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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第21回 ハルト作 『後日談』

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「メロスは激怒した、って書き出し、あまりにも酷いと思わない?」

レコーダーのスイッチを入れたところで、最初にそう切り出したのはメロスだった。

今回の出来事について、インタビューに答えてくれたのは、メロス、セリヌンティウス、ディオニスの三人。
城内の一室を借り、そこに集まってもらったのは他でもない。 今、話題となっているあの事件の真相を、彼らの口から直接聞きたかったからだ。

まず、メロスが言ったのは、この事件の直後に紙面を賑わせた言葉だった。

メロス(以下M)「確かに怒ったから間違いないんだろうけど」

メロスはフェルトで作った小さな羊のマスコットを指で突きながら言った。

セリヌンティウス(以下S)「メロスは正義感だけは強いからなぁ」

セリヌンティウスも、羊のマスコットを持っていた。 メロスの羊が白で、セリヌンティウスの羊は黒。 幼友達の二人がお揃いで持っているそれらを、ディオニスは羨ましそうに見つめていた。

ライター(以下W)「そもそも切っ掛けは何だったの?」

M「妹の結婚が決まったから、準備をするために市まで来たんだけど、しばらく来ない間に何だかすっかり様変わりしちゃってて」

S「まぁ、あの変わり様は異常だったよね」

M「そう。 でも、誰に聞いても教えてくれなくて、やっと捕まえたお爺さんがこっそり教えてくれたんだよね」

ディオニス(以下D)「なんて言ってた?」

M「それがよく分からなかったの。 悪心とか乱心とか言ってて、さっぱりよ」

W「でも、それについて怒ったり、何とかしなきゃいけないと思ったのは何故なの?」

ライターが聞くと、メロスは恥ずかしそうに下を向いた。

M「難しいことは分からないけれど、やっぱり平和に暮らして欲しいって思ったんだよね。 ほら、妹にもこれから子供が生まれたりするだろうし」

W「みんなの為に?」

M「いや、そんな正義感の塊ではないよ。 それなのにだいぶ大事になっちゃってびっくり」

息巻いて参上してみたものの、メロスにとってその後の展開は予期せぬものだったと語った。 仮にも一国の王に対して、自分がした事の重大さがよく分かっていない様でもあった。
一方で、急襲にあったディオニスはかなり冷静だった。

W「メロスが乗り込んできた時、ディオニスさんはどう思いました?」

D「急に乗り込んできて、しかも短刀なんか持ってて。 訳が分からなかったんですよ。 上から目線で暴君とか呼ばれた挙句、人を信じろなどと言い出すのですから」

W「普通だったら、頭に来ますよね(笑)」

D「はい。 だから最初は馬鹿にしました。 鼻で笑う感じですね。 でもそれが何かのチャンスにも思えました」

そう話すディオニスには、一見した所では分からない、裏に考えがあったようだ。
実際、ディオニスはメロスのことをよく観察していた。 目の奥に邪悪なものは感じなかったが、揺らめいて見えるだけで、手放しに善良なものであるとは言い難く、無知や無謀とも区別のつかないものだったという。

D「けし掛けたのは私ですが、単純そうな人だから自分から言い出した事はきっとやり遂げるのではないかと思いました」

M「褒められてるのか、貶されているのか分からないわね」

メロスは自嘲して周囲の笑いを誘った。

ディオニスはその頃、人々への不信感が募り最高潮に達する勢いで、誰にも止められない所まで来てしまった感じではあったが、本音はどうであったのだろうか。

W「ディオニスさんがその様な心理状態になったきっかけは、一体何だったのでしょうか? 民衆もそれが一番気になっている事だとおもうのですが」

D「最初は、重臣だった者の裏切りです」

ディオニスは慎重に言葉を選んで話していた。 国の進退に関わると思えば、大きな声で言えない事も多いのだろう。

W「もし出来たら、差し障りのない程度に、その裏切り行為の内容を教えて頂けないでしょうか」

ディオニスは唇を舐めながら、少しの間逡巡した。

D「詳しくはお話しできませんが、本当に悪いことが重なったので」

W「そうでしたか、大変でしたね」

D「はい、疑心暗鬼で何が真実か分からずに、疲れ果ててしまいました。 何だか全部嫌になって。 あとは皆さんがご存知の通りです。 自分でも引き際が分からなくなっていた時期でもありました。 家臣が止めてくれるわけでもなかったし。 なので、メロスの提案は、自分が変わる事への希望でもあったんですよね」

W「賭けてみようと思ったんですか?」

D「はい、乗りかかった船でもありました」

M「それでいつの間にか話が進んで、処刑という事になっちゃっていました」

メロスは自分のした事が裁判に掛けられたとしたら、どんな罪状になるのか想像もしていない様だった。

ただ、一番のとばっちりを受けたのはセリヌンティウスだ。 当時の様子と自分の気持ちを以下の様に語ってくれた。

S「え、私? なんで?と言った気分でした。 当然でしょう?」

聞くところによるとメロスと会うのは2年ぶり。 それなのに急にお城からお召があったと思ったら、縄を打たれ、人質になれと言われる。

S「まったく話が見えませんでした」

W「メロスさんから説明はなかったんですか?」

S「一応ありましたが、すぐには理解出来ないですよね。 とりあえず急いでいたみたいなので、送り出しましたけど」

どっしり構えて落ち着いているセリヌンティウス。 処刑という言葉を聞いて、取り乱すことはなかったのだろうか。

W「恐怖心はありませんでしたか?」

S「縄を解かれるまでは、少し怖かったです。 でも、いろいろ話をしていくうちに、王様のほうは『ああ、これはパフォーマンスなんだな』って思える節が出てきて」

W「それはいつ頃気付いた?」

S「メロスが出て行ってすぐ、一緒に夜食を食べた頃かなぁ」

W「わりとすぐですね」

S「だって、部屋に入ってくるなり『シワに良く効くクリーム知らない?』とか聞いてくるんだもの」

D「眉間にシワが、とか書かれてたらイヤだなと思って」

囚われの身とは言え、セリヌンティウスの待遇はそれ程悪くなかったらしい。 きちんと一部屋与えられ、ドアの外には見張りの兵がいたものの、特に行動を制限されることはなかったと言う。

W「メロスが出て行ってから帰ってくるまで、疑ったことはなかった?」

ライターがセリヌンティウスに聞くと、あっさりと疑ったことを認め、気持ちの揺れ動きがどのように起こったか話してくれた。

S「やっぱり一度はね。 ほらだってさ、あの人、名前何だったっけ? 髪がトウモロコシみたいに黄色くて、男か女か分からない人!」

M「あー、顔は分かるけど名前が出て来ない」

S「その人がさ、よく『人間関係は腹八分目』とか言ってるじゃない。 それを思い出したら『あー、メロスももしかしたら、そんな感覚だったのかな』なんて思っちゃったんだよねー」

D「あー、分かる。 仕事の人間関係なら腹六分目くらいだけどね」

S「んー、そうだね」

W「それで、どうして信じて待っている事が出来たの?」

S「信じるというか、結局待っているしか出来なかったんですよね。 あの状況を想像して貰えれば分かると思うけど」

M「子供の時は無条件に信じても、やっぱりお互い大人になると、経験することも違ってくるしね」

S「自分が可愛いのは当たり前だし、もし帰って来なくても、それはそれで仕方ないのかなと思っていました」

メロスは自分が不在の時、セリヌンティウスが不自由な思いをしていたのではないかと心配していたが、それ程でもなかった事を知って肩の力が抜けた様だった。

M「私がいない時、二人は何を話していたの?」

S「まぁ、いわゆる悩み相談みたいな?」

D「そうね。 あとは生い立ちとかね」

S「結構時間があったからさ、途中でピザとか注文しちゃったりして」

D「中華の出前も頼んだよね」

S「そうそう。 でもあんなに長い間話したのに、時間になったら『じゃあ刑場に行きましょうか』みたいになって焦ったよね」

D「いや、一応処刑するって言った手前、形だけでもねぇ」

S「どうしても間に合わなかったら、死んだ振りしてください、とか刑吏が言うから吹き出しそうだったよ。 しかもあんな公衆の面前で」

二人は当時の状況を思い出し笑い転げた。

一方メロスのほうは道中散々な目に遭った様だった。

M「雨も降ってくるし、本当は車とか使いたかったんだけど、何か走るって言っちゃった気がして。 ズルは駄目かなと思って」

W「一応ちゃんと走ったんですね」

M「いや、途中歩きました。 鼻歌歌いながら」

D「余裕だな」

M「そう思ったんだけど。 雨降ったじゃない、沢山」

S「そう? 気付かなかったけどな」

M「あちらは降ったのよ、大雨。 そしたら川が氾濫しちゃってて」

S「え、じゃあどうやって来たの?」

M「泳いだ。 根性で」

S「すごいわね」

M「で、乗り切ったと思ったら今度は山賊に遭って」

そこでメロスは思い出したように言った。

M「あの山賊って、王様が仕掛けました?」

D「いや、知らないけど」

ディオニスは濡れ衣を着せられたと気付いて、少しムッとしていた。 せっかくクリームで直した眉間のシワが復活している。

M「何も持ってないのに、命が欲しいとか言い出したので、てっきり」

D「違いますって」

S「何人くらいいたの?」

M「3人かな。 護身術やっていた甲斐がありました」

メロスは昔取った杵柄を披露した。

M「でも、倒したのは良いけど、それで体力を使い果たしてしまって。 ちょっと諦めかけた」

D「まぁ、分からなくもないけど」

M「その場に倒れて、色々言い訳してた。 1500文字くらい」

下を向いて目を閉じたまま呟くメロスは何歳も年を取ってしまったようにも見えた。

W「でも、立ち直ったんですね」

M「あれは偶然だと思うんだけど、足元を水が流れててね。 それを飲んだら急に元気になったんだよね。 あれ、水素水だったのかな?」

冗談なのか本気なのか分からない発言をするメロスを、セリヌンティウスとディオニスは半笑いでやり過ごした。

M「太陽が沈む10倍の速さとか、適当に言ったのに、それを科学的に分析して揚げ足取ってきた奴もいたし」

D「あー、Twitterのタイムラインに流れて来たわ」

S「何それ」

M「太陽が沈む速さの10倍って、計算すると100メートルを0.02秒で走る速さと一緒なんだって」

S「ボルトもびっくりね」

D「マッハ11とか、衝撃波で半径2キロの窓ガラスが割れるとか」

M「最後には『走るなメロス』だって」

今回の件で皆に何かと持て囃されているのも、メロスにとっては予想外の事であったという。 

S「メロ子(メロスの妹、一般人の為仮名)の結婚式、結局はどこでやったの?」

M「家でやったんだよ。 急だったし、式場も見つからなくて」

D「メロ子ちゃんに悪い事したわね」

M「まぁ、どちらにしてもウチは倹約しなきゃならないから」

S「それにしても、よく準備出来たね」

M「ある程度は揃えてあったから」

少しはにかみながら、妹の結婚式について話すメロスは純朴そのもので、とても王に楯突く人間には見えなかった。

M「メロ子の旦那にも、葡萄の時期まで待って欲しいって言われて。 本当は自分もその時まで待ってあげたかったな。 秋は目に映る景色がすべて黄金色に変わって、とても良い季節だから」

メロスはしみじみと言って肩を落とした。 メロスにとって国や政治の事はとんと理解出来なくても、身近な家族の事になるとやはり骨身に沁みるのだろう。

S「私も見たかったな、結婚式」

M「メロ子、綺麗だったよ。 結婚式も楽しかったし、ずっとあのまま、あそこで暮らしたいと思ったよ」

それを聞いていたセリヌンティウスとディオニスは、メロスを見て目を細めた。

S「私としては聞き捨てならない話だけど、まぁ誰でもそう思うだろうね」

M「セリヌンティウスを忘れた事はなかったのよ。 ただ、戻りたくないなと思ったのは事実です。 ごめんなさい」

W「帰ってきてから、お互い殴り合ったというのは、本当ですか?」

M・S「殴る?」

W「お互い一度でも疑ったという事で」

S「ああ、殴ったというか、猫パンチみたいな?」

M「音だけ派手な奴を、形だけね。 それで許してもらったの。 本当にごめんなさい」

S「もういいのよ。 あ、そうだ」

セリヌンティウスは思い出したようにケータイに付いていた羊のマスコットを外して、それをディオニスに渡した。

S「はい、約束だから」

ディオニスはマスコットを受け取って嬉しそうに、でもどこか遠慮した様子で言った。

D「本当にいいの?」

S「うん、また作ってもらうから」

メロスはきょとんとして二人のやり取りを見ていた。

M「どうしたの? 何の約束?」

S「この羊、王様が欲しいって言ってたの。 メロスが作ってくれたものだから、メロスがちゃんと戻ってきたら、あげるって約束したの」

M「え、こんな物が?」

S「うん、あなたが戻ってきたら、また作ってもらえると思ったから」

D「私、こういう手作りのものを、貰ったことがなかったから」

ディオニスは恥ずかしそうに「友人から」と付け加えた。 それを聞いてメロスは感極まった様子で大きな声で言った。

M「こんな物で良かったら、またいくらでも作るから! もっと大きいものでも作るから!」

ディオニスはそれを聞いて笑って頷いた。

D「私も約束を果たします」

マスコットを大事そうに手に持ち、そしてセリヌンティウスに向き直った。
メロスが不在の間に、重要な約束が取り交わされた様であった。

W「急展開ですね」

D「はい、今までに処刑した者達ですが、実は彼らは生きています。 処刑はしていません。 お城の奥の塔に幽閉しているだけなのです」

目を丸くするメロスとライターの横で、セリヌンティウスだけが満足そうに2回大きく頷いた。

D「ただし、最初に言った重臣以外の者達です」

ディオニスはまだ完全に問題が解決していないので、全貌を話すことは出来ないが、近々内密に終焉を迎える事件の経緯を少しだけ語ってくれた。 国家転覆にも値する事件が裏で起こっていた事を聞いて、メロスとライターは口を開けて驚くばかりだった。

D「幕引きとしては上々の出来になりました。 私の乱心が治まった国民が思えば、安心して以前の暮らしを取り戻せます」

処刑された重臣が、他国からの間者だったと国民が知るところになれば、戦争という最悪の事態を予想し、安寧は保たれなかっただろう。 ディオニスはそれを心配して、自身の乱心として国民の目をわざとそちらに向けたのだった。

D「戦争になる心配は、もうありません。 メロスには悪い事をしましたが、何かの形で恩返しをしましょう」

メロスはそう言われたが、まだポカンとしていて状況をよく飲み込めていない。 
そんなメロスを尻目に、セリヌンティウスとディオニスはすでに腰を上げ、部屋から出て行こうとしている。
いつまでもメロスが立ち上がらないのを見て、セリヌンティウスは一度席に戻り、メロスの腕を引いて立ち上がらせた。
ライターはレコーダーのスイッチを切るのも忘れ、三人を見守っていたが、そこでセリヌンティウスが振り返り、最後にこう言い残した。

S「ああ、そうだ。 おじさん…、あ、お兄さんかな? 名前何だった?」

W「津島ですけど」

S「そう、津島さん。 お話を書く時には、忘れずにあの言葉を入れておいてね。 『この物語はフィクションです』って、白々しい言葉をね」

コメント(15)

ギリギリで申し訳ありません。

オカマの座談会の様になってしまいました。

太宰さん、太宰ファンの皆様、ごめんなさい。
戯曲ですね、ちょっとコメディタッチの
舞台で観てみたい気がしました
ライターが津島というのもニヤリですね
原作を読んでいると本当に笑える内容だと思いました!
裏設定まで考えてあり、ディオニスさん全然、邪知暴虐じゃないのが面白いです。走れメロスって、色んな二次創作が可能な題材なんだなと実感しました。

おまえら全員女子か!ってつっこみたくなりました(笑 かの邪知暴虐なる暴君ディオニスが、長髪で細身で、女の子座りしながらヤダーとか言ってる姿想像してしまい笑ってしまいました。
大変面白かったです!「メロスは激怒した」の書き出しから、まさか座談会が展開されるとは。発想力がすごいなぁと感じました。
個人的にはセリフ頭のイニシャルは無しでもいいかなと思いました。
誰が話しているか、地の文と話し方でわかるので。
>>[2]
コメントありがとうございます。
有名作品はよく舞台の題材になっていますよね。
これもシナリオにしたら面白くなるでしょうか。
>>[3]
コメントありがとうございます。
あまり性別にとらわれず書いたつもりなのですが、
結果オネェになってしまいました。
まぁ、いっか(笑)
>>[4]
コメントありがとうございます。
太宰さんに怒られそうな発想です(笑)
>>[5]
コメントありがとうございます。
今回は小説と言うより、よく雑誌などで見るインタビューをイメージしましたので、こういった形になっております。
>>[6]
コメントありがとうございます。
何とか形になってホッとしています。
また原作を読んで、笑ってください(笑)
>>[007]
一つの部屋だけで完結するし事件の当事者三人とライターの会話で進行するので舞台に向いてると思います
今日はいらっしゃれないのですね
残念です
近いうちにお会いできることを願ってます
座談会タッチでとても読みやすく、面白かったです。

会話もテンポよく、スラスラ〜っと読めて、所々クスッと笑える箇所も多く、楽しかったです。
>>[12]
もしも舞台のシナリオにするなら、もっと沢山の
セリフが必要になりますね。
今日は参加出来ず、とても残念です。
またお会い出来る機会を楽しみにしています。
>>[13]
コメントありがとうございます。

何となく書いていたら、オカマの姉さん達に
なってしまいましたが、楽しんで頂けたら
幸いです。

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