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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第四十四回 祐太作 【ゴンク帝國帝王の遺志】(八大龍王伝説より一部抜粋)

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 龍王暦一〇六一年、聖皇暦五年三月一〇日。
 聖皇国七聖軍の一つ黒蛇軍は、八千を率いて、現在のゴンク帝國の帝都のあるツイン地方に進軍を開始した。
 ツイン地方は、ヴェルト大陸の南部に位置する海岸沿いの盆地であり、非常に痩せた土地で、一万人を養うだけの食料しか確保できない地域であった。
 そのため、既に多くのゴンク帝國民が、この地から去っており、現在は千人余の民しか住んでいない。
 おそらく、正規の帝國兵は百人に満たないであろう。
 そして、大陸の内陸に向かう北方の道筋の先には、マルドス、カムイの両城があり、そこには聖皇国の兵が常駐しており、南方の海洋側も、七聖軍の一つ蒼鯨軍によって封鎖されており、ゴンク帝國は完全に孤立させられていた。

 グロイアス将軍率いる黒蛇軍は、一九日にツイン地方に到達し、ツイン城を幾重にも包囲した。
 元々、マルドスとカムイの二城があって、初めて難攻不落の地となるツイン地方であり、ツイン城単独であっては、平地に位置する平凡な城に過ぎなかった。
 黒蛇軍に包囲された頃には、兵はさらに減って、三十人程度であり城を守るに必要な最低限の数にすら足りない有様であった。
 結局、ツイン城は一日で陥落し、帝王であるニーグルアーサーも城内にて自害し、三月二〇日にゴンク帝國は名実共に滅亡したのであった。

 既に八年前、ニーグルアーサー帝王の弟にあたるバルディアーサーの反逆という、ソルトルムンク聖王国によるでっち上げの事件により、当時の帝都ヘルテン・シュロスは、聖王国に占拠され、その時に王族のことごとくが粛清されていた。
 そのため、ニーグルアーサー帝王の死により、ゴンク帝國王族の血は全て絶え、ゴンク帝國は完全滅亡し、二度と復活することはないと誰もが思ったぐらいであった。
 しかし、ニーグルアーサー帝王は思わぬ形で帝國の命脈を、ある人物に引き継いだのであった。

「そうか! ゴンク帝國は完全に滅亡したか!」
 スーコルプは、配下のチャックライルからの報告に、ため息をまじえながら、そう独語していた。
 スーコルプは、ゴンク帝國の地下組織の長であり、常に反政府の立場で活動をしていた。
 それでも、ゴンク帝國政府の施政に、全て反対するわけでなく、善政に対してはそれを後押しし、場合によっては、卑劣な犯罪に手を染めながら、帝國政府の目を盗み、国外に逃げた輩(やから)などは、スーコルプの地下組織が捕え、そのままゴンク帝國政府の手に引き渡したりすることもしばしばあった。
 いずれにせよスーコルプの地下組織は、ゴンク帝國という独裁政治に対する外からの審査の目であり、手足として動く役割も同時に担っていた組織であった。

 ゴンク帝國政府と、スーコルプの地下組織は、基本、お互いに連絡をとるような繋がりは持たなかった。
 しかし、ゴンク帝國の帝都ヘルテン・シュロスが、ソルトルムンク聖王国によって占拠され、ゴンク帝國がツイン地方という辺境の一地方に封じ込められ、実態として滅亡とほぼ同じ状況になった時、帝王ニーグルアーサーからの働きかけで、スーコルプの部下であるチャックライルが、ニーグルアーサー帝王とスーコルプの伝令役となり、初めて両組織が直接的な繋がりを持ったのであった。
 スーコルプの地下組織は、ゴンク帝國がツイン地方に移った後も、元ゴンク帝國領に留まり、帝王の代わりに、ゴンク帝國復興に向けて様々な活動を水面下で展開していた。
 元ゴンク帝國領を接収したソルトルムンク聖王国にしても、噂で反ゴンク帝國の地下組織の存在は知っていたので、内々に調査したり、時には懐柔を試みたりして、スーコルプの地下組織に接近し、取り込もうと画策した。
 しかし、元々何代にも渡って、ゴンク帝國政府の誤りを、様々な形で指摘したり、場合によっては協力したりしながら存続した地下組織であったため、にわか政府の聖王国には、その尻尾すらつかむことができなかった。

 基本、反政府組織ではあったが、あくまでもゴンク帝國という屋台骨があっての浄化的な機関であったため、ゴンク帝國そのものが滅亡した今となっては、完全にその存在意義が失われ、スーコルプとしてもいいようのない寂しさを感じざるを得なかった。
 特に、ゴンク帝國がツイン地方に去った後は、帝國がヘルテン・シュロスの地に戻れるよう尽力していたため、それが果たせなかった悔しさは、どんな言葉でも表現できないほどであった。

「それで、お前は帝王の最期は見届けたのか?!」
「いえ、お頭! おいらは、帝國滅亡七日前に、ニーグルアーサー帝王からの要望でツイン地方から脱出しました。……なので、帝王の最期は見届けることはできませんでした!
 とにかく、帝王としてはお頭に、最後に言付(ことづ)けたいことがあるとのこと……。おいらも、何とか脱出できましたが、後一日遅ければ、黒蛇の奴らに捕まって、殺されていたでありやしょう!」
「そうか! よく無事に逃げおおせた! ツインの山々を越えたのか?」
「いえ! 逆に山に逃げ込んでは、聖皇国軍の山狩り部隊に見つかり捕まっていたでしょう。ツイン地方から逃げ出そうとしている一般の民に紛れ、マルドスルートから、そのまま脱出しました!」
「マルドス、カムイの両ルートは、一番検問が厳しいルートではないか! よくそのルートから脱出できたものだ!」
「それが、お頭。マルドス城の聖皇国兵は、帝王やその重臣が脱出するにあたっては厳しい目を光らせておりましたが、一般の民に対しては、むしろ脱出を容認して様子でありました。
 おいらも、帝王とお頭の橋渡し役はしておりますが、そのことは、極秘事項でありますし、そもそもおいらは、帝國の兵ではないので、持ち物全てを調べられましたが、何の問題もなく、マルドスルートを通過することができたというわけです。
 少し、おいらが考えていたような、敵国の民は全て皆殺しにするという鬼畜な聖皇国兵とはイメージが違いました。マルドスルートを通るようアドバイスしたのは、帝王自身でありましたが、これは一体どういうことなのでしょうか?」
「おそらくは、今、聖皇の元に黒宰相ザッドがいないからかもしれない! 今、聖皇の元にいる丞相(じょうしょう)にしても、実質的に聖皇の右腕的な存在のダードムス将軍にしても、仁徳の人物として聞こえてくる。そのような事情からかもしれない。あくまでも推測の域ではあるが……」
「お頭! ジョウショウって何ですか?」
「聖皇国の新しい役職のことだ! それについては後で説明する! それより一日遅かったら殺されていたとはどういうことだ!」
「噂ではありますが、おいらがマルドスルートを抜けた後に、聖皇国黒蛇軍の先鋒隊が、ゴンク帝國討伐としてツイン地方のマルドス城に到達したらしいですが、黒蛇の奴ら、あろうことか、そこから逃げ出そうとしているゴンク帝國の民を皆殺しにしたらしいです!
 そこから命からがら生き延びた何人から聞いたから先ず間違いないです! 中には、その時に受けた傷が元で、おいらに会った次の日に亡くなった者もいました。とにかく、黒蛇の兵がツイン地方に辿り着いてからは、ゴンクの民はほとんど殺されたようです!
 あいつら、ゴンクの民のみならず、帝王と重臣以外の国外逃亡を容認していたマルドス、カムイ両城に常駐していた聖皇国の兵士たちも、ことごとく殺したらしいです。何でも、ゴンクの民を勝手に逃がした罪とか言って……。マルドス、カムイの兵たちは聖皇の命に従って、ゴンクの民の脱出を容認していたのでは無かったのですか?
 おいらにはよく分からないが、とにかく一日遅ければおいらの命も無かったってことです!」
「マルドス、カムイの兵は聖皇の命に従っていたが、黒蛇の兵は、おそらくは黒蛇将軍グロイアスの命に従って、ゴンクの民とマルドス、カムイの城兵を殺戮したのであろう。
 グロイアスの背後には、黒宰相ザッドがいる。つまり、聖皇とザッドは、今は完全に別々ということだ。今回のゴンク帝國討伐も、ザッドが自分の領土を拡大させるために行った独走と考えて間違いない!」
 スーコルプは、部下というより自分自身に言い聞かせるように呟いていた。

「それで帝王は俺に何を伝えたかったのだ!」
 しばらくしてスーコルプは、部下のチャックライルに尋ねた。
「帝王が言うには、お頭にある人物に会ってほしいとのことだ! その人物はヘルテン・シュロスの郊外に住んでいるリュカオンという名の老人らしいが、お頭はご存知で?」
「ああ! 明日、リュカオンの住処(すみか)を訪れよう」
「お頭は、リュカオンを知っているのか?! ……そういえば、帝王もお頭がリュカオンを知っている口ぶりで話してはいたが……」
「ああ! リュカオンは、今は引退しているが、元々、ニーグルアーサー帝王とその二代前の帝王の三代に仕えていたご仁だ。役職は副王といって、言ってみれば聖皇国でいう宰相にあたる地位だ!
 ニーグルアーサー帝王には二年ほど仕えた後に、副王の職を辞して隠居したため、特に聖皇国も重要人物として、今は認識していない。しかし、地下組織としては、常にリュカオン殿の居場所は把握している。
 ゴンク帝國政府と反政府の非公式ではあるが、橋渡しや調整も、昔は度々行っていた人物だ。俺も、小さい時に親父に連れられて、二度ほどお目にかかったことがある。チャックライル! お前も同行しろ!」

 スーコルプとチャックライルの二人は、翌日の朝方、リュカオンの屋敷を訪ねた。
「これはお待ちいたしておりました。スーコルプ様も、逞しくおなりあそばして、爺が初めてお会いした時は、まだ十歳でありましたかな」
 リュカオンはスーコルプ達に朝方の訪問にも関わらず、衣服を整え、出迎える準備は万端であった。
「久しぶりだな! リュカオン殿。こいつが俺の部下のチャックライルという者だが、昨日(さくじつ)、ツイン地方を脱出して、俺のアジトに戻ってきた。
 こいつが言うには、帝王が、俺にリュカオン殿に会うよう言付かったようだ。帝王は既に身罷(みまか)られ、ゴンク帝國もこれで完全に地上から消滅した。今さら、この俺に何か出来ることがあるとは思えぬが……」
 スーコルプも、久しぶりにリュカオンに会えて懐かしかったが、それでもニーグルアーサー帝王が、何故リュカオンに会うようチャックライルに託したかは、全く想像つかなかった。
「爺も、帝王の死については聞き及んでおります。爺は二年という短い間しかお仕えいたしませんでしたが、決して凡庸な方ではございませんでした。帝王は、時代の波に飲まれた哀れなお方でございました。平穏の世であれば、大過なく帝王の責を全うされたものを……」
 リュカオンは、そう言うと涙ぐんだ。
 スーコルプもチャックライルも、しばらくは声もかけずそのままにしていたが、やがてリュカオンは顔を上げて、スーコルプに語りかけた。
 一つの決意が面に現れ、既に目に涙は無かった。

「ニーグルアーサー帝王陛下は、ご無念のうち亡くなられましたが、これでゴンク帝國が地上から完全に消滅したわけではございません! 再び、ゴンク帝國が復興できるよう、帝國の民と兵が一丸となって取り組まなければならない時でございます!」
「リュカオン殿!」
 スーコルプは困惑気味に、リュカオンに尋ねていた。
「リュカオン殿のお気持ちも分からなくはないが、帝國復興に当たり、中心となるべく王族はもういない。帝王の血を継ぐ者がいなければ、いくら民や兵がゴンク帝國復興を望んでも、復活させるべく手がない!」
「いえ! スーコルプ様! 王族の方はまだお一人、残っておられます!!」
「馬鹿な! ニーグルアーサー帝王に連なる者は、ほとんど王弟バルディアーサー殿が亡くなった際に粛清された。そして、今回のニーグルアーサー帝王の死によって、共にいた数少ない王族も全員粛清された! これは厳然たる事実であり、誰かを適当に仕立て上げても、すぐ露呈するので、帝國復興はまず不可能だ!」
「確かに、ニーグルアーサー帝王に連なる王族に生き残りはございません。それは爺も分かっております。しかし、ニーグルアーサー帝王から数えて五代前のクイディトールアーサー帝王の治世に、帝國のやり方に反発して、下野(げや)された王族がいらっしゃいました。
 クイディトールアーサー帝王の兄に当たるお方で、ボルボドアーサー様であられます。元々は賢兄であられたボルボドアーサー様が帝位を継ぐべきところ、ボルボドアーサー様のお父上に当たられますミルクリストアーサー帝王は、ボルボドアーサー様を嫌い、愚弟のクイディトールアーサー様に後を継がせました。
 ボルボドアーサー様は、それに反発されるように帝都を離れたのでございます。そのボルボドアーサー様の末裔の方がまだ生き残っておられます! そしてそれが、スーコルプ様、貴方なのです!」
 リュカオンのこの言葉には、スーコルプよりチャックライルの方が、その場でのけ反るぐらい驚いたのであった。

 リュカオンが続ける。
「下野されましたボルボドアーサー様ご自身は、ゴンク帝國から離れましたが、その時に付き従ったご子息がそのまま帝國領内に残られ、今ある地下組織を立ち上げました。
 そのお方が、ゴンク帝國地下組織の創始者であり、初代の頭であられるザマフジアーサー様で、帝國王族の象徴であられる『アーサー』の称号を捨てられ、ザマフジ様と名乗られました。
 その、ザマフジ様より五代目に当たりますスーコルプ様は、れっきとしたゴンク帝國王族の血を引く者。
 ニーグルアーサー帝王の系譜が途絶えた今、ボルボドアーサー様の系譜の王族の方が、ニーグルアーサー帝王陛下の血筋とその無念を引き継ぐのは、王族としての責務であられます。
 何を隠そう我が一族の分家も、ボルボドアーサー様が下野した時に共に付き従い、今の今まで一族間の連携を密にし、ボルボドアーサー様並びにザマフジ様の系譜の行く末をずっと見守っておりました。
 ここに、その正式な記録を記した系図もございます。
 そして、ニーグルアーサー帝王陛下より、ツイン地方に下る際、もしもの時に備えて、『帝王の冠』を爺がお預かりいたしました。
 ソルトルムンク聖王国における三種の神器ではございませんが、この『帝王の冠』は、ゴンク帝國帝王の象徴。
 ニーグルアーサー帝王陛下は、この本物の帝王の冠を、この爺に託し、自らはレプリカの帝王の冠を身につけられておりました。
 どうか、スーコルプ様! ここで王族に戻っていただき、ゴンク帝國の復興にために立ち上がって下さい! そうでなければ、爺が、死した後、あの世でニーグルアーサー帝王陛下に会わせる顔がございません!」

「……」
 それに対して、スーコルプは無言であった。
「お頭! すげえ! お頭、王様だったのか!! 道理で、普通のやつらとはオーラが違うわけだ! すげえ! すげえ!!」
「チャックライル! 少し静かにしろ!」
 スーコルプが、チャックライルをたしなめた。
「チャックライル! 外で待っていろ! 俺は、少しリュカオン殿と話をする。お前は外で、誰も入ってこないように見張っていろ!」

「さて、それでリュカオン殿!」
 チャックライルが退出した後、スーコルプはしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「どこから突っ込んでいいのか迷っていたが……、とにかく、俺が王族の末裔であるという大嘘は、どこから湧いて出て妄想か? もしや、リュカオン殿は、既に正気を失われているとか!」
 スーコルプのこの問いに、リュカオン老はしばし黙っていたが、やがて大きな声で笑い出した。
「スーコルプ殿! 確かに、貴殿がゴンク帝國の王族の繋がりというのは大噓じゃ! しかし……」
 ここでリュカオンは真剣な面持ち戻った。
「……しかし、大嘘ではありますが、悪ふざけの類ではございません! むろん、わしがぼけたわけでもありません!いたって真面目な話でございます。スーコルプ殿が、爺のこの大嘘に付き合って下さらなければ、爺はこの場で自害して果てる覚悟であります!
 なぜなら、この『帝王の冠』は本物であり、ニーグルアーサー帝王陛下から、爺が直接、託されたことだからあります。ニーグルアーサー帝王陛下は、ツイン地方へ移封される前に、この爺を尋ねられ、自分の身に何かあったときは、スーコルプ殿! 貴方に後を継がせるよう託されたのです!」
「……」
「確かに、先ほど爺が語りました話は、全てが伝説であり、信ぴょう性に乏しいものです。ボルボドアーサー様が本当に帝都から出奔したのかも伝説の域を出ませんし、ましてや帝國地下組織の長であったザマフジ様が、実はボルボドアーサー様のご子息であるなどは、語った爺自身も、民衆の間に流行るおとぎ話の類であろうと思っております。
 そもそもボルボドアーサー様にご子息がいらっしゃったのかも、本当のところは分かりません!」

「そこは地下組織の歴代の長にしても同じことが言える!」
 スーコルプも語る。
「帝國地下組織の創始者と言われているザマフジの後を継いだ二代目は、確かにザマフジの血族であったが、その後は全部、赤の他人同士が最終的に養子縁組を結んで後を継いでいる。
 俺も前の頭である親父とは血が繋がっていない。俺は、幼き時に両親に捨てられたか、あるいは両親が殺されたか分からないが、とにかく、五歳まで一人で生きてきた。
 そんな俺を、地下組織の長である親父が引き取って養子とした。俺は、自分の本当の親の顔すら知らない!」

「まあ、あまりそこは深く考えなくてもよいのでは……」
 リュカオン老は、急に相好を崩して、軽い口調で話し始めた。
「そもそもゴンク帝國帝王の一族にいたしても、純粋なヴェルトの民ではないわけですし……」
「?! リュカオン殿。それはどういうことですか?」
「……スーコルプ殿は、あまりヴェルト史にはご精通されていないご様子なので、爺が、簡単にお話いたしましょう。
 ゴンク帝國は今から千年前に、その当時の第三龍王である沙伽羅(シャカラ)龍王様によって建国された國でありますが、その初代帝王は、シャカラ様と共にヴェルト大陸平定に尽力した天界の民の血統です」
「成程! 天界に住む民であれば、ヴェルトの民でもなく、地上界の民ですらないということですか?」
「さらにその天界の民は、ヴェルト平定の戦いの中で命を落とす。初代のゴンク帝國の帝王は、その民が地上で交わった娘の子供であった。
 これは、亡くなった天界の民とその娘の証言によるものであるが、それすら、その当時から本当に亡き天界の民の子供であるかどうかは、本当の意味で確認はとれていない。
 帝國初代帝王ですら、そのようなあやふやな経緯であったわけでありますから、ここでスーコルプ殿が王族の末裔と宣言しても、それほど重要な問題ではないでしょう」
 さすがにスーコルプも、リュカオン老の言葉に、毒気を抜かれたような顔になった。
「いや、俺もかなり性格的にいい加減だが、リュカオン殿の発想には、さすがに呆れを通り越して何と表現してよいのやら……。
 リュカオン殿の発想で考えれば、ゴンク帝國の帝王は誰でもいいということになるのでは……」
「いやいや。さすがに誰でも良いとは思っておりませんが、ここでゴンク帝國が滅び、帝國の民が亡国の憂き目に遭うことに比べれば、血筋云々にこだわり立ち上がれないのは、小人(しょうにん)の小事へのこだわり以外の何物でもないと、爺は思っております!」

「……」
 スーコルプは、しばらく目を閉じ沈黙した。
 リュカオンもそれに、一切口を差し挟まなかった。
「分かった!」
 しばらくして、スーコルプは目を開け、つぶやく。
「その話に乗ろう! リュカオン殿、俺を導いてくれ!」
「よくぞご決心されました! 爺が全面的にバックアップいたします! 手始めに、帝王戴冠の儀式を行いましょう。名も王族の『アーサー』を加え、スーコルプアーサー帝王といたします。
 ここに、『帝王の冠』と詳しい系図がございますので、何ら問題はございません!」
「その系図はリュカオン殿が作成されたのか?」
「はい! 我が家は代々帝王の側近としてお傍につかえる一族。我が一族がその都度、系図を書き足して参りました。今回、それにスーコルプアーサー様を、ボルボドアーサー様以降のうやむやになっている系譜に継ぎ足しましたので、これで晴れてスーコルプアーサー様は、ゴンク帝國帝王の正統な血筋のお一人ということになります」
「その手回しも見事だ! それでもここで、戴冠の儀という物騒な儀式を行えば、その数分後には、ザッドの兵によって捕らえられ、殺害されるのが落ちだが……。
 ひとまずは、ここ元ゴンク帝國領から脱出し、シェーレ殿と、カルガス、クルックス、フルーメスの三か国の連合軍と合流する方が現実的ではないのか?」
「それも一つの手ではありますが、今回はその必要はなく、この地――元ゴンク帝國領で、戴冠の儀を行い、挙兵すれば良いと考えております。
 そのほうが、ゴンクの民も喜び、皆がスーコルプアーサー帝王の元に馳せ参じましょう。そこは爺にお任せください。
 既に、ゴンクでの挙兵が可能なある方と連絡をつけてあります。今日の夜にでも、そのある方とお会いすべく、爺が段取りましょう!」

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