意味不明小説(ショートショート)コミュの２０１１　地球　立冬　松戸の乱

カレーにポン酢を隠し味で入れてみたら、なんとこれが絶妙に効いて、その日は彼女も満足顔だったのだが、深夜スポーツニュースを何個もはしごして見る、という俺の趣味に日ごろから嫌悪を抱いていて、機嫌いいからスポーツニュース何個もみたれと思ったのが大間違いで、あっという間に修羅場と化した、ここは千葉県松戸市の彼女のマンションのことであった。

出ていってよスポーツニュース携帯のワンセグで見てよ！わたしの家なんだからね！とバスタオルでバシバシとシバかれテーブルの上のポン酢の瓶はそのとばっちりをうけて床に落ちて割れた。

それを見た俺は今日のヒーローになんてことを！と憤り、枕で反撃にでたのだが、こういう場合、殺意の有無が勝負を分けるのであって、無論彼女には勝てないのだ、痣がタオル攻撃によって作られてゆくのに耐えられない深夜１時、もう終電の時間はとっくに過ぎていて今更自分ちにも帰れんが、しゃあなしに家を飛び出た俺。

日本シリーズ落合に奇策ありっての途中までしか見られへんかった、くそったれと思うが、本来俺は今はなき近鉄バファローズファンなのでそこまで気にすることもないのだが、あの幸せだった夕食よ戻って来い、てか、本当にちょっと仲良くなった状態をキープしよて、ちょっとでも思わんのかいなあいつはホンマどんなっとんじゃい、ニュース見ないでねて一言殴る前にゆうたら済むハナシとちゃいますのん。

くそったれくそったれ思てマンションの階段をズバドムと、近所迷惑にならんぎりぎりの威勢で駆け下り、外にでたとこで４階の彼女の部屋をいまいましく見上げ、くそー暖かそやな、そういや立冬てゆうてたな、えらいもんでちゃんと寒なりよんねんな地球は。律儀なやつやでホンマ。

と感心したのも束の間、アイツも地球も変なとこ律儀やねん、なんで立冬っていったら律儀に寒なりよるし、なんで怒るという回路に電気流れたら律儀に再現率１００パーセントで怒るねん！と俺の脳はとても見事な連鎖を発見して怒りにはさらに火がともり、木枯らしのようなもの、しかしまだ木枯らしと言うにはちょと足りんもののなかで、自らの怒りで暖をとれちゅうんかい、そういえば不世出の大エース、野茂英雄（俺の尊敬する人間は野茂ひとりである）の中学時代のチームの監督が、のちのち完成されるトルネード投法の前段として、中学時代の野茂のフォームをつむじ風投法てゆうてた記事をナンバーで読んだな、と思い、この場合木枯らしの前段階にあたるのはなんじゃらほい？

木しおらし？

木しなばし？

英語で枯れるゆうのは何てゆうんや？と、携帯で英和辞典検索してみたらwither！そやった枯れるはwitherやったって、いや知らんがな！といいつつ更に読み進める俺は、その時。

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[wither]

１＜植物が＞しぼむ,　しおれる,　枯れる,　しなびる

２＜愛情・希望などが＞弱る,　衰える

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絶句であった。なんつうことや２番、２番がまさに今の俺の心境をここまで、なぜ？辞書てすごいわ、言葉てすごいわ、俺の代わりに言い当てよんねん、代打の神様や、往年の近鉄バファローズの代打屋・藤立次郎や！
あるいは・・・・人はたどり着くべくしてその言葉にたどりつくのか？
今日の俺はwitherにたどり着くべくしてたどりついたのか・・・

俺の哲学的思索が始まろうとしていた、その時、ガラリと音がして見上げれば窓。彼女の部屋の窓が開いてひょいっと。
ひょいっと落ちてきたものを往年の近鉄の名センター大村直之ばりの補球を披露した俺は観客もいず、それは補球というには球でもなくそれは。

ハーゲンダッツのクッキーアンドストロベリーであった。

いっぽうそのころ俺の手元では携帯がメールの受信をぶるぶると伝え、けしてそれは木枯らしみたいなもののせいではない震えなので、メールを見てみたら、なんという。

「スプーン用意してあるので、早く戻ってきてたべましょう」

仲直りしたいときはいつもアイスなんや、たとえそれが立冬であっても。アイス。一年中アイス。律儀。
俺はそそくさとさっき降りてきた階段をまた上り始める、その俊敏さといったら往年の盗塁王、大石大二郎のよ・・・・、分かった野球のことは当分忘れたろかな、アイスに免じてな。アイス出してきたらば、まあハナシ呑んだってもいいかな。立冬だけにやっぱさぶいわ、今日の俺はwitherにたどり着くべくしてたどりついてはいなかったんやなあ、まあしゃあなしやけども、戻ったろかな、まあアイスに免じてしゃあなしにやけどな！