ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

意味不明小説(ショートショート)コミュの彼女たちに ?

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
『強欲』





欲しい。
そう思った。
欲しいと思ったものは全て手に入れなければ気が済まない。
昔から欲しいものは与えて貰った。
それ故に、欲しいものは手に入るというのが私にとっては当たり前なのだった。
だから欲しいものを手中に収められない、というのは私にとっては死んでしまう程の苦痛でしかない。
それがたとえ手に入らないものだ、と頭で理解したとしてもだ。

隣の芝生は青く見える。
他人の食べ物は美味しく見える。
何故かは解らないけれど、そう見えてしまう。
別にその人を妬んでいる訳ではない。だからその人から奪い去ってしまおう、などと考えることはない。
ただ私も欲しいと思うだけだ。
そして甘やかされて育った私は、たいていのものが買い与えられたので我が儘に育っていた。
欲深さ故に、昔から自分の持ち物を捨てられない。
幼稚園の頃に描いた絵とか、遠足で拾った綺麗な色の石とか、初めて自分のお金で買ったチョコレートの包み紙や、何かの景品で当たった不細工な犬のキーホルダー……
挙げれば切りがない。
それくらい私の部屋はもので散乱していた。
整理整頓が出来ない訳ではない。要らないものと要るものの区別がつかず、何でも取っておいてあるから、部屋のキャパシティーを超える程のもので溢れてしまっているのだ。
如何にかしたい、とは思うけれど心の何処かが変革を阻んでしまう。
独占欲。
一度手に入れたものは、全て私のもの。絶対に手放したくない。
周りのみんなは、きっとこんな風に強欲じゃない。
過去と未来をきちんと見ることが出来て、要らないものは捨てて要るものは残しておくことが出来る。
羨ましい。
私にはそんなこと、恐らく無理だから。
きっとこの世の中の全てのものを手に入れなければ、私のこの欲求は満たされない。
まだ誰も手に入れていない様な、素敵なものが欲しい。
みんなが持っていない様な、私だけの特別な何かが欲しい。
そう思った。


「綺麗な手帳だね」

休み時間よりも少し長い昼休みの時間は、学校の生徒にとって大変な憩いの時間だ。
みんな思い思いの行動を取る。机に突っ伏して寝る人、友達と楽しそうにお喋りする人、次の授業の課題を必死に解いている人……
教室の窓は少しだけ開いていて、埃で汚れた窓ガラスの向こうからの涼しい風が入ってくる。
空は青。秋晴れの過ごし易い日だった。
給食のあと、私は友達の戸塚亜月から借りたファッション雑誌をぺらぺらと捲っていた。
雑誌の中は夢の国に続いている。
私の欲しいものがいっぱい、ところ狭しと掲載されている。
目を輝かせてページを繰っていると、横から話しかけられた。
声の主は岡崎遥。私の友達。
いつも肩口で外側に撥ねた髪を気にしている。別に可愛いと思うのだけれど。

「そう?」

彼女の言った手帳は、机の上に載っていたこれのことだろう。
先日、近くの文房具店で見つけた、控えめに花柄があしらわれた手帳。薄い桃色が気に入って買ったものだった。

「うん。とても綺麗だよ。良いなあ、何処で買ったの?」

「えーと」

なんだか教えたくない、と思ってしまった。
如何してだろうか。遥は友達だ。友達に嘘をつきたくないのに、心がこの手帳は自分だけのものだと叫んでいる。

「ごめん、忘れちゃった……確か家にあったんだわ」

「そうなんだ……残念、私も欲しかったんだけどな」

やっぱり。
この手帳は私のもの。私が私の目で見つけて私のお金で購入した手帳。
同じものを使われるなんて、まっぴらごめんだ。
ああ、如何してこんなことを考えてしまうんだろうか。
厭だな、私って。
こうやって、私は周りを騙す。
最悪だ、とは思うけれど、それ以上に自分のものを誰かと共有する方が断然最悪なのだった。
これは私のものだから。

中学校に入って、多くの友達が出来た。
その中で、特に仲良くなったのは同じクラスの七人。
岡崎遥。成本朝美。戸塚亜月。長谷川琴理。木下茜。白鳥慧子。万条千百合。
私は強欲だから、友達だって欲しい。
そこだけは自分の欲望に拍手を送りたかった。
何故って、こんなにも素敵な友達が出来たのだから。
絶対に手放したくない。私のもの。私の友達。
でも、そんな大事な友達に自分の持ち物についての話には、いつも嘘をついてしまう。
多分、恐いのだ。
自分のものが誰かに奪われるのが。
奪われなくても、誰かに同じものを所有されるのが。
例えば、この綺麗な手帳だって、私より遥に使って貰った方が有効的に使われるかも知れないし。
私は欲しいだけ。
所有したいだけ。
手に入れたあとのことなんてどうでも良い。
きっとこの手帳も、そのうち部屋のデコレーションの仲間入りをすることだろう。
雑多なものたちに囲まれる日々が来るのだろう。
だから、それ故に恐いのだ。
他の人に私よりも上手に使われるのが。
全部、私の妄想の産物なのだけれど。
でも、やっぱり恐いものは恐いから。
私は友達を手に入れた。
でも、嘘をついて自分を隠して接している自分はきっと友達失格だ。
手に入れて、もう絶対に手放したくない筈なのに。
私は私が解らない。
厭だ。

全てのものを手に入れる、ということは不可能なんじゃないか。そう思ったこともある。
私のこの細い腕で持てるものの量はたかが知れている。
持ち切れなくなって、立ち止まって。
その時、私は如何すれば良いんだろうか?
勿論、それは両手に抱えられる程、ものを手に入れられるようになった時の話なのだけれど。

中学一年が終わる頃には、それでも私は平穏を手に入れていた。
周りには気を許せる人たちがいて、みんな笑っていて。
この平穏は誰にも奪わせない、そう思った。
二年生に上がって少しした頃、私のクラスに転校生がやってきた。
肩で切り揃えた黒い髪。墨を垂らした様な漆黒の瞳。
彼女の名前はカミシロ アンといった。漢字は一度見ただけなので忘れてしまった。
転校生が来たくらいから、上城光という少女への周囲の目が変わり出した。
前々から気づいてはいたが、私の推測は確信に変わった。きっと上城さんは嫌われている。
一年生の時から上城さんとは同じクラスだけれど、色々と悪い噂を耳にした。
理由は解らない。ただ、みんなして競い合うように嫌っていたのは事実だった。
そして、例の転校生は、その上城さんと仲良くしているものだから、これまた奇妙な目で見られていた。
まあでも、私には関係のないことだ。
私の平穏の中には、上城さんも転校生も入っていないのだから。
そんなことを初めの内は考えていた。
でも、気がついたら、私の平穏は崩れ去ろうとしていた。
友達の一人、成本朝美は上城さんと同じ小学校出身らしく、なかなか仲が良かった。最近ではあまり一緒にいるところを見ない。彼女自身一年の途中から元気がなかった。上城さんのいじめだけが原因ではなさそうだけれど。
他にも、岡崎遥は上城さんを目の敵にしているみたいだったし、戸塚亜月はこのところ非常にぴりぴりしている。
白鳥慧子は相変わらずやる気がなく、長谷川琴理は体調が良くないみたいだった。
木下茜は授業中も何処か上の空で気持ちがふわふわしていて、万条千百合は最近ではそうでもないけれど前は他人を見下した様な言動が見られた。
みんな何かを隠している。
私の友達が、一人一人ばらばらになっていきそうで恐かった。
目に見えない誰かが、大切な人たちを奪っていってしまうのではないか、と恐くなったのだ。

ある日の放課後、上城光が一人で教室を出て行ったあと、クラス中が彼女の噂をしていた。
友達はみんな出払っていて、その息もしづらい空間にいたのは私と転校生だけだった。
クラスのみんなの口が開く度に、転校生の顔が険しくなる。
それはそうだ。
大事な親友の悪口をここまで開けっ広げに言われているのだから。
がたっと椅子を鳴らして、彼女は立ち上がった。
鋭い視線でクラス中を眺め回す。それでも、陰口の波は止まない。うねりがひどくなる一方だった。
今にも泣きそうな、それでも震えを押さえて何か言おうと必死になっている転校生を見ていたら、気がつくと私も椅子から立ち上がっていた。

「あんたらね、いい加減にしなさいよ!」

久しぶりに大声を出した。
ぴたりとクラスの騒がしさが止む。
沢山の二対の瞳が、私とついでの様に転校生を睨む。
駄目だ。
ひるんじゃ駄目だ。
恐がったら、私の大事な平穏が奪われてしまう。
上城さんがいくら陰口を叩かれようと、私には知ったことではない。
でも。
でも、誰かを憎み合うクラスなんて私は欲しくないから。
平和な、のんびりとして過ごし易いクラスが欲しいのだ。

「そうやって、群がって陰口言ってさ……少しは上城さんのことも考えなよ!」

白けた空気が教室に充満する。
私の隣では転校生が行き場を失くしておろおろしている。
その時、がらりと教室のドアを開けて白鳥慧子と万条千百合が入ってきた。

「アン!ヒカリを見なかった!?」

慧子が普段ではありえないくらいに急いでいた。額に汗をかいている。
一体何があったんだろうか。

「ヒカリならさっき帰ったけれど……」

「まずいですね……」

千百合も深刻な顔で呟いた。
何かあったのか尋ねてみると、慧子が何か厭な予感がするの、と言った。
厭な予感。
慧子はいつもだらけ切っているが、ごくたまにこうして感が鋭い時がある。まるで全てをお見通しの様な。本当はすごく頭が良いのに、隠しているとか。まあ、彼女に限ってそれはないだろうけれど。
その言葉を聞いた転校生は、教室のドアから勢い良く飛び出していった。
何なのだろう。
私の知らないところで一体、何が起こっている?
情報が欲しい。如何して私は何も知らないの?無知を呪った。
そうこうしている間にも、慧子と千百合も走り出そうとしている。
その時、クラスの誰かが言った。

「あんなやつ、放っとけば良いのに」

ぎりぎりまで水が注がれたコップに、一滴の雫が垂れたみたいに、クラス中の口が次々に開く。

「慧子、あんたいっつもやる気なさそうなのに。まさか走ろうっての?」

「万条さん、貴女はお嬢様なんでしょう?走り方なんて知っているの?」

何処かで上がった笑い声が、沢山の集団の笑い声に変わる。
身体が恐怖に竦む。震えが止まらない。
厭だ。
如何しよう。
それでも特にひるむことなく、慧子と千百合は言い返したのだった。

「私だって、やる時はやるんだよ。例えば友達のピンチとかね」

「正しいフォームなんて解りません。でも、わたくしは自分の足で走るつもりです」

そうして、二人は転校生のあとを追った。
どちらもがむしゃらに走っていった。
私は、如何すれば良い?
クラスの輪に入るなら今しかない。
さっきの罵倒をなかったことにして貰えば、私に被害が及ぶことはないだろう。
望むべき平穏が手に入る。
欲しいものが、手に入る。
でも。
でも、私はやっぱり……

「あんたも行くの、桜?」

「結局、北条さんも上城さんの味方なんだ」

クラス中の視線が、私一人に注がれる。
その眼圧は一瞬でひるみそうになるくらいだったけれど、恐さを振り切って叫んだ。

「私は別にそんなんじゃない。みんなみたいな綺麗な理由じゃない……ただ、一度手に入れたものは絶対に手放したくないから……だから、友達を取り返しに行くの。上城さんはそのついでだもの」

きっと、友達を失う方がクラスの視線の何万倍も恐かったから。


廊下には殆ど生徒は残っておらず、走り易かった。
あてどなく駆けていると、慧子と千百合に出逢った。

「屋上!」

慧子が叫んだ。
同時に千百合も、屋上に二人は向かったわ、と叫んだ。
その二人が転校生と上城さんだということは、二人の顔色からすぐに解った。
屋上。
そこで何をしようというのだろう。
すごく不安な未来が一瞬、脳裏を掠めたがなるべく今は考えないようにした。
足を動かすことだけに集中する。
速く、一刻も速く屋上へ!


屋上へ続く階段を、息を切らして三人で上りきって分厚い扉を開く。生温い外の空気が、汗でべとつく頬を撫でる。
開けた視界。
夕日に染まる屋上。
灰色のコンクリートの隙間から生えた雑草。
そして、屋上の中央に立つ転校生と、端に立つ上城光。
上城さんの視線は転校生に注がれていて、私たちが来たことには気づいてすらないみたいだった。
転校生が切実な声色で絶叫する。

「厭だよ、ヒカリ。せっかく友達になれたのに……私、ヒカリがいないと厭!」

その言葉が夕暮れの匂いに染み込んで行く。
私たちから上城さんまでの距離は、直線にして20m。
間に合うか。
慧子がものすごい速さで走り出した。私と千百合も勢いをつけて走り出した。
もう風の音しか聞こえない。
ぐんぐんスピードを上げる身体。軋む膝。痛い。身体が熱い。
それでも、脳に浮かぶことは、ただひとつ。
平穏が欲しい。それだけだ。
如何して私はこんなにも必死なんだろうか。
平穏なんてのんびり何も考えずに生きていれば手に入るものだ、と思っていた。
でも、こうして私は必死になってもがいている。
きっと、生きるということはそういうことなんだ。

もう少しで上城さんのもとへ辿り着く、というところで彼女の足が屋上の縁で滑った。
スローモーションに傾ぐ身体。
まずい。
誰かの叫ぶ声が聞こえた。

「厭っ!!」

それが誰の言葉なのか、確かめる余裕はなかった。
私たち四人は、一斉にみんなで手を伸ばした。

「ヒカリっ!」

すぐ隣で転校生の悲痛な叫びが上がった。
助けたい。
私は強欲だから。
このちっぽけな手で、彼女を助けられるのなら、助けたいのだ。
何も失いたくない。
全てが欲しい。
別に上城さんがどうなろうと知ったことではない、と前まで思っていた。
でも、違うんだ。
同じクラスでもあまり話したことないけれど、でも。
でも、私はあの子の笑顔が欲しい。だから、絶対に奪わせなんかしない。
腕が引きちぎれるくらいに懸命に前へと伸ばした。
上城さんの手から伸びた指まで、あと数cm。その距離がまるで無限の距離に見えた。
その僅かな距離を、私の指は超えられなかった。
もう少しだけ長い指が欲しい。そう思った時には何もかもが手遅れで、上城さんの身体は屋上からただ地面に吸い寄せられるだけのモノだった。
四人の手の包囲網からすり抜ける様に、彼女は落ちていった。
すぐにべしゃっという鈍い音が聞こえ、彼女の身体が地面に叩きつけられた。真っ赤な血を当たりに撒き散らして。
それは上から見ると、本当に紅蓮の花に見えた。夕日の赤にすごく似ていた。
如何して?
私のこの手は何も掴めないの?
気がつくと、ぼろぼろと涙が溢れていた。
慧子と千百合は青ざめた顔で呆然としている。
転校生の瞳も、生気がなく。ただただ眼下の赤い花を見下ろしていた。
厭だ。
こんなにも失うのが辛いことだなんて。
折角手に入れても、こうやってふとした瞬間に失うのだろうか。

例えば、生まれた時から持っている自分だけのこの命。
その命でさえ、決して放さない、絶対に奪わせない、と思ってもいつかは失くす。
それが途轍もなく恐い。
涙を流すと共に、私の身体は北極海に放り出されたモグラみたいに震えていた。
厭だ。
失くしたくない。
誰にも失くして欲しくない。
厭だ。
厭なのに。
胸の奥で、どくんどくんと息づいている心臓。
いつかは動きを止めて、この世界にいたという記憶すらも私たちは失う。
そんな恐怖に、私は耐えられない。
いつか失うのなら、初めから持っていない方が良い。
そうは思っても、もうすでに私たちは抱え持っているのだ。
では如何すれば良い?
この魂をいつまで守り続ければ良い?
守れなかった人たちのことは、如何すれば良いの?
屋上に、四人分の涙が溢れた頃、遠くで救急車のサイレンが聞こえた。

コメント(0)

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

意味不明小説(ショートショート) 更新情報

意味不明小説(ショートショート)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング