半蔵門かきもの倶楽部コミュの第84回文芸部A　hirojk 作「振子」（三題噺『梅雨（つゆ）』『蛇使い』『五円玉』）

　目の前でメトロノームのように、規則正しく同じ動きを繰り返す五円玉を見ながら、多賀子は思った。
（蛇使いに操られるコブラも、こんな気持ちなのかしら…）
　出会って二ヶ月が過ぎ、突然に洋介が催眠術を掛けてみたいと糸に結んだ五円玉を真面目な顔でポケットから取り出したのだが、無下に断ることもできず今に至る。右手で糸の端をつまんで、左手は多賀子が両膝の上に重ねた左右の掌を優しく掴み、六十センチと離れずにジッと両の眼で見つめられただけでドキドキしてしまう。導入の台詞なのだろうか、何か言葉を話しているのは耳に入ってくるのだけれども、気はそぞろで全く集中ができない。そんな多賀子のようすには気が付きもせず、洋介は首を捻りながら、もう一度初めからと熱が入る。
（もう既に、私の気持ちはグラグラと揺れてしまって…）
　梅雨入り前の六月初旬、一雨ごと紫陽花の色づきが変わるように、多賀子の洋介への想いも複雑である。

コメント(7)

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[1] mixiユーザー 06月09日 10:29

ちょっと筆が進まないので、今回の個人的なテーマは原稿用紙一枚でした←

[2] mixiユーザー 06月11日 00:54

なんだろう、この短い作品に表現される、滑稽味がすごくいい、と思いました。
今時5円玉による催眠術！？というのが洋介への最大のつっこみどころだし、それを真剣にとりだしてくるということは、彼は相当な天然ボケ(この言葉も死語な気がしますが)な感じがします。
そのせいなのかわからないけれど、なんだか懐かしい感じがしました。(もっと長いお話になるなら、90年代とかを全面に出してきてほしい雰囲気だな、と思いました)

そして彼の天然ぶりを余裕で飛び越えるのは、真面目に洋介に付き合ってあげて、ちょっとドギマギしてしまう、多賀子ですね！
「いつの時代のやつをやってんのよ、そんなのかかるわけないじゃん」とか、「催眠術かけてどうする気なの？」とか、断る人が大半か、
受け入れたとしても、この状況を内心笑う人がほとんどだと思うんです。
それなのに彼女は、「へびもこんな気持ちかしら」と思い、あげくちょっとポッとなっている。
洋介以上の相当な天然だと思いました。

でも、この作品にはツッコミ役がいない……読者がツッコミ役として、この作品のボケ倒しを楽しむような構図になるのかな、と思いました。
もちろん、いい意味で、です。
短い文なのに、いろんな人間模様が見れて、楽しめました。しめの文章が美しいのが、また読者のなんとも言えない気持ちを掻き立てます。もちろん、いい意味で、です。

[3] mixiユーザー 06月11日 14:43

>>[2]
褒めすぎです

いつ、というのは特に限定せずに、人の身体・精神的な機構が変わらなければ有効な催眠で、古典的な手法を用いることで時代性を普遍にの意識はありました。
今回は男女の間柄？ですが、性別や年齢関係なくドキドキする気持ちの甘酸っぱさに、傍目から突っ込みを入れたいの気持ちになってくださったなら幸いです

[4] mixiユーザー 06月12日 19:50

多賀子は洋介のことが嫌いでなく、洋介は、催眠術という言い訳のもとに、間近で多賀子の握り、じっと見つめて囁く。多賀子はぼうっとして何を言われているのかも分からない。初々しい多賀子良いね。てか、催眠術良き。

[5] mixiユーザー 06月12日 21:08

>>[4]
いつの世も、催眠術は有効ですよね←

[7] mixiユーザー 06月13日 00:45

>>[6]
今回の原稿用紙一枚（400字）縛りは、だらだら書かないという意味でも、自分としても新鮮？でした。

催眠術は身体反射などの機構を用いて、あたかも操られている様に思わせ、深層催眠へ導入する手段の1つでしかありませんが、深層心理を解放されて意識的に封じ込めてしまった自分を知り得るのも興味深いです。

物語の書き始め、で終わらずに結末まで400字でスッパリと、というのも理想ではありますね…もう少し精進します