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意味不明小説(ショートショート)コミュのGirls Just Want to Have Fun

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あたしの住む世田谷区には『ひつじや』という帽子屋さんがあって、それは駅から車道を一本隔てた住宅地の只中にポツネンと佇んでいる。

くすんだベージュとペールピンクのカラーリングに洋服のデッサンみたいなラフ画が描かれた、小さな一軒家。

恐らくブランチはないと思う。

あたしが東京に住んで4年くらい。いろんな場所を見てきたけど、『ひつじ』と名のつくお店って、ジンギスカン屋さんとか、クリーニング屋さんとか、もったいぶったジャズ喫茶、それとラブホテルくらいしかなかったから。

終電で帰路に着くと、あたしは決まってそのままの足でお店まで向かう。

季節はいよいよ春の入口で、おまけに辺りはほの白い月明かりに沈む夜。

そんな瞬間に眺める『ひつじや』ほど、いまのあたしに心地よい関係性を感じさせてくれるモノはない。

−−いえ、失くしてしまったの。

シャッターの下りたエントランスでコンビニ袋を片手にあたしは、張り出しのショーウインドを見つめている。

オフホワイトの女優帽、毛足の短いブルーのベレー帽に、本パナマのハットetc.

夏の気配に直接触れてみたいわけではなく、かといって、新しいなにかを期待してるとかそんなのでもない。

それはもうただまんじりと、もしくは思いわずらうかのように、ひとりきり。

あたしはまだ一度だってこのお店に足を踏み入れたことがない。

でも、真実をいえば、それでいいんだって思えるもの。

もう2年も前になるのに色褪せない、同僚の恵美(源氏名はサユリ)の言葉。

突然いなくなってしまったから、しばらくしてあたし、恵美の本当のこと知ったんだよ。

「サキはなんでこんな仕事続けてるの? あ〜うん、待って待って、なにもいわなくてもいいから。平気。私たちもう24歳だしね、わかってる。

でも、これだけはいわせてくれない? 私ね、やっとわかったんだから、人生を楽しむための方法が。

いい?――ず〜っと思いを寄せて育んできた大切なモノは最期の最後に叶えるべし! 希望の箱に手をつけるときは、必ず同じ重さの別の箱を用意して、もしくは頼りになる誰かに連れ添ってもらうこと――それだけ。

ね、簡単でしょ? たったこれっぽっちのことなのにね。

だからさ、それがまだ遠い未来の話だとしてもね、私たちって、きっともっとずっといまを楽しんでいていいはずなんだよね。でないとさ……」

−−うん、でないと、淋し過ぎるよ。(了)

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