好き勝手　創作・文章技術の部屋コミュの文章技術あれこれ

いわゆる ”文章読本”　を読むことは基本ですが、それだけでは足りません。
正しい力をつけるためには、総読書量、総筆記量はもとより、文章を分析的に読むことも必要なようです。

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【ブリッジ】

これは、良書、凡百のいずれの文章読本にも載っていない、実に有用な基本的概念であり、テクニックである。
私の下手な説明よりも、以下に転載した荒巻義雄氏の解説をご一読されたい。

◆じゃ、田中光二はどうか。彼の場合は、糸のよじれるような文章でもたせている。・・・

皆さんはフローベルというフランスの作家を知っているだろう。『ボヴァバリー夫人』の作者で、近代リアリズムの始祖となった文豪である。

このフローベルの文体について、あの『失われたときを求めて』の作者プルーストが論じている。

プルーストによれば、──フローベルの文章は、”一つの文節の中心からほとばしり出たものが、半円を描いて次の文節の中心に、必ず落ちてくるように構成”　されているという。

そのために、緊密で緩みのない、継続する文体が確保されるわけだ。・・・

たとえば、本作　『アッシュ』　冒頭文をちょっと読み直してもらいたい。

①私は、鳥型飛行機の翼の残骸に腰を下ろしたまま、地平線の彼方に沈んでゆく巨大な太陽　”ザゴラ”　を眺めた。

◆リズムを持った、わかりやすいセンテンスである。作者はこの一文で、作品舞台の光景を的確に説明している。読者の脳裏には、ひとつの場景が思い浮かぶわけだ。が、その視点は、たぶん　”私”　から少し離れたところにあるらしい。これは映画の技法。カメラの視点は、必ず　”私”　の外に置かれている。
このように田中光二は、”カメラの目＝作者の目”　という手法を使う。

ではその次のセンテンス──

②巨大な暗赤色のその恒星は、ＭＭ２６１０と呼ばれる銀河辺境の太陽系の主星である。

このセンテンスで、読者はいま　”私”　がいる場所の、全体的な位置を知る。すなわち、銀河辺境のザコラ星の一惑星上にいることがわかるわけだ。

そして、センテンス①と②を接続させるのが、”太陽（ザコラ）”　である。この言葉が接続詞の役目をしているわけだ。

おれはこれをブリッジと呼んでいる。二つの文章をつなぐ　”橋”　のことである。文章を書くとき、いわゆる接続詞を使用せず、文と文をつなぐ手段は、ほとんどこれしかないから、みなさんも覚えておかれるといいだろう。（以下略）

『アッシュ─大宇宙の狼』田中光二著　講談社文庫　巻末解説より転載

★いつつぶれるかわからない海辺の古本屋でこの本を見つけた私は、迷わず購入し、息子の本棚に押し入れました。面白く、かつ記述力が上がる本はめったにありません。この解説文を読むだけでも数百円の値打ちがあります。

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