ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの悪性腫瘍

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
この作品を読む前に、まずは以下の作品をお読みください。


「寄生虫」
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=9946670&comm_id=637360
「相方」
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=13147014&comm_id=637360


「今日はどうしました?」
カルテに目をやったまま、医者は顔も上げずに、そう言った。
「ええ、実は鼻の奥に、がちゃぴんが・・・・」
「がちゃぴんですか、めずらしいですね、最近では、あまり聞きませんが」
医者はカルテから目を離し、顔をあげて、こちらを向いた。銀縁の角ばった眼鏡を掛けた痩せて神経質そうな印象を与える顔の持ち主だった。
「はい、みなさん、そうおっしゃいます」
「で、そのがちゃぴんですが、どんな、感じですか?」
「なんというか、ひどく凶暴なんです。気に入らないことがあると暴れるんですよ、人の鼻の奥で。もう、痛くて、痛くて」
「かなり、悪性のがちゃぴんかもしれませんね、それは。他に何か?」
「それに、歌を歌うんですよ」
「ああ、『男の中の男』でしょ?」
「先生、よくご存知ですね」
「そりゃ、まぁ、医者のはしくれですから。
 しかも、ものすごく下手くそでしょ、その歌」
「ええ、、ほんとに、仰る通りで。ひどい時には、一日中、聞かされて、気が狂いそうになります。近所からも苦情が殺到して。」
医者は深刻な面持ちでうなずいた。
「他には」
「あと、すごい、エロですね。エロ親父といった感じで」
医者の表情は更に深刻さを増した
「まだ、何かありますか、気付いた点は」
「あ、大事なことを忘れていました。相方がいるんです。」
「ええっ、むっく!まで、いるんですかっ!」
医者はそう叫んだ。
「しかし、二人で、ネタの稽古なんか、していないですよね、まさか!」
事実は、その、まさか、であった。私は、正直にそのことを告げた。
医者はしばし、絶句した。

事態は最悪だったようだ。
問診を繰り返すうちに、どんどん深刻になっていく、医者の表情、そして、しまいには
絶句して、二の句すらつなげられないでいることが、雄弁にそのことを物語っていた。

やがて、医者は重々しく口を開いた。
「落ち着いて聞いてください。最悪のがちゃぴん、それに、むっくです。わたしも、今までに、これほど、たちの悪い、がちゃぴん、それに、むっくを経験したことがありません。」
「もう、手遅れでしょうか?」
わたしはすがる思いで、聞いた。
「詳しく、診察してみないと分かりませんが、最悪の事態は覚悟しておいて頂きたい。」
医者は慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと答えた。
「どうしたら、いいんでしょうか?」
「まず、診察してみないと・・・・・。しかし、ひとつ、疑問が残ります。」
「なんですか?」
「これほど、最悪ながちゃぴん、それに、むっくなのに、どうして、あなたが、無事にこの診察室まで辿り着き、こうしてここで、静かに診察を受けていられるのか、ということです。普通なら、事前に察知して暴れだし、病院に来るのを阻止するはずです。」
「ああ、それなら、」と、私は、話し始めた。がちゃぴん、それに、むっくが部類の酒好きであること。そのため、かなり、つらかったのだが、はなから、大量のウィスキーを流し込んだこと。そして、そのウィスキーを、喜んで、その2匹が飲み、正体をなくして、グテングテンに酔いつぶれてしまったこと。今も、2匹は酔いつぶれており、その隙に、この病院まで来たこと。

話を聞きながら、医者はうんうんと頷いた。頷くたびに、その表情が明るくなっていくように感じられた。
「実に、賢明な処置だったと思います。これなら、まだ、なんとか、なるかもしれない」
医者は自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
「治るのでしょうか?」
「ええ、少し希望の光が見えてきたように思えます。なんとかなるかもしれない。しかし、一刻も、猶予はなりません。今すぐ、手術しないと」
「手術ですか!」
「ええ。がちゃぴん、それに、むっくが酔いつぶれているうちに、一刻も早く、手術をして、摘出しないと。」
「わかりました、お願いします。」
「それでは、ちょっと鼻の奥を見せてください」
と言って、医者は、ペンライトを持って、椅子に座ったまま、私の方ににじり寄った。
私は、鼻をその奥まで見せるため、顔を少し上向きにした。
「ああ、いますね、確かに。いやぁ、それにしても、凶悪ながちゃぴん、それに、むっくですね。ここから見てもそのことがよくわかります。かなり悪性のものだな、これは。」
「やはり、だめでしょうか?」
「いや、そんなことはありませんが・・・・、やや、動き始めたぞ、」
そう言うと同時に、私の鼻の奥でなにやら、もぞもぞと動くのが感じられた。
「これは、危険だ。先程はウィスキーを飲ませたと仰いましたね。」
「ええ、それが、なにか?」
「そうすると、ウィスキーの免疫ができて、もう効かないかもしれないな。芋焼酎は、今まで飲ませたことは?」
「なかったと思います。そもそも、私があの匂いがだめなもんで」
「そうですか、じゃ、申し訳ないけど、ちょっと我慢してくださいね」
そう言うと医者は、おもむろに、机の下から、一升瓶を取り出して、蓋を開け、太い注射器で中の液体を吸い上げた。そして、その液体を注射器から、左右の鼻の穴に、注入した。
芋の臭いが、瞬間、私の鼻の奥に広がって、私は何度も吐きそうになって嗚咽した。
「うひょー」という意地汚い、2匹の歓声が聞こえ、流し込まれるその液体を、ごくごくと飲みほしているのが、鼻の奥で感じられた。やがて、鼻の奥はまた静かになった。2匹はまた酔いつぶれてしまったようだった。

がちゃぴん、それに、むっくの動きを封じてしまうと、医者は手術について、説明を始めた。手術は全身麻酔で行われること、開けてみないとわからないが、おそらく2時間程度で終わるであろうこと。ただし、転移が見られた場合、更に多くの時間が必要になることなど。

説明が終わると、私は搬送用のベッドに寝かされ、そのまま手術室へ運ばれた。
手術室に入ると、私は麻酔薬を注射された。大きく、呼吸をしながら、ゆっくり数を数えるように看護師は指示した。
「1、2、3・・・・・」
3まで数えたところまで覚えているが、それ以降は何も覚えていない。

医者は、私の鼻の中を奥まで、覗いた。
「見えませんね」
そう言って、医者は頭を私の鼻の中へ突っ込んで、更に覗いた。
「まだ、見えませんね」
そいうと、そのままスルスルと鼻の中へ入って行った。しまった、騙された!
「き、貴様、がちゃぴんだな!」
「はははは、今頃、気付いても、遅いぞ」
「おい、出てこいっ!」
「いやぁーだねぇ」
「ふんがぁ〜」

そこで私は目を覚ました。じっとりと、全身に汗をかいていた。かなりうなされていたらしい。心臓が、どくどくと激しく動悸している。
「だいじょうぶですか、かなり、うなされていましたけど」
看護師は私の顔を心配そうに覗き込んで言った。
「平気です」
「手術は無事、終わりましたよ。今、先生を呼んできますね」
そう言うと看護師は医者を呼びに部屋を出て行った。

「気分は、如何ですか」
医者は部屋に入ってくるなり、言った。
「多少ぼーっとしていますが、大丈夫です。」
医者は頷いた。
「手術は無事に終わりました。成功です。」
「ありがとうございました。」
「無事に、摘出が完了しました。ただし、かなり癒着が進んでいましたね、もう少し遅ければ、完全な手遅れになるところでしたよ」
「転移とかの心配はないんでしょうか?」
「完全にないとは言い切れませんが、見た限りでは、きれいでしたから、その心配はまずないと思います。しかし、癒着部分を念のため、少し広めに切除しましたので、その組織を詳細に検査すれば、どうなっているか、はっきりすることでしょう。」
私は安心して頷いた。
「摘出されたがちゃぴん、それに、むっくはどんな感じでしたか?」、
「もう、本当に、予想以上に、最悪のがちゃぴん、それに、むっくでした。見た瞬間、そのあまりの凶暴さに、目を覆いたくなりました。
お見せしたかったし、また、ホルマリン漬けにして、標本にしたいところでしたが、万が一蘇生して、暴れだされては取り返しがつかないことになるので、私が見ている前で焼却させました。完全に灰になるまで焼いたから、もう、蘇生する心配はないでしょう。」
「本当にありがとうございました」

その後、術後の経過観察のため、私は、2週間ほど、入院した。その間、組織検査の結果の報告を受けた。転移は見当たらないとのことであった。
退院後も、私は、念のため、月一回、通院をして、再発の恐れがないか、チェックしてもらっている。

がちゃぴん、それに、むっくを摘出してしまうと、以前のような平穏な日々が戻ってきた。新しい彼女もできた。つくづく、平凡なこの日常というものをありがたく思う。しかし、私は、たまに悪夢にうなされることがある。手術後、目を覚ます前に見たあの悪夢だ。実は、これはがちゃぴん、それに、むっくの後遺症なのではないかと秘かに思っている。

コメント(4)

本当に焼かれてしまったのです。
それで、3部作、遂に完結です。
コメントありがとうございました。
そうそう、天然痘のように一時は撲滅されたと思われていたようですが、最近再び猛威をふるい始めたようです。ミコトさんも気を付けてください。
コメントありがとうございます。

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング