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意味不明小説(ショートショート)コミュの炎

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私が自分の体の体質に気がついたのは、保育園に入ってすぐのことだった。
秋に保育園の庭で焼きいも大会が催された時、私は友達のユリちゃんとスミレちゃんと一緒に、いもの焼かれている焚き火を身に近くまで行った。
然し、私たちが焚き火に近寄ると、焚き火の炎は瞬く間に消えてしまって、白い煙となった。
先生が何度も火をつけ直したけれど、その度に炎は消えてしまった。


家に帰ってお母さんのお手伝いで夕飯の支度をしていた時のこと。
ガスコンロの火を見ていて頂戴、とお母さんに言われ、私はじいっとガスコンロの青白いちろちろした火を見つめた。
すると火はすぐに消えてしまった。
お母さんにそのことを言うと、変ねえ、壊れてしまったのかしら、と首を傾げていた。


私の5歳の誕生日の時のこと。
私はバースディケーキに刺さった蝋燭の火を消そうと息を吸い込んだ。
まだ息を吐き出してもいないのに、蝋燭の火はあっさりと消えた。
お父さんもお母さんも不思議な顔をしていた。
私は少し残念な気持ちになった。


私の生まれ持った体質とは、“見るだけで炎を消せる”といったものだった。
これは私の意志には無関係だ。
だからちらりとでも炎を見れば、その炎はたちまち消えてしまうのであった。
日常生活で困ることはなかった。
私は普通の女の子と何一つ変わりなく育った。


ある日、小学校からの帰り道、消防車のサイレンが聞こえた。
見ると、すぐ横の通りの方から黒々とした煙が上がっている。
私は興味本位でその火事の現場まで行ってみることにした。
現場は騒然としていた。
その場所は先週から舗装工事をしている裏通りで、消防車がなかなか到着できないのだそうだ。
私は煙のもくもく立ち上る家を見た。
轟々と燃え盛る紅蓮の炎があった。
そして、例の如く炎の威力はすぐさま衰え、消防車が到着する前には完全に鎮火してしまった。
周りを囲んでいた人々は、何が起きたのか解らないといった感じでポカンとしていた。
そこがまた私にはおかしく感じられて、にこにこ笑顔で家まで帰った。
なんだか正体を明かさずに悪と戦う正義のヒーローにでもなったような気分だった。


それから数年、私は火事が起こるとその現場まで自転車で駆けつけ、消防車が来る前に鎮火するという正義のヒーローよろしく、一種のボランティアのようなものをしてきた。
自転車で行けないような遠い場所は、テレビのニュース番組などを見て炎を消した。
私の能力は直接見なくても大丈夫なのだった。

そんなある日、学校の理科の授業で太陽を観察する実習があった。
遮光板というものを使って太陽を見れば目には悪くないらしい。

友達が先生にふと尋ねた。

「先生、どうして太陽は光っているの?」

「あれはね、太陽が燃えているからなのよ。炎を出して燃えているの」

「ふーん。じゃあ、もし太陽が燃えなくなったら?どうなっちゃうの?」

「うーん、もしそうなったら大変よ。みんなも先生も死んじゃうもの」

「うわあ、恐いっ!」

私は手に持っていた遮光版を落としてしまった。
私の網膜には燃え滾る太陽が映し出されていた。
轟々と燃える炎。
胸が絶望に満たされる。

私はもう見ることもないだろう炎をじっと見て、涙を流しながら呟いた。

「ごめんなさい」

コメント(6)

>ミコトさん
そう言って貰えて嬉しい限りです♪
太陽からの光は数分後に地球に到達するらしいので、それまでの間ならちょっとは大丈夫です。

>かーささん
今まで主人公の子が太陽を見なかったのが不思議なくらいですけど(汗
本人も謝ってますし、許してあげてください。
もうどうにでもしてしまえ。

そんな風にふと、心に黒いのが差すのは大抵こんな一瞬ですね。


直接じゃなくて、反転した太陽を見てしまったから、もう……って思ってしまったんでしょうね。
どきどきしました
もしかしたら、世界はこんなふうに終わるのかもしれませんね
>あろさん
取り替えしのつかないことってたまにありますよね。
流し台に湯切り中の麺をぶちまけたりとか。

>あささん
最近身の回りですぐ火が消える、などの現象が起きていたら危険なサイン。
どこかに潜んでいるやも知れませんょ。

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