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意味不明小説(ショートショート)コミュの吊革にぶらさがって

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「朝さぁ、通勤の満員電車の中でさぁ、やることがないから、吊革にぶらさがって、ぼんやりと窓の外を見ていると、時々変なもの見たりしないか?」
「変なものって、なんだよ」
「例えば、○◇%と#△?やの間のトンネルを出たすぐのところの、コンクリートで固められた断崖絶壁のところに、じいさんがへばりついていたり」
「見ねぇよ」
「いや、絶対、見るって。しかも、毎朝、同じじいさんなんだよ、これが。同じらくだのシャツと股引をはいてさぁ」
「だから、見ねぇよ、んなもん」
「いや、見るって、絶対。それにな、×▽@き駅の近くの線路際に工場の跡地かなんだかしらねぇけど、大きな空き地があるじゃん、草ボウボウの」
「ああ」
「あそこをやっぱり、ぼんやり見るともなく、見ていると、なんだか、一つだけポツンと机があって、そこに腰掛けて、必死にデスクワークをしている奴がいるんだよ」
「いねぇよ、そんなやつ」
「いや、いるって、絶対。そいつをやっぱりボケェ〜と見ていると、その男が一瞬、周囲の景色の異変に気付いたみたいで、『はっ』として辺りを見回して、『あっ』と驚くんだよ。そうすると、次の瞬間にはその男も、机も、一瞬にして消えちゃうんだ」
「消えねぇよ。だいたいそもそもそんな机も、男もいねぇよ」
「いや、いるって、絶対に。それからな、この前、電車が停止信号で安全を確認しているとかで停まったんだけど、たまたま停まった場所から、ぬいぐるみがいっぱいの窓が見えたんだよ。その中のパンダとクマのぬいぐるみがさぁ、なにやらいがみ合っていて、そのうち取っ組み合いをはじめたんだ」
「おまえなぁ、どういう意味があって、そんなわけのわからない嘘ばっかりつくんだ、さっきから。そんなしょうもないことばかり言ってると、そのうち、誰からも相手にされなくなるぞ」
と一人の男がそう言うと伝票を取って立ち上がった。
「いや、嘘じゃないって、本当なんだよ」
そう言ってもう一人の男も立ち上がった。
「そんな話、誰が信じるよ」
「いや、だけど見たもんは見たんだよ。しょうがないだろ」
なんぞと言い合いながら、私の隣のテーブルに着いていた二人は勘定を済ませて、店を出て行ってしまった。出来ることなら、私は彼らの話をもう少し詳しく聞きたかった。私は彼が嘘をついていないのを知っている。彼が話したうちの一つに思い当る節があるからだ。私は冷めてしまったコーヒーをそのままにして伝票を持ってレジへ向った。

家に着くと、私はこっそりと玄関の鍵を開けた。そして足音を忍ばせて、ゆっくり家の中に入った。抜き足差し足で、自分の部屋の前まで行くと、やはりなにやら、言い争っている声が聞こえる。前々から怪しいと思っていたのだ。しかし今日こそ、彼の話のお陰で、確信した。私はこっそりとドアを開けて、隙間から中の様子を伺った。ああ、やってる、やってる。やはり、パンダとクマだ。言い争いはエキサイトし、やがて取っ組み合いが始まった。そしてパンダがクマを後ろから抱きかかえて、ジャーマン・スープレックス・ホールドに持ち込もうとした瞬間に、私は勢いよくドアを開けた。
「おい、てめぇら!」
一瞬、「げっ、ついにばれた!」という表情をして、奴らは固まった。ばれたからと言って、開き直って、「いや、前々から、私たちは動いていましたよ〜ん!別に隠していたわけじゃありませんよ〜ん!」と何ごともなかったかのように、誤魔化すわけにもいかないと言った風情だ。
「てめぇら、いい加減にしろよ!他人様から見られているんだぞ、こらっ!だいたい、電車が家の前で停まっているかどうかくらいチェックしろよ!」
しかし、魑魅魍魎・狐狸狢・妖怪変化の類だけあって、しらばっくれて、ジャーマン・スープレックス・ホールドの体勢のまま、固まっている。そうやってしらばっくれてやり過ごそうという魂胆だ。
「まぁ、いい、そうやってしらばっくれるんなら、袋に入れて、明日のごみの日に出してやるだけだ」
やつらのこめかみの辺りから、「たら〜」とに冷や汗が一筋流れ落ちた。わたしは階下に降りていき、ゴミ袋を持って部屋に戻った。しかし、とき既に遅し、奴らの姿はなかった。窓が少し開いて、隙間風がレースのカーテンを揺らしているだけだった。
「畜生っ!逃げやがったか!」
そうは言っては見たが、そのまま袋詰にして、ゴミに出して、焼却炉で焼かれては、祟られるということもあるかもしれないし、まぁ、体の良い厄介払いが出来たということで良しとするか。
しかし、やつら二匹のことは兎も角として、私は、彼ら二人の会話の中に出てきた、断崖絶壁にへばりつくじじいや、草原に一人デスクワークに励むサラリーマンに、酷く興味をそそられた。何しろ、化け熊と化けパンダのことは事実だったのだから、他の二つの話も本当のことであろうとするのがごく自然な推理と言うものだろう。
私はその二つの怪異を見てみたいと思った。しかし、残念なことに、それがどの駅とどの駅の間の断崖絶壁なのか、どの駅の近くの空き地なのか、はっきりと聞き取れなかった。ただ一つ分かっているのは、私の家の前を通っているものと同じ路線上での出来事らしいと言うことだけだ。

そして、それらの怪異に出会うこともないまま、私は間もなく大学を卒業して、OLとなった。下宿はそのままにして、そこから東京の勤務先に通うことにした。多くの女たちと同じように宿命的な低血圧を背負い、朝は全世界を呪いながら、私は満員電車に乗り込み、吊革にぶらさがって、東京へ向う。そんな、いつ果てるとも知れないルーティンにも少しは慣れた頃だ。
私はいつものように吊革にぶらさがって満員電車に揺られ、いつもの寝ぼけ眼で、ぼ〜っと、外を見ていた。トンネルに入ると同時に窓ガラスに映った、自分の腫れぼったい顔―何の感慨も抱くことができない顔が、さっと消えたかと思うと、光が差してきて、断崖絶壁が見えた。そしてその断崖には何者かが、背中を丸めるようにして必死にへばりついている。しかもキャメルのシャツと股引姿だ!
「あっ!ついに発見!」と思うが早いか、脇侍のようにそのじいさんの左右に、むくむくとした何かがやはり背中を丸めて必死で断崖にへばりついているっ!しかも、茶色と白黒だ!
「あっ、あいつらぁ〜っ!」

コメント(8)

「私」は女性だったんですね・・・。
面白いです。
僕はぱらだいすさんのコミカルな作品が大好きです。
お二人さま
コメントありあとうさんでございやす。
これはねぇ、ひさしぶりのっ作品だったんでございますよ。
でも、長らくコメントゼロだったんでやんすよ。
あたしゃぁもう、悲しくて悲しくて。
でもお二人のコメントでとっても救われたんでございやす。

大将さん、いつもいつもコメントありがとうございます。
いやぁ、大阪在住でなければ、今度のみに行きたいところですなぁ。

茶々さん、はじめまして。
これからも頑張ってまいりますので、どうぞ語彙息に。
shuさん
コメントありがとうございます。
そうですか、いやがりましたか、やつら。
優先席に座るたぁ、ふてぇやろうどもだ。

さて、shuさん。
オフ会やろうとか、なんとか書いてありましたな、索引のところで。
shuさんとは一回、飲み損ねておりますから、やりますか!オフ会!
そうですか、それでは、オフ会やりま〜す。

場所は横浜か、東京都内のどっか。
日にち、未定。

その他にやりたい人、手を挙げてぇ〜。
これ密かに好きで、もう1回読み返してみました。
化け熊に化けパンダ
意地でも口では喋らないところがいいですね☆

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