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意味不明小説(ショートショート)コミュのミッドナイト・イン・奈良(1)

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ここは、奈良の東大寺。
真夜中の大仏殿は、しーんと静まり返っていました。
大仏様の半眼の目は、まるで世を慈しむように、薄暗がりの中空をじっと見つめています。
と、その時です。
どこからか、十二時を告げる時計の鐘が、ぼーん、ぼーんと、鳴りだしました。
鐘の音が止むと、大仏殿は再び静寂に包まれました。
しばらくすると今度は、するり、するりと、衣擦れのような音が聞こえてきました。
やがて、大地の底から響き渡るように「あー、ひまだな」という、声がしました。
と突然、大仏様が大きな大きなあくびをして、ぽりぽりと螺髪(らほつ)をかきだしました。
「ホントひま……」大仏様は、人差し指で螺髪の毛先を遊ばせながら「なんか今日、参拝客少なかったしな」と、言いました。
「いや、でも、ホントそうだわ。毎年この時期になると決まって減ってるもん、参拝客。え、なんでだ?絶対なんか理由があるよな……」
大仏様は指にからめた螺髪を、右巻きに、あるいは左巻きにと、捻りながら言いました。
「あー、もう駄目。このままじゃ気になって眠れないわ……誰かに調べさせるか。誰が良いかな……あ、そうだ、韋駄天(いだてん)にしよう。おーい、韋駄天。韋駄天ー、いるー!?」
と、大仏殿に一陣の風が吹き抜けました。
そこには、甲冑を身にまとった韋駄天が立っていました。
「なんですか、大仏様……」韋駄天は、眠そうな目を擦りながら言いました。
「あ、ごめん。寝てた?」
「寝てましたよ。え、いま何時ですか?」
「十二時」
「十二って……マジか……」と、韋駄天はつぶやきました。
「え、なに、韋駄天、怒ってる?」
「いや、怒ってはないですけど……」
「怒ってるよ、そんな顔してるもん」
「いやいや、こういうふうに彫られてるだけですから」
「本当?韋駄天、怒髪天、衝いてない?」
「衝いてませんって……で、なんの用ですか?」
「うん、ちょっと気になることがあってさ……足の速いところで、ひとっ走り調べてきて欲しいんだよね」
「なんですか?」
「いやね、毎年さ、このくらいの時期になると、決まって参拝客減るでしょ?」
「え……ああ、確かにそうかもしれませんね」
「だよね?」
「はい」
「やっぱ、そう思う?」
「あ、はい」
「良かった」
大仏殿は、再び静寂に包まれました。
「……え?」韋駄天が、言いました。
「え?」
「え、それだけですか?」
「うん。え、ダメ?」
「いや、ダメって言うか……あの、十二時ですよ?」
「そうだね」
「それって……いま調べないといけません?」
「だって、気になって眠れないんだもん」
「なんですか、それ……」
「もう、悟りの境地みたいな?」
「え、悟り?」
「うん、もう目が悟って、悟って、大変なんだわ……」
「え、悟りって……え、そういうことなんですか!?」
「うん、そうよ。だって、経典にもそう書いてあんじゃん」
「え、あれってそういう意味なんですか?」
「まあ、ちょっと長ったらしいけど、煎じ詰めるとそういうことよ。え、知らなかった?」
「ま、ちょっと、想像してたのと違いました……。てか、だとしたら、僕もう、しょっちゅう悟りまくりですよ?なんか、修行して損した……」
「とにかく、これじゃ悟って眠れないからさ、ちょっと調べてきてよ」
「えー、いやですよ、そんなの。自分で行ったら良いじゃないですか……」
「あー、無理」
「なんでですか?」
「足、しびれてるから」
「はあ?」
「だって千三百年、ずーっと結跏趺坐(けっかふざ)よ?しびれなかったら、ウソでしょ」
「じゃ、しびれ取ってから、行ったら良いじゃないですか」
「なに言ってんの、千三百年のしびれよ?取るのに二百年はかかるわ」
「そんなにしびれてんですか?」
「しびれてる、しびれてる……もう、鉄みたいに硬いもん」
「まあ、銅なんですけどね」
「え、なにが?」
「大仏様、銅でできてるんですよ」
「え、そうなの?」
「いや、知らなかったんですか?」
「あ、いや、知らなかったってわけじゃないけど……ふーん、あ、銅ね……」
「ええ……」
「じゃ、どうぞう、行ってらっしゃい」
「……え?」
「いや、銅像だけに。どうぞう、なーんて……」
大仏殿は、再び静寂に包まれました。
「本気で言ってます?」真顔になった韋駄天が、言いました。
「いや、ま……ノリよ、軽ーいノリ?その……あ、なに韋駄天ちゃん、その目は。……おい、コラ、ぶつぞう?」と、大仏様は軽く拳を振り上げました。
大仏殿は、再び静寂に包まれました。
「こいつ、脳みそも銅でできてんな」韋駄天が、ぽつりと言いました。
「え、なんて?」
「いや、なんでもないです」
「なんか、脳みそがどうとかって……」
「あ、じゃあ、僕、ちょっと調べてきますね」と、言うと同時に韋駄天はもんどり打つと、吹き抜ける風とともに、どこかへ消えてしまいました。
「あ、おい、ちょっと!……って、あーあ、もう行っちゃった。本っ当にあいつ、足は速いんだけど、性格がまごついてるっていうか、ぐちぐち面倒くさいんだよね……」
「ただいま戻りました」と、韋駄天が現れました。
「うわっ!なに、もう戻ったの?早―い……」
「まあ、韋駄天ですから」
「いやー、やっぱさすがだね、韋駄天は」
「まあ、性格は、ぐちぐち面倒くさいですけど……」
「え、聞こえてた?」
「まあ……」
「な、なーんだ……まあ、その、足だけじゃなくて、耳も良いんだね。え、おまえは、多聞天(たもんてん)か?このっ、このっ!」と、韋駄天をひじで小突く大仏様。
「いや、あの、普通に痛いんで、止めてもらえます?」韋駄天は、きわめて冷静に言いました。
「……ごめん」
「で、街で衆生(しゅじょう)の様子を見てきたんですけど……」
「ああ、うん、どうだった?」
「確かにいつもの様子とは、明らかに違ってました」
「え、どんな風に?」
「なんか、赤い衣を着てるんですよ」
「赤い衣?」
「ええ……ま、皆がみんなってわけじゃないんですけど、やたら多いんですよ。あと、赤い帽子も被ってました」
「それも赤なの?」
「はい。で、皆して鶏を殺(あや)めてるんです」
「え、じゃあ、返り血ってこと?」
「可能性はあります」
「なにそれ、怖ーい……」
「いや、見せたかったですよ。殺めた鶏を前に、赤い衣を着て、半狂乱で騒いでるんです。この世のものとは思えませんでした」
「それって地獄絵図じゃん!?」
「ええ、まさに。どうやら、怪しげな儀式らしいです。そこかしこに、普段は見かけない呪い(まじない)がありましたから」
「どんな呪いよ?」
「札に書かれた呪文に、こうありました……クリスマス」
「くりすます……なにそれ?」
「さあ、そこまでは……」
「とにかく、一刻も早く止めさせないと……」
「そうですね、このままでは衆生が……」
「俺って血とか苦手だから」
「え?」
「無理、無理。そんなの見たら、気絶するわ」
「え……あの、衆生を救うんじゃ?」
「いや、衆生よりも、血でしょ、血。だって俺、本当に無理なんだもん。だから、争いのない平和な世の中にしようと思って、必死になって説法したんだよ?」
「ええ!?そうなんですか?」
「そうだよ。クリスマスなんか見たら、俺の精神崩壊するわ」と、大仏様は取り乱しました。
そんな大仏様を見て、韋駄天は「僕は、もうしかかってますけどね……」と、言いました。
「韋駄天、どうしたら良いかな?」
「いや、僕に言われても……」
「あ、じゃあさ、文殊菩薩(もんじゅぼさつ)呼んできてよ。あいつならなんか知ってるから」
「えー、またっすか?」
「どうぞう」と「ぶつぞう」のくだりを何度か繰り返した後、韋駄天はしぶしぶ文殊菩薩を呼びに行きました。

(続)

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