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コメント(104)
なんだろう、そろそろ義時の最後を占う専用のトピックがあってもいいかなと。
番組ラストまで秒読みですからね。
�，里�毒殺説。
��泰時説。
��政子説。
�せ葦叉疎疾癲�
�ツ降靴泙気濱癲�
�Ω綰魏亘々勅�殺説。
�А帖帖�
自分的には、実衣も怪しい。
実朝暗殺のことで義時に不信感を抱き、それで恨みを持ち始めると言うことも十分ありうる。
ずっと赤い衣を身にまとい死の影をちらつかせてきたということがヒントになってます。
あの三谷幸喜さんが、のえ毒殺という、誰もが考え付きそうなラストにするとは思えない。
きっと、あっと言わせるようなラストなんだと思いたい。
その、あっと言わせるような場面を皆で想像するというのも面白いと思います。
番組ラストまで秒読みですからね。
�，里�毒殺説。
��泰時説。
��政子説。
�せ葦叉疎疾癲�
�ツ降靴泙気濱癲�
�Ω綰魏亘々勅�殺説。
�А帖帖�
自分的には、実衣も怪しい。
実朝暗殺のことで義時に不信感を抱き、それで恨みを持ち始めると言うことも十分ありうる。
ずっと赤い衣を身にまとい死の影をちらつかせてきたということがヒントになってます。
あの三谷幸喜さんが、のえ毒殺という、誰もが考え付きそうなラストにするとは思えない。
きっと、あっと言わせるようなラストなんだと思いたい。
その、あっと言わせるような場面を皆で想像するというのも面白いと思います。
義時が殺そうとしていた「退位した天皇」とは、九条廃帝のことです。順徳天皇が挙兵のため退位し、その子九条廃帝が３歳で即位しました。在位78日（歴代最短記録）で廃され、即位式も大嘗祭も行われなかったため諡号もなく、明治になって「仲恭天皇」と諡号されました。幼いため父・祖父の陰謀に加担したとは思えず、三寅（後の九条頼経）の従兄弟であることから廃位は予想外だったようです。母親の実家九条家に引き取られ、15歳で崩御しました。
その父順徳上皇は番組に登場しませんが、祖母が平氏のせいか父後鳥羽上皇以上に反幕府意識が強く、佐渡に流されました。四条天皇の崩御後、自分の子忠成王の即位が内定しましたが、順徳の復権を警戒した執権北条泰時の強い圧力により、後嵯峨天皇が即位します。順徳の子孫でその後皇位に就いた者はいないし、帰京の望みを絶たれた彼は絶食して死んだと伝えられます。
土御門上皇は温和な性格のため父後鳥羽上皇に疎まれ、父の意向で天皇を退位させられ弟順徳に譲位しました。討幕計画には加担せず、処罰されませんでしたが、父が流刑にされたため自ら望んで土佐へ配流されました。
四条天皇の崩御後、自分の子後嵯峨天皇が即位したのは、幕府による順徳系排除の強い意向を示すものでした。土御門系と順徳系はその後も皇位を巡って争いますが、その後の皇位は土御門上皇の子孫に引き継がれます。なお、乱の首謀者である後鳥羽上皇がその後名誉回復されるのは、土御門系と順徳系の争いの中での政治工作でした。
その父順徳上皇は番組に登場しませんが、祖母が平氏のせいか父後鳥羽上皇以上に反幕府意識が強く、佐渡に流されました。四条天皇の崩御後、自分の子忠成王の即位が内定しましたが、順徳の復権を警戒した執権北条泰時の強い圧力により、後嵯峨天皇が即位します。順徳の子孫でその後皇位に就いた者はいないし、帰京の望みを絶たれた彼は絶食して死んだと伝えられます。
土御門上皇は温和な性格のため父後鳥羽上皇に疎まれ、父の意向で天皇を退位させられ弟順徳に譲位しました。討幕計画には加担せず、処罰されませんでしたが、父が流刑にされたため自ら望んで土佐へ配流されました。
四条天皇の崩御後、自分の子後嵯峨天皇が即位したのは、幕府による順徳系排除の強い意向を示すものでした。土御門系と順徳系はその後も皇位を巡って争いますが、その後の皇位は土御門上皇の子孫に引き継がれます。なお、乱の首謀者である後鳥羽上皇がその後名誉回復されるのは、土御門系と順徳系の争いの中での政治工作でした。
◆ 天皇を廃位にし、600年間残る法律を作った…NHK大河ではカットされた三浦義村の史実に残るすごい活躍
https://president.jp/articles/-/64845
> ドラマの中で義時に毒を盛った3番目の妻ののえ＝伊賀の方は、史実では義時の死後すぐに兄の伊賀光宗とともに、義時との子である政村を執権に、娘婿の一条実雅を将軍にしようとします。
尼将軍の政子はヤバいと見て、義時の弔事のために京都から戻ってきたばかりの泰時を、すぐさま執権の座に就かせます。そして、義村の邸宅を直接訪ねて、「あたしはね、あんたたちとは争いたくないのよ」と、義村が政村じゃなくて泰時のバックにつくという確約をもらいます。
結局、伊賀の方と光宗は流刑に処されましたが、義村は新執権の泰時のところにも出向いて釈明したので、大事にはいたりませんでした。政村もたいした罪には問われずに、その後7代目の執権になっています。
1221年6月、幕府軍は京都を占領します。と同時に、義時から宮中守護を命じられたのが、他ならぬ義村でした。占領軍の司令官みたいなものでしょうか。さらに息子の泰村が、京都の武力を仕切るポジションである御厩みやまの実務担当を受け持ちます。
仲恭ちゅうきょう天皇の廃位、後鳥羽・順徳・土御門3上皇の流刑が決まる。それと同時に、後鳥羽上皇の直系ではない後堀河天皇が即位してその父・守貞親王が院政を行う新体制ができあがったのですが、こういう戦後処理をグイグイ進めた中心人物が、他ならぬ義村だったんです。
戦に勝ったとはいえ、次の天皇を誰にするかというところにまで手を突っ込んだ。同じ占領軍でも、GHQのマッカーサーだって天皇をかえることまではしていません。武士が朝廷にとってただのSPだった頃とは、本当に時代が変わったんですね。
https://president.jp/articles/-/64845
> ドラマの中で義時に毒を盛った3番目の妻ののえ＝伊賀の方は、史実では義時の死後すぐに兄の伊賀光宗とともに、義時との子である政村を執権に、娘婿の一条実雅を将軍にしようとします。
尼将軍の政子はヤバいと見て、義時の弔事のために京都から戻ってきたばかりの泰時を、すぐさま執権の座に就かせます。そして、義村の邸宅を直接訪ねて、「あたしはね、あんたたちとは争いたくないのよ」と、義村が政村じゃなくて泰時のバックにつくという確約をもらいます。
結局、伊賀の方と光宗は流刑に処されましたが、義村は新執権の泰時のところにも出向いて釈明したので、大事にはいたりませんでした。政村もたいした罪には問われずに、その後7代目の執権になっています。
1221年6月、幕府軍は京都を占領します。と同時に、義時から宮中守護を命じられたのが、他ならぬ義村でした。占領軍の司令官みたいなものでしょうか。さらに息子の泰村が、京都の武力を仕切るポジションである御厩みやまの実務担当を受け持ちます。
仲恭ちゅうきょう天皇の廃位、後鳥羽・順徳・土御門3上皇の流刑が決まる。それと同時に、後鳥羽上皇の直系ではない後堀河天皇が即位してその父・守貞親王が院政を行う新体制ができあがったのですが、こういう戦後処理をグイグイ進めた中心人物が、他ならぬ義村だったんです。
戦に勝ったとはいえ、次の天皇を誰にするかというところにまで手を突っ込んだ。同じ占領軍でも、GHQのマッカーサーだって天皇をかえることまではしていません。武士が朝廷にとってただのSPだった頃とは、本当に時代が変わったんですね。
なぜ義時は女子はきのこが好きと信じているのか、についてです。
ドラマでは、北条義時(小栗旬)が八重(新垣結衣)やのえ(菊地凛子)などにことあるごとにキノコを贈っては失敗しています。それどころか息子の泰時 (坂口 健太郎) にまでそうするように勧めて妻の初に突き返されるという始末です。
鎌倉では女性から嫌われていたキノコですが、都では朝廷を中心にキノコを食する食習慣が定着していました。朝廷ではキノコ狩りが大人気だったのです。和歌にも詠まれるくらいでした。平成時代になると、松茸・シメジ・ヒラタケなどの名前が一般的になっています。
『今昔物語』には、こんな話が載っています。強欲さで知られる信濃国司の藤原 陳忠（ふじわら の のぶただ）が信濃の国司の任期を終えて、京に返る途中、御坂（信濃と美濃の国境）の峠を多くの人馬が越えていいました。その中の信濃守の乗った馬が、懸橋（崖に横から板を張り出して作った道）を渡る時に後ろ足を踏み外して、逆さまに下へ落ちてしまいました。底知れぬ深さなので、 信濃守は生きているわけがありません。下には、桧や杉の大木の梢がはるか底の方に見えるくらいでした。だから、多くの家来達は馬から降りて、懸橋の端に並んで、底を見おろしてはみたものの、どうしようもなかったのです。
「下りられる所から下りて、殿の様子をみよう。」
「今日１日かけて、浅い方からまわって探そう。」
「今すぐには底へ下りる方法は無いが、どうしようか。」
などと、口々に騒いでいました。
すると、遥か底から叫ぶ声がかすかに聞こえてきました。遠くの方から言うには、「篭に縄を長くつけて下ろせ。」
殿は生きているとわかったので、長い縄を篭につけて、そろそろと下ろしました。篭が下へ着いたところで、「さあ、引き上げろ。」という声がします。
「それっ。」と引いたら、ごく軽いではないですか。
「殿が乗っているなら重いはずだが…。」
「木の枝につかまりながら上がられているから軽いんでしょう。」と言いながら篭を引き上げました。
見ると篭の中にはヒラタケがいっぱい入っていました。予想していなかったので、「何だ、これは。」と驚いていると、下の方から「また下ろせ。」と叫ぶ声がしました。再び篭を下ろして引くと、今度は極めて重いのです。大勢で引き上げてみると、信濃守は片手に縄をつかみ、もう片方の手でヒラタケを三株抱えていました。
家来達は喜び合って、「このヒラタケは、どうしたのですか。」と尋ねたら、信濃守は、「落ちた時、大きな木に引っかかった。その木にはヒラタケがたくさん生えていた。見捨てるのももったいない。手が届くだけ採って、篭に入れて上げてもらったんだが、まだかなり残っていたなぁ。もったいないことをしてしまった。損したなぁ。」と言いました。家来達は、「それは損でございました。」と皆で笑いました。
信濃守は、「おまえ達、間違ってはいけない。私は、宝の山に入って、手ぶらで帰ってきた気持ちがする。『受領（国司）は倒れる所の土をもつかめ。』と言うではないか」と言いました。
この頃、都でもキノコが重宝されていたことがよくわかります。
京都の造営が進むと周囲の山々の林は伐採され、禿山にはアカマツが自生するようになりました。ここに松茸が生えるようになったのです。これに目をつけた貴族たちは女性を伴って山に入るようになりました。キノコ狩りは貴族たちの間で大変な人気となりました。気苦労の多い宮仕えの貴族や女官たちには気晴らしでもあったのです。鎌倉武士たちも数年に一度、大番役として京に滞在していたので、これを耳にしていたはずです。
義時も父の時政(坂東彌十郎)から京の土産話としてこのことを聞き、女官の気苦労もしらず、単純におなごはキノコ好きだと思い込んだのかもしれませんね。
キノコで失敗した人物に木曽義仲(青木崇高)がいます。都に入った義仲は後白河法皇(西田敏行)の使者である藤原光隆にヒラタケの熱汁を勧めましたが、光隆はこれを田舎臭い料理と思ったのか、食べるふりだけで手を付けなかったそうです。現在の懐石料理でもそうですが、京都では料理には見た目も重要視されます。そんなことを知らぬ義仲は信濃で豊富に採れるヒラタケをあまり見栄えのよくない田舎料理を振る舞ったのでしょう。キノコを愛する都の食文化と、キノコをたんなる食材の一つとする東国とのギャップがもろに出てしまったということです。
ドラマに添ったのえとキノコのくだりについての解説・分析はコチラ ↓
https://www.lmaga.jp/news/2022/09/511966/
ドラマでは、北条義時(小栗旬)が八重(新垣結衣)やのえ(菊地凛子)などにことあるごとにキノコを贈っては失敗しています。それどころか息子の泰時 (坂口 健太郎) にまでそうするように勧めて妻の初に突き返されるという始末です。
鎌倉では女性から嫌われていたキノコですが、都では朝廷を中心にキノコを食する食習慣が定着していました。朝廷ではキノコ狩りが大人気だったのです。和歌にも詠まれるくらいでした。平成時代になると、松茸・シメジ・ヒラタケなどの名前が一般的になっています。
『今昔物語』には、こんな話が載っています。強欲さで知られる信濃国司の藤原 陳忠（ふじわら の のぶただ）が信濃の国司の任期を終えて、京に返る途中、御坂（信濃と美濃の国境）の峠を多くの人馬が越えていいました。その中の信濃守の乗った馬が、懸橋（崖に横から板を張り出して作った道）を渡る時に後ろ足を踏み外して、逆さまに下へ落ちてしまいました。底知れぬ深さなので、 信濃守は生きているわけがありません。下には、桧や杉の大木の梢がはるか底の方に見えるくらいでした。だから、多くの家来達は馬から降りて、懸橋の端に並んで、底を見おろしてはみたものの、どうしようもなかったのです。
「下りられる所から下りて、殿の様子をみよう。」
「今日１日かけて、浅い方からまわって探そう。」
「今すぐには底へ下りる方法は無いが、どうしようか。」
などと、口々に騒いでいました。
すると、遥か底から叫ぶ声がかすかに聞こえてきました。遠くの方から言うには、「篭に縄を長くつけて下ろせ。」
殿は生きているとわかったので、長い縄を篭につけて、そろそろと下ろしました。篭が下へ着いたところで、「さあ、引き上げろ。」という声がします。
「それっ。」と引いたら、ごく軽いではないですか。
「殿が乗っているなら重いはずだが…。」
「木の枝につかまりながら上がられているから軽いんでしょう。」と言いながら篭を引き上げました。
見ると篭の中にはヒラタケがいっぱい入っていました。予想していなかったので、「何だ、これは。」と驚いていると、下の方から「また下ろせ。」と叫ぶ声がしました。再び篭を下ろして引くと、今度は極めて重いのです。大勢で引き上げてみると、信濃守は片手に縄をつかみ、もう片方の手でヒラタケを三株抱えていました。
家来達は喜び合って、「このヒラタケは、どうしたのですか。」と尋ねたら、信濃守は、「落ちた時、大きな木に引っかかった。その木にはヒラタケがたくさん生えていた。見捨てるのももったいない。手が届くだけ採って、篭に入れて上げてもらったんだが、まだかなり残っていたなぁ。もったいないことをしてしまった。損したなぁ。」と言いました。家来達は、「それは損でございました。」と皆で笑いました。
信濃守は、「おまえ達、間違ってはいけない。私は、宝の山に入って、手ぶらで帰ってきた気持ちがする。『受領（国司）は倒れる所の土をもつかめ。』と言うではないか」と言いました。
この頃、都でもキノコが重宝されていたことがよくわかります。
京都の造営が進むと周囲の山々の林は伐採され、禿山にはアカマツが自生するようになりました。ここに松茸が生えるようになったのです。これに目をつけた貴族たちは女性を伴って山に入るようになりました。キノコ狩りは貴族たちの間で大変な人気となりました。気苦労の多い宮仕えの貴族や女官たちには気晴らしでもあったのです。鎌倉武士たちも数年に一度、大番役として京に滞在していたので、これを耳にしていたはずです。
義時も父の時政(坂東彌十郎)から京の土産話としてこのことを聞き、女官の気苦労もしらず、単純におなごはキノコ好きだと思い込んだのかもしれませんね。
キノコで失敗した人物に木曽義仲(青木崇高)がいます。都に入った義仲は後白河法皇(西田敏行)の使者である藤原光隆にヒラタケの熱汁を勧めましたが、光隆はこれを田舎臭い料理と思ったのか、食べるふりだけで手を付けなかったそうです。現在の懐石料理でもそうですが、京都では料理には見た目も重要視されます。そんなことを知らぬ義仲は信濃で豊富に採れるヒラタケをあまり見栄えのよくない田舎料理を振る舞ったのでしょう。キノコを愛する都の食文化と、キノコをたんなる食材の一つとする東国とのギャップがもろに出てしまったということです。
ドラマに添ったのえとキノコのくだりについての解説・分析はコチラ ↓
https://www.lmaga.jp/news/2022/09/511966/
今日は特定の回ではなく、吾妻四郎助光（あがつましろうすけみつ)という人物について。ちょっと実在性も乏しいのですが。
吾妻四郎助光は、『吾妻鏡』に弓の名手として登場する人物です。
1204年（元久元年）正月の御弓始めには、和田胤長・榛谷重朝・諏方盛澄・海野幸氏・望月重隆とともに射手に選ばれています。
『吾妻鏡』によると…。1207年（建永２年）８月15日の鶴岡八幡宮の放生会(ほうじょうえ)でのこと。警護を命じられていた吾妻助光ら数名の者が任務を怠る(ドタキャン)という事態が発生。急遽代わりの者が手配されましたが、将軍源実朝の出発は大幅に遅れ、舞楽の奉納が夜になってしまい、実朝は眠くなったのか、最後まで観覧することなく還御したのだということです。
８月17日、この事件を重くみた北条義時・北条時房・大江広元・三善善信・二階堂行光は、任務を怠った者を詰問。
厳しく問いただされた者たちは、
「身内に不幸があって喪に服していた」とか「病気で体調を崩していた」という返答をしたのだというのですが…。吾妻助光だけは理由を述べることができないでいました。二階堂行光が
「武勇をかわれて採用されたにも拘わらず、その任務を怠るとは何事か」
すると、助光は、
「晴れの儀式に鎧を用意しておりましたが、ネズミにかじられ破損してしまったので…」
と弁明。急病とでも言えば良かったのに…。
行光は、
「鎧を新調したのか？」
警護の者がおしゃれをするものではありません。
「何故、先祖伝来の鎧を使用せず、新調の鎧を使おうとするのだ?」
と叱りつけたのだそうです。頼朝以来の倹約の気風にも反する行為でした。
そして、助光は出仕を止められることに。
それから３か月が過ぎた12月３日、ちらちら雪の舞い落ちるなか、御所では酒宴の席が設けられ、北条義時と大江広元が参加。
そこへ一羽のアオサギがやってきて寝殿の上に留まりました。
不快(鳥は神からの使い=死・不吉なもの)に感じた実朝は、射落とすように命じましたが、あいにくそれだけの腕を持った者がいませんでした。
すると、義時が 「吾妻助光を呼び出しましょうか」 と申し上げると、実朝が承諾。
慌ててやってきた助光は、衣服を逆さまに着ていたようでしたが、狙いを定めて矢を放ちました。
一瞬、外したようにも見えましたが、左の眼から血を出したサギが庭先に落ちてきました。助光の放った矢は、鷹の羽を使用したとても強いもので、その矢羽根をサギの眼にかすらせて生け捕りにしたのだということです。
この妙技に感心した実朝は、出仕を許し、剣を与えたのだとか。
吾妻氏は鎌倉時代から南北朝時代にかけて、上野国吾妻郡（群馬県の北西部の吾妻川流域）東部を支配したと伝わる氏族です。ただし史料など具体的な根拠に欠き、伝承や伝説に頼らない確実なことはほとんど何も判っていません。確実にいえることは、「吾妻四郎助光」が『吾妻鏡』に4度登場し、将軍源実朝に仕える弓の名手であったということだけです。『吾妻鏡』では、「吾妻四郎助光」は鎌倉在住の御家人としてのみ登場し、領地が吾妻郡であったかどうかについても全く言及はなく、またその系譜や末路、後裔についても一切触れられていません。
別の伝承では、吾妻四郎助光の死因を妖怪の祟りとされています。この伝承では、吾妻四郎助光は岩櫃城の城主となっています。その岩櫃城や城下に「ヨウケツ（ヨウゲツ、妖訣）」という妖怪が出没、吾妻四郎助光もその祟りにより殺され、吾妻氏も断絶してしまったということです。ほかにも彼の死についてはいくつもの説があります。
(2022年10月11日の投稿を参考に)
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
吾妻四郎助光は、『吾妻鏡』に弓の名手として登場する人物です。
1204年（元久元年）正月の御弓始めには、和田胤長・榛谷重朝・諏方盛澄・海野幸氏・望月重隆とともに射手に選ばれています。
『吾妻鏡』によると…。1207年（建永２年）８月15日の鶴岡八幡宮の放生会(ほうじょうえ)でのこと。警護を命じられていた吾妻助光ら数名の者が任務を怠る(ドタキャン)という事態が発生。急遽代わりの者が手配されましたが、将軍源実朝の出発は大幅に遅れ、舞楽の奉納が夜になってしまい、実朝は眠くなったのか、最後まで観覧することなく還御したのだということです。
８月17日、この事件を重くみた北条義時・北条時房・大江広元・三善善信・二階堂行光は、任務を怠った者を詰問。
厳しく問いただされた者たちは、
「身内に不幸があって喪に服していた」とか「病気で体調を崩していた」という返答をしたのだというのですが…。吾妻助光だけは理由を述べることができないでいました。二階堂行光が
「武勇をかわれて採用されたにも拘わらず、その任務を怠るとは何事か」
すると、助光は、
「晴れの儀式に鎧を用意しておりましたが、ネズミにかじられ破損してしまったので…」
と弁明。急病とでも言えば良かったのに…。
行光は、
「鎧を新調したのか？」
警護の者がおしゃれをするものではありません。
「何故、先祖伝来の鎧を使用せず、新調の鎧を使おうとするのだ?」
と叱りつけたのだそうです。頼朝以来の倹約の気風にも反する行為でした。
そして、助光は出仕を止められることに。
それから３か月が過ぎた12月３日、ちらちら雪の舞い落ちるなか、御所では酒宴の席が設けられ、北条義時と大江広元が参加。
そこへ一羽のアオサギがやってきて寝殿の上に留まりました。
不快(鳥は神からの使い=死・不吉なもの)に感じた実朝は、射落とすように命じましたが、あいにくそれだけの腕を持った者がいませんでした。
すると、義時が 「吾妻助光を呼び出しましょうか」 と申し上げると、実朝が承諾。
慌ててやってきた助光は、衣服を逆さまに着ていたようでしたが、狙いを定めて矢を放ちました。
一瞬、外したようにも見えましたが、左の眼から血を出したサギが庭先に落ちてきました。助光の放った矢は、鷹の羽を使用したとても強いもので、その矢羽根をサギの眼にかすらせて生け捕りにしたのだということです。
この妙技に感心した実朝は、出仕を許し、剣を与えたのだとか。
吾妻氏は鎌倉時代から南北朝時代にかけて、上野国吾妻郡（群馬県の北西部の吾妻川流域）東部を支配したと伝わる氏族です。ただし史料など具体的な根拠に欠き、伝承や伝説に頼らない確実なことはほとんど何も判っていません。確実にいえることは、「吾妻四郎助光」が『吾妻鏡』に4度登場し、将軍源実朝に仕える弓の名手であったということだけです。『吾妻鏡』では、「吾妻四郎助光」は鎌倉在住の御家人としてのみ登場し、領地が吾妻郡であったかどうかについても全く言及はなく、またその系譜や末路、後裔についても一切触れられていません。
別の伝承では、吾妻四郎助光の死因を妖怪の祟りとされています。この伝承では、吾妻四郎助光は岩櫃城の城主となっています。その岩櫃城や城下に「ヨウケツ（ヨウゲツ、妖訣）」という妖怪が出没、吾妻四郎助光もその祟りにより殺され、吾妻氏も断絶してしまったということです。ほかにも彼の死についてはいくつもの説があります。
(2022年10月11日の投稿を参考に)
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
ドラマには出てこなかったけれど、三代将軍・源実朝(柿澤勇人)に影響のあった藤原定家(さだいえ)について。当然、演者も発表されませんでした。
定家の父は、藤原俊成（ふじわらの としなり）というこれまた大変な歌人です。俊成は「本歌取り」といった和歌の技法を推進し、和歌で「幽玄」や「艶」を表現した人物です。この「幽玄」や「艶」は後の時代には、能や茶道にも取り入れられていて、まさに日本文化の礎を築いた人でもあります。
そんな俊成の子、定家の歌風は前衛的ともいえる新しいものでした。当時の人からはあまりにも新しすぎて「伝統を無視した難解な歌」と評され、歌人の世界では爪はじきにされていました。
しかし才能を後鳥羽上皇(尾上松也)に見いだされ、後鳥羽上皇の和歌サロンに入るようになると、その新しい歌は和歌の革命となって風を巻き起こします。後鳥羽サロンだけでなく和歌界全体を巻き込みました。現代でも小説家にして文芸評論家である丸谷才一氏はその様子を「日本最初の近代詩人」と評したほどです。
そして和歌を作るだけではなく、『百人一首』や『新古今和歌集』など、他の歌人の歌を厳選した歌集も多々残しています。
実際、定家がどんな歌を詠んだかというと…。一例として百人一首の中の定家の歌を紹介します。
「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩（もしお）の 身もこがれつつ」
淡路島には「松帆浦（まつほの うら）」という海岸があります。その松帆の「松」と来ない人を「待つ」を掛けています。藻塩とは、海藻を焼いて作る塩のこと。転じて、藻塩は「焦がれる」を引き出す枕詞にもなります。
これらを踏まえると、こんなような歌です。
「松帆浦で夕凪が吹く中、藻塩が焼かれている。来ないとわかっていても（あの炎の中で燃える藻塩のように）焼かれ焦がれて待っているのです」
このように、定家の歌は「情景」と「心情」がリンクするような歌を作りました。これは「有心体（うしんたい）」と呼ばれる定家の和歌のスタイルです。
定家は歌人であると同時に、文学研究者でもありました。和歌の作法についての著作もあり、『下官集（げかんしゅう）』という著作では「仮名遣いはこのようにしろ」と定めたものがあります。例えば「お」と「を」、「え」と「へ」と「ゑ」、「い」「ひ」「ゐ」をどうやって使い分けるかといったことです。これを定める事によって、誤読を防ぐことに繋がります。この仮名遣いは「定家仮名遣い（ていか かなづかい）」と呼ばれ、明治時代までの標準となっていました。
そんな多才な藤原定家の欠点と言えるのが、「悪筆」と断じられた文字。しかし見続けているとなんとも言えない味わいが出て来ます。いわゆる「元祖ヘタウマ系」とも言えます。
京都の貴族の例にもれず、日記を書き残しています。それが『明月記（めいげつき）』です。京で起こった出来事や噂話を詳細に書き残しておいてくれたおかげで、歴史研究の貴重な史料となっています。その内容は多岐にわたり、地震の記録や、陰陽師から聞いた夜空の星のことなど、理系分野にも及びます。
定家の名は花の名前にもあります。その名も「テイカカズラ」！ つるを伸ばす植物で、プロペラのような花が咲き、毒を持っています。
参考文献
村山修一『藤原定家』 吉川弘文館〈人物叢書〉
木村卜堂『日本と中国の書史』 社団法人日本書作家協会
五味文彦『明月記の史料学』 青史出版
『近代秀歌』久松潜一解説. 武蔵野書院
定家の父は、藤原俊成（ふじわらの としなり）というこれまた大変な歌人です。俊成は「本歌取り」といった和歌の技法を推進し、和歌で「幽玄」や「艶」を表現した人物です。この「幽玄」や「艶」は後の時代には、能や茶道にも取り入れられていて、まさに日本文化の礎を築いた人でもあります。
そんな俊成の子、定家の歌風は前衛的ともいえる新しいものでした。当時の人からはあまりにも新しすぎて「伝統を無視した難解な歌」と評され、歌人の世界では爪はじきにされていました。
しかし才能を後鳥羽上皇(尾上松也)に見いだされ、後鳥羽上皇の和歌サロンに入るようになると、その新しい歌は和歌の革命となって風を巻き起こします。後鳥羽サロンだけでなく和歌界全体を巻き込みました。現代でも小説家にして文芸評論家である丸谷才一氏はその様子を「日本最初の近代詩人」と評したほどです。
そして和歌を作るだけではなく、『百人一首』や『新古今和歌集』など、他の歌人の歌を厳選した歌集も多々残しています。
実際、定家がどんな歌を詠んだかというと…。一例として百人一首の中の定家の歌を紹介します。
「来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや 藻塩（もしお）の 身もこがれつつ」
淡路島には「松帆浦（まつほの うら）」という海岸があります。その松帆の「松」と来ない人を「待つ」を掛けています。藻塩とは、海藻を焼いて作る塩のこと。転じて、藻塩は「焦がれる」を引き出す枕詞にもなります。
これらを踏まえると、こんなような歌です。
「松帆浦で夕凪が吹く中、藻塩が焼かれている。来ないとわかっていても（あの炎の中で燃える藻塩のように）焼かれ焦がれて待っているのです」
このように、定家の歌は「情景」と「心情」がリンクするような歌を作りました。これは「有心体（うしんたい）」と呼ばれる定家の和歌のスタイルです。
定家は歌人であると同時に、文学研究者でもありました。和歌の作法についての著作もあり、『下官集（げかんしゅう）』という著作では「仮名遣いはこのようにしろ」と定めたものがあります。例えば「お」と「を」、「え」と「へ」と「ゑ」、「い」「ひ」「ゐ」をどうやって使い分けるかといったことです。これを定める事によって、誤読を防ぐことに繋がります。この仮名遣いは「定家仮名遣い（ていか かなづかい）」と呼ばれ、明治時代までの標準となっていました。
そんな多才な藤原定家の欠点と言えるのが、「悪筆」と断じられた文字。しかし見続けているとなんとも言えない味わいが出て来ます。いわゆる「元祖ヘタウマ系」とも言えます。
京都の貴族の例にもれず、日記を書き残しています。それが『明月記（めいげつき）』です。京で起こった出来事や噂話を詳細に書き残しておいてくれたおかげで、歴史研究の貴重な史料となっています。その内容は多岐にわたり、地震の記録や、陰陽師から聞いた夜空の星のことなど、理系分野にも及びます。
定家の名は花の名前にもあります。その名も「テイカカズラ」！ つるを伸ばす植物で、プロペラのような花が咲き、毒を持っています。
参考文献
村山修一『藤原定家』 吉川弘文館〈人物叢書〉
木村卜堂『日本と中国の書史』 社団法人日本書作家協会
五味文彦『明月記の史料学』 青史出版
『近代秀歌』久松潜一解説. 武蔵野書院
朝比奈三郎 上
今回は和田っちこと和田義盛(横田栄司)の息子の一人、朝比奈三郎 (栄信) について。安房国朝夷郡に領地としたことで朝比奈を苗字としました。
和田義盛の息子たちが和田邸に勢ぞろいした時、巴御前(秋元才加)が「(子供が)こんなにいたの?」と驚いていましたが、長年連れ添っていたのに知らなかったというのも不思議に話です。ま、義盛が高齢だったから、息子たちは家を離れて独立していたのかもしれませんが。その内の一人が三男の和田義秀でした。
義秀は、朝比奈三郎の名で知られた剛の者でありました。鮫を手掴みで捉えたばかりか、一夜にして峠道を開き、山をも築いたとまでいわれます。
ちなみに、父・義盛は、源頼朝(大泉洋)の旗揚げに大きく貢献したものの、北条義時（小栗旬）が執権となって以降は不遇を託（かこ）ちました。義盛が上総国司の職を望んだものの、北条政子(小池栄子)が、将軍・実朝（柿澤 勇人)の意を撥（は）ね退（の）けて、これを拒んだことが感情を逆なでしました。
すでに、北条氏が中心となって、他の御家人たちを排除する動きが加速していたことも気に食わなかったのです。「次は我が番か？」との思いもあったのでしょう。度重なる北条氏の挑発に耐えかね、ついに挙兵に踏み切ったのです。これが和田合戦と呼ばれる動乱ですが、この戦いにおいて、驚くばかりの戦果をあげたのが、息子・義秀でした。
まず、御所の惣門（そうもん）を打ち破って突入。歯向かう御家人たちを次々と斬り伏せたことが『吾妻鏡』に記されています。その凄まじさが「神のごとき壮力」と称えられたばかりか、「敵する者は死することを免れず」とまで言われて恐れられました。
義時の子・朝時（ともとき.西本 たける）や甥（おい）の足利義氏（よしうじ.今回の大河ドラマではカット）らも戦いに臨んできましたが、これも物ともせずに撥ね退けたとまで記しているのです。
それでも、幕府軍が次々と新手を繰り出してきたことから、和田一族の動きは抑え込まれてしまいました。率いる義盛が討ち取られたことで、ついに終焉。一族の多くが討たれたのです。それでも、義秀は、生き残った兵を率いて安房へ逃れたということです。
今回は和田っちこと和田義盛(横田栄司)の息子の一人、朝比奈三郎 (栄信) について。安房国朝夷郡に領地としたことで朝比奈を苗字としました。
和田義盛の息子たちが和田邸に勢ぞろいした時、巴御前(秋元才加)が「(子供が)こんなにいたの?」と驚いていましたが、長年連れ添っていたのに知らなかったというのも不思議に話です。ま、義盛が高齢だったから、息子たちは家を離れて独立していたのかもしれませんが。その内の一人が三男の和田義秀でした。
義秀は、朝比奈三郎の名で知られた剛の者でありました。鮫を手掴みで捉えたばかりか、一夜にして峠道を開き、山をも築いたとまでいわれます。
ちなみに、父・義盛は、源頼朝(大泉洋)の旗揚げに大きく貢献したものの、北条義時（小栗旬）が執権となって以降は不遇を託（かこ）ちました。義盛が上総国司の職を望んだものの、北条政子(小池栄子)が、将軍・実朝（柿澤 勇人)の意を撥（は）ね退（の）けて、これを拒んだことが感情を逆なでしました。
すでに、北条氏が中心となって、他の御家人たちを排除する動きが加速していたことも気に食わなかったのです。「次は我が番か？」との思いもあったのでしょう。度重なる北条氏の挑発に耐えかね、ついに挙兵に踏み切ったのです。これが和田合戦と呼ばれる動乱ですが、この戦いにおいて、驚くばかりの戦果をあげたのが、息子・義秀でした。
まず、御所の惣門（そうもん）を打ち破って突入。歯向かう御家人たちを次々と斬り伏せたことが『吾妻鏡』に記されています。その凄まじさが「神のごとき壮力」と称えられたばかりか、「敵する者は死することを免れず」とまで言われて恐れられました。
義時の子・朝時（ともとき.西本 たける）や甥（おい）の足利義氏（よしうじ.今回の大河ドラマではカット）らも戦いに臨んできましたが、これも物ともせずに撥ね退けたとまで記しているのです。
それでも、幕府軍が次々と新手を繰り出してきたことから、和田一族の動きは抑え込まれてしまいました。率いる義盛が討ち取られたことで、ついに終焉。一族の多くが討たれたのです。それでも、義秀は、生き残った兵を率いて安房へ逃れたということです。
朝比奈三郎 下
さて、史実として記録された朝比奈義秀像は以上の如くで、それ以上のことはわかりません。それでも、この御仁にまつわる伝説伝承は、史実としての活躍ぶりを遥かに凌ぐ、驚くべき話へと変容して伝わっているのです。
例えば、将軍・頼家(金子大地)を前にして、泳ぎの腕前を披露した時の逸話を見てみましょう。義秀は泳ぎの達人としても知られていましたが、頼家から腕前を見せてみろと声をかけられた際に、海中深く潜り込んだと思うや否や、何と３匹の鮫を両手に抱えたまま浮上。御船に向かって、高々と掲げたというから恐れ入ります。
実はこの話は、先ほどの和田合戦と同様に、鎌倉幕府の公式記録ともいうべき『吾妻鏡』に記されたものです。それゆえ、全くのデタラメとは思い難いのです。話半分としても、それに近しいことを義秀が難なくやり遂げていたとみなすべきでしょう。しかも、記録したのは、事実上の権力者であった北条氏ですから。自らが滅ぼした和田氏の御曹司をなぜここまで持ち上げる必要があったのか、奇妙という他ありません。穿った見方をすれば、一族を滅ぼしたことに対する、せめてもの罪滅ぼしなのでしょうか？
それはともあれ、さらに驚かされる伝説があります。鎌倉に伝わる朝比奈切通しにまつわる話です。鎌倉と金沢六浦（むつうら）を結ぶ峠道ですが、これを作ったのが義秀だというのです。幅４m、高さ３〜10m、長さ８００m以上という切り立った道です。いったいどういう手段を用いたのか推し量りようもありませんが、それを一夜にして切り開いたというから、驚くばかり。実際には、１２４０年に執権北条泰時（やすとき）が、難工事の末に完成させたもの。誰がそんな風に言い広めたのかは謎であります。
また、宮城県黒川郡大和町に伝わる朝比奈三郎伝説も凄いです。鹿島台というところから土を籠（かご）に入れて運び、それを7回繰り返したというのです。その土をドサっと置いたところ、七ツ森という山々になったというからビックリ！ 豪傑もここまでくれば、もはや天地創造の神の領域ですね。
ちなみに、義秀がどこで亡くなったのかは、定かではありません。その墓が和田氏の領地であった安房の地というのなら理解できますが、群馬県長野原町に墓があるというから、何とも不思議です。実は和田合戦の後、その地の応桑というところに逃れて住んだとの言い伝えがあるのです。
また、熊野灘に面した和歌山県太地町（たいじちょう）に住み着いたともいわれることもあります。同地は、古式捕鯨（ほげい）発祥の地として知られるところです。和田忠兵衛頼なる武士の末裔が、この地で捕鯨を行ったのが始まりとか。慶長11（１６０６）年というから、義秀の時代から４世紀も後のことになります。地元の伝承によれば、義秀がこの地に逃れ住んだのが始まりとも。
ちなみに、史実として義秀の母が誰であったかは不明。それでも、源義仲（青木崇高）の妾（めかけ）として知られた巴御前だったとの伝承が興味深いです。
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
さて、史実として記録された朝比奈義秀像は以上の如くで、それ以上のことはわかりません。それでも、この御仁にまつわる伝説伝承は、史実としての活躍ぶりを遥かに凌ぐ、驚くべき話へと変容して伝わっているのです。
例えば、将軍・頼家(金子大地)を前にして、泳ぎの腕前を披露した時の逸話を見てみましょう。義秀は泳ぎの達人としても知られていましたが、頼家から腕前を見せてみろと声をかけられた際に、海中深く潜り込んだと思うや否や、何と３匹の鮫を両手に抱えたまま浮上。御船に向かって、高々と掲げたというから恐れ入ります。
実はこの話は、先ほどの和田合戦と同様に、鎌倉幕府の公式記録ともいうべき『吾妻鏡』に記されたものです。それゆえ、全くのデタラメとは思い難いのです。話半分としても、それに近しいことを義秀が難なくやり遂げていたとみなすべきでしょう。しかも、記録したのは、事実上の権力者であった北条氏ですから。自らが滅ぼした和田氏の御曹司をなぜここまで持ち上げる必要があったのか、奇妙という他ありません。穿った見方をすれば、一族を滅ぼしたことに対する、せめてもの罪滅ぼしなのでしょうか？
それはともあれ、さらに驚かされる伝説があります。鎌倉に伝わる朝比奈切通しにまつわる話です。鎌倉と金沢六浦（むつうら）を結ぶ峠道ですが、これを作ったのが義秀だというのです。幅４m、高さ３〜10m、長さ８００m以上という切り立った道です。いったいどういう手段を用いたのか推し量りようもありませんが、それを一夜にして切り開いたというから、驚くばかり。実際には、１２４０年に執権北条泰時（やすとき）が、難工事の末に完成させたもの。誰がそんな風に言い広めたのかは謎であります。
また、宮城県黒川郡大和町に伝わる朝比奈三郎伝説も凄いです。鹿島台というところから土を籠（かご）に入れて運び、それを7回繰り返したというのです。その土をドサっと置いたところ、七ツ森という山々になったというからビックリ！ 豪傑もここまでくれば、もはや天地創造の神の領域ですね。
ちなみに、義秀がどこで亡くなったのかは、定かではありません。その墓が和田氏の領地であった安房の地というのなら理解できますが、群馬県長野原町に墓があるというから、何とも不思議です。実は和田合戦の後、その地の応桑というところに逃れて住んだとの言い伝えがあるのです。
また、熊野灘に面した和歌山県太地町（たいじちょう）に住み着いたともいわれることもあります。同地は、古式捕鯨（ほげい）発祥の地として知られるところです。和田忠兵衛頼なる武士の末裔が、この地で捕鯨を行ったのが始まりとか。慶長11（１６０６）年というから、義秀の時代から４世紀も後のことになります。地元の伝承によれば、義秀がこの地に逃れ住んだのが始まりとも。
ちなみに、史実として義秀の母が誰であったかは不明。それでも、源義仲（青木崇高）の妾（めかけ）として知られた巴御前だったとの伝承が興味深いです。
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
「大江広元」（おおえのひろもと） 上
公家出身でありながら、鎌倉幕府初代将軍「源頼朝」（大泉洋）の腹心として、同幕府の草創期に大きく貢献した「大江広元」（栗原英雄）。
鎌倉幕府内では、一般的な政務や財政を司る「政所」の長官、「政所別当」（まんどころべっとう）として活躍した大江広元が、どのような生涯を送ったのか、その人となりが窺える逸話などを交えてご説明します。
大江広元の出自には諸説ありますが、鎌倉幕府にまつわる歴史書「吾妻鏡」（あずまかがみ／あづまかがみ）などに記載がある没年と年齢から逆算すると、生年は1148年（久安4年）頃と推測されています。
「大江氏」は、もともと平安時代から続く学問の家柄であり、儒学者で歌人としても知られる「大江匡房」（おおえのまさふさ）や、同じく歌人の「和泉式部」（いずみしきぶ）などが同氏の出身です。
一説によると大江広元は、「大江維光」（おおえのこれみつ）の子として京都で誕生しましたが、そのあと、実母の再婚相手であった「中原広季」（なかはらのひろすえ）のもとで育てられたと伝えられています。明経博士・中原広季の養子となった大江広元は、それから晩年の1216年（建保4年）に「大江」姓に戻すまで、「中原広元」と名乗っていたのです。
大江広元は当初、下級貴族として朝廷における外記（げき：儀式の執行や上奏文の起草などを司った官職）を務めていましたが、1184年（寿永3年／元暦元年）、源頼朝の招きを受けて鎌倉へ下向。このときにはすでに、1180年（治承4年）に勃発した「源平合戦」において源氏方に与するため、兄の「中原親能」（なかはらのちかよし）が鎌倉入りしていました。
大江広元は、1183年（寿永2年／養和3年）7月に「平家」が都落ちしたことに伴い、兄に続く形で源頼朝に仕えることになったのです。
大江広元は1184年（寿永3年／元暦元年）、朝廷での実務経験で培った文筆の才を源頼朝に買われ、「公文所」（くもんじょ）の別当に就任。
1185年（寿永4年／文治元年：1191年［建久2年］説もあり）に、公文所が「政所」に改称されてからも同職を務め、鎌倉幕府と朝廷間の交渉役を担いました。
さらに大江広元は、同幕府に仕えていた御家人達の訴えを将軍・源頼朝に取り次ぐ「申次」（もうしつぎ）の職務も行うなどして、源頼朝の腹心としての地位を揺るがないものにしたのです。
同年に源頼朝が、「守護」職、及び「地頭」（じとう）職を設置する政策を打ち出していますが、これは、大江広元による献策であったと考えられています。また、源頼朝が弟「源義経」（菅田将暉）と仲違いした際、「兄に服従する気持ちはこれからも変わらない」とする旨の嘆願書、いわゆる「腰越状」（こしごえじょう）が源義経から大江広元宛に送られました。
これは、大江広元が源頼朝のいちばんの側近として、その信頼を得ていたことの証しでもあります。このように大江広元は、源頼朝に次ぐ鎌倉幕府の首脳となり、高く評価されていくようになったのです。
1199年（建久10年／正治元年）に源頼朝が亡くなると、2代将軍に就任した「源頼家」（金子大地）を、13名の有力御家人達が指導する体制が敷かれます。「13人の合議制」と称されるこの体制は、源頼家がまだ18歳と若かったため、その専制政治を抑止する目的で設けられました。
大江広元は、兄・中原親能(川島潤哉)と共にこの合議制の一員となったのです。鎌倉幕府内で実権を握っていた「執権」の「北条時政」（坂東 彌十郎）・「北条義時」（小栗旬）父子も同じくこの一員となっており、大江広元は鎌倉幕府内において、彼らに続く3番目の地位にあったと考えられています。
この当時、北条時政と北条義時はその覇権を確固たるものにするため、有力御家人の排除を実行。加えて北条時政が大江広元と共に政所別当の座に就き、北条氏の勢力が急激に拡大していました。そんな中、源頼朝が逝去したことが要因となって内部抗争が起こります。
このとき、大江広元は北条義時を陰ながら支えることで、その覇権維持に協力したのです。さらに大江広元は、北条氏に協調する姿勢を貫きます。
例えば、1221年（承久3年）に82代天皇「後鳥羽上皇」（尾上松也）が、北条義時の討伐を目的に兵を挙げた「承久の乱」（じょうきゅうのらん）において、源頼朝の正室「北条政子」（小池栄子）と共に主戦論を御家人達に説き、幕府軍に属してその勝利に大きく貢献。
このように大江広元は源頼朝の没後も、北条政子・北条義時のもとで幕政に参与したのです。
生涯を通じて鎌倉幕府に仕え、その発展の基礎を築いた大江広元でしたが、1225年（元仁2年／嘉禄元年）6月に死去しました。
公家出身でありながら、鎌倉幕府初代将軍「源頼朝」（大泉洋）の腹心として、同幕府の草創期に大きく貢献した「大江広元」（栗原英雄）。
鎌倉幕府内では、一般的な政務や財政を司る「政所」の長官、「政所別当」（まんどころべっとう）として活躍した大江広元が、どのような生涯を送ったのか、その人となりが窺える逸話などを交えてご説明します。
大江広元の出自には諸説ありますが、鎌倉幕府にまつわる歴史書「吾妻鏡」（あずまかがみ／あづまかがみ）などに記載がある没年と年齢から逆算すると、生年は1148年（久安4年）頃と推測されています。
「大江氏」は、もともと平安時代から続く学問の家柄であり、儒学者で歌人としても知られる「大江匡房」（おおえのまさふさ）や、同じく歌人の「和泉式部」（いずみしきぶ）などが同氏の出身です。
一説によると大江広元は、「大江維光」（おおえのこれみつ）の子として京都で誕生しましたが、そのあと、実母の再婚相手であった「中原広季」（なかはらのひろすえ）のもとで育てられたと伝えられています。明経博士・中原広季の養子となった大江広元は、それから晩年の1216年（建保4年）に「大江」姓に戻すまで、「中原広元」と名乗っていたのです。
大江広元は当初、下級貴族として朝廷における外記（げき：儀式の執行や上奏文の起草などを司った官職）を務めていましたが、1184年（寿永3年／元暦元年）、源頼朝の招きを受けて鎌倉へ下向。このときにはすでに、1180年（治承4年）に勃発した「源平合戦」において源氏方に与するため、兄の「中原親能」（なかはらのちかよし）が鎌倉入りしていました。
大江広元は、1183年（寿永2年／養和3年）7月に「平家」が都落ちしたことに伴い、兄に続く形で源頼朝に仕えることになったのです。
大江広元は1184年（寿永3年／元暦元年）、朝廷での実務経験で培った文筆の才を源頼朝に買われ、「公文所」（くもんじょ）の別当に就任。
1185年（寿永4年／文治元年：1191年［建久2年］説もあり）に、公文所が「政所」に改称されてからも同職を務め、鎌倉幕府と朝廷間の交渉役を担いました。
さらに大江広元は、同幕府に仕えていた御家人達の訴えを将軍・源頼朝に取り次ぐ「申次」（もうしつぎ）の職務も行うなどして、源頼朝の腹心としての地位を揺るがないものにしたのです。
同年に源頼朝が、「守護」職、及び「地頭」（じとう）職を設置する政策を打ち出していますが、これは、大江広元による献策であったと考えられています。また、源頼朝が弟「源義経」（菅田将暉）と仲違いした際、「兄に服従する気持ちはこれからも変わらない」とする旨の嘆願書、いわゆる「腰越状」（こしごえじょう）が源義経から大江広元宛に送られました。
これは、大江広元が源頼朝のいちばんの側近として、その信頼を得ていたことの証しでもあります。このように大江広元は、源頼朝に次ぐ鎌倉幕府の首脳となり、高く評価されていくようになったのです。
1199年（建久10年／正治元年）に源頼朝が亡くなると、2代将軍に就任した「源頼家」（金子大地）を、13名の有力御家人達が指導する体制が敷かれます。「13人の合議制」と称されるこの体制は、源頼家がまだ18歳と若かったため、その専制政治を抑止する目的で設けられました。
大江広元は、兄・中原親能(川島潤哉)と共にこの合議制の一員となったのです。鎌倉幕府内で実権を握っていた「執権」の「北条時政」（坂東 彌十郎）・「北条義時」（小栗旬）父子も同じくこの一員となっており、大江広元は鎌倉幕府内において、彼らに続く3番目の地位にあったと考えられています。
この当時、北条時政と北条義時はその覇権を確固たるものにするため、有力御家人の排除を実行。加えて北条時政が大江広元と共に政所別当の座に就き、北条氏の勢力が急激に拡大していました。そんな中、源頼朝が逝去したことが要因となって内部抗争が起こります。
このとき、大江広元は北条義時を陰ながら支えることで、その覇権維持に協力したのです。さらに大江広元は、北条氏に協調する姿勢を貫きます。
例えば、1221年（承久3年）に82代天皇「後鳥羽上皇」（尾上松也）が、北条義時の討伐を目的に兵を挙げた「承久の乱」（じょうきゅうのらん）において、源頼朝の正室「北条政子」（小池栄子）と共に主戦論を御家人達に説き、幕府軍に属してその勝利に大きく貢献。
このように大江広元は源頼朝の没後も、北条政子・北条義時のもとで幕政に参与したのです。
生涯を通じて鎌倉幕府に仕え、その発展の基礎を築いた大江広元でしたが、1225年（元仁2年／嘉禄元年）6月に死去しました。
「大江広元」（おおえのひろもと） 中
源頼朝に幕政の助言をしたり、次なる権力者を見極めて北条氏に一貫して与したりするなど、その知力を駆使して激動の世の中を渡り歩いた大江広元。これは、2022年（令和4年）放送のNHK大河ドラマ、「鎌倉殿の13人」の出演者発表において、大江広元の人物像が「頭脳で乱世を生き抜く官僚」と表現されていたことからも分かります。
そんな大江広元の性格をよく表しているのが、自身の生涯を振り返った際、「私は成人してから泣いたことが一度もない」と明言したとされる逸話。その真偽のほどは定かではありませんが、この逸話からは、大江広元が常に冷静沈着であったことが窺えるのです。
一方で大江広元は、情熱的な一面も持ち合わせていました。それは、鎌倉市街地が戦場になったときのこと。他の御家人達は、ときの将軍「源実朝」（みなもとのさねとも）を避難させるために誘導しながらも、火の海に飲み込まれていく街並を見つめて唖然とするのみ。
ところが大江広元は、幕政において重要な書類が焼失してしまうことを危惧し、街の中へ戻ろうとしました。周囲が慌てて引き留めたことで何とかことなきを得ましたが、公家出身でありながら、鎌倉幕府という武家政権を確固たるものにするために尽力した、大江広元の強い責任感が表れている逸話です。
大江広元の血筋から、ある戦国大名家の始祖となった人物が出ています。それは、大江広元の四男「大江季光」（おおえのすえみつ）。大江広元の所領の中から相模国毛利荘（現在の神奈川県厚木市）を相続した大江季光は、本姓は大江のまま、その地名から名字を「毛利」（もうり）に改めました。
つまり大江季光は、安芸国（現在の広島県西部）の戦国大名として活躍した「毛利家」を興したのです。同家12代当主「毛利元就」（もうりもとなり）の長男「毛利隆元」（もうりたかもと）や、同じく次男で、のちに「吉川氏」の養子に入った「吉川元春」（きっかわもとはる）など、毛利家の子孫達の名に「元」の字が多く用いられているのは、大江広元にちなんでいると言われています。
なお、毛利家の家紋として知られる「一文字に三つ星」の意匠についても、大江季光から受け継いだと考えられているのです。14代当主「毛利輝元」（もうりてるもと）の頃に、その本拠を毛利荘から安芸へ移していますが、広島の地名についても、大江広元から1字を取って付けられたとする説があります。
戦国時代に、毛利家が中国地方10ヵ国も領するほどに興隆できたのも、知略に長けた大江広元の政治手腕を引き継いでいたからかもしれません。
大江広元が出羽国寒河江荘（現在の山形県寒河江市）とゆかりを持つようになったのは、1189年（文治5年）のこと。大江広元は同年に勃発した「奥州合戦」（おうしゅうかっせん）において、「奥州藤原氏」を滅亡させました。その論功行賞（ろんこうこうしょう：功績の程度に応じて賞を与えること）として寒河江荘（さがえしょう）を含む広大な領地を鎌倉幕府より賜り、地頭職を得たことが始まりだったのです。
大江広元の所領はその子ども達が分割相続することとなり、寒河江荘の地頭には、大江広元の嫡男「大江親広」（おおえのちかひろ）が就任。
ところが大江親広は、承久の乱において父・大江広元が幕府軍に与したのにもかかわらず、後鳥羽上皇方に荷担しました。大江親広が官軍に味方したのは、京都守護を務めていたために朝廷と深い繋がりがあったことが理由として考えられています。
承久の乱が鎌倉幕府の圧勝で終わったため、大江親広は寒河江荘へと敗走。しかし、父・大江広元が同乱で幕府の勝利に貢献したこともあり、追及の手はさほど厳しくはありませんでした。無事に落ち延びた大江親広は、富沢（現在の山形県西村山郡大江町）などに隠棲（いんせい）し、その生涯を閉じたと伝えられています。
そののち、大江親広の子「大江広時」（おおえのひろとき）の系統が南寒河江荘の地頭職を安堵され、大江広元から数えて5代目の「大江元顕」（おおえのもとたか）の頃に、鎌倉から寒河江へ移住したのです。大江氏による寒河江の統治は、1584年（天正12年）に「最上義光」（もがみよしあき）に滅ぼされるまで約400年も続いており、そのうち約300年は、大江元顕以降の大江氏が直接支配しました。
また、日本の系図集「尊卑分脈」（そんぴぶんみゃく）によれば、大江広元から数えて8代目の「寒河江時氏」（さがえときうじ）が、「寒河江」姓を名乗った初代とされています。寒河江時氏は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した武将であり、現存する史料にも、この頃からようやく寒河江氏の記述が見られるようになりました。
源頼朝に幕政の助言をしたり、次なる権力者を見極めて北条氏に一貫して与したりするなど、その知力を駆使して激動の世の中を渡り歩いた大江広元。これは、2022年（令和4年）放送のNHK大河ドラマ、「鎌倉殿の13人」の出演者発表において、大江広元の人物像が「頭脳で乱世を生き抜く官僚」と表現されていたことからも分かります。
そんな大江広元の性格をよく表しているのが、自身の生涯を振り返った際、「私は成人してから泣いたことが一度もない」と明言したとされる逸話。その真偽のほどは定かではありませんが、この逸話からは、大江広元が常に冷静沈着であったことが窺えるのです。
一方で大江広元は、情熱的な一面も持ち合わせていました。それは、鎌倉市街地が戦場になったときのこと。他の御家人達は、ときの将軍「源実朝」（みなもとのさねとも）を避難させるために誘導しながらも、火の海に飲み込まれていく街並を見つめて唖然とするのみ。
ところが大江広元は、幕政において重要な書類が焼失してしまうことを危惧し、街の中へ戻ろうとしました。周囲が慌てて引き留めたことで何とかことなきを得ましたが、公家出身でありながら、鎌倉幕府という武家政権を確固たるものにするために尽力した、大江広元の強い責任感が表れている逸話です。
大江広元の血筋から、ある戦国大名家の始祖となった人物が出ています。それは、大江広元の四男「大江季光」（おおえのすえみつ）。大江広元の所領の中から相模国毛利荘（現在の神奈川県厚木市）を相続した大江季光は、本姓は大江のまま、その地名から名字を「毛利」（もうり）に改めました。
つまり大江季光は、安芸国（現在の広島県西部）の戦国大名として活躍した「毛利家」を興したのです。同家12代当主「毛利元就」（もうりもとなり）の長男「毛利隆元」（もうりたかもと）や、同じく次男で、のちに「吉川氏」の養子に入った「吉川元春」（きっかわもとはる）など、毛利家の子孫達の名に「元」の字が多く用いられているのは、大江広元にちなんでいると言われています。
なお、毛利家の家紋として知られる「一文字に三つ星」の意匠についても、大江季光から受け継いだと考えられているのです。14代当主「毛利輝元」（もうりてるもと）の頃に、その本拠を毛利荘から安芸へ移していますが、広島の地名についても、大江広元から1字を取って付けられたとする説があります。
戦国時代に、毛利家が中国地方10ヵ国も領するほどに興隆できたのも、知略に長けた大江広元の政治手腕を引き継いでいたからかもしれません。
大江広元が出羽国寒河江荘（現在の山形県寒河江市）とゆかりを持つようになったのは、1189年（文治5年）のこと。大江広元は同年に勃発した「奥州合戦」（おうしゅうかっせん）において、「奥州藤原氏」を滅亡させました。その論功行賞（ろんこうこうしょう：功績の程度に応じて賞を与えること）として寒河江荘（さがえしょう）を含む広大な領地を鎌倉幕府より賜り、地頭職を得たことが始まりだったのです。
大江広元の所領はその子ども達が分割相続することとなり、寒河江荘の地頭には、大江広元の嫡男「大江親広」（おおえのちかひろ）が就任。
ところが大江親広は、承久の乱において父・大江広元が幕府軍に与したのにもかかわらず、後鳥羽上皇方に荷担しました。大江親広が官軍に味方したのは、京都守護を務めていたために朝廷と深い繋がりがあったことが理由として考えられています。
承久の乱が鎌倉幕府の圧勝で終わったため、大江親広は寒河江荘へと敗走。しかし、父・大江広元が同乱で幕府の勝利に貢献したこともあり、追及の手はさほど厳しくはありませんでした。無事に落ち延びた大江親広は、富沢（現在の山形県西村山郡大江町）などに隠棲（いんせい）し、その生涯を閉じたと伝えられています。
そののち、大江親広の子「大江広時」（おおえのひろとき）の系統が南寒河江荘の地頭職を安堵され、大江広元から数えて5代目の「大江元顕」（おおえのもとたか）の頃に、鎌倉から寒河江へ移住したのです。大江氏による寒河江の統治は、1584年（天正12年）に「最上義光」（もがみよしあき）に滅ぼされるまで約400年も続いており、そのうち約300年は、大江元顕以降の大江氏が直接支配しました。
また、日本の系図集「尊卑分脈」（そんぴぶんみゃく）によれば、大江広元から数えて8代目の「寒河江時氏」（さがえときうじ）が、「寒河江」姓を名乗った初代とされています。寒河江時氏は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した武将であり、現存する史料にも、この頃からようやく寒河江氏の記述が見られるようになりました。
「大江広元」（おおえのひろもと） 下
NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人で大江広元役を演じているのは、俳優の「栗原英雄」（くりはらひでお）です。
1984年（昭和59年）に「劇団四季」（げきだんしき）へ入団後、「ライオンキング」など数々のミュージカルに出演。2009年（平成21年）に退団したあとは、舞台や映画を中心に活躍していました。
栗原英雄のテレビドラマ初出演は、2016年（平成28年）のNHK大河ドラマ「真田丸」（さなだまる）です。「真田幸村（真田信繁）」（さなだゆきむら／さなだのぶしげ）が主人公の同ドラマは、大河ドラマ鎌倉殿の13人と同じく「三谷幸喜」（みたにこうき）さんが脚本を担当。栗原英雄さんが演じたのは、真田幸村の父「真田昌幸」（さなだまさゆき）の実弟、「真田信尹」（さなだのぶただ）です。栗原英雄は、その渋いキャラクターで多くのファンを獲得し、「叔父上」の愛称で親しまれました。
2020年（令和2年）11月19日に行われた大河ドラマ鎌倉殿の13人のキャスト発表において、大江広元役が栗原英雄さんであることが明らかになると、「叔父上ファン」の人達が興奮冷めやらぬ様子で、「さすがの配役！」などとSNSに投稿。真田丸の放送が終了してからも、叔父上、そして栗原英雄さんが、根強い人気を博していることが示されたのです。
ドラマ「鎌倉殿の13人」での大江広元は、史実通りに源頼朝の腹心となり、鎌倉幕府の草創期を支えた重要人物として描かれています。そのなかでも、栗原英雄の演技が光ったのは、2022年（令和4年）4月17日放送分の第15回「足固めの儀式」。この回では、源頼朝が、「上総広常」（かずさひろつね：演・佐藤浩市）を御家人達の目の前で討ち取らせたシーンが話題に。その放送直後から翌朝にかけて、SNSでは「頼朝嫌い」、「上総介を偲ぶ会」、「大泉のせい」などのワードがトレンド入りしたのです。
そして、源頼朝に上総広常を討つように進言していた大江広元も、そのときのトレンドワードに並んでいます。それらの投稿では、「左右の目の動きを変える演技が凄い」、「全部大江広元のせいだ！と言いたくなるほどの冷酷な策士ぶり」といった、栗原英雄の高い演技力を絶賛する内容のものが多く見られました。
神奈川県鎌倉市内には、大江広元の物だと伝わるお墓が2つあります。
ひとつ目は、「明王院」（みょうおういん：神奈川県鎌倉市十二所）の裏山・胡桃山（くるみやま）にある石造の五層塔。同寺は1235年（文暦2年／嘉禎元年）に、鎌倉幕府4代将軍「藤原頼経」（ふじわらのよりつね）によって創建されました。胡桃山の山中にあるこの五層塔は、鎌倉時代に作られたとみられています。
江戸時代には、この大江広元の墓を探すために、毛利家の家老が訪れた逸話が遺されています。しかし、その家老の態度が非常に横柄だったため、当時の住民達は誰ひとりとして、五層塔の在り処を教えなかったと伝えられているのです。
そして2つ目は、神奈川県鎌倉市西御門（にしみかど）にある供養塔。しかし、こちらは江戸時代に長州藩（現在の山口県）によって作られたと言われているだけでなく、大江広元の邸宅が胡桃山付近にあったことなどから、近年では、十二所の五層塔を大江広元のお墓だとする説が有力視されています。
今回の大河ドラマで史実には描かれていない二つのフューチャーされたこと。
一つは北条政子と見つめあうことが何度かあったり二人が手を取り合うシーンがあったこと。ネットではそこに恋の火柱が走ったとの声が上がりました。
もう一つは、実朝は、源頼朝の代から受け継がれてきた“鎌倉殿の証し”の「髑髏(どくろ)」を御所に忘れてきたことに気づくも、八田知家（市原隼人）が警護のため八幡宮を離れられない中、御所の重要な文書を背負ってきた大江広元が現れ「そのお役目、私が」「御所の中は知り尽くしています。近道を通れば、あっという間」と志願しました。政子は広元の手を取り「このこと、生涯忘れません」と感謝。広元は手を重ね「お任せを」と御所へ向かいました。 5〜6人の敵に囲まれながら、広元は見事な太刀さばき。激闘に髪も乱れました。広元強い強い！ 実朝の居室。物陰に隠れ、実朝を救い出そうと駆けつけた義盛と刀を交えることは回避。無事、髑髏を持ち帰りました。文官なのにこういう立ち回りがあったというのは稀なことです。
この大江広元が北条義時と一心同体であったのに対し、将軍・源実朝(柿澤勇人)や北条泰時(坂口健太郎)の心に寄り添ったもう一人の文官・三善康信（みよしのやすのぶ.小林隆） をいずれ深堀りしてみましょう。
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人で大江広元役を演じているのは、俳優の「栗原英雄」（くりはらひでお）です。
1984年（昭和59年）に「劇団四季」（げきだんしき）へ入団後、「ライオンキング」など数々のミュージカルに出演。2009年（平成21年）に退団したあとは、舞台や映画を中心に活躍していました。
栗原英雄のテレビドラマ初出演は、2016年（平成28年）のNHK大河ドラマ「真田丸」（さなだまる）です。「真田幸村（真田信繁）」（さなだゆきむら／さなだのぶしげ）が主人公の同ドラマは、大河ドラマ鎌倉殿の13人と同じく「三谷幸喜」（みたにこうき）さんが脚本を担当。栗原英雄さんが演じたのは、真田幸村の父「真田昌幸」（さなだまさゆき）の実弟、「真田信尹」（さなだのぶただ）です。栗原英雄は、その渋いキャラクターで多くのファンを獲得し、「叔父上」の愛称で親しまれました。
2020年（令和2年）11月19日に行われた大河ドラマ鎌倉殿の13人のキャスト発表において、大江広元役が栗原英雄さんであることが明らかになると、「叔父上ファン」の人達が興奮冷めやらぬ様子で、「さすがの配役！」などとSNSに投稿。真田丸の放送が終了してからも、叔父上、そして栗原英雄さんが、根強い人気を博していることが示されたのです。
ドラマ「鎌倉殿の13人」での大江広元は、史実通りに源頼朝の腹心となり、鎌倉幕府の草創期を支えた重要人物として描かれています。そのなかでも、栗原英雄の演技が光ったのは、2022年（令和4年）4月17日放送分の第15回「足固めの儀式」。この回では、源頼朝が、「上総広常」（かずさひろつね：演・佐藤浩市）を御家人達の目の前で討ち取らせたシーンが話題に。その放送直後から翌朝にかけて、SNSでは「頼朝嫌い」、「上総介を偲ぶ会」、「大泉のせい」などのワードがトレンド入りしたのです。
そして、源頼朝に上総広常を討つように進言していた大江広元も、そのときのトレンドワードに並んでいます。それらの投稿では、「左右の目の動きを変える演技が凄い」、「全部大江広元のせいだ！と言いたくなるほどの冷酷な策士ぶり」といった、栗原英雄の高い演技力を絶賛する内容のものが多く見られました。
神奈川県鎌倉市内には、大江広元の物だと伝わるお墓が2つあります。
ひとつ目は、「明王院」（みょうおういん：神奈川県鎌倉市十二所）の裏山・胡桃山（くるみやま）にある石造の五層塔。同寺は1235年（文暦2年／嘉禎元年）に、鎌倉幕府4代将軍「藤原頼経」（ふじわらのよりつね）によって創建されました。胡桃山の山中にあるこの五層塔は、鎌倉時代に作られたとみられています。
江戸時代には、この大江広元の墓を探すために、毛利家の家老が訪れた逸話が遺されています。しかし、その家老の態度が非常に横柄だったため、当時の住民達は誰ひとりとして、五層塔の在り処を教えなかったと伝えられているのです。
そして2つ目は、神奈川県鎌倉市西御門（にしみかど）にある供養塔。しかし、こちらは江戸時代に長州藩（現在の山口県）によって作られたと言われているだけでなく、大江広元の邸宅が胡桃山付近にあったことなどから、近年では、十二所の五層塔を大江広元のお墓だとする説が有力視されています。
今回の大河ドラマで史実には描かれていない二つのフューチャーされたこと。
一つは北条政子と見つめあうことが何度かあったり二人が手を取り合うシーンがあったこと。ネットではそこに恋の火柱が走ったとの声が上がりました。
もう一つは、実朝は、源頼朝の代から受け継がれてきた“鎌倉殿の証し”の「髑髏(どくろ)」を御所に忘れてきたことに気づくも、八田知家（市原隼人）が警護のため八幡宮を離れられない中、御所の重要な文書を背負ってきた大江広元が現れ「そのお役目、私が」「御所の中は知り尽くしています。近道を通れば、あっという間」と志願しました。政子は広元の手を取り「このこと、生涯忘れません」と感謝。広元は手を重ね「お任せを」と御所へ向かいました。 5〜6人の敵に囲まれながら、広元は見事な太刀さばき。激闘に髪も乱れました。広元強い強い！ 実朝の居室。物陰に隠れ、実朝を救い出そうと駆けつけた義盛と刀を交えることは回避。無事、髑髏を持ち帰りました。文官なのにこういう立ち回りがあったというのは稀なことです。
この大江広元が北条義時と一心同体であったのに対し、将軍・源実朝(柿澤勇人)や北条泰時(坂口健太郎)の心に寄り添ったもう一人の文官・三善康信（みよしのやすのぶ.小林隆） をいずれ深堀りしてみましょう。
参考文献
『現代語訳吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人 (編) 吉川弘文館
後白河法皇(西田敏行)の傍らにぴったりくっついていた丹後局（たんごのつぼね.鈴木京香）について 上
この鈴木京香という役者さんもすっかり三谷組の一員ですね。三谷幸喜作品でちょいちょい見かけます。
「丹後局」というのは本名ではありません。昔の女性にはよくあること。〇〇局というのは、貴人に仕える侍女の中でも特に身分の高い者に対する尊称です。丹後局の名前は「高階栄子（たかしなの よしこ/えいし）」と伝わっていますが…これもまた本名ではないのです。位を貰う時や、土地の権利を扱う時の便宜上の名前なのです。
それから丹後局は父と母のことも諸説あります。ハッキリと確定できるのは後白河法皇の側近の妻だったということだけなのです。
後白河法皇に仕えていた平業房と結婚しますが、1179年（治承３年）、平清盛がクーデターを起こして後白河法皇を鳥羽殿に幽閉（治承三年の政変）。
夫の業房は解官され、伊豆国に流罪となり、脱走をはかったが処刑されたのだという。
栄子は鳥羽殿に幽閉された後白河法皇に仕えるようになり、丹後局と称されます。
丹後局は美貌の持ち主だったらしく、たちまち後白河法皇(西田敏行)の寵愛を受ける事となります。治承5（1181）年3月に平清盛(松平健)が亡くなった後、再び後白河法皇は政治の場に復活しました。法皇の寵愛を得た丹後局は、1181年（養和元年）に覲子内親王（きんしないしんのう)を産み、院政の陰の実力者となっていきますが、右大臣だった九条兼実は、まるで楊貴妃のようだと嘆いたのだそうです。
1183年（寿永２年）７月、木曽義仲(青木崇高)に攻められ、平家一門が安徳天皇(相澤智咲)と三種の神器を奉じて都落ちすると後鳥羽天皇(尾上松也)が擁立されますが、これは丹後局の進言があったためと伝えられています。
1192年（建久３年）に後白河法皇が崩御すると出家しましたが、娘の覲子（宣陽門院）とともに政治に介入し、関白九条兼実に対抗するため土御門通親（源通親=関智一.演）と手を結びます。それは朝廷内では楊貴妃にも例えられていました。公家の九条兼実(ココリコの田中直樹)の日記『玉葉(ぎょくよう)』には「近日朝務ひとえにかの脣吻（しんぷん）にあり」と記されています。
また、この人、夫の平業房(なりふさ)とは別の男性との間に子をなしたと伝えられています。
ドラマでも後白河法皇の死去により退場するかと思いきや、とんでもないです。後白河法皇の遺領として娘に譲られた膨大な荘園群(長講堂領)を背景にして、丹後局は京都政界の中心として活躍します。当時は女性が直接政治に口出しすることは困難でしたから、土御門通親(関智一)という人物を通しての工作でした。また、源頼朝の娘・大姫(南沙良)の入内工作に関与し、頼朝夫妻の上洛を歓待した人物とされています。そして、その立場を利用し、土御門通親こと源通親（みちちか）らと謀って、政敵・九条兼実を失脚させ、朝廷内の親幕府派の勢力を殺ぐことに成功したのでした（＝建久７年の政変）。
この鈴木京香という役者さんもすっかり三谷組の一員ですね。三谷幸喜作品でちょいちょい見かけます。
「丹後局」というのは本名ではありません。昔の女性にはよくあること。〇〇局というのは、貴人に仕える侍女の中でも特に身分の高い者に対する尊称です。丹後局の名前は「高階栄子（たかしなの よしこ/えいし）」と伝わっていますが…これもまた本名ではないのです。位を貰う時や、土地の権利を扱う時の便宜上の名前なのです。
それから丹後局は父と母のことも諸説あります。ハッキリと確定できるのは後白河法皇の側近の妻だったということだけなのです。
後白河法皇に仕えていた平業房と結婚しますが、1179年（治承３年）、平清盛がクーデターを起こして後白河法皇を鳥羽殿に幽閉（治承三年の政変）。
夫の業房は解官され、伊豆国に流罪となり、脱走をはかったが処刑されたのだという。
栄子は鳥羽殿に幽閉された後白河法皇に仕えるようになり、丹後局と称されます。
丹後局は美貌の持ち主だったらしく、たちまち後白河法皇(西田敏行)の寵愛を受ける事となります。治承5（1181）年3月に平清盛(松平健)が亡くなった後、再び後白河法皇は政治の場に復活しました。法皇の寵愛を得た丹後局は、1181年（養和元年）に覲子内親王（きんしないしんのう)を産み、院政の陰の実力者となっていきますが、右大臣だった九条兼実は、まるで楊貴妃のようだと嘆いたのだそうです。
1183年（寿永２年）７月、木曽義仲(青木崇高)に攻められ、平家一門が安徳天皇(相澤智咲)と三種の神器を奉じて都落ちすると後鳥羽天皇(尾上松也)が擁立されますが、これは丹後局の進言があったためと伝えられています。
1192年（建久３年）に後白河法皇が崩御すると出家しましたが、娘の覲子（宣陽門院）とともに政治に介入し、関白九条兼実に対抗するため土御門通親（源通親=関智一.演）と手を結びます。それは朝廷内では楊貴妃にも例えられていました。公家の九条兼実(ココリコの田中直樹)の日記『玉葉(ぎょくよう)』には「近日朝務ひとえにかの脣吻（しんぷん）にあり」と記されています。
また、この人、夫の平業房(なりふさ)とは別の男性との間に子をなしたと伝えられています。
ドラマでも後白河法皇の死去により退場するかと思いきや、とんでもないです。後白河法皇の遺領として娘に譲られた膨大な荘園群(長講堂領)を背景にして、丹後局は京都政界の中心として活躍します。当時は女性が直接政治に口出しすることは困難でしたから、土御門通親(関智一)という人物を通しての工作でした。また、源頼朝の娘・大姫(南沙良)の入内工作に関与し、頼朝夫妻の上洛を歓待した人物とされています。そして、その立場を利用し、土御門通親こと源通親（みちちか）らと謀って、政敵・九条兼実を失脚させ、朝廷内の親幕府派の勢力を殺ぐことに成功したのでした（＝建久７年の政変）。
後白河法皇(西田敏行)の傍らにぴったりくっついていた丹後局（たんごのつぼね.鈴木京香）について 下
ここで登場するのが源頼朝(大泉洋)です。娘の大姫(南沙良)を入内させて外戚として権力を奮おうとしたのです。紆余曲折ののち、結果的に丹後局はこれに協力しましたが、大姫の死により、これは流れました。しかし頼朝は諦めません。大姫の妹・三幡(さんまん)を入内させようとしました。しかしこれも急死により頓挫し、頼朝自身の死により、鎌倉幕府からの入内計画は行われなくなりました。
頼朝の丹後局への接近は、これまで頼朝と協力体制を築いてきた九条兼実の失脚へと繋がりました（建久七年の政変）。
その後、丹後局と土御門通親が朝廷の実権を握りましたが、1202年（建仁２年）に通親が死去すると丹後局の威信も失墜。
晩年は、東山の浄土院に住み、1216年（建保４年）に亡くなったのだというのですが、異説ありです。
その子孫は山科家として朝廷の財務担当などになり、戦国時代には山科時継が織田信長・徳川家康などと交渉を持ち、さらに明治時代には子孫が伯爵に任じられ、令和の今にも続いています。
…しかしまあ、鎌倉時代も女性は強かったんだなー。
公式ガイドブック
『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人』 NHK出版
ガイドブック
『NHK2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」』TVガイドMOOK（東京ニュース通信社）
『NHK2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」メモリアルブック』TVガイドMOOK（東京ニュース通信社
『NHK2022年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」』 NIKKO MOOK（産経新聞出版）
参考文献・図書
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(現代語訳・編) 吉川弘文館
『玉葉』 九条兼実(著) 国書刊行
『愚管抄』 慈円(著) 丸山二郎(校注) 岩波文庫
『政権を動かした女たち』「丹後局」 西井芳子(著) 人物日本の女性史第5巻、集英社
ここで登場するのが源頼朝(大泉洋)です。娘の大姫(南沙良)を入内させて外戚として権力を奮おうとしたのです。紆余曲折ののち、結果的に丹後局はこれに協力しましたが、大姫の死により、これは流れました。しかし頼朝は諦めません。大姫の妹・三幡(さんまん)を入内させようとしました。しかしこれも急死により頓挫し、頼朝自身の死により、鎌倉幕府からの入内計画は行われなくなりました。
頼朝の丹後局への接近は、これまで頼朝と協力体制を築いてきた九条兼実の失脚へと繋がりました（建久七年の政変）。
その後、丹後局と土御門通親が朝廷の実権を握りましたが、1202年（建仁２年）に通親が死去すると丹後局の威信も失墜。
晩年は、東山の浄土院に住み、1216年（建保４年）に亡くなったのだというのですが、異説ありです。
その子孫は山科家として朝廷の財務担当などになり、戦国時代には山科時継が織田信長・徳川家康などと交渉を持ち、さらに明治時代には子孫が伯爵に任じられ、令和の今にも続いています。
…しかしまあ、鎌倉時代も女性は強かったんだなー。
公式ガイドブック
『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人』 NHK出版
ガイドブック
『NHK2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」』TVガイドMOOK（東京ニュース通信社）
『NHK2022年大河ドラマ「鎌倉殿の13人」メモリアルブック』TVガイドMOOK（東京ニュース通信社
『NHK2022年 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」』 NIKKO MOOK（産経新聞出版）
参考文献・図書
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(現代語訳・編) 吉川弘文館
『玉葉』 九条兼実(著) 国書刊行
『愚管抄』 慈円(著) 丸山二郎(校注) 岩波文庫
『政権を動かした女たち』「丹後局」 西井芳子(著) 人物日本の女性史第5巻、集英社
明庵栄西(みょうあんえいさい) 上
鎌倉幕府、とりわけ源実朝(柿澤勇人)と僧・栄西(えいさい)との関係について。大河ドラマには出てきません。
まず、栄西（永治元年4月20日=1141年5月27日 - 建保3年7月5日=1215年8月1日）とは、平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した臨済宗の開祖。字(あざな)が明菴、諱(いみな)が栄西。鎌倉幕府の庇護を受け、寿福寺の住職となり、源頼家の庇護により京都に建仁寺を建立しました。『喫茶養生記』を著し二日酔いに苦しむ源実朝にお茶をすすめるなど、喫茶の習慣を再興させた人物としても知られています。
栄西は1141年（永治元年）現在の岡山県に生まれました。1154年（久寿元年）14歳のときに比叡山延暦寺において出家得度し、天台宗の教学と密教を学びます。1168年（仁安３年）、平氏の庇護を受けて南宋に留学し、繁栄していた禅宗を学びます。
1187年（文治３年）にも再び南宋を訪れ天台山万年寺に学び、臨済宗黄龍派の嗣法を授けられ帰国します。九州北部を中心に布教し、1195年（建久６年）博多に日本初の禅宗道場である聖福寺を建立します。1198年（建久９年）には『興禅護国論』を著し、禅は既存の宗派と対立するものではなく、仏法の復興を目指すものであると説きます。
その後は鎌倉に下向し幕府の庇護を受け、布教につとめます。1200年（正治２年）、北条政子が建立した寿福寺の住職に招かれ、1202年（建仁２年）には源頼家を開基とした禅・天台・真言、三宗兼学の寺院、京都の建仁寺を建立します。
鎌倉幕府が栄西を庇護したため鎌倉には幕府の実力者が建立した臨済宗寺院が多くあります。鎌倉幕府が制定し、室町幕府が現在の形とした鎌倉五山、建長寺、円覚寺、寿福寺、浄智寺、浄妙寺はいずれも臨済宗の寺院です。
実朝が宋行きの船を造らせるにいたったのも、この栄西が宋にいたこととなにかの関係があるのかもしれませんね。
さて、『吾妻鏡』によれば正治二（1200）年一月十三日に栄西を導師にして頼朝(大泉洋)の一周忌が行われました。同年閏二月十二日には、「尼御台所（北条政子.=小池栄子）の御願として伽藍を建立せんがために亀谷の地を點じ出さる」 そして十三日には、「亀谷の地を葉上房栄西に寄付せられ、清浄結界の地たるべきの由、仰せ下さる。午の剋、結衆らその地に行道す。施主（政子）監臨したまふ。・・・同舎（壽福寺）栄作の事始めなり」 と北条政子の希望で栄西を開山として壽福寺が建立されました。
また源実朝とは、建保二（1214）年二月大四日「将軍家いささか御病惱。諸人奔走す。ただし殊なる御事なし。これもしは去夜御淵酔の餘気か。ここに葉上僧正御加持に候ずるのところ、この事を聞き、良薬と称して、本寺より茶一盞を召し進ず。しかうして一巻の書を相副へ、これを献じせしむ。茶徳を誉むるところの書なり。将軍家御感悦に及ぶと云々」 栄西が『喫茶養生記』を実朝に献上した行ですが、栄西と実朝の親しさが伝わるエピソードです。
このような栄西に係る記事は、建保三（1215）年6月小五日の「壽福寺長老葉上僧正栄西入滅す。痢病によってなり。結縁と称し、鎌倉中の諸人群集す。遠江守（源親広）、将軍家の御使として、終焉の砌に莅むと云々」 と栄西の死をもって最後となりますが、随所に出てきます。『吾妻鏡』については元寇以後の13世紀後半に編纂されたと言われていますが、一つ一つの記事を見ると日時、天気、出来事、登場人物が具体的かつ詳細に書かれており、少なくともその土台となる日記は間違いなく存在したと思われます。これだけ栄西のことが記録されているということは、鎌倉幕府にとって栄西が単に宗教上の結びつき以上の存在で、無視できない人物であったことは間違いないでしょう。また壽福寺も北条政子や実朝そして後に執権となる北条泰時(坂口健太郎)もたびたび訪れたサロンのようになっていたのではないでしょうか。
(続く)
鎌倉幕府、とりわけ源実朝(柿澤勇人)と僧・栄西(えいさい)との関係について。大河ドラマには出てきません。
まず、栄西（永治元年4月20日=1141年5月27日 - 建保3年7月5日=1215年8月1日）とは、平安時代末期から鎌倉時代初期に活躍した臨済宗の開祖。字(あざな)が明菴、諱(いみな)が栄西。鎌倉幕府の庇護を受け、寿福寺の住職となり、源頼家の庇護により京都に建仁寺を建立しました。『喫茶養生記』を著し二日酔いに苦しむ源実朝にお茶をすすめるなど、喫茶の習慣を再興させた人物としても知られています。
栄西は1141年（永治元年）現在の岡山県に生まれました。1154年（久寿元年）14歳のときに比叡山延暦寺において出家得度し、天台宗の教学と密教を学びます。1168年（仁安３年）、平氏の庇護を受けて南宋に留学し、繁栄していた禅宗を学びます。
1187年（文治３年）にも再び南宋を訪れ天台山万年寺に学び、臨済宗黄龍派の嗣法を授けられ帰国します。九州北部を中心に布教し、1195年（建久６年）博多に日本初の禅宗道場である聖福寺を建立します。1198年（建久９年）には『興禅護国論』を著し、禅は既存の宗派と対立するものではなく、仏法の復興を目指すものであると説きます。
その後は鎌倉に下向し幕府の庇護を受け、布教につとめます。1200年（正治２年）、北条政子が建立した寿福寺の住職に招かれ、1202年（建仁２年）には源頼家を開基とした禅・天台・真言、三宗兼学の寺院、京都の建仁寺を建立します。
鎌倉幕府が栄西を庇護したため鎌倉には幕府の実力者が建立した臨済宗寺院が多くあります。鎌倉幕府が制定し、室町幕府が現在の形とした鎌倉五山、建長寺、円覚寺、寿福寺、浄智寺、浄妙寺はいずれも臨済宗の寺院です。
実朝が宋行きの船を造らせるにいたったのも、この栄西が宋にいたこととなにかの関係があるのかもしれませんね。
さて、『吾妻鏡』によれば正治二（1200）年一月十三日に栄西を導師にして頼朝(大泉洋)の一周忌が行われました。同年閏二月十二日には、「尼御台所（北条政子.=小池栄子）の御願として伽藍を建立せんがために亀谷の地を點じ出さる」 そして十三日には、「亀谷の地を葉上房栄西に寄付せられ、清浄結界の地たるべきの由、仰せ下さる。午の剋、結衆らその地に行道す。施主（政子）監臨したまふ。・・・同舎（壽福寺）栄作の事始めなり」 と北条政子の希望で栄西を開山として壽福寺が建立されました。
また源実朝とは、建保二（1214）年二月大四日「将軍家いささか御病惱。諸人奔走す。ただし殊なる御事なし。これもしは去夜御淵酔の餘気か。ここに葉上僧正御加持に候ずるのところ、この事を聞き、良薬と称して、本寺より茶一盞を召し進ず。しかうして一巻の書を相副へ、これを献じせしむ。茶徳を誉むるところの書なり。将軍家御感悦に及ぶと云々」 栄西が『喫茶養生記』を実朝に献上した行ですが、栄西と実朝の親しさが伝わるエピソードです。
このような栄西に係る記事は、建保三（1215）年6月小五日の「壽福寺長老葉上僧正栄西入滅す。痢病によってなり。結縁と称し、鎌倉中の諸人群集す。遠江守（源親広）、将軍家の御使として、終焉の砌に莅むと云々」 と栄西の死をもって最後となりますが、随所に出てきます。『吾妻鏡』については元寇以後の13世紀後半に編纂されたと言われていますが、一つ一つの記事を見ると日時、天気、出来事、登場人物が具体的かつ詳細に書かれており、少なくともその土台となる日記は間違いなく存在したと思われます。これだけ栄西のことが記録されているということは、鎌倉幕府にとって栄西が単に宗教上の結びつき以上の存在で、無視できない人物であったことは間違いないでしょう。また壽福寺も北条政子や実朝そして後に執権となる北条泰時(坂口健太郎)もたびたび訪れたサロンのようになっていたのではないでしょうか。
(続く)
明庵栄西(みょうあんえいさい) 下
栄西がいたこと、栄西の国際感覚を政子や実朝、歴代の北条執権が学んだこと、栄西のもたらした臨済宗により後日、蘭渓道隆や無学祖元といった中国の高僧を招聘できたことが、なにか鎌倉幕府にとって大事なイベントだったのかもしれません。
最後に「茶」について。日本でも茶そのものは平安時代からありました。おもに薬として服されていました。12世紀の末、栄西は、禅宗を持ち帰るなかで、中国宋代の新しい茶の製造法と利用法を学んで中国から帰りました。その栄西がもたらした茶は、こんにちと非常によく似た緑茶の粉末を攪拌して飲む習慣でした。
建保2年（1214）、実朝が二日酔いで苦しんでいた時、栄西が茶を献じて、実朝の二日酔いがすっかり回復したということです。この話は『吾妻鏡』に記されていて、栄西はこの時、茶の効能を説いた書物も献上しました。これが『喫茶養生記』であると考えられています。ここには、茶が人間の内臓を強化して寿命を延ばす仙薬であると記されています。それは広く日本に普及し、喫茶の文化が定着することになります。
参考文献
『岩波仏教辞典』 中村元、福永光司・田村芳朗・末木文美士・今野 達 (編) 岩波書店
『栄西 喫茶養生記』 古田紹欽(訳注) 講談社学術文庫
『栄西を訪ねて』 芝村哲三(著) 吉備人出版
『栄西「喫茶養生記」の研究』 熊倉功夫・姚国坤(編) 世界茶文化学術研究叢書II 宮帯出版社
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
栄西がいたこと、栄西の国際感覚を政子や実朝、歴代の北条執権が学んだこと、栄西のもたらした臨済宗により後日、蘭渓道隆や無学祖元といった中国の高僧を招聘できたことが、なにか鎌倉幕府にとって大事なイベントだったのかもしれません。
最後に「茶」について。日本でも茶そのものは平安時代からありました。おもに薬として服されていました。12世紀の末、栄西は、禅宗を持ち帰るなかで、中国宋代の新しい茶の製造法と利用法を学んで中国から帰りました。その栄西がもたらした茶は、こんにちと非常によく似た緑茶の粉末を攪拌して飲む習慣でした。
建保2年（1214）、実朝が二日酔いで苦しんでいた時、栄西が茶を献じて、実朝の二日酔いがすっかり回復したということです。この話は『吾妻鏡』に記されていて、栄西はこの時、茶の効能を説いた書物も献上しました。これが『喫茶養生記』であると考えられています。ここには、茶が人間の内臓を強化して寿命を延ばす仙薬であると記されています。それは広く日本に普及し、喫茶の文化が定着することになります。
参考文献
『岩波仏教辞典』 中村元、福永光司・田村芳朗・末木文美士・今野 達 (編) 岩波書店
『栄西 喫茶養生記』 古田紹欽(訳注) 講談社学術文庫
『栄西を訪ねて』 芝村哲三(著) 吉備人出版
『栄西「喫茶養生記」の研究』 熊倉功夫・姚国坤(編) 世界茶文化学術研究叢書II 宮帯出版社
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
大江広元 上
公家出身でありながら、鎌倉幕府初代将軍「源頼朝」（大泉洋）の腹心として、同幕府の草創期に大きく貢献した「大江広元」（おおえのひろもと.栗原英雄）。鎌倉幕府内では、一般的な政務や財政を司る「政所」の長官、「政所別当」（まんどころべっとう）として活躍した大江広元が、どのような生涯を送ったのか、その人となりが窺える逸話などを。
大江広元の出自には諸説ありますが、鎌倉幕府にまつわる歴史書『吾妻鏡』（あずまかがみ／あづまかがみ）などに記載がある没年と年齢から逆算すると、生年は1148年（久安4年）頃と推測されています。
「大江氏」は、もともと平安時代から続く学問の家柄であり、儒学者で歌人としても知られる「大江匡房」（おおえのまさふさ）や、同じく歌人の「和泉式部」（いずみしきぶ）などが同氏の出身です。
一説によると大江広元は、「大江維光」（おおえのこれみつ）の子として京都で誕生しましたが、そのあと、実母の再婚相手であった「中原広季」（なかはらのひろすえ）のもとで育てられたと伝えられています。明経博士・中原広季の養子となった大江広元は、それから晩年の1216年（建保4年）に「大江」姓に戻すまで、「中原広元」と名乗っていたのです。
大江広元は当初、下級貴族として朝廷における外記（げき：儀式の執行や上奏文の起草などを司った官職）を務めていましたが、1184年（寿永3年／元暦元年）、源頼朝の招きを受けて鎌倉へ下向。このときにはすでに、1180年（治承4年）に勃発した「源平合戦」において源氏方に与するため、兄の「中原親能」（なかはらのちかよし）が鎌倉入りしていました。
大江広元は、1183年（寿永2年／養和3年）7月に「平家」が都落ちしたことに伴い、兄に続く形で源頼朝に仕えることになったのです。
大江広元は1184年（寿永3年／元暦元年）、朝廷での実務経験で培った文筆の才を源頼朝に買われ、「公文所」（くもんじょ）の別当に就任。
1185年（寿永4年／文治元年：1191年［建久2年］説もあり）に、公文所が「政所」に改称されてからも同職を務め、鎌倉幕府と朝廷間の交渉役を担いました。
さらに大江広元は、同幕府に仕えていた御家人達の訴えを将軍・源頼朝に取り次ぐ「申次」（もうしつぎ）の職務も行うなどして、源頼朝の腹心としての地位を揺るがないものにしたのです。
同年に源頼朝が、「守護」職、及び「地頭」（じとう）職を設置する政策を打ち出していますが、これは、大江広元による献策であったと考えられています。また、源頼朝が弟「源義経」（菅田将暉）と仲違いした際、「兄に服従する気持ちはこれからも変わらない」とする旨の嘆願書、いわゆる「腰越状」（こしごえじょう）が源義経から大江広元宛に送られました。
これは、大江広元が源頼朝のいちばんの側近として、その信頼を得ていたことの証しでもあります。このように大江広元は、源頼朝に次ぐ鎌倉幕府の首脳となり、高く評価されていくようになったのです。
1199年（建久10年／正治元年）に源頼朝が亡くなると、2代将軍に就任した「源頼家」（金子大地）を、13名の有力御家人達が指導する体制が敷かれます。「13人の合議制」と称されるこの体制は、源頼家がまだ18歳と若かったため、その専制政治を抑止する目的で設けられました。
大江広元は、兄・中原親能(川島潤哉)と共にこの合議制の一員となったのです。鎌倉幕府内で実権を握っていた「執権」の「北条時政」（坂東 彌十郎）・「北条義時」（小栗旬）父子も同じくこの一員となっており、大江広元は鎌倉幕府内において、彼らに続く3番目の地位にあったと考えられています。
この当時、北条時政と北条義時はその覇権を確固たるものにするため、有力御家人の排除を実行。加えて北条時政が大江広元と共に政所別当の座に就き、北条氏の勢力が急激に拡大していました。そんな中、源頼朝が逝去したことが要因となって内部抗争が起こります。
このとき、大江広元は北条義時を陰ながら支えることで、その覇権維持に協力したのです。さらに大江広元は、北条氏に協調する姿勢を貫きます。
例えば、1221年（承久3年）に82代天皇「後鳥羽上皇」（尾上松也）が、北条義時の討伐を目的に兵を挙げた「承久の乱」（じょうきゅうのらん）において、源頼朝の正室「北条政子」（小池栄子）と共に主戦論を御家人達に説き、幕府軍に属してその勝利に大きく貢献。
このように大江広元は源頼朝の没後も、北条政子・北条義時のもとで幕政に参与したのです。
生涯を通じて鎌倉幕府に仕え、その発展の基礎を築いた大江広元でしたが、1225年（元仁2年／嘉禄元年）6月に死去しました。
(以下、「中」へ)
公家出身でありながら、鎌倉幕府初代将軍「源頼朝」（大泉洋）の腹心として、同幕府の草創期に大きく貢献した「大江広元」（おおえのひろもと.栗原英雄）。鎌倉幕府内では、一般的な政務や財政を司る「政所」の長官、「政所別当」（まんどころべっとう）として活躍した大江広元が、どのような生涯を送ったのか、その人となりが窺える逸話などを。
大江広元の出自には諸説ありますが、鎌倉幕府にまつわる歴史書『吾妻鏡』（あずまかがみ／あづまかがみ）などに記載がある没年と年齢から逆算すると、生年は1148年（久安4年）頃と推測されています。
「大江氏」は、もともと平安時代から続く学問の家柄であり、儒学者で歌人としても知られる「大江匡房」（おおえのまさふさ）や、同じく歌人の「和泉式部」（いずみしきぶ）などが同氏の出身です。
一説によると大江広元は、「大江維光」（おおえのこれみつ）の子として京都で誕生しましたが、そのあと、実母の再婚相手であった「中原広季」（なかはらのひろすえ）のもとで育てられたと伝えられています。明経博士・中原広季の養子となった大江広元は、それから晩年の1216年（建保4年）に「大江」姓に戻すまで、「中原広元」と名乗っていたのです。
大江広元は当初、下級貴族として朝廷における外記（げき：儀式の執行や上奏文の起草などを司った官職）を務めていましたが、1184年（寿永3年／元暦元年）、源頼朝の招きを受けて鎌倉へ下向。このときにはすでに、1180年（治承4年）に勃発した「源平合戦」において源氏方に与するため、兄の「中原親能」（なかはらのちかよし）が鎌倉入りしていました。
大江広元は、1183年（寿永2年／養和3年）7月に「平家」が都落ちしたことに伴い、兄に続く形で源頼朝に仕えることになったのです。
大江広元は1184年（寿永3年／元暦元年）、朝廷での実務経験で培った文筆の才を源頼朝に買われ、「公文所」（くもんじょ）の別当に就任。
1185年（寿永4年／文治元年：1191年［建久2年］説もあり）に、公文所が「政所」に改称されてからも同職を務め、鎌倉幕府と朝廷間の交渉役を担いました。
さらに大江広元は、同幕府に仕えていた御家人達の訴えを将軍・源頼朝に取り次ぐ「申次」（もうしつぎ）の職務も行うなどして、源頼朝の腹心としての地位を揺るがないものにしたのです。
同年に源頼朝が、「守護」職、及び「地頭」（じとう）職を設置する政策を打ち出していますが、これは、大江広元による献策であったと考えられています。また、源頼朝が弟「源義経」（菅田将暉）と仲違いした際、「兄に服従する気持ちはこれからも変わらない」とする旨の嘆願書、いわゆる「腰越状」（こしごえじょう）が源義経から大江広元宛に送られました。
これは、大江広元が源頼朝のいちばんの側近として、その信頼を得ていたことの証しでもあります。このように大江広元は、源頼朝に次ぐ鎌倉幕府の首脳となり、高く評価されていくようになったのです。
1199年（建久10年／正治元年）に源頼朝が亡くなると、2代将軍に就任した「源頼家」（金子大地）を、13名の有力御家人達が指導する体制が敷かれます。「13人の合議制」と称されるこの体制は、源頼家がまだ18歳と若かったため、その専制政治を抑止する目的で設けられました。
大江広元は、兄・中原親能(川島潤哉)と共にこの合議制の一員となったのです。鎌倉幕府内で実権を握っていた「執権」の「北条時政」（坂東 彌十郎）・「北条義時」（小栗旬）父子も同じくこの一員となっており、大江広元は鎌倉幕府内において、彼らに続く3番目の地位にあったと考えられています。
この当時、北条時政と北条義時はその覇権を確固たるものにするため、有力御家人の排除を実行。加えて北条時政が大江広元と共に政所別当の座に就き、北条氏の勢力が急激に拡大していました。そんな中、源頼朝が逝去したことが要因となって内部抗争が起こります。
このとき、大江広元は北条義時を陰ながら支えることで、その覇権維持に協力したのです。さらに大江広元は、北条氏に協調する姿勢を貫きます。
例えば、1221年（承久3年）に82代天皇「後鳥羽上皇」（尾上松也）が、北条義時の討伐を目的に兵を挙げた「承久の乱」（じょうきゅうのらん）において、源頼朝の正室「北条政子」（小池栄子）と共に主戦論を御家人達に説き、幕府軍に属してその勝利に大きく貢献。
このように大江広元は源頼朝の没後も、北条政子・北条義時のもとで幕政に参与したのです。
生涯を通じて鎌倉幕府に仕え、その発展の基礎を築いた大江広元でしたが、1225年（元仁2年／嘉禄元年）6月に死去しました。
(以下、「中」へ)
大江広元 中
源頼朝に幕政の助言をしたり、次なる権力者を見極めて北条氏に一貫して与したりするなど、その知力を駆使して激動の世の中を渡り歩いた大江広元。これは、2022年（令和4年）放送のNHK大河ドラマ、「鎌倉殿の13人」の出演者発表において、大江広元の人物像が「頭脳で乱世を生き抜く官僚」と表現されていたことからも分かります。
そんな大江広元の性格をよく表しているのが、自身の生涯を振り返った際、「私は成人してから泣いたことが一度もない」と明言したとされる逸話。その真偽のほどは定かではありませんが、この逸話からは、大江広元が常に冷静沈着であったことが窺えるのです。
一方で大江広元は、情熱的な一面も持ち合わせていました。それは、鎌倉市街地が戦場になったときのこと。他の御家人達は、ときの将軍「源実朝」（みなもとのさねとも）を避難させるために誘導しながらも、火の海に飲み込まれていく街並を見つめて唖然とするのみ。
ところが大江広元は、幕政において重要な書類が焼失してしまうことを危惧し、街の中へ戻ろうとしました。周囲が慌てて引き留めたことで何とかことなきを得ましたが、公家出身でありながら、鎌倉幕府という武家政権を確固たるものにするために尽力した、大江広元の強い責任感が表れている逸話です。
大江広元の血筋から、ある戦国大名家の始祖となった人物が出ています。それは、大江広元の四男「大江季光」（おおえのすえみつ）。大江広元の所領の中から相模国毛利荘（現在の神奈川県厚木市）を相続した大江季光は、本姓は大江のまま、その地名から名字を「毛利」（もうり）に改めました。
つまり大江季光は、安芸国（現在の広島県西部）の戦国大名として活躍した「毛利家」を興したのです。同家12代当主「毛利元就」（もうりもとなり）の長男「毛利隆元」（もうりたかもと）や、同じく次男で、のちに「吉川氏」の養子に入った「吉川元春」（きっかわもとはる）など、毛利家の子孫達の名に「元」の字が多く用いられているのは、大江広元にちなんでいると言われています。
なお、毛利家の家紋として知られる「一文字に三つ星」の意匠についても、大江季光から受け継いだと考えられているのです。14代当主「毛利輝元」（もうりてるもと）の頃に、その本拠を毛利荘から安芸へ移していますが、広島の地名についても、大江広元から1字を取って付けられたとする説があります。
戦国時代に、毛利家が中国地方10ヵ国も領するほどに興隆できたのも、知略に長けた大江広元の政治手腕を引き継いでいたからかもしれません。
大江広元が出羽国寒河江荘（現在の山形県寒河江市）とゆかりを持つようになったのは、1189年（文治5年）のこと。大江広元は同年に勃発した「奥州合戦」（おうしゅうかっせん）において、「奥州藤原氏」を滅亡させました。その論功行賞（ろんこうこうしょう：功績の程度に応じて賞を与えること）として寒河江荘（さがえしょう）を含む広大な領地を鎌倉幕府より賜り、地頭職を得たことが始まりだったのです。
大江広元の所領はその子ども達が分割相続することとなり、寒河江荘の地頭には、大江広元の嫡男「大江親広」（おおえのちかひろ）が就任。
ところが大江親広は、承久の乱において父・大江広元が幕府軍に与したのにもかかわらず、後鳥羽上皇方に荷担しました。大江親広が官軍に味方したのは、京都守護を務めていたために朝廷と深い繋がりがあったことが理由として考えられています。
承久の乱が鎌倉幕府の圧勝で終わったため、大江親広は寒河江荘へと敗走。しかし、父・大江広元が同乱で幕府の勝利に貢献したこともあり、追及の手はさほど厳しくはありませんでした。無事に落ち延びた大江親広は、富沢（現在の山形県西村山郡大江町）などに隠棲（いんせい）し、その生涯を閉じたと伝えられています。
そののち、大江親広の子「大江広時」（おおえのひろとき）の系統が南寒河江荘の地頭職を安堵され、大江広元から数えて5代目の「大江元顕」（おおえのもとたか）の頃に、鎌倉から寒河江へ移住したのです。大江氏による寒河江の統治は、1584年（天正12年）に「最上義光」（もがみよしあき）に滅ぼされるまで約400年も続いており、そのうち約300年は、大江元顕以降の大江氏が直接支配しました。
また、日本の系図集「尊卑分脈」（そんぴぶんみゃく）によれば、大江広元から数えて8代目の「寒河江時氏」（さがえときうじ）が、「寒河江」姓を名乗った初代とされています。寒河江時氏は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した武将であり、現存する史料にも、この頃からようやく寒河江氏の記述が見られるようになりました。
(以下、「下」へ)
源頼朝に幕政の助言をしたり、次なる権力者を見極めて北条氏に一貫して与したりするなど、その知力を駆使して激動の世の中を渡り歩いた大江広元。これは、2022年（令和4年）放送のNHK大河ドラマ、「鎌倉殿の13人」の出演者発表において、大江広元の人物像が「頭脳で乱世を生き抜く官僚」と表現されていたことからも分かります。
そんな大江広元の性格をよく表しているのが、自身の生涯を振り返った際、「私は成人してから泣いたことが一度もない」と明言したとされる逸話。その真偽のほどは定かではありませんが、この逸話からは、大江広元が常に冷静沈着であったことが窺えるのです。
一方で大江広元は、情熱的な一面も持ち合わせていました。それは、鎌倉市街地が戦場になったときのこと。他の御家人達は、ときの将軍「源実朝」（みなもとのさねとも）を避難させるために誘導しながらも、火の海に飲み込まれていく街並を見つめて唖然とするのみ。
ところが大江広元は、幕政において重要な書類が焼失してしまうことを危惧し、街の中へ戻ろうとしました。周囲が慌てて引き留めたことで何とかことなきを得ましたが、公家出身でありながら、鎌倉幕府という武家政権を確固たるものにするために尽力した、大江広元の強い責任感が表れている逸話です。
大江広元の血筋から、ある戦国大名家の始祖となった人物が出ています。それは、大江広元の四男「大江季光」（おおえのすえみつ）。大江広元の所領の中から相模国毛利荘（現在の神奈川県厚木市）を相続した大江季光は、本姓は大江のまま、その地名から名字を「毛利」（もうり）に改めました。
つまり大江季光は、安芸国（現在の広島県西部）の戦国大名として活躍した「毛利家」を興したのです。同家12代当主「毛利元就」（もうりもとなり）の長男「毛利隆元」（もうりたかもと）や、同じく次男で、のちに「吉川氏」の養子に入った「吉川元春」（きっかわもとはる）など、毛利家の子孫達の名に「元」の字が多く用いられているのは、大江広元にちなんでいると言われています。
なお、毛利家の家紋として知られる「一文字に三つ星」の意匠についても、大江季光から受け継いだと考えられているのです。14代当主「毛利輝元」（もうりてるもと）の頃に、その本拠を毛利荘から安芸へ移していますが、広島の地名についても、大江広元から1字を取って付けられたとする説があります。
戦国時代に、毛利家が中国地方10ヵ国も領するほどに興隆できたのも、知略に長けた大江広元の政治手腕を引き継いでいたからかもしれません。
大江広元が出羽国寒河江荘（現在の山形県寒河江市）とゆかりを持つようになったのは、1189年（文治5年）のこと。大江広元は同年に勃発した「奥州合戦」（おうしゅうかっせん）において、「奥州藤原氏」を滅亡させました。その論功行賞（ろんこうこうしょう：功績の程度に応じて賞を与えること）として寒河江荘（さがえしょう）を含む広大な領地を鎌倉幕府より賜り、地頭職を得たことが始まりだったのです。
大江広元の所領はその子ども達が分割相続することとなり、寒河江荘の地頭には、大江広元の嫡男「大江親広」（おおえのちかひろ）が就任。
ところが大江親広は、承久の乱において父・大江広元が幕府軍に与したのにもかかわらず、後鳥羽上皇方に荷担しました。大江親広が官軍に味方したのは、京都守護を務めていたために朝廷と深い繋がりがあったことが理由として考えられています。
承久の乱が鎌倉幕府の圧勝で終わったため、大江親広は寒河江荘へと敗走。しかし、父・大江広元が同乱で幕府の勝利に貢献したこともあり、追及の手はさほど厳しくはありませんでした。無事に落ち延びた大江親広は、富沢（現在の山形県西村山郡大江町）などに隠棲（いんせい）し、その生涯を閉じたと伝えられています。
そののち、大江親広の子「大江広時」（おおえのひろとき）の系統が南寒河江荘の地頭職を安堵され、大江広元から数えて5代目の「大江元顕」（おおえのもとたか）の頃に、鎌倉から寒河江へ移住したのです。大江氏による寒河江の統治は、1584年（天正12年）に「最上義光」（もがみよしあき）に滅ぼされるまで約400年も続いており、そのうち約300年は、大江元顕以降の大江氏が直接支配しました。
また、日本の系図集「尊卑分脈」（そんぴぶんみゃく）によれば、大江広元から数えて8代目の「寒河江時氏」（さがえときうじ）が、「寒河江」姓を名乗った初代とされています。寒河江時氏は、南北朝時代から室町時代前期にかけて活躍した武将であり、現存する史料にも、この頃からようやく寒河江氏の記述が見られるようになりました。
(以下、「下」へ)
大江広元(おおえのひろもと) 中
NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人で大江広元役を演じているのは、俳優の「栗原英雄」（くりはらひでお）です。
1984年（昭和59年）に「劇団四季」（げきだんしき）へ入団後、「ライオンキング」など数々のミュージカルに出演。2009年（平成21年）に退団したあとは、舞台や映画を中心に活躍していました。
栗原英雄のテレビドラマ初出演は、2016年（平成28年）のNHK大河ドラマ「真田丸」（さなだまる）です。「真田幸村（真田信繁）」（さなだゆきむら／さなだのぶしげ）が主人公の同ドラマは、大河ドラマ鎌倉殿の13人と同じく「三谷幸喜」（みたにこうき）さんが脚本を担当。栗原英雄さんが演じたのは、真田幸村の父「真田昌幸」（さなだまさゆき）の実弟、「真田信尹」（さなだのぶただ）です。栗原英雄は、その渋いキャラクターで多くのファンを獲得し、「叔父上」の愛称で親しまれました。
2020年（令和2年）11月19日に行われた大河ドラマ鎌倉殿の13人のキャスト発表において、大江広元役が栗原英雄さんであることが明らかになると、「叔父上ファン」の人達が興奮冷めやらぬ様子で、「さすがの配役！」などとSNSに投稿。真田丸の放送が終了してからも、叔父上、そして栗原英雄さんが、根強い人気を博していることが示されたのです。
鎌倉殿の13人での大江広元は、史実通りに源頼朝の腹心となり、鎌倉幕府の草創期を支えた重要人物として描かれています。そのなかでも、栗原英雄の演技が光ったのは、2022年（令和4年）4月17日放送分の第15回「足固めの儀式」。この回では、源頼朝が、「上総広常」（かずさひろつね：演・佐藤浩市）を御家人達の目の前で討ち取らせたシーンが話題に。その放送直後から翌朝にかけて、SNSでは「頼朝嫌い」、「上総介を偲ぶ会」、「大泉のせい」などのワードがトレンド入りしたのです。
そして、源頼朝に上総広常を討つように進言していた大江広元も、そのときのトレンドワードに並んでいます。それらの投稿では、「左右の目の動きを変える演技が凄い」、「全部大江広元のせいだ！と言いたくなるほどの冷酷な策士ぶり」といった、栗原英雄の高い演技力を絶賛する内容のものが多く見られました。
神奈川県鎌倉市内には、大江広元の物だと伝わるお墓が2つあります。
ひとつ目は、「明王院」（みょうおういん：神奈川県鎌倉市十二所）の裏山・胡桃山（くるみやま）にある石造の五層塔。同寺は1235年（文暦2年／嘉禎元年）に、鎌倉幕府4代将軍「藤原頼経」（ふじわらのよりつね）によって創建されました。胡桃山の山中にあるこの五層塔は、鎌倉時代に作られたとみられています。
江戸時代には、この大江広元の墓を探すために、毛利家の家老が訪れた逸話が遺されています。しかし、その家老の態度が非常に横柄だったため、当時の住民達は誰ひとりとして、五層塔の在り処を教えなかったと伝えられているのです。
そして2つ目は、神奈川県鎌倉市西御門（にしみかど）にある供養塔。しかし、こちらは江戸時代に長州藩（現在の山口県）によって作られたと言われているだけでなく、大江広元の邸宅が胡桃山付近にあったことなどから、近年では、十二所の五層塔を大江広元のお墓だとする説が有力視されています。
今回の大河ドラマで史実には描かれていない二つのフューチャーされたこと。
一つは北条政子と見つめあうことが何度かあったり二人が手を取り合うシーンがあったこと。ネットではそこに恋の火柱が走ったとの声が上がりました。
もう一つは、実朝は、源頼朝の代から受け継がれてきた“鎌倉殿の証し”の「髑髏(どくろ)」を御所に忘れてきたことに気づくも、八田知家（市原隼人）が警護のため八幡宮を離れられない中、御所の重要な文書を背負ってきた大江広元が現れ「そのお役目、私が」「御所の中は知り尽くしています。近道を通れば、あっという間」と志願しました。政子は広元の手を取り「このこと、生涯忘れません」と感謝。広元は手を重ね「お任せを」と御所へ向かいました。
5〜6人の敵に囲まれながら、広元は見事な太刀さばき。激闘に髪も乱れました。広元強い強い！ 実朝の居室。物陰に隠れ、実朝を救い出そうと駆けつけた義盛と刀を交えることは回避。無事、髑髏を持ち帰えりました。文官なのにこういう立ち回りがあったというのは稀なことです。
参考文献
『鎌倉殿の13人 前編』『鎌倉殿の13人 後編』『鎌倉殿の13人 完結編』
NHK出版〈NHK大河ドラマ・ガイド〉
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
NHK大河ドラマ鎌倉殿の13人で大江広元役を演じているのは、俳優の「栗原英雄」（くりはらひでお）です。
1984年（昭和59年）に「劇団四季」（げきだんしき）へ入団後、「ライオンキング」など数々のミュージカルに出演。2009年（平成21年）に退団したあとは、舞台や映画を中心に活躍していました。
栗原英雄のテレビドラマ初出演は、2016年（平成28年）のNHK大河ドラマ「真田丸」（さなだまる）です。「真田幸村（真田信繁）」（さなだゆきむら／さなだのぶしげ）が主人公の同ドラマは、大河ドラマ鎌倉殿の13人と同じく「三谷幸喜」（みたにこうき）さんが脚本を担当。栗原英雄さんが演じたのは、真田幸村の父「真田昌幸」（さなだまさゆき）の実弟、「真田信尹」（さなだのぶただ）です。栗原英雄は、その渋いキャラクターで多くのファンを獲得し、「叔父上」の愛称で親しまれました。
2020年（令和2年）11月19日に行われた大河ドラマ鎌倉殿の13人のキャスト発表において、大江広元役が栗原英雄さんであることが明らかになると、「叔父上ファン」の人達が興奮冷めやらぬ様子で、「さすがの配役！」などとSNSに投稿。真田丸の放送が終了してからも、叔父上、そして栗原英雄さんが、根強い人気を博していることが示されたのです。
鎌倉殿の13人での大江広元は、史実通りに源頼朝の腹心となり、鎌倉幕府の草創期を支えた重要人物として描かれています。そのなかでも、栗原英雄の演技が光ったのは、2022年（令和4年）4月17日放送分の第15回「足固めの儀式」。この回では、源頼朝が、「上総広常」（かずさひろつね：演・佐藤浩市）を御家人達の目の前で討ち取らせたシーンが話題に。その放送直後から翌朝にかけて、SNSでは「頼朝嫌い」、「上総介を偲ぶ会」、「大泉のせい」などのワードがトレンド入りしたのです。
そして、源頼朝に上総広常を討つように進言していた大江広元も、そのときのトレンドワードに並んでいます。それらの投稿では、「左右の目の動きを変える演技が凄い」、「全部大江広元のせいだ！と言いたくなるほどの冷酷な策士ぶり」といった、栗原英雄の高い演技力を絶賛する内容のものが多く見られました。
神奈川県鎌倉市内には、大江広元の物だと伝わるお墓が2つあります。
ひとつ目は、「明王院」（みょうおういん：神奈川県鎌倉市十二所）の裏山・胡桃山（くるみやま）にある石造の五層塔。同寺は1235年（文暦2年／嘉禎元年）に、鎌倉幕府4代将軍「藤原頼経」（ふじわらのよりつね）によって創建されました。胡桃山の山中にあるこの五層塔は、鎌倉時代に作られたとみられています。
江戸時代には、この大江広元の墓を探すために、毛利家の家老が訪れた逸話が遺されています。しかし、その家老の態度が非常に横柄だったため、当時の住民達は誰ひとりとして、五層塔の在り処を教えなかったと伝えられているのです。
そして2つ目は、神奈川県鎌倉市西御門（にしみかど）にある供養塔。しかし、こちらは江戸時代に長州藩（現在の山口県）によって作られたと言われているだけでなく、大江広元の邸宅が胡桃山付近にあったことなどから、近年では、十二所の五層塔を大江広元のお墓だとする説が有力視されています。
今回の大河ドラマで史実には描かれていない二つのフューチャーされたこと。
一つは北条政子と見つめあうことが何度かあったり二人が手を取り合うシーンがあったこと。ネットではそこに恋の火柱が走ったとの声が上がりました。
もう一つは、実朝は、源頼朝の代から受け継がれてきた“鎌倉殿の証し”の「髑髏(どくろ)」を御所に忘れてきたことに気づくも、八田知家（市原隼人）が警護のため八幡宮を離れられない中、御所の重要な文書を背負ってきた大江広元が現れ「そのお役目、私が」「御所の中は知り尽くしています。近道を通れば、あっという間」と志願しました。政子は広元の手を取り「このこと、生涯忘れません」と感謝。広元は手を重ね「お任せを」と御所へ向かいました。
5〜6人の敵に囲まれながら、広元は見事な太刀さばき。激闘に髪も乱れました。広元強い強い！ 実朝の居室。物陰に隠れ、実朝を救い出そうと駆けつけた義盛と刀を交えることは回避。無事、髑髏を持ち帰えりました。文官なのにこういう立ち回りがあったというのは稀なことです。
参考文献
『鎌倉殿の13人 前編』『鎌倉殿の13人 後編』『鎌倉殿の13人 完結編』
NHK出版〈NHK大河ドラマ・ガイド〉
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
今日は藤原兼子（ふじわら の けんし)について。演じているのはミュージカルなどで高い評価を得て生きたシルビア・グラブ。
藤原兼子はドラマでは慈円(山寺 宏一)とともに後鳥羽上皇(尾上松也)の横に侍っています。それは兄の藤原範光は後鳥羽皇が天皇だった時代に低い官位ながらも重用され、兼子も乳母として仕えたことからです。院の信任を得て院政に重きをなしました。
藤原兼子は、久寿２年（1155）に宮廷貴族の娘として生まれます。父親は歌人、歌学者である藤原範兼（のりかね）です。父の官名・刑部卿（ぎょうぶきょう）にちなんで「卿局(きょうのつぼね)」と通称されました。また、正治元年（1199）に「典侍（てんじ）」、元久元年（1204）に「従三位（じゅさんみ）」、承元元年（1207）に「従二位」となり、自身の官位昇進に応じて「卿典侍」「卿三位」「卿二位」とも呼ばれました。
兼子と姉である範子（はんし）は、父・範兼の死後、叔父で範兼の養子になった範季（のりすえ）のもとで育ちます。範季は後白河法皇の側近であり、治承４年（1180）に高倉天皇の第四皇子・尊成親王（のちの後鳥羽天皇）が誕生すると、その養父となりました。それにより姉妹は後鳥羽天皇の乳母としての地位を得たのでした。
この時期は源平合戦が佳境を迎え、平家は都落ちした後、文治元年（1185）に壇ノ浦にて滅亡を迎えました。そこで海に沈んだ安徳天皇に変わって即位したのは、兼子が乳母を務めた第四皇子でした。彼は即位し、後鳥羽天皇となります。乳母で信頼の篤い兼子は、後鳥羽天皇のそばで仕えました。
当時の朝廷は、後白河法皇が院政を行い、政権を握っていました。しかし、建久３年（1192）に法皇が没すると、法皇と対立していた関白・九条兼実が実権を握りました。すると、源通親（みちちか）ら法皇の旧側近はこれと対立。その後、通親は策謀によって兼実を失脚させ、政権を握ったのでした。
建久９年（1198）、後鳥羽天皇は通親の外孫にあたる皇子・為仁（土御門天皇）に譲位。上皇として院政を始めたのでした。兼子はその翌年正治元年（1199）に「典侍（てんじ）」という天皇の側近女官の地位につくことになります。ちなみに、後鳥羽天皇が譲位した土御門天皇は、乳母を務めた姉・範子の孫にあたります。範子と僧・能円（のうえん）の間に生まれた、在子（承明門院）が土御門天皇の母です。
ちなみに、後鳥羽天皇が譲位した土御門天皇は、乳母を務めた姉・範子の孫にあたります。範子と僧・能円（のうえん）の間に生まれた、在子（承明門院）が土御門天皇の母です。
3代将軍・源実朝(柿澤勇人)の妻に、養女としていた坊門信清（ぼうもんのぶきよ）の娘(千世.加藤小夏)を推薦したのは兼子だったといわれています。兼子には、鎌倉幕府内に朝廷の息のかかった者を送り込み、発言権を強めておきたいという狙いがあったようです。
また、建保6（1218）年に実朝の後継者問題で尼御台の北条政子(小池栄子)が上洛した際、自身の養育していた頼仁加藤小夏親王（よりひとしんのう）を推薦したのも、同様の理由と見られています。なお、この年に政子は異例の従三位、従二位に昇っていますが、兼子の後押しが背景にあったとされています。
天台宗の僧侶である慈円が書き記した『愚管抄』では、朝廷に兼子、鎌倉に政子、という東西の女性2人が権勢を振るう様を「女人入眼（にょにんじゅげん）の日本国」と評しています。その意味するところは、「日本国を取り仕切っているのは女性である」といったところです。
歴史の放つ光が兼子を照らすのはこの辺りまで。翌建保7（1219）年に鎌倉で起こった大事件、すなわち公暁(寛一郎)による実朝暗殺が、兼子ひいては後鳥羽上皇の運命を狂わせていきます。それは１２２１年（承久３年）の承久の乱で後鳥羽上皇が配流されたからです。
晩年の兼子はすっかり権勢が衰え、不遇の余生を送った。失意のうちに病没したのは、75歳の時のことでした。
藤原兼子はドラマでは慈円(山寺 宏一)とともに後鳥羽上皇(尾上松也)の横に侍っています。それは兄の藤原範光は後鳥羽皇が天皇だった時代に低い官位ながらも重用され、兼子も乳母として仕えたことからです。院の信任を得て院政に重きをなしました。
藤原兼子は、久寿２年（1155）に宮廷貴族の娘として生まれます。父親は歌人、歌学者である藤原範兼（のりかね）です。父の官名・刑部卿（ぎょうぶきょう）にちなんで「卿局(きょうのつぼね)」と通称されました。また、正治元年（1199）に「典侍（てんじ）」、元久元年（1204）に「従三位（じゅさんみ）」、承元元年（1207）に「従二位」となり、自身の官位昇進に応じて「卿典侍」「卿三位」「卿二位」とも呼ばれました。
兼子と姉である範子（はんし）は、父・範兼の死後、叔父で範兼の養子になった範季（のりすえ）のもとで育ちます。範季は後白河法皇の側近であり、治承４年（1180）に高倉天皇の第四皇子・尊成親王（のちの後鳥羽天皇）が誕生すると、その養父となりました。それにより姉妹は後鳥羽天皇の乳母としての地位を得たのでした。
この時期は源平合戦が佳境を迎え、平家は都落ちした後、文治元年（1185）に壇ノ浦にて滅亡を迎えました。そこで海に沈んだ安徳天皇に変わって即位したのは、兼子が乳母を務めた第四皇子でした。彼は即位し、後鳥羽天皇となります。乳母で信頼の篤い兼子は、後鳥羽天皇のそばで仕えました。
当時の朝廷は、後白河法皇が院政を行い、政権を握っていました。しかし、建久３年（1192）に法皇が没すると、法皇と対立していた関白・九条兼実が実権を握りました。すると、源通親（みちちか）ら法皇の旧側近はこれと対立。その後、通親は策謀によって兼実を失脚させ、政権を握ったのでした。
建久９年（1198）、後鳥羽天皇は通親の外孫にあたる皇子・為仁（土御門天皇）に譲位。上皇として院政を始めたのでした。兼子はその翌年正治元年（1199）に「典侍（てんじ）」という天皇の側近女官の地位につくことになります。ちなみに、後鳥羽天皇が譲位した土御門天皇は、乳母を務めた姉・範子の孫にあたります。範子と僧・能円（のうえん）の間に生まれた、在子（承明門院）が土御門天皇の母です。
ちなみに、後鳥羽天皇が譲位した土御門天皇は、乳母を務めた姉・範子の孫にあたります。範子と僧・能円（のうえん）の間に生まれた、在子（承明門院）が土御門天皇の母です。
3代将軍・源実朝(柿澤勇人)の妻に、養女としていた坊門信清（ぼうもんのぶきよ）の娘(千世.加藤小夏)を推薦したのは兼子だったといわれています。兼子には、鎌倉幕府内に朝廷の息のかかった者を送り込み、発言権を強めておきたいという狙いがあったようです。
また、建保6（1218）年に実朝の後継者問題で尼御台の北条政子(小池栄子)が上洛した際、自身の養育していた頼仁加藤小夏親王（よりひとしんのう）を推薦したのも、同様の理由と見られています。なお、この年に政子は異例の従三位、従二位に昇っていますが、兼子の後押しが背景にあったとされています。
天台宗の僧侶である慈円が書き記した『愚管抄』では、朝廷に兼子、鎌倉に政子、という東西の女性2人が権勢を振るう様を「女人入眼（にょにんじゅげん）の日本国」と評しています。その意味するところは、「日本国を取り仕切っているのは女性である」といったところです。
歴史の放つ光が兼子を照らすのはこの辺りまで。翌建保7（1219）年に鎌倉で起こった大事件、すなわち公暁(寛一郎)による実朝暗殺が、兼子ひいては後鳥羽上皇の運命を狂わせていきます。それは１２２１年（承久３年）の承久の乱で後鳥羽上皇が配流されたからです。
晩年の兼子はすっかり権勢が衰え、不遇の余生を送った。失意のうちに病没したのは、75歳の時のことでした。
今日はこの大河ドラマで「ラスボス」とされる後鳥羽上皇(大河では尾上松也)について 上
ドラマではシャーロック・ホームズばりにいろいろと鎌倉の動向などを推理する人物として描かれていますが、史実ではこんな人です。
https://historystyle.work/archives/5629
HISTORY STYLE 後鳥羽上皇(天皇)は何をした人？生涯・死因・作品・名言・子孫
天皇が存命中にその地位を後継者へ譲ることを「譲位」と言いますが、譲位した天皇の尊称として律令に定められたのが「太上天皇」（だいじょうてんのう／だじょうてんのう）であり、その略称が上皇となります。
かつて天皇は終身在位する地位でした。日本の歴史上で最初の譲位は、645年（大化元年）に行なわれた「皇極天皇」から、「孝徳天皇」への譲位とされています（※異論・諸説あり）。さらに上皇の誕生は、697年（文武元年）に「持統天皇」（じとうてんのう）が「文武天皇」（もんむてんのう）に譲位し、太上天皇となったのが始まりです。
では、歴史に名を残し、数々のドラマを彩った著名な上皇には、どのような人物がいたのでしょうか。
院政を本格化した「白河上皇」に続いて、「鳥羽上皇」、「後白河上皇」（西田敏行）、「崇徳上皇」、「後鳥羽上皇」などが名を連ねます。
1184年（元暦元年）9月4日、第82代天皇に即位した、のちの後鳥羽上皇こと「後鳥羽天皇」（1180年［治承4年］8月6日〜1239年［延応元年］3月28日）の生涯について。
後鳥羽天皇が在位した平安時代から鎌倉時代初期にかけては、天皇や上皇を中心とした貴族が京都の朝廷を動かしてきた時代から、「平清盛」（松平健）や「源義朝」などの有力な武士が台頭する時代への、移り変わりの只中にありました。
平安時代中期、天皇との親族関係を結び、摂政関白となった「藤原氏」が政治の実権を握ると、摂関政治の時代が訪れます。しかし、1068年（治暦4年）、「後三条天皇」が即位すると、藤原氏の専権（せんけん：思うままに権力を振るうこと）を抑え、自ら政治を行なう体制へと刷新。「荘園整理令発布」（しょうえんせいりれいはっぷ）や「記録荘園券契所」（きろくしょうえんけんけいじょ）の設置などを実施しました。天皇家との外戚関係の構築に失敗した藤原氏の力は次第に衰え、かつての勢いを失ってゆきます。
続いて皇位を継承した後三条天皇の皇子「白河天皇」は、皇位を退いたあとも上皇として政治を主導する「院政」を敷き、この頃から院政の時代が本格化しました。院政とは、上皇または法皇（出家した上皇のこと）によって政治が行なわれることで、多くは幼くして即位した天皇の父や祖父が国政の実権を担うこと。歴史書などでは、白河天皇が譲位した1086年（応徳3年）から、平家滅亡の1185年（文治元年）までを「院政時代」と呼ぶこともあります。院政時代には、朝廷の人事権や政治の実権を天皇が握る一方、「源氏」や「平氏」に代表される武士を、政権の警護にあたらせるために従えました。実力集団である武士達に一定の役割を担わせたことは、のちに朝廷や政権そのものをおびやかすほどの、強大な軍事力を与えることにもつながっていきます。武家権力が増大し、「保元の乱」（ほうげんのらん）や「平治の乱」、「源平争乱」（げんぺいそうらん）から鎌倉幕府の誕生へと続く間も、院政そのものは保たれてきましたが、後鳥羽上皇の命運を分けた「承久の乱」による敗北からは、院政は形骸化（けいがいか：実質的な意味を失い、形式ばかりになること）し、天皇の選定すら自由に行なえない時代が訪れました。
平安時代後期の1155年（久寿2年）、院政を続ける「鳥羽法皇」（とばほうおう）が、その皇子である後白河天皇を即位させると、政治の実権を握ることを望んでいた兄・崇徳上皇はそれに反発。鳥羽法皇の崩御を機に、皇位継承をめぐり対決するも、1156年（保元元年）、保元の乱によって、後白河天皇に従う平清盛、源義朝らに敗北。崇徳上皇は、讃岐（さぬき：現在の香川県）に配流（はいる：流罪にすること）されてしまいます。
そして1159年（平治元年）、今度は「後白河法皇」（ごしらかわほうおう）の側近同士の対立が要因となる平治の乱が勃発。平清盛に源義朝が討たれ、この頃より、平清盛と平家一門の力と地位が一気に高まります。一時は朝廷の内乱を鎮めた功労者として、武家で最初の太政大臣（だいじょうだいじん）にも任命された平清盛ですが、次第に権力をほしいままにし、やがては朝廷の人事権にまで影響を及ぼすようになりました。
ドラマではシャーロック・ホームズばりにいろいろと鎌倉の動向などを推理する人物として描かれていますが、史実ではこんな人です。
https://historystyle.work/archives/5629
HISTORY STYLE 後鳥羽上皇(天皇)は何をした人？生涯・死因・作品・名言・子孫
天皇が存命中にその地位を後継者へ譲ることを「譲位」と言いますが、譲位した天皇の尊称として律令に定められたのが「太上天皇」（だいじょうてんのう／だじょうてんのう）であり、その略称が上皇となります。
かつて天皇は終身在位する地位でした。日本の歴史上で最初の譲位は、645年（大化元年）に行なわれた「皇極天皇」から、「孝徳天皇」への譲位とされています（※異論・諸説あり）。さらに上皇の誕生は、697年（文武元年）に「持統天皇」（じとうてんのう）が「文武天皇」（もんむてんのう）に譲位し、太上天皇となったのが始まりです。
では、歴史に名を残し、数々のドラマを彩った著名な上皇には、どのような人物がいたのでしょうか。
院政を本格化した「白河上皇」に続いて、「鳥羽上皇」、「後白河上皇」（西田敏行）、「崇徳上皇」、「後鳥羽上皇」などが名を連ねます。
1184年（元暦元年）9月4日、第82代天皇に即位した、のちの後鳥羽上皇こと「後鳥羽天皇」（1180年［治承4年］8月6日〜1239年［延応元年］3月28日）の生涯について。
後鳥羽天皇が在位した平安時代から鎌倉時代初期にかけては、天皇や上皇を中心とした貴族が京都の朝廷を動かしてきた時代から、「平清盛」（松平健）や「源義朝」などの有力な武士が台頭する時代への、移り変わりの只中にありました。
平安時代中期、天皇との親族関係を結び、摂政関白となった「藤原氏」が政治の実権を握ると、摂関政治の時代が訪れます。しかし、1068年（治暦4年）、「後三条天皇」が即位すると、藤原氏の専権（せんけん：思うままに権力を振るうこと）を抑え、自ら政治を行なう体制へと刷新。「荘園整理令発布」（しょうえんせいりれいはっぷ）や「記録荘園券契所」（きろくしょうえんけんけいじょ）の設置などを実施しました。天皇家との外戚関係の構築に失敗した藤原氏の力は次第に衰え、かつての勢いを失ってゆきます。
続いて皇位を継承した後三条天皇の皇子「白河天皇」は、皇位を退いたあとも上皇として政治を主導する「院政」を敷き、この頃から院政の時代が本格化しました。院政とは、上皇または法皇（出家した上皇のこと）によって政治が行なわれることで、多くは幼くして即位した天皇の父や祖父が国政の実権を担うこと。歴史書などでは、白河天皇が譲位した1086年（応徳3年）から、平家滅亡の1185年（文治元年）までを「院政時代」と呼ぶこともあります。院政時代には、朝廷の人事権や政治の実権を天皇が握る一方、「源氏」や「平氏」に代表される武士を、政権の警護にあたらせるために従えました。実力集団である武士達に一定の役割を担わせたことは、のちに朝廷や政権そのものをおびやかすほどの、強大な軍事力を与えることにもつながっていきます。武家権力が増大し、「保元の乱」（ほうげんのらん）や「平治の乱」、「源平争乱」（げんぺいそうらん）から鎌倉幕府の誕生へと続く間も、院政そのものは保たれてきましたが、後鳥羽上皇の命運を分けた「承久の乱」による敗北からは、院政は形骸化（けいがいか：実質的な意味を失い、形式ばかりになること）し、天皇の選定すら自由に行なえない時代が訪れました。
平安時代後期の1155年（久寿2年）、院政を続ける「鳥羽法皇」（とばほうおう）が、その皇子である後白河天皇を即位させると、政治の実権を握ることを望んでいた兄・崇徳上皇はそれに反発。鳥羽法皇の崩御を機に、皇位継承をめぐり対決するも、1156年（保元元年）、保元の乱によって、後白河天皇に従う平清盛、源義朝らに敗北。崇徳上皇は、讃岐（さぬき：現在の香川県）に配流（はいる：流罪にすること）されてしまいます。
そして1159年（平治元年）、今度は「後白河法皇」（ごしらかわほうおう）の側近同士の対立が要因となる平治の乱が勃発。平清盛に源義朝が討たれ、この頃より、平清盛と平家一門の力と地位が一気に高まります。一時は朝廷の内乱を鎮めた功労者として、武家で最初の太政大臣（だいじょうだいじん）にも任命された平清盛ですが、次第に権力をほしいままにし、やがては朝廷の人事権にまで影響を及ぼすようになりました。
今日はこの大河ドラマで「ラスボス」とされる後鳥羽上皇(大河では尾上松也)について 中
清盛の娘で、のちの「建礼門院」（けんれいもんいん）こと「徳子」（とくこ）を「高倉天皇」（たかくらてんのう）に入内（じゅだい：中宮・皇后となるべき人が、正式に内裏に入ること）させ、1172年（承安2年）には中宮となるなど、重要な官職も一門で独占しはじめます。
反清盛派による「鹿ヶ谷事件」（ししがたにじけん：平氏討伐の謀議）が1177年（安元3年）に起きたのもこの頃でした。1179年（治承3年）の政変において清盛は、それまで仕えていた後白河法皇を鳥羽殿（平安京の南につくられた離宮）に幽閉（ゆうへい）。ついには都を制圧してしまいます。
日本初の武家政権とも言われる（※異論・異説あり）平家政権ですが、このような清盛と平家一門の専横ぶりに、公家や寺社、他の武士集団の多くが反発。平家打倒の気運がじわじわと広がっていきます。
1180年（治承4年）、平清盛は、娘・平徳子と高倉天皇の間に生まれた、わずか2歳の幼き皇子を第81代「安徳天皇」（相澤 智咲）として即位させて「高倉院政」を始める一方、平家はさらに強大な権力を持ち続けました。清盛の政略によって高倉天皇の第1皇子・安徳天皇が即位したまさにその年の8月6日、高倉天皇の第4皇子として、「尊成親王」（たかひらしんのう）、すなわちのちの後鳥羽上皇が誕生します。母は、高倉天皇の後宮「藤原殖子」（ふじわらのしょくし：院号・七条院）。後鳥羽上皇は1178年（治承2年）12月生まれの安徳天皇の異母弟にあたり、共に後白河天皇の孫同士という関係です。
後鳥羽上皇が誕生した1180年（治承4年）は、不穏な時代の到来を予感させる年でした。後白河法皇の第3皇子「以仁王」（もちひとおう、木村昴）が、平家打倒の令旨（りょうじ：皇太子・皇后などの命令を伝える書）を出すのです。背景には、平家の力によって弟の高倉天皇が院政を行ない、その皇子・安徳天皇(相澤智咲)の即位によって自身が天皇に即位する可能性が失われたことへの不満がありました。そして、平家討伐を計画するものの、その計画はすぐに平家の知るところとなり、あえなく討たれてしまいます。
しかし、以仁王の令旨に共鳴する武士達も、各地に存在していました。平治の乱で父・源義朝を討たれて積年の恨みを抱く「源頼朝」（大泉洋）を筆頭に、平家打倒の武士達が挙兵します。
後鳥羽上皇誕生の年に起こった大規模な内乱は、1180年（治承4年）〜1185（元暦2年）の「治承・寿永の乱」（じしょう・じゅえいのらん）と言われ、「源平合戦」の時代から鎌倉幕府創設まで続くのです。
平家を嫌う京の大寺社と距離を置くように、清盛は一時的に平安京（現在の京都府）から福原京（現在の兵庫県神戸市）へ遷都。依然幽閉されたままの後白河法皇は、幼い2歳の孫・安徳天皇と共に、行幸するという形で福原京に移ります。兄の安徳天皇と弟の尊成親王（のちの後鳥羽上皇）は、共に幼くして苛酷な時代の中で育ち、権力を手にした武士達に2人の皇子の命運が握られてしまうのでした。
平家に反旗をひるがえす勢力が予想以上に激しいことを知った清盛は、福原京から再び都を平安京に戻します。そして、1181年（治承5年）、高倉天皇が亡くなると、後白河法皇を一時的に幽閉から解き、平清盛は形ばかりの院政を復活。一方で、3男「平宗盛」（たいらのむねもり、小泉孝太郎）を都とその周辺国を支配する惣官（そうかん）に任命しますが、同年、平清盛自身が病により急逝します。宗盛には清盛ほどの強い支配力はなく、後白河法皇に政治の主導権を返上するしかありませんでした。その後、源氏に対抗しようとする宗盛でしたが、「源義仲」（青木崇高）に追われ、1183年（寿永2年）、安徳天皇と天皇の位を示す三種の神器、「八咫鏡」（やたのかがみ）、「八尺瓊勾玉」（やさかにのまがたま）、「草薙剣」（くさなぎのつるぎ）を持って京を離れ、都落ちします。
後鳥羽天皇が4歳で即位したあとも、後白河法皇による院政は続きます。1192年（建久3年）に後白河法皇が亡くなると、朝廷の実権を関白の「九条兼実」（くじょうかねざね、ココリコの田中直樹）が握りました。同年、後鳥羽天皇は、鎌倉の源頼朝を征夷大将軍に任命。それは、平安京の朝廷とは別に、頼朝による武家政権である鎌倉幕府を認めることにもつながりました。征夷大将軍任命の陰には、頼朝と近しく彼の後押しで摂政に任命された九条兼実の働きがあったとも言われています。
清盛の娘で、のちの「建礼門院」（けんれいもんいん）こと「徳子」（とくこ）を「高倉天皇」（たかくらてんのう）に入内（じゅだい：中宮・皇后となるべき人が、正式に内裏に入ること）させ、1172年（承安2年）には中宮となるなど、重要な官職も一門で独占しはじめます。
反清盛派による「鹿ヶ谷事件」（ししがたにじけん：平氏討伐の謀議）が1177年（安元3年）に起きたのもこの頃でした。1179年（治承3年）の政変において清盛は、それまで仕えていた後白河法皇を鳥羽殿（平安京の南につくられた離宮）に幽閉（ゆうへい）。ついには都を制圧してしまいます。
日本初の武家政権とも言われる（※異論・異説あり）平家政権ですが、このような清盛と平家一門の専横ぶりに、公家や寺社、他の武士集団の多くが反発。平家打倒の気運がじわじわと広がっていきます。
1180年（治承4年）、平清盛は、娘・平徳子と高倉天皇の間に生まれた、わずか2歳の幼き皇子を第81代「安徳天皇」（相澤 智咲）として即位させて「高倉院政」を始める一方、平家はさらに強大な権力を持ち続けました。清盛の政略によって高倉天皇の第1皇子・安徳天皇が即位したまさにその年の8月6日、高倉天皇の第4皇子として、「尊成親王」（たかひらしんのう）、すなわちのちの後鳥羽上皇が誕生します。母は、高倉天皇の後宮「藤原殖子」（ふじわらのしょくし：院号・七条院）。後鳥羽上皇は1178年（治承2年）12月生まれの安徳天皇の異母弟にあたり、共に後白河天皇の孫同士という関係です。
後鳥羽上皇が誕生した1180年（治承4年）は、不穏な時代の到来を予感させる年でした。後白河法皇の第3皇子「以仁王」（もちひとおう、木村昴）が、平家打倒の令旨（りょうじ：皇太子・皇后などの命令を伝える書）を出すのです。背景には、平家の力によって弟の高倉天皇が院政を行ない、その皇子・安徳天皇(相澤智咲)の即位によって自身が天皇に即位する可能性が失われたことへの不満がありました。そして、平家討伐を計画するものの、その計画はすぐに平家の知るところとなり、あえなく討たれてしまいます。
しかし、以仁王の令旨に共鳴する武士達も、各地に存在していました。平治の乱で父・源義朝を討たれて積年の恨みを抱く「源頼朝」（大泉洋）を筆頭に、平家打倒の武士達が挙兵します。
後鳥羽上皇誕生の年に起こった大規模な内乱は、1180年（治承4年）〜1185（元暦2年）の「治承・寿永の乱」（じしょう・じゅえいのらん）と言われ、「源平合戦」の時代から鎌倉幕府創設まで続くのです。
平家を嫌う京の大寺社と距離を置くように、清盛は一時的に平安京（現在の京都府）から福原京（現在の兵庫県神戸市）へ遷都。依然幽閉されたままの後白河法皇は、幼い2歳の孫・安徳天皇と共に、行幸するという形で福原京に移ります。兄の安徳天皇と弟の尊成親王（のちの後鳥羽上皇）は、共に幼くして苛酷な時代の中で育ち、権力を手にした武士達に2人の皇子の命運が握られてしまうのでした。
平家に反旗をひるがえす勢力が予想以上に激しいことを知った清盛は、福原京から再び都を平安京に戻します。そして、1181年（治承5年）、高倉天皇が亡くなると、後白河法皇を一時的に幽閉から解き、平清盛は形ばかりの院政を復活。一方で、3男「平宗盛」（たいらのむねもり、小泉孝太郎）を都とその周辺国を支配する惣官（そうかん）に任命しますが、同年、平清盛自身が病により急逝します。宗盛には清盛ほどの強い支配力はなく、後白河法皇に政治の主導権を返上するしかありませんでした。その後、源氏に対抗しようとする宗盛でしたが、「源義仲」（青木崇高）に追われ、1183年（寿永2年）、安徳天皇と天皇の位を示す三種の神器、「八咫鏡」（やたのかがみ）、「八尺瓊勾玉」（やさかにのまがたま）、「草薙剣」（くさなぎのつるぎ）を持って京を離れ、都落ちします。
後鳥羽天皇が4歳で即位したあとも、後白河法皇による院政は続きます。1192年（建久3年）に後白河法皇が亡くなると、朝廷の実権を関白の「九条兼実」（くじょうかねざね、ココリコの田中直樹）が握りました。同年、後鳥羽天皇は、鎌倉の源頼朝を征夷大将軍に任命。それは、平安京の朝廷とは別に、頼朝による武家政権である鎌倉幕府を認めることにもつながりました。征夷大将軍任命の陰には、頼朝と近しく彼の後押しで摂政に任命された九条兼実の働きがあったとも言われています。
今日はこの大河ドラマで「ラスボス」とされる後鳥羽上皇(大河では尾上松也)について 下
平家に焼かれた東大寺大仏殿再建の法要のため京に上った頼朝は、娘の「大姫」（おおひめ、難波ありさ→南沙良）を後鳥羽天皇の妃にすべく工作を図りますが、入内計画はうまく運ばず、その後、大姫の死により頓挫（とんざ）。
征夷大将軍に任命された頼朝の心には、娘を天皇家に入内させた平清盛と同様に、朝廷との関係を深め、天皇家の一員となることで、支配力をさらに強化したいというねらいがあったのです。
1198年（建久9年）1月、後鳥羽天皇は19歳という若さで「土御門天皇」（つちみかどてんのう、関智一）に譲位し、後鳥羽上皇となります。その後、「順徳天皇」（じゅんとくてんのう）、「仲恭天皇」（ちゅうきょうてんのう）と3代23年間に亘って院政を敷きました。
後鳥羽上皇は、過去の上皇に比べると文武両道の多芸多才ぶりで知られています。通常、貴族は行なわない弓馬の術に秀で、武術の訓練を好み、水練（すいれん）や相撲もこなせば、芸事にも精通。琵琶（びわ）、蹴鞠（けまり）なども楽しみました。あらゆることに先頭に立って意欲的に取り組み、盗賊を捕らえるために自ら出動したという逸話まで残されています。和歌にも優れ、「新古今和歌集」の編纂を命じ、日本の文学史に大きな功績を残しました。さらに、自ら日本刀を打ち、後世に語り継がれる銘刀（銘の切ってある作品）まで残しています。ここから見えてくるのは、それまでの天皇や上皇とは全く異なる、自由度の高い型破りな人物像です。何事にも集中して自己研鑽（けんさん）に励むその生き方は、神器を持たずに即位した引け目の裏返しではないかと考えられています。和歌の三大集として数えられるのが「万葉集」、「古今和歌集」、「新古今和歌集」です。新古今和歌集は、後鳥羽上皇が「藤原定家」（ふじわらのていか）に編纂を委ね、「源通具」（みなもとのみちとも）、「藤原有家」（ふじわらのありいえ）、「藤原家隆」（ふじわらのいえたか）、「藤原雅経」（ふじわらのまさつね）、藤原定家らが撰者（せんじゃ）となった鎌倉時代を代表する勅撰和歌集（ちょくせんわかしゅう）で、古今和歌集を上まわる約2,000首がおさめられています。新古今和歌集に代表される歌風（かふう：和歌の特徴や傾向）や歌調（かちょう：歌の調子）は「新古今調」と呼ばれ、のちの和歌の作風にも大きな影響を与えました。「和歌は世を治め 民をやはらぐる道である」と説いた後鳥羽上皇の和歌には、武力ではなく文化力で治世を行ないたいという願いが込められているのです。
【後鳥羽上皇の和歌】
「奥山の おどろが下も 踏み分けて 道ある世ぞと 人に知らせん」
（意味：たとえ奥山の藪の中に分け入ろうとも、必ず希望の道があることを人々に知らせたい）
和歌を愛する後鳥羽上皇は、武家社会にも影響を与えました。貴種（きしゅ：高貴な家柄に生まれること）に憧れる東国の武士達の中には、後鳥羽上皇が発信する雅な王朝文化に惹かれる者も出てきます。鎌倉幕府3代将軍「源実朝」（みなもとのさねとも、柿澤勇人）などはその代表と言え、新古今和歌集をいちはやく手に入れて和歌を学び、藤原定家を師と仰ぎました。東国武士とは対照的な都の文化や気風に憧憬を抱き、後鳥羽上皇とも深く親交を結んだのです。
鎌倉幕府成立以降、朝廷の平安京と武士政権の鎌倉幕府、2つの政治が続いていましたが、1199年（建久10年）の源頼朝の死後、鎌倉幕府の体制は少しずつ揺らぎはじめます。頼朝と「北条政子」（小池栄子）の嫡男、2代将軍「源頼家」（上目遣いの金子大地）は政治力に乏しく、執権「北条氏」と対立。将軍職を追われ幽閉先で暗殺されます。
後鳥羽上皇は、院の御所（いんのごしょ：上皇の居所）に仕える「北面の武士」（ほくめんのぶし）を重視し、京の警護にあたらせていましたが、新たに「西面の武士」（さいめんのぶし）を制度化。都に滞在する御家人をその任に就かせました。そして、鎌倉幕府から送られてくる京都守護に対しても命令を下すようになり、後鳥羽上皇と鎌倉幕府の対立関係は深刻化していきます。
洗練された都の文化に育ち、「朝廷主導の政治」を願う後鳥羽上皇にとって、身内同士で血を流し合い、将軍が次々暗殺されるような統制なき鎌倉幕府の混乱は、再び朝廷が主導権を取り戻すための好機と感じられました。
参考文献
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
『後鳥羽院政の展開と儀礼』 谷昇(著) 思文閣出版
『史伝 後鳥羽院』 目崎徳衛(著) 吉川弘文館
『後鳥羽院のすべて』 鈴木彰・樋口州男(編) 新人物往来社
『歌帝 後鳥羽院』 松本章男(著) 平凡社
平家に焼かれた東大寺大仏殿再建の法要のため京に上った頼朝は、娘の「大姫」（おおひめ、難波ありさ→南沙良）を後鳥羽天皇の妃にすべく工作を図りますが、入内計画はうまく運ばず、その後、大姫の死により頓挫（とんざ）。
征夷大将軍に任命された頼朝の心には、娘を天皇家に入内させた平清盛と同様に、朝廷との関係を深め、天皇家の一員となることで、支配力をさらに強化したいというねらいがあったのです。
1198年（建久9年）1月、後鳥羽天皇は19歳という若さで「土御門天皇」（つちみかどてんのう、関智一）に譲位し、後鳥羽上皇となります。その後、「順徳天皇」（じゅんとくてんのう）、「仲恭天皇」（ちゅうきょうてんのう）と3代23年間に亘って院政を敷きました。
後鳥羽上皇は、過去の上皇に比べると文武両道の多芸多才ぶりで知られています。通常、貴族は行なわない弓馬の術に秀で、武術の訓練を好み、水練（すいれん）や相撲もこなせば、芸事にも精通。琵琶（びわ）、蹴鞠（けまり）なども楽しみました。あらゆることに先頭に立って意欲的に取り組み、盗賊を捕らえるために自ら出動したという逸話まで残されています。和歌にも優れ、「新古今和歌集」の編纂を命じ、日本の文学史に大きな功績を残しました。さらに、自ら日本刀を打ち、後世に語り継がれる銘刀（銘の切ってある作品）まで残しています。ここから見えてくるのは、それまでの天皇や上皇とは全く異なる、自由度の高い型破りな人物像です。何事にも集中して自己研鑽（けんさん）に励むその生き方は、神器を持たずに即位した引け目の裏返しではないかと考えられています。和歌の三大集として数えられるのが「万葉集」、「古今和歌集」、「新古今和歌集」です。新古今和歌集は、後鳥羽上皇が「藤原定家」（ふじわらのていか）に編纂を委ね、「源通具」（みなもとのみちとも）、「藤原有家」（ふじわらのありいえ）、「藤原家隆」（ふじわらのいえたか）、「藤原雅経」（ふじわらのまさつね）、藤原定家らが撰者（せんじゃ）となった鎌倉時代を代表する勅撰和歌集（ちょくせんわかしゅう）で、古今和歌集を上まわる約2,000首がおさめられています。新古今和歌集に代表される歌風（かふう：和歌の特徴や傾向）や歌調（かちょう：歌の調子）は「新古今調」と呼ばれ、のちの和歌の作風にも大きな影響を与えました。「和歌は世を治め 民をやはらぐる道である」と説いた後鳥羽上皇の和歌には、武力ではなく文化力で治世を行ないたいという願いが込められているのです。
【後鳥羽上皇の和歌】
「奥山の おどろが下も 踏み分けて 道ある世ぞと 人に知らせん」
（意味：たとえ奥山の藪の中に分け入ろうとも、必ず希望の道があることを人々に知らせたい）
和歌を愛する後鳥羽上皇は、武家社会にも影響を与えました。貴種（きしゅ：高貴な家柄に生まれること）に憧れる東国の武士達の中には、後鳥羽上皇が発信する雅な王朝文化に惹かれる者も出てきます。鎌倉幕府3代将軍「源実朝」（みなもとのさねとも、柿澤勇人）などはその代表と言え、新古今和歌集をいちはやく手に入れて和歌を学び、藤原定家を師と仰ぎました。東国武士とは対照的な都の文化や気風に憧憬を抱き、後鳥羽上皇とも深く親交を結んだのです。
鎌倉幕府成立以降、朝廷の平安京と武士政権の鎌倉幕府、2つの政治が続いていましたが、1199年（建久10年）の源頼朝の死後、鎌倉幕府の体制は少しずつ揺らぎはじめます。頼朝と「北条政子」（小池栄子）の嫡男、2代将軍「源頼家」（上目遣いの金子大地）は政治力に乏しく、執権「北条氏」と対立。将軍職を追われ幽閉先で暗殺されます。
後鳥羽上皇は、院の御所（いんのごしょ：上皇の居所）に仕える「北面の武士」（ほくめんのぶし）を重視し、京の警護にあたらせていましたが、新たに「西面の武士」（さいめんのぶし）を制度化。都に滞在する御家人をその任に就かせました。そして、鎌倉幕府から送られてくる京都守護に対しても命令を下すようになり、後鳥羽上皇と鎌倉幕府の対立関係は深刻化していきます。
洗練された都の文化に育ち、「朝廷主導の政治」を願う後鳥羽上皇にとって、身内同士で血を流し合い、将軍が次々暗殺されるような統制なき鎌倉幕府の混乱は、再び朝廷が主導権を取り戻すための好機と感じられました。
参考文献
『現代語訳 吾妻鏡』 五味文彦・本郷和人(編) 吉川弘文館
『後鳥羽院政の展開と儀礼』 谷昇(著) 思文閣出版
『史伝 後鳥羽院』 目崎徳衛(著) 吉川弘文館
『後鳥羽院のすべて』 鈴木彰・樋口州男(編) 新人物往来社
『歌帝 後鳥羽院』 松本章男(著) 平凡社
ドラマでは直接には描かれていなかった、鎌倉幕府と高野山の関係について
北条政子(小池栄子)や安達景盛(あだちかげもり.新名基浩)がつないだ鎌倉と高野山の結びつきを説明してゆきますと…
公暁(く/こうぎょう.寛一郎)に殺された源実朝(柿澤 勇人) の死の影響は大きく、四代将軍の選出や後鳥羽院(尾上松也)と幕府の関係悪化をもたらします。混乱の中、尼将軍・政子と補佐役の義時(小栗旬)姉弟は幕府をまとめ、承久の乱にも勝利しました。
その一方で進められたのが、実朝の菩提供養です。暗殺の翌日には、実朝の正妻（ドラマでは千世.加藤小夏）をはじめ、大江親広(おおえのちかひろ)（広元の息子）、二階堂行村(にかいどうゆきむら)（行政の息子）、安達景盛（盛長の息子）ら御家人百名余りが、実朝急死の哀傷の念に堪えられず出家を遂げました。
さらに貞応(じょうおう)三年（1223）、政子は息子・実朝のため、安達景盛こと大蓮房覚智(だいれんぼうかくち)の申し出により、高野山に金剛三昧院(こんごうさんまいいん)を創建しました。もともと高野山には、政子が頼朝の菩提を弔うために創建した禅定院(ぜんじょういん)がありましたが、実朝死去に伴い、金剛三昧院に改めたといいます。覚智が奉行となり、大日堂、二基の多宝塔、経蔵などが造営されました。
初代の長老には、栄西の弟子で鎌倉浄妙寺の開山としても知られる退耕行勇(たいこうぎょうゆう)が就き、以降、歴代将軍の祈願所として繁栄します。なお、創建時の多宝塔一基（国宝）と経蔵（重要文化財）は今も残っており、大変貴重です。
放映時に開催されていた「北条氏展」では、この金剛三昧院創建の由来が記された『六巻書(ろっかんしょ)』第一（室町後期の写し）や、寺外初公開の大蓮房覚智（安達景盛）像（室町時代）、多宝塔図面（明治時代）、経蔵棟札写(むなふだうつし)（江戸時代）などを展示していました。
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/rekibun/hojo3.html
また、高野山西南院からは、鎌倉後期の辞書『塵袋(ちりぶくろ)』（室町時代の写本）を借りしました。例えば、『吾妻鏡』には、義時が和田っちこと和田義盛(横田 栄司.)の甥・胤長(たねなが)を「面縛(めんばく)」したことが挙兵の動機の一つとなり、和田合戦に至ったと記されています。
「面縛」とはどういう意味でしょうか？ こんなときに役立つのが古辞書です。『塵袋』によれば、「面縛」とは「両手を後ろに縛る状態を指し、前から見ると顔面だけが見えるので面縛という」と記されています。義盛は、胤長が罪人として扱われたことに怒りを覚えたのです。
高野山ではこんな展示も…。
https://jocr.jp/raditopi/2022/10/22/460040/
北条政子(小池栄子)や安達景盛(あだちかげもり.新名基浩)がつないだ鎌倉と高野山の結びつきを説明してゆきますと…
公暁(く/こうぎょう.寛一郎)に殺された源実朝(柿澤 勇人) の死の影響は大きく、四代将軍の選出や後鳥羽院(尾上松也)と幕府の関係悪化をもたらします。混乱の中、尼将軍・政子と補佐役の義時(小栗旬)姉弟は幕府をまとめ、承久の乱にも勝利しました。
その一方で進められたのが、実朝の菩提供養です。暗殺の翌日には、実朝の正妻（ドラマでは千世.加藤小夏）をはじめ、大江親広(おおえのちかひろ)（広元の息子）、二階堂行村(にかいどうゆきむら)（行政の息子）、安達景盛（盛長の息子）ら御家人百名余りが、実朝急死の哀傷の念に堪えられず出家を遂げました。
さらに貞応(じょうおう)三年（1223）、政子は息子・実朝のため、安達景盛こと大蓮房覚智(だいれんぼうかくち)の申し出により、高野山に金剛三昧院(こんごうさんまいいん)を創建しました。もともと高野山には、政子が頼朝の菩提を弔うために創建した禅定院(ぜんじょういん)がありましたが、実朝死去に伴い、金剛三昧院に改めたといいます。覚智が奉行となり、大日堂、二基の多宝塔、経蔵などが造営されました。
初代の長老には、栄西の弟子で鎌倉浄妙寺の開山としても知られる退耕行勇(たいこうぎょうゆう)が就き、以降、歴代将軍の祈願所として繁栄します。なお、創建時の多宝塔一基（国宝）と経蔵（重要文化財）は今も残っており、大変貴重です。
放映時に開催されていた「北条氏展」では、この金剛三昧院創建の由来が記された『六巻書(ろっかんしょ)』第一（室町後期の写し）や、寺外初公開の大蓮房覚智（安達景盛）像（室町時代）、多宝塔図面（明治時代）、経蔵棟札写(むなふだうつし)（江戸時代）などを展示していました。
https://www.city.kamakura.kanagawa.jp/rekibun/hojo3.html
また、高野山西南院からは、鎌倉後期の辞書『塵袋(ちりぶくろ)』（室町時代の写本）を借りしました。例えば、『吾妻鏡』には、義時が和田っちこと和田義盛(横田 栄司.)の甥・胤長(たねなが)を「面縛(めんばく)」したことが挙兵の動機の一つとなり、和田合戦に至ったと記されています。
「面縛」とはどういう意味でしょうか？ こんなときに役立つのが古辞書です。『塵袋』によれば、「面縛」とは「両手を後ろに縛る状態を指し、前から見ると顔面だけが見えるので面縛という」と記されています。義盛は、胤長が罪人として扱われたことに怒りを覚えたのです。
高野山ではこんな展示も…。
https://jocr.jp/raditopi/2022/10/22/460040/
初期の鎌倉幕府の機関
鎌倉幕府には3つの重要機関が存在していました。最初に誕生したのが、御家人を管理・統率する「侍所(さむらいどころ)」で、鎌倉入りをして関東各地の有力武士が頼朝のもとに駆けつけたため、必要にかられて誕生した機関です。
さらに、朝廷の下級官吏だった大江広元と三善康信が鎌倉に下向すると、行政機関として幕府の財政業務を司(つかさど)る「公文所(くもんじょ)」と、複雑化した土地の所有権から武士の間で多かった所領に関する訴訟を取り扱う「問注所(もんちゅうじょ)」が設立されました。公文所はのちに三位以上の貴族の家政機関を意味する「政所(まんどころ)」に改称されました。
源頼朝は御家人の代表として朝廷との交渉役を務めましたが、鎌倉殿として都に常駐するわけにはいかないため、朝廷に対する幕府の窓口として「京都守護」という役職が設けられました。また平家の残党や謀反を起こした義経を捜索するため、九州の御家人を統率する「鎮西奉行」という役職も設けられています。
さらに、奥州合戦の後には陸奥(むつ)國を支配するために、葛西氏と伊沢(留守)氏の複数の奉行による政治体制として奥州惣奉行も設けられました。これには、奥州合戦で荒廃した地域の復旧も任されました。
その他の守護・地頭についてはいずれまた。
参考文献
『日本中世の朝廷・幕府体制』 河内祥輔（著) 吉川弘文館
『日本研究』第60巻「<書評>南基鶴『鎌倉幕府政治史の研究』」
近藤剛（著) 国際日本文化研究センター
『弘前大学國史研究』第64/65号「武家政権について」
佐藤進一（著) 弘前大学國史研究会
『図説 鎌倉幕府』 田中大喜(編) 戎光祥出版
『日本中世の朝廷・幕府体制』 河内祥輔（著) 吉川弘文館
『日本の中世国家』 佐藤進一（著) 岩波現代文庫
鎌倉幕府には3つの重要機関が存在していました。最初に誕生したのが、御家人を管理・統率する「侍所(さむらいどころ)」で、鎌倉入りをして関東各地の有力武士が頼朝のもとに駆けつけたため、必要にかられて誕生した機関です。
さらに、朝廷の下級官吏だった大江広元と三善康信が鎌倉に下向すると、行政機関として幕府の財政業務を司(つかさど)る「公文所(くもんじょ)」と、複雑化した土地の所有権から武士の間で多かった所領に関する訴訟を取り扱う「問注所(もんちゅうじょ)」が設立されました。公文所はのちに三位以上の貴族の家政機関を意味する「政所(まんどころ)」に改称されました。
源頼朝は御家人の代表として朝廷との交渉役を務めましたが、鎌倉殿として都に常駐するわけにはいかないため、朝廷に対する幕府の窓口として「京都守護」という役職が設けられました。また平家の残党や謀反を起こした義経を捜索するため、九州の御家人を統率する「鎮西奉行」という役職も設けられています。
さらに、奥州合戦の後には陸奥(むつ)國を支配するために、葛西氏と伊沢(留守)氏の複数の奉行による政治体制として奥州惣奉行も設けられました。これには、奥州合戦で荒廃した地域の復旧も任されました。
その他の守護・地頭についてはいずれまた。
参考文献
『日本中世の朝廷・幕府体制』 河内祥輔（著) 吉川弘文館
『日本研究』第60巻「<書評>南基鶴『鎌倉幕府政治史の研究』」
近藤剛（著) 国際日本文化研究センター
『弘前大学國史研究』第64/65号「武家政権について」
佐藤進一（著) 弘前大学國史研究会
『図説 鎌倉幕府』 田中大喜(編) 戎光祥出版
『日本中世の朝廷・幕府体制』 河内祥輔（著) 吉川弘文館
『日本の中世国家』 佐藤進一（著) 岩波現代文庫
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