半蔵門かきもの倶楽部コミュの第七十七回　まめや作　しゃららん

しゃらん。しゃらんらん。しゃらん。
愛しさが泳いでいる。
しゃらん。

人は100年生きるらしい。僕はあと90年も生きることになる。いやだ。強い子になれたらあと10年くらいは頑張れるかもしれないけれど、僕は強い子じゃないからいやだ。
お前くさいんだよ。一回死んでこいよ。見んなよ。
グッて歯を噛みしめる。泣かない。泣いたりしない。
強くなるんだ。
いやだいやだいやだ。
僕は泣かないんだ。

悲しみが泳いでいる。

食べろ。食べろ。食べろ。
シュークリーム。ピザ。冷凍餃子。ハンバーグ。プリン。豚丼。チョココロネ。
食べろ。
食欲、睡眠欲、性欲。
こんな醜い体なんて誰にも見せられるわけがない。
痩せなきゃ。痩せなきゃ。
食べろ食べろ食べろ。
もう食欲しか残っていない。
指が喉の奥に引っ掛かる。
痩せなきゃ。食べろ。食べろ。
醜い。醜い。痛い。

寂しさが泳いでいる。

俺はどこで間違えてしまったのだろう。高校の野球部を途中で辞めたのがいけなかったのか。入社10年目で支店への異動を拒否したのがいけなかったのか。キャバクラのあの子に夢中になりすぎたのがいけなかったのか。
どこだ。どこで間違えたんだ。
女房が言うほど俺はうさんくさい男なのか、新卒の若造が言うほど俺は終わった男なのか。
俺は、なんなんだ。
俺は、俺は、俺は。俺は。

虚しさが泳いでいる。

別れる。
たった一言が言えない。
本当はとっくに終わっているのに。
最初からなにもなかったなんてわかってる。わかりたくなんかない。
わからない。
別れる。言ってやる。
なにもなかったなんて、思わせたりするもんか。知るもんか。
別れる。別れる。別れる。

苦しさが泳いでいる。

神様。どうか、あの子が幸せになりますように。
優しい子なのよ。
もう５０歳を過ぎているけど、ちょっと頭は寂しくなっているし、ちょっとお腹も出てきているけれど、素敵な子なの。
どこかの優しいお嬢さんと幸せになってほしいの。
器量なんて良くなくたっていいの。
ただ優しい気持ちであの子と一緒にいてくれたら。
あの子をひとりで置いて、わたしはまだ行けないわ。
神様、ねぇ、どうか。

せつなさが泳いでいる。

しゃらん。しゃらん。しゃらん。
しゃららららら、らん。
愛しさが。
しゃらん。
しゃららん。
愛しさが、溺れている。