意味不明小説(ショートショート)コミュのある祝福

あなたは弾む足取りで大学へ向かっている。
　人生が楽しくて仕方ないというような足取り。
　それもそのはずだ。あなたは実際に「生き返った」のだから。
　

　あなたは３ヶ月前、自殺を試みた。
　さいわいにも発見が早く命は取り留めたが、こん睡状態。
　奇跡的に意識を取りもどしたのが昨日のことだ。
　あなたは自分の行為をベッドの上で深く反省し、これからは一分一秒を大切に生きようと誓った。そして今、生まれ変わったつもりで友人の下へ向かうのだ。謝罪の言葉と再開の喜びを胸に抱えながら。

　
　部室棟の前であなたは一番の親友と待ち合わせている。
　彼はサークルの部長で、悪友で、良き相談相手でもある。
　生還したあなたを涙を流して迎えた彼は、あなたを部室へ招く。
　部室だった部屋は、今はもう何もない寂しい空き教室になっている。
　
　
　驚くあなたに淡々と彼は語りかける。３ヶ月の間に何があったかを。

あなたの衝動的な行為。それを知ったときの衝撃と大騒動。警察の取調べ。遺書を残さなかったあなたの死を巡りマスコミが押しかけたこと、病院での門前払い。半狂乱のあなたの両親が流した誹謗中傷。犯人扱い。サークル仲間の内定が取り消されたこと。あなたのガールフレンドが大学を辞めたこと。心身のバランスを崩した先輩のこと。それぞれの後輩がやめていった時期。蔓延していった無気力、論争、暴力、家庭崩壊。そして備品を全て、昨日捨てたこと。
　
　
　あなたの友人が幸福が世界が世間の疑いと非難の目に晒された結果悲惨に無残に跡形もなく完璧に壊れてしまった話は、延々と続く。　
　

　話が終わると外は夕暮れ。窓からの紅い光に刺されあなたは思い知る。　
　取り返しのつかないことをしてしまったことを。
　自分が幸福をかみしめることはこの先永久に出来ないことを。
　ゼロからではなくあまりに巨大なマイナスの元で自分が生かされたことを。
　涙も流せないあなたを見つめながら友人は部室の真ん中で笑顔を浮かべる。死人を見るような目で追い討ちをかけるのだ。
「今度は俺が死のうかな？もう何にもなくなっちゃったしさ。
　お前、今度はしっかり生きろよ。本当に、おめでとう」