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半蔵門かきもの倶楽部コミュの 第百四回 JONY作 「『友達』の彼女 」 (三題噺『月』『湖』『鬼』)

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 俺には友達と呼べる男はいない。
 しかし、その男は俺のことを、「一番信頼できる友達」と、同伴した女に、説明した。そして、俺に向かってこう言った。
「ニューヨークからオレが戻るまでの間、こいつと、俺の替わりに、付き合ってやってくれないか?」

 話はこうである。
 一週間ばかり前である。最後の客が帰り、そろそろ、閉店にしようかと、ひとりで、TVをつけて、満『月』の夜に『湖』に『鬼』がでるという話を見るともなく見ている時に、はじめての男性の客がひとりでタクシーで乗り付けて、やってきた。
 「まだ、良いですか」
 と礼儀正しく訊く高級ブランドのスーツを着た明らかにインテリ層に属するその男に見覚えがあったが、すぐには、誰か分からなかった。
 ウイスキーの山崎をロックで注文した彼とカウンターを挟んで対峙し、誰だったかを考えた。しばらくして男は、
 『KPBC』
 とつぶやいた。
 それで、俺は、その男が誰なのかを思い出した。
 その男(仮にB男とする)と俺は、大学の同じサークル仲間だった。彼とは同学年だったが、B男は経済学部で、俺は法学部だった。二人は1年のときに、KPBCという夏はテニス冬はスキーの遊びのサークルに入った。このKPBCとは 正式には、KEIO Planning Business Club なのだが 六本木のクラブを貸切ってパジャマパーティーなどをしたりしていたので、学生達には、KEIO Play Boy Club と認識されていた。誤解しないで欲しいのだが、俺たちは二人とも付属からではなく大学から入っていて、二代目三代目のボンボンではないという共通点があり、B男は公認会計士試験を目指していて、俺は学者を目指していて、怠惰な学生が多い中、二人共すごく勉強をする人種だった。どうせ勉強中心の生活を送るのだが、息抜きが無いと煮詰まってしまってかえって不効率なので、自分の本拠地の勉強のサークルのほかに、集中的にバカやって遊ぶ時間としてKPBCを位置づけていた。なので、俺たちは、どんなに遅く帰っても、予定の勉強が終わらないうちは寝ないという生活だった。
 そんなわけで、B男とは、ウマが合った。彼は麻布中学高校で東大受験に失敗して落ちこぼれた男で、俺は高校受験に失敗しアホな都立に入り、そこからのしあがってきた男だったので、そういうお互いに無いところを持ち合っていたのも良かった。
 俺たちはKPBCで、他学の色々な女子学生とバカをやっていた仲間だったが、確かにその時代はカギカッコ付きの「友達」と呼べる存在だったかも知れない。だがそれは自分の本分(それぞれの専門の会計学や法学)と無関係なところで交わるからこその、無害だからこその、「友達」だったと思う。これから競って行くライバルたち、戦友たちにはあかせない、あかしたくない自分の弱さ、醜さ、裏側を晒せるからこその「友達」だったと思う。
 B男は学部のうちに資格試験に合格し、Big4のうちの一つの監査法人に入った。俺は大学院に進んだ。それから俺たちはそれぞれ別の世界に所属するようになり、一緒にバカをやる事はなくなり、会う機会もなくなった。

 それが、なんと最近、彼が、突然、どう調べたのか、予告もなくいきなり俺の店にやってきたのである。学部四年の時以来の再会だった。しかし会わなかった年月を飛び越え、学生時代のような口をきくようになるのに時間はかからなかった。
「K(俺の本名の苗字)。結婚は?」
「してる」
「あの頃、オマエが言っていた独身主義は捨てたか」
「院生のときに最初の結婚をした」
「子供は?」
「いない。お前は?」
「かみさんは、俺がミュンヘンにいた時に知り合ったドイツ人で子供が二人。上が男で大学生、下が女で高校生だ」
「日本にいるのか?」
「家族で、オマエも知っているあの松濤の家で、暮らしている。家は建て替えたがな」
 B男は、遊びに来てくれと言うようなことは言わなかったし、俺も、そんな気は無かった。学部のころのB男は実家暮らしで、親の大きな家に住んでいた。俺は、代官山辺りの店で終電を逃すと彼の家まで歩き、彼の親の寝室と彼の部屋が離れているのを良い事に、一緒に遊んでいた女子学生たちと共に彼の部屋で夜食などを食べさせてもらったものだった。そう、たしかに彼の部屋で過ごした時間は俺の青春の1ページだった。しかし、彼が建て替えて、主人の座に座るその家には、行く気は無かった。また彼の家族にも会いたいとは思わなかった。
 B男は、帰り際に、重大な秘密を明かすように、
「今度、ニューヨークに、かみさんと娘を連れて赴任する。一応二年間の予定ってことにはなっているが、正直なところ、今回行ったら再びいつ日本に戻れるかは、分からないんだ。発つ前にもう一度来ても良いか」
と言って、帰って行った。
そして、話は冒頭に戻る。

 二度目にB男が俺の店を訪れたとき、彼は女連れだった。女(仮にA子と呼ぶことにする)は、40代の静かな細身の美人だった。
 もう、閉店間際で、ほかに客がいなかったので、外の看板を「Close」に裏返し、B男とA子を二人並んでテーブルの席に座らせ、注文のビールをだし、俺はその向かい側の席にノンアルのソーダのグラスを置いて座った。
 B男は、開口いちばん、A子と自分のなれそめを話した。彼が言うには、A子とは、ここに書くことが憚られるような変態の集まるパーティーで知り合い、二人の相性(つまりは変態的性癖)がピッタリ合って、月に一、ニ度の割合で会うようになったそうだ。そんな、露骨な暴露話を、初対面の俺の前でいきなりされて、A子は、顔を赤くし、隣のB男をぶつ真似をした。
 B男は、彼女がぶとうと伸ばしたその腕を掴み、彼女を抱き寄せ、そのまま膝に乗せた。A子は、B男の傍若無人の狼藉から逃れようと抵抗しようとしたが、B男がA子の細い腰を抱いて動けないようにすると、諦めて、おとなしくされるがままになった。B男は俺を指して、
「こいつが、話していたK K(俺の苗字と名前)だ。俺の学生時代の一番仲の良かった友達で、俺が考える一番信用できる奴だ」
と俺のことをA子に紹介した。A子は恥ずかしそうに、俺の顔を見てにっこりと頷いた。
 B男は、彼女を膝に乗せたまま、俺に向かって、少し改まった口調で、
「今日は、お願いがあって来た。ニューヨークからオレが戻るまでの間、こいつと、俺の替わりに、付き合ってやってくれないか?」
といきなり言った。
「ぶ」
俺は、飲みかけのライムソーダを思わず噴き出した。
A子は
「バカ」
と言って、B男の胸をこぶしで叩いた。
 B男は、A子には眼もくれず、俺に向かって、たたみかけるように続けた。
「この子は、好奇心が強くて、危ないったらない女なんだ。必ず、彼女の周りには、彼女と一緒に冒険してくれるボディーガードを兼ねたボーイフレンドがいた。この5年は、オレがその役目をしてきた。だが、俺はニューヨークからいつ戻れるか判らない。このままA子を放って出発したら、悪い男に引っかかるかも知れない。その点、オマエなら信用できる」
 俺は、先ほどからの信じがたい展開に、自分の頬を抓りたい衝動に駆られた。何と返して良いかのか分からず、
「悪い冗談はよせ」
とだけ、言い返した。
 B男は、俺の反応など意に介さず、さらに、話を続けた。
「誰でも良いわけじゃないないんだ。ニューヨーク行きが決まってから、オレとA子は、まじめに話し合った。それで、A子の保護者兼遊び相手の候補者のひとりとして、この前、オマエの様子を見に来た。話してみて、学生時代のオマエの良いところがそのまま失われてないことが、判った。それどころか、年月を経て、逞しくなり、余裕もある。オマエなら警察からもやくざからもA子を守れるだろ」
 どうやら、本気らしかった。B男は、膝の上のA子に向かって、
「どうなんだ? K(俺の苗字)の印象は?」
と訊いた。
 A子は、ますます顔を赤らめて、俺から顔を逸らすと、何事かを、B男の耳を手のひらで覆って、囁いた。
 それを聞くと、B男は頷いて、A子の唇にキスをして、席を立った。そして俺に飲み代を俺に手渡すと、
 「じゃあな。オマエとは一生の付き合いになるって気が最初からしていたんだ」
と、言い残して、A子をあとに残して一人帰っていった。

 俺はA子と二人残され、音楽がちょうど止まっていたので、バックバーの棚の中のオーディオをいじり、セロニアス・モンクのピアノを選んだ。彼女のグラスがちょうど空になっていたので、
 「何か飲む?」
 と訊いた。
 「何か、シングル・モルトをロックで」
 「白州でいい?」
 「はい」
 俺は、テーブルの上に、ウイスキーの入ったロックグラスと、ピスタチオナッツの入った小皿と、自分用に氷の入ったグレープフルーツジュースのグラスを置いた。
 「ごめんなさい。迷惑だったでしょ。彼って自分中心だから」
 「俺もそれは同じだよ。似たもの同士なんで、学生時代にツルんでいたんだ。でも、B男の言っていたのはどこまで本当なのかな」
 A子はグラスの白州を一口飲むと、
 「全部、本当よ」
 と俺の目を見て言った。そして、真剣な面持ちで、俺に訊いてきた。
 「私、とっても、変態なの。あなたに呆れられちゃうくらい。それが心配だわ」
 「それは、心配しなくていいよ。俺も、変態なんで。それより、今日、君たちを見ていて、別のことを心配になった」
 「?」
 「B男は、君との関係を、君と一緒に冒険する遊び友達でボディーガードと言っていたけど、それだけじゃないだろ?」
 「?」
 「ほんとうは、マジに愛し合っているんじゃないか?」
 俺がそう言うと、A子は驚いたような表情を見せ、先ほどまでの人当たりの良い笑顔が消えて、真剣な顔になった。グラスのウイスキーをまた一口飲むと天井を向いた。まるで涙が出るのを防ぐように。
 沈黙が続いたが、俺は、話題を変えたりする助け舟を出さなかった。グレープフルーツジュースを啜り、ピスタチオの殻を剥いてナッツをかじった。だいぶ無言の時間が過ぎ、A子がしゃべりだした。
 「B男が私のことをどれくらい真剣に思ってくれているかは、わからないけど、私は命かけてあの人を愛している。これから言うことをあの人には秘密にしてくれる?」
 俺は
 「ああ、約束する」
と言った。
 「私ね。あの人には言ってないけど、去年、離婚したの。でも、独身になったことをあの人に言うつもりはないわ。私は、彼と一緒に、人に言えない遊びをする相手でいいの。あの人の重荷になりたくないの」
 そう言いながら、彼女の瞼の淵から、こらえきれない涙があふれ出していた。俺は、ハンカチを手渡し、何も起こっていないような平静な声で訊いた。
 「君に子供は?」
 「いないわ」
 「じゃ、今、一人暮らしか」
 「ええ」
 俺は、一呼吸して、改めて、話し出す。
 「俺は、一目で君のことが好きになった。君と一緒に遊べたら最高だろうと思う。でも、東京で、君と一緒にB男と君が行っていた場所に出かけて、B男と同じプレイを君としても、俺はB男じゃない。B男の代わりは誰にもできないんだ」
 A子は、そんなことは分かっている、分かっていてこうして来ているんじゃない、と言葉には出さなかったが、その表情で語った。
 「君の仕事は?」
 「SE。金融とかのシステム」
 「じゃあ、何の問題もない」
 「え?」
 「ニューヨークでも仕事はあるさ。B男は君の仕事の紹介くらいできるポジションのはずだ」
 A子は怒ったように言う。
 「私、そういう世話になるのはイヤなの。あの人の重荷になりたくないの」
 俺は、ゆっくりと話し出す。
 「俺とあいつは学生時代にお互いの裏の顔、弱いところや、醜いところをさらけ出しあった間柄だ。B男が鎧をまとう前の何者でも無い裸のあいつを知っている。たぶんそれは君にも見せていない顔だ。カッコつけたがりだから、君には見せられないだろうな。そのヤツの本質を知っている俺が断言する。君が離婚して一人になったからと言って、君のことを重いなんて考えたりは、絶対にするヤツでは無い。もっと恋人のことを信頼しろよ。B男が自分の家庭を捨てて君と一緒になるようなことになるかどうかは知らないけど、・・・」
 話の途中で、A子が叫ぶように言った。
「そんなことは望んでない」
 俺は、話を続ける。
「家庭を捨てて君と一緒になるようなことになるかどうかは知らないけど、今までと同じように、自分の家庭を大事にしながら、君のことも大事にできる。そのくらいの器量はあるヤツだ。だいたい、アイツが可哀そうとは思わないのか?ニューヨークで君の替わりになる女がいると思うか?」
 A子は黙った。沈黙は長かった。その沈黙の時間に、彼女の中で新しい何かが発生しつつあるのが、傍目からも分かるような気がした。
 やがて、彼女は言った。
 「わかったわ。彼が出発する前に話してみるわ」
 俺は言った、
 「それがいい。B男も喜ぶと思う」
 彼女は、何かを吹っ切ったような表情になり、席を立った。
 「ありがとう。色々と。さすがにあの人の親友だわね」
 俺は、奴とは学部以来会ってないので、そう言われると、親友じゃないと言い返したくなったが、黙っていた。
 彼女がコートを着るのを手伝い、ガラスのドアを開け、
 「ニューヨークは君たちの冒険にとって楽しいと思うよ。日本人女性はモテるし、黒人の男たちとか」
 と言って店の前の道まで送った。
 彼女は顔を赤らめて俺をぶつ真似をして言った。
 「バカ」
 そして、背中を見せて、右手を挙げて手をふって冬の道を歩き去っていった。その後姿を見送っていると、冷たい木枯しが俺の顔に吹きつけてきた。
彼女が角を曲がって見えなくなると、俺は踵を返し、暖かい自分の店の中に逃げ込んだ。先ほどまで座っていた自分の椅子に座り、今までA子が座っていた空の椅子を見るともなしに見た。
 誰もいないその椅子に、B男の膝の上に乗せられて腰を抱きしめられ、逃げようとしながらも悦びを隠せない素敵な笑顔のA子の姿が浮かんできて、俺は、その妄想を振るい落とすように、グラスに半分残ったグレープフルーツジュースを一気に飲み干した。
 (終わり)

コメント(5)

うーむ いつもありそうで「ない」のになれてきてしまい
ありそうであるやつばっか書いてる自分があほに見えてきました・・・

それはさておきさすがに今回のA子とB男は そんなのいるかな・・・と思いました
実話ですとか言われるとぶっとびそうですが・・

そして毎度のさんだいのかわし方が見事だと思いました
私も、大邦さん同様、こんな人いる!?と思ってしまいました汗。特にA子さん、40過ぎてるのに自分の面倒は自分でみないとダメだよ〜!と、年下なのにおせっかいに思ってしまいました……
でもその一方で、あの人を困らせたくない、みたいないじらしいところがあったり、大人の恋愛は、依存的なのか自立的なのか、難しいアンバランスだなぁ、と感じました。

昨今若者の恋愛離れと言われているのは、恋愛依存の体質が嫌厭されつつあるからなのかな、と思ったり。(もちろん、経済的な事情などもっと現実的な要因もあると思うんですが)
mixiニュースにもあった、「恋人にしたいナンバーワン」が野球の大谷選手なのは、
なんというか色恋にプライオリティをあんまり置かなさそうな、恋愛以外に一生懸命になれることがある、自立的な男女が好まれる傾向になりつつあることの表れなのかな〜なんて感じてたのですよ。
この作品は、そういう風潮からはまた違う価値観を持っている感じがします。
というか、価値観の問題というより、面倒見られてみてもらって、でも相手には迷惑をかけないで、みたいな、ある種のプレイなのか!?
恋愛についていろいろ考えさせられました……!
上記で書いたような、なんというかある種特殊な恋愛関係を、上手に表現されてて素晴らしいと思います……!こんな男女の世界があるのか、と思わせる点で、読者を新しい世界に誘ってくれる作品だと思います。
冒頭のつかみも作品全体によく効いていて、引き込まれます。
そして恋愛だけに終始せず、友情というものの本質を作品で描いていて、それが読んでいて二度三度美味しい味わいをくわえていると感じました。
人生経験豊富じゃないと書けない作品ですね。唸らされました。
ロマンですね。こういうナラティブは大好きです。雰囲気がすごく出ています。現実と非現実の境界が幻惑的結界をはられたラビリンスに迷いこんだように分からないのもいいですね。
一読、してました。

「ワケ有り幾星霜・人間秘密交差点」
「触(さわ)れない」

こんなふうに感じました。

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