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意味不明小説(ショートショート)コミュの赤と白

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朝、目が醒めて驚いた。昨日わたしは確かに机の上に芥川龍之介の「歯車」と云う小説を置いた筈だったのだが、本どころか机すら部屋には無かったのだから。それでも、朝起きたわたしは確かにわたしの筈で、現実に机と本が無いのは本当なので、夢でも見ていたのかしら、と思って欠伸を一つしながらベットを降りた。

眼鏡はいつも本棚の上においてあるのだけれど、今日はコンポの上にあった。昨日は何をしたのだろう。上手く思い出せない。ああ、こうして今しか考えられなくなるのだな、と思って一つ長い背伸びをした時分に妻が部屋に入ってきた。

わたしには、その女性が一晩で十年くらい年を経てしまったかのように感ぜられた。朝の、挨拶を交わす。いつから妻と別々の部屋で寝るようになったのだろう。というか、いつ、結婚したのだろう。「御腹が空いた」妻の言葉が、日常を引き寄せ、わたしは料理をするべく下の階へ降りていく。

彼女の朝食はいつも決まっている。ベーコン二枚と卵一個のベーコン・エッグ、ダブルソフトのトースト一枚、そして実家の静岡から送られてくる、緑茶。わたしはトースターにパンを差し込み、ベーコンと卵をオリーヴオイルを撒いたフライパンの上に乗せ、珈琲を一口飲む。起き抜けの渇いた口の中に、苦味と酸味が広がる。安物の、インスタント珈琲。

彼女はそそくさと朝食をとり、化粧を顔面に施して「いってきます」と八時半ごろに家を出て行った。わたしは、もう一杯、珈琲を飲んだ。九時十分前、父が家に来る。私の家の病院は九時から診療を始めるので、いつもこれ位の時間に彼は階段を上ってくるのだ。

九時を知らせる時計の音楽が鳴り響き、父は死んでいた。祖父も、祖母も、妹も、母も、義母も、義弟も、叔母も、叔父も、従兄弟も、みんな。

ぎらりと光る物を拾った頃、妻が帰ってきた。わたしは、真っ白なはずの真っ赤になったわたしの家の壁紙をわたしの右手でこすりこすり「鈴木、みんな死んでしまったよ」と笑っているのか泣いているのか死んでいるのか生きているのかよくわからない顔を左手で刺した。


携帯電話が鳴って、無意識のうちに指探りで通話ボタンを押す。

「鈴木です。朝ですよ。」

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