ここだと周りがうるさいから、悪いけどちょっと付き合ってくれない?」
 そう言って美鈴は強引に亮介の腕を取ると、校舎の陰に連れて行った。亮介は別に抵抗するでもなく、大人しく美鈴の後について来てくれたが、二人の背後からは冷やかしと羨望の声という余分なおまけが、しばらくの間一緒について来ていた。
「もうこの辺で良いだろ。それで、俺に何の用事だ。っていうか、アンタ誰?」
「1年A組、和泉夕貴」
「ふ〜ん。それで、その和泉夕貴が俺に何の用事があるんだ?」
「やっぱり覚えてないんだ。この前あんたに手紙を渡そうとしていた女の子、その子が和泉夕貴。あたしじゃないわ。はい、これ。ちゃんと約束果たしてよね!」
 美鈴の掌の上には、あちこちに傷がついてくすんではいるものの、綺麗に掃除された制服のボタンが載っていた。
「あんた夕貴に言ったんでしょ。中学の時、向原橋で制服のボタンを失くしたって。もしも、それを見つけて持って来たら付き合っても良いって。だから約束通り、夕貴と付き合いなさいよ」
 二人の間には一瞬の間があったが、その沈黙はそれまでむっつりと無愛想だった亮介の大笑いで破られた。
「何よ。何か文句があるっていうの?ちゃんと説明しなさいよ。何、笑ってるのよ!」
 ようやく笑いが収まった亮介は、制服のポケットから同じ様なボタンを取り出すと、美鈴にもよく見える様にして目の前にかざして見せた。
「いや〜、悪い悪い。ちょっとした冗談さ、冗談。今まで何回か同じ話をしたんだけどさ、決まって翌日にはボタンを持ってくるんだ。まあ、学生服のボタンなんて、店に行けば幾らでも買えるだろ?人の考える事なんて、みんな同じでさ。でもまあ、告白した本人じゃない相手が持って来たのは、これが初めてだよ。何なら、その夕貴って子の代わりに、俺と付き合ってみるかい?」
「ふざけないでよ!人をからかって、そんなに楽しいの?夕貴はあんたの事が本当に好きで好きで、だから今日も学校を休んでいて、それなのに、あんたって、本当に最低!」
 美鈴はボタンを亮介に投げつけると、走ってその場を後にした。亮介の身体にあたって弾かれたボタンは地面を転がって、側を通りがかった男子生徒の靴にぶつかって止まった。男子生徒はそのボタンを地面から拾うと、亮介の方へと近づいてきてこう言った。
「お前って、本当に可愛そうな事するヤツだな。あの子で何人目だ?」
 亮介が振りかえると、そこには眼鏡を掛けた男子生徒が一人立っていた。
「何だ、拓海か。生徒会長が覗き見とは、趣味が悪いな」
「別に見たくて見た訳じゃないさ。たまたま通りがかったんだよ」
「まあ、いいさ。別に隠す事じゃない。いつもの事さ」
 亮介はズボンに手を入れた格好で、そう答えた。
「いつもの事・・・か。でも、今回はいつもと違うかもしれないだろ?店で買って来たにしては随分と汚れているって、そうは思わなかったのか?」
「何処かで誰かのボタンを貰って来たんだろ。どっちにしろ、俺を好きなのはあの子じゃなくて、あの子の友達だって話だからな、俺には関係ねぇよ」
「そうか。余計なお節介だったな。変な事を言って悪かったな」
 立ち去る亮介の後姿に、拓海はそう告げたが、亮介にその言葉が届いたかは分からなかった。
「・・・悪かったな、亮介。お前の事を“可哀想な事をするヤツ”なんて言って。お前は可哀想な事をするヤツじゃない。本当は、お前が可哀想なヤツなんだ。でもな、理由がどうであれ、約束は約束だ。だから、ちゃんと守れよ」
 拓海は手にしたボタンの裏側を見ながらそう呟いていた。そこには拓海にも見覚えのある星形の印と一緒にRという文字が彫ってあった。




 次の日、美鈴は朝から周りの様子がおかしいのに違和感を覚えていた。同じ学校の制服を着た生徒たちが自分の方をこそこそと盗み見ては、何やら話している様子なのだ。初めのうちは自分の気のせいだろうと思っていたのだが、校門を潜り抜けて校舎内に入ると、自分へと向けられる好奇心に満ちた視線があからさまになり、その中に時々、憎しみの籠った視線が混じる様になっていた。
 教室に入ると、普段はあまり話したことのない男子生徒や女子生徒の数名が美鈴の元に駆け寄ってくると、口々にこう問い質すのだった。
「ねえ、霧島さん。あなた、牧先輩に告白したって話、本当なの?」
「あら、そんなの決まっているじゃない。目撃者が大勢いるのよ。二人が手を繋いで校舎裏に行くのを見たって」
「おまけに、牧先輩も霧島さんの事が前から好きだったって話じゃない。告白した相手と両想いなんて最高よね」
「美鈴。実は俺も、前からお前の事が好きだったんだ。俺の方から改めて言うよ。俺と付き合ってくれ。・・・ハイ、先輩。馬鹿だな、俺たち付き合うんだぞ。先輩なんて呼ぶな。これからは名前で呼んでくれ。えっ、でも、それじゃあ、・・・亮介さん。そして二人は、人気のない校舎裏で抱き合うと、そっとお互いの顔を寄せ合って・・・・・・」
「キャー、キャー!!!!もうやだぁ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。一体、何の話よ!あたしにはさっぱり……」
「あーあ。まだとぼけるつもり。もうネタはあがってるのよ。ほら見てよ、黒板・・・あっ、杉浦!何やってんのよ!」
 教室の黒板の前で、太一が何かを消そうとしていた。チョークで力強く書いてあるせいか、ちょっとやそっとの事では消えそうにもなかった。そして、断片だけでも大きな文字で牧亮介と自分の名前が並べてあり、二人の名前を囲む様にハートマークが描かれていたのが分かった。
「ちょっ、ちょっと何よこの悪戯書き!誰よ、こんな事書いたの!」
 そう言って美鈴も太一と一緒になって急いで黒板を消し始めた。
「何だよ。折角の力作なのになぁ、消す事ないだろう」
 普段はおとなしいクラスの男子生徒までもがそんな事を口にするので、美鈴は思わず声のした方を睨みつけていた。美鈴の気迫に押されたのか、男子生徒は座っていた椅子から滑り落ちて、みんなの笑いものになっていた。
「何だか今日は騒がしいな。もう授業始まるぞ!急いで席に着け。霧島と杉浦。お前たちも席に着け。よし、みんな席に着いたな。それじゃあ・・・・・和泉!どうした?やっぱり、まだ体調が悪いのか?」
 森田先生の一言で、クラス全員の視線が夕貴の席へと向けられた。そっと夕貴の席を窺った美鈴の目には、夕貴が机に伏したままの恰好でいるのが見えた。夕貴はこの一週間というもの、風邪を理由に学校を休んでいたので、森田先生の目には未だに体調が戻っていないと映ったのだろう。夕貴の様子を心配そうに見つめていた太一と、一瞬だけ目が合った。森田先生の指示で、保健委員と一緒に教室を出る時、夕貴は美鈴の席の隣を通ったが、長い髪の影に隠れてその表情はハッキリとは見えなかった。
「それじゃあ、授業を始めるぞ。教科書の150ページを開いて・・・」

 その日は結局、夕貴は教室には戻って来なかった。美鈴は授業に集中できず、それは太一も同じ様子だった。
 放課後になって、美鈴は急いで保健室へと向かったが、既に夕貴の姿はなかった。校舎内を探し回っている途中、ようやく玄関の下足箱の前で夕貴の姿を見つけた美鈴は、急いで声を掛けた。夕貴は美鈴の姿を見るなり、逃げる様にして走り始めたが、すぐに美鈴に追いつかれて立ち止まった。
「ちょ、ちょっと待ってよ。夕貴!大事な話があるの」
 美鈴に腕を掴まれて振り返った夕貴の顔は強張っていて、下唇をきつく噛みしめていた。夕貴の目の周りは赤く腫れていたが、その瞳の中にはもう、涙はなかった。
「今朝のあの話は、まったくの出鱈目だから。あたし、告白なんかしてないし、付き合ってもいないから!」
「でも、牧先輩と会って話したんでしょ」
「・・・それは、まあ、そうだけど。でも、誤解しないでよね。告白とか、そういうんじゃない事だけは確かなの。上手く説明出来ないし、信じてもらえないって分かってるけど、本当に本当だから」
「そうね。美鈴が誰を好きになろうが、誰と付き合おうが、それは美鈴の自由だし、私が邪魔する権利なんてないものね。でもね、だからって、何で今このタイミングで、しかも牧先輩なのよ!だったら最初からそう言ってくれればいいでしょ?これじゃあ私、私、何だか馬鹿みたいじゃない」
 普段はどちらかと控えめで大人しいはずの夕貴が、こんなにも自分の感情を表に出して怒る姿を、美鈴は初めて見た様な気がしていた。そのため、美鈴はそれ以上、夕貴に対して掛ける言葉が出なかった。夕貴は美鈴の腕を振り払うと、そのまま一人で立ち去ってしまった。
 夕貴がいなくなった後も、美鈴はしばらくの間その後姿を見送っていた。美鈴が我に返ったのは、自分に向けられた一言によってだった。
「1年A組の霧島美鈴さんって、君の事かな?」
 声をした方を見ると、そこには眼鏡を掛けた男子生徒の姿があった。
「はい、霧島美鈴はあたしですが・・・えっと・・・」
「この学校で生徒会長をしている3年B組の須藤拓海と言います。ヨロシク」
「あっ、そうか!何処かで見た様な気がしたって思ったから・・・あっ、スミマセン」
「別に気にしていないよ。生徒会長なんて言っても、誰もが覚えている訳じゃないし。でもね、これからはちゃんと覚えておいて欲しいな、僕の名前」
「ごめんなさい。それで、生徒会長さんがあたしに何かご用でしょうか?」
「用って訳じゃないんだけどさ、コレってもしかしたら、君の大事な物なんじゃないかなぁって思うんだけど、違うかな?」
 そう言う拓海の手には、見覚えのあるキーホルダーと一緒に、自転車の鍵が握られていた。急いでカバンの中を探してみると、確かに今朝カバンに入れたはずの鍵がなくなっていた。
「ありがとうございます。それ、あたしのだと思います。でも、どうしてあたしのだって分かったんですか?」
「今じゃこの学校の中では、生徒会長が誰かは知らなくても、君の事を知らないって生徒はいなんじゃないかな?少なくとも、みんな名前くらいは知っていると思うよ」
 拓海の口からまた同じ話題が持ち出されて、美鈴は腹が立っていた。
「またその話ですか。朝からその話題ばっかりで、あたしもうウンザリなんです。好きでもない相手に告白したと思われて、おまけに付き合っている事になってるんですよ!親友ともそのせいで喧嘩しちゃうし、冗談じゃないです!」
「ふ〜ん。じゃあ君は牧と付き合っている訳じゃないのか?」
「もちろんです。誰があんなヤなヤツと!向こうから頼まれたってお断りします!」
「そうか・・・」
 そう言って、しばらくの間考え込むような恰好をしていた拓海だったが、突如として何かを思い付いたかの様にこう告げた。
「だったらさ、僕と付き合ってくれないかな?」
「・・・えっ、ちょっと、何でそうなるんですか。そんな急に言われても・・・」
「ゴメン、ゴメン。正確に言うと、“僕と付き合っている振りをしないか”って事なんだ。みんなの誤解が解けるまでの間だけ。もちろん、付き合うっていっても、一緒に通学したり、昼休みにちょっと会ったりとか、そんな程度だからさ。返事は今すぐって訳じゃないから、考えておいてよ。それじゃあ!」
 いつの間にか恋人が出来たと噂され、それが原因で友人とは喧嘩別れとなり、そして今度は、生まれて初めて告白をされたのかと思ったら、付き合う真似をして欲しい・・・って、一体、何処まで人をからかったら気が済むんだろうか。そんな事を考えていると、何もかもが腹立たしくなっていた。
「おーい、美鈴。お前、そんな所で何やってんだ!」
「うるさいわね!バカ太一!!全部、あんたの所為よ!人の気も知らないで!」
 そう言って怒りながら立ち去る美鈴の後姿を、太一は見送るだけしか出来なかった。

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