半蔵門かきもの倶楽部コミュの第38回　コヤンイ作　『コアラという生き物』

ニックはテーブルの上に何か小さなものがあるのを見つけた。
手に取ってみると、小さなクッキーのようだった。表面に変な耳の、大きな鼻をしたくまのような動物のイラストが描かれていて、その生き物は先が丸い列車のような乗り物にまたがっていた。そのクッキーを口に放り込んで冷蔵庫を開けると、ビンの中に牛乳が少ししか入っていなかった。クッキーは噛んでみると中にチョコが入っていた。
サムは何処に行ったんだ。ニックが誰に言うでもなく呟くと、それが聞こえたかのように遠くから女の声で「サムは釣り」と聞こえた。
ニックはドアが開け放たれた寝室に入り、ベッドの横に立って着替えながら言った。
「ビルの店に行くけど、なにか買ってくるものある？」
女は枕に顔を半分うずめて目をつぶったまま、何もないと言った。その横顔に暫し見とれてから、ニックは部屋を出ようとしてドアのところで振り返った。
「マージ、今日もキレイだよ」
「ありがと」
「結婚してくれないか？」
「もうしてる」
「そうだった」

車を走らせると10分ほどでビルの店に着いた。食料品やら日用雑貨やらを売っている店でニックは店に入りビルと手を上げて挨拶すると店の中をぶらぶらと見てまわった。牛乳のビンを二本レジに持っていくと、
「他には？」とビルが言った。
「別に」とニックがこたえて、そうだ、変な動物のイラストが付いてる小さなクッキーを知ってるか？と聞いた。
「どんな動物だって？」
「クマの出来損ないみたいなやつ」
ビルは少し考えた後にニックの後ろにある棚を指差した。
「そこにあるやつかな」
ニックは見ると小さなパッケージにクッキーと同じ動物のイラストが描かれていた。
「多分これだ」
手に取って見ていると、ビルが買うのかと聞いた。一つもらおう、ニックはこたえた。それ日本のだぜ、とビルが言った。本当か？日本て色んなものをうまく作りやがるよな。
ああ、うまいこと作りやがる。
「この動物はなんなんだ？」
「コアラっていうらしいぜ」
そういうキャラクターなのか？いやそういう生き物がいるらしい。ふうん、ニックは軽くうなづいて店を出た。

ニックは家に帰ると牛乳を温めてカップに注ぎ、コアラのクッキーを手頃な皿を出してそれに全部あけた。驚いたことに一つ一つ描かれたイラストは全部違うらしい。コアラがトイレに座っているものもあれば、日本の着物らしいものを着ているのもあった。ニックにはどうしても意味の分からないものもあった。一つ一つイラストを確かめながらクッキーを食べ暖かい牛乳を飲んでいると、外から自転車のブレーキの音が聞こえた。