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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第十四回 たかーき作『シュシュとムームーのおはなし』

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暑い暑い、蒸し暑い空です。
その林には、一本の木がありました。
その木には巣穴があって、そこに彼らは、暮らしていました。

あんまり暑いので、シュシュは体をぺろぺろなめまわしてしまいました。
「ねえねえ、暑いよ。何で、こんなに暑いの?」
シュシュはそう言いました。
その声を聞いたムームーは、おうちの中から出てきて、
「ほんとだ、あっちい!」
と言いました。
「ねえ、暑いでしょう?おかげで虫さんたちが、たくさん穴から出てきたよ」
シュシュが、木に空いた小さな穴をほじっくてみました。
木はとっても柔らかくて、ポロポロと<ちゃいろ>の粉になって落ちました。
大きくなった穴の中から、おっきな芋虫が沢山出てきます。
「ほおら、見て!美味しそうな芋虫さん」
「うえー!いやだーい!おいらは、そんな気持ち悪いもの食べないよ!おいらは、ちっちゃなどんぐりが大好きなんだい」
ムームーは、ほっぺたを膨らませました。
「だって、この林にはどんぐりもないし、果物もないわ。ほら、芋虫さんおいしいのよ!」

シュシュが芋虫の、頭をぱくりと齧ると、<しろ>くて、ふわふわしたものが沢山、あたりに浮かびます。

「暑いときはね。ふわふわしてて、元気に動いて、柔らかいものがいいわ」
と、シュシュは言いました。
「おいら、暑いの嫌いだもん。早く暑いの終わらないかなあ」
と、ムームーは答えました。

空の色はとっても<あお>いです。
お日様の光は、<きいろ>くて、まっすぐ。
ムームーは、その<きいろ>い光の線が目の前にあったので、その<きいろ>い線に、ぎゅっと、つかまってみました。
線は、なんだか楽しそうに、ぐるりん、ぐるりん、と回り始めました。
「うわあーっ!こんなの初めてだ!」
<きいろ>い線は、時々<ぴんくいろ>になったり、<れもんいろ>になったり、太くなったり、細くなったり。渦を巻いたり、まっすぐ伸びたり。
なんだか踊っているようです。

「シュシュ、君もつかまってみなよ」
「楽しそうね!」
シュシュは、ムームーと一緒に光にしがみつきました。
光は、くるくる回って葉っぱから葉っぱに移っていきます。
光の線の<きいろ>が、葉っぱの<みどり>色にぶつかると、そこに濃い<きみどりいろ>が現れます。
<きみどり>は、風に吹かれて、やがて、そらの<みずいろ>と混ぜ合わり、<あおみどり>の模様がたくさんキラキラしました。

「しーっ!」
突然、ムームーがシュシュに注意しました。
「どうしたの?急にどうしたの?」
「誰かが来る音がするよ。あの木に陰に隠れよう!」
二人は、その<きいろ>い光からジャンプして、<ちゃいろ>の木の上に、飛び乗りました。
そして、その木の枝を渡って、木の幹のところまで走ってくると、
幹の裏側に回って、<くろ>い影に隠れて暗くなっているところに入りました。

「ねえ、ムームー。怖いよう」
「大丈夫さ!シュシュ。きっと大丈夫」
じっと待っていると、大きな足音が響いてきました。
そこに、大きな大きな何かが入ってきました。

「あれは、なんだろう?」

『ねえ、先生。私、また続きを描いたよ』
『まあ!すごい!どんな?』
『うーんとね、この林の中で、ふたりの……』

「ねえ、ムームー。あれはなんていうの?」
「あれはね。人間っていうんだよ」
「おっきいね、ムームー」
「おっきいよね、シュシュ。それに頭もいいんだって」
「私達のことを食べちゃうの?」
「食べないさ!人間は本当は優しいんだ」
「でも、怖いなあ」

やがて人間は、行ってしまいました。
「はあー、怖かった」
「シュシュって、怖がりさんだなあ」
「何よ、ムームーだって芋虫さんが怖いくせに」
シュシュとムームーが、木の陰から明るい方に出てみると、二人は影の<くろ>がたくさん体にくっついて、体中がちょっと汚れていました。
「アハハ!シュシュ、君の体、影の色がぺたぺたくっついちゃったぞ!」
「アハハ!ムームーだって同じよ」
二人は、大笑いしてしまいました。
「それじゃあ、池に行って水浴びしよう。体に着いた色を落として来よう!」



しばらくすると、暑さは和らぎ、涼しくなってきました。
シュシュとムームーは、林の中を探検していました。

「あれ?こんなところに」
「あっ、果物ができてる!」
「前まで、なかったのに」

二人は、大きな木の実をたくさん集めて、食べていました。
イチジクの<あか>い中身は、<あか>い匂いを周りに放っています。
その匂いで、シュシュのほっぺまで<あか>く染まりました。
「こんなにおいしい果物が!」
「本当だね!一体、どうしてこんなにたくさんなっているんだろう」

ブドウの実もたくさんついていました。
ブドウの<むらさき>の匂いは、ムームーのしっぽを<むらさき>色に染めました。
葉っぱの色の<うすみどり>は、
無花果の<あか>や、ブドウの<むらさき>と調和して、<ちゃいろ>や、<こんいろ>の模様があたりにたくさんちりばめられました。
それらの濃い色は、生まれてはすぐ、<みずいろ>の風に流され、ちりぢりに消えていきます。
そうして、美味しそうな色は、その林じゅうに満ちました。

「あれれ、また顔中が果物の色に染まっちゃった」
池に映った自分の顔を見て、シュシュは笑ってしまいました。
「本当だね!でも、あんなにたくさんの果物、初めて食べたよ」
「いままで、無かったのにね」

二人のもとに、<だいだいいろ>の風や、<あかむらさき>の風が、丸い線となって伸びてきました。
「くんくん。また新しい匂いがするわ。違う果物が、できてるのね」
「あれ、でも、誰かがしゃべっている声が聞こえるよ?」

その線が伸びてきている方を辿っていくと、
そこには、人間が座って、何かをしゃべっていました。
「あっ!人間!ムームー、怖いよう」
「アハハ、大丈夫だよ!」ムームーはブドウを頬張りながら言いました。
「それにしても、一体何をしているんだろう?」

『素敵な絵だね』
『うん!見て先生。ブドウに、イチジク。ナシもあるの』
『まあ、おいしそう』
『この林にいる二人のりすさんはね、林にいつも、果物がないから、美味しく食べて、とっても嬉しいんだよ』

「ねえ、ふたりのりすさんって、なんだろう?」
「んー、わかんない。でも、果物を食べて嬉しいんだって」

『きっとりすさんたちも、大喜びだね!』
『うん!』



もう、暑さはすっかりなくなって、ちょっと寒いくらいになってきました。
<みずいろ>の雨の棒が、ザーザー、と降っています。
雨の棒は、空からまっすぐ落ちてきて、地面に当たると、<つちいろ>を含んで跳ね返ります。
ぴしゃっ!
「あー、もう!また濡れちゃった」
「シュシュ、風邪ひいちゃうよ」
「大丈夫よ。私、寒いの平気…ハックション!」
「もう、しょうがないなあ。巣に戻ったほうがいいよ!」

林の葉っぱは、<ふかみどり>一色に覆われています。
中には、<かっしょく>になってしまったはっぱもあります。
太陽の光は、<くろ>い雲に遮られています。
<みずいろ>の雨の棒が、何本も何本も、地面の土めがけて落ちてきます。

「ねえ、もう果物はならないのかなあ?」
「そうだねえ、ちょっと前までたくさんあったのに」
「おなか、すいたよう」

シュシュとムームーは、素に戻りました。
果物が欲しいのに、どうしてか、見つかりません。

「あれ?あそこみて、ムームー。」
シュシュが、素の中から指をさしました。
<べにいろ>の、大きな八角形のものが、くるくるくる、と回っています。
その八角形のものは、雨の棒を遮り、跳ね返してしまいます。

それを、手に持っているのは、<だいだいいろ>の誰かでした。

「ムームー、あれはなあに?」
「んー、あれも人間なのかなあ?」
「今日は、なんで、あんな色をしているんだろうね?」
「んー、わかんない」
「それに、なんで、あんな大きなものをくるくるさせているんだろう?」

『ねえ、先生。雨って、楽しいね!』
『まあ、ウフフ。でも、風邪をひいちゃうから、あまり濡れないようにしないとね』
『うん!』

「ねえ、人間も、風邪ひいちゃうんだって。ムームーと一緒のこと言ってるね!」
シュシュは、人間を怖くなくなったのか、おかしくって笑っていました。

<だいだいいろ>の人間の子と、大人の人間は、切り株に腰かけました。

『大丈夫?雨、いっぱい降ってるけど』
『うん、大丈夫!お話の続きを描くの!』

「ねえムームー、おはなしって、なあに?」
「なんだろう?」

二人は、人間のやることが気になっています。
ふと気づくと、だんだん雨の棒が空から、少ししか降ってこなくなりました。
人間の子は、四角の何かをとりだしました。
それから、小さな箱を取り出しました。
箱には、たくさんの色をしたものが入っています。

『林は、また果物がなくなっていました。雨も降っていました。
りすさんたちは、とても寂しがっていました。』

「また、りすさんって言ったよ」
「本当だ。この前も言ってたよね」

『でも、一本の木から、ふしぎな力が…』
『その木は、なんていうの?』
『うーん、それはね、内緒だよ!』
『ウフフ、そうなんだ。じゃあ、聞かないでおくね』
『それでね、その林は、雨がやんで、林じゅうに、いっぱいの果物が…』

「ねえ、シュシュ。何かいい匂いがしない?」
「あれれ?本当だ。かわいらしい匂いの線が、たくさん出てきたよ」

丸みを帯びた<しゅいろ>や<こげちゃいろ>、それに<やまぶきいろ>の線が、空を泳いでいます。
「どっちから、この線は出ているの?」
「あっちだ!」

『林には、おいしそうな柿。堅そうな栗。ちょっとくさい、ぎんなんもなりました』
『いろいろな果物を、知ってるんだね!』
『うん!』

シュシュとムームーは、また林の奥の方に走っています。
「あっ!たくさんの柿が!」
「本当だ!みてみて、あっちには、栗がなっているよ!」
「こっちのは、ちょっと臭いわ。ムームー、これはなんていうの?」
「これは、ぎんなんだね」

『ふたりは、たくさん食べて、おなかいっぱいになりました』
『よくかけたわね!あら?空が晴れてきたわよ』
『ほんとだ!』

「ねえ、シュシュ、空が晴れてきたね!」
「本当だ!これでもう、風邪をひかないね!」
「じゃあ、ここにある果物、たくさん食べちゃおうか!」
「そうだね!」

シュシュのほっぺは、<しゅいろ>に染まり、
ムームーは、全身が<こげちゃいろ>になってしまいました。
でも、水浴びをして、二人の体はちゃんと、元通りの色になりました。
「シュシュ、このぎんなんも、美味しいよ!」
「うん!ちょっと臭いけど、すっごく美味しい!」

『そろそろ、帰ろうか?』
『先生、まって、もう一つだけかいたよ』
『あら、なあに?』
『えっとね。雨がやんで、林には、虹ができました』

シュシュとムームーの前に、虹ができました。
「あっ、これは虹だ!」
すると、虹はいいました。
「僕はね、雨がやんで、楽しい気分になると出るんだよ。さあ、君たちに7つの色をプレゼントするよ」
虹は、7つの線がばらばらになって、それぞれが、ぴょんぴょんと跳ねだしました。
<あか><だいだい><きいろ>は、シュシュの周りを楽しそうに踊りだします。
<みどり><みずいろ><あお><むらさき>は、ムームーの周りを優しそうにくるくると周りました。

『また、こようね!』
『うん!先生!』



寒い日です。
<ふじいろ>だった空は、今や冷たそうな<しらあいいろ>になっていました。
木々は<かれいろ>の枝を付け、葉っぱはあまりありません。
林はとても静かです。
静かだから、空気は<あまいろ>に塗りつぶされています。

「そろそろ、雪が降るね」
「雪が降ったら、外に出られなくなっちゃう」
「じゃあ、おいしいドングリを集めようよ!」
「どんぐり、あるのかなあ」

『先生、この林って、なにもないね』
『それじゃあ、また、素敵な林の絵を描いてあげればいいわ』
『でも、なんでなにもないの?』

シュシュとムームーは、どんぐりを探していました。
「うーん、やっぱりないなあ」
「どこにあるんだろう」
でも、なかなか見つかりません。
<かりやすいろ>の枯れたススキが頭を振っています。

『くだもののなる木は、ないの?』
『あなたが、たくさん描いたから、大丈夫よ』
『おはながさく木は?』
『それも、たくさん描いていいんだよ?』
『でも、どうしてないんだろう?』
『みんな、伐採してしまったのよ』

「やっぱり、どんぐりってないんだね」
「しかたないから、蓑虫さんを食べましょう」
「えー!いやだーい!おいら虫さん大嫌い!」
「でも、この林は、もともとなんにもないのよ」
「この前まで、たくさんの果物があったのに」

なんにもない林には、<すないろ>の風が吹き付けます。
風に<ねずみいろ>の砂粒が沢山まざっています。
まだ木に残っていた<まつばいろ>の葉っぱは、乾いた風に飛ばされます。
風は、たくさんの重い色を含んで、どんどん<はいいろ>に染まっていきました。

『ねえ、先生』
『なあに?』
『今は、りすさんは何を食べるのかなあ?』

シュシュとムームーは、自分たちの巣のある木に戻りました。
すると、そこにまた、二人の人間の話声が聞こえてきます。

『私ね、りすさんが喜ぶように、いつもずっとこの林の絵を描いてあげるの』
『まあ、えらいね』
『それでね、この林に花を咲かせたいの』
『まあ、それは、リスさん喜ぶわ』
『だから、春までずっと絵を描くの』
『ところで、なんて花を描くの?』

「ねえ、シュシュ。あの人たち、またいるよ」
「ほんとね!いつも何をしてるんだろう」
「何かを持って、何かを描いているみたいだね」

『それはね、先生。内緒だよ!』

「ねえムームー。ないしょって、なあに?」
「なんだろうね?」

『じゃあ、来年の春になったら、教えてね!』
『うん!春までリスさんたち、冬眠するんだよ!だから今日は、どんぐりを描いてあげるの!』

「冬眠って?」
「うーん、なんだろう」
「ねえ、そろそろ、戻って休もう」

二人はそう言って、自分たちの巣がある木に戻りました。

すると、そこには<あずきいろ>の、たくさんのどんぐりが山のように積んであります。
「あー!ムームー、見て!」
「ほんとだ!どんぐりだ!」
二人は喜びました。
「不思議だね」
「うん、不思議だ」

『この木は、どんぐりがなるんだよ』
『まあ、それじゃ、どんぐりの木?』
『違うよ。でも、不思議な力があるの。だから、どんな木の実だって、果物だってなるんだよ!』
『すごいね!本当はなんていう木なんだろうなあ』
『ないしょ!』



冷たい風が吹いています。
二人は、巣の中で、眠っています。

「もう…起きていいの…?」
「だめだよ、シュシュ」
「あと、どのくらい、寝ていればいいの?」
「ずっとだよ」
「たまには外に出たいよ」
「だめだよ。どんぐりを食べて、気をまぎらわそう」

シュシュとムームーは体を寄せ合いながら、そんなことを喋っています。

「もう嫌!外が見たい!」

シュシュは、葉っぱで作った布団から飛び出してしまいました。
「シュシュ、待って、寒くて死んじゃうよ!」

「うわっ」
シュシュの目に入ってきたのは、<しろ>一色でした。
雪です。
空は<しろ>い雲に覆われて、
地面にも、ところどころに木が生えているのがわかる以外、みんな<しろ>い雪に覆われています。
<しろ>い空から、<しろ>い地面に向かって、<しろ>が降ってきています。
空の<しろ>は無限に広がっていて、<しろ>はこの大地を、さらに<しろ>く塗りつぶしています。

「シュシュ、だめだよ」
「ムームー、すごいよ。きれい」

木のあった場所には、木の色は何も見えません。
輪郭があるだけで、その上には<しろ>い色が塗りつぶされています。
葉っぱも、落ち葉も、枝も、全部<しろ>いのです。

二人の吐く息も、<しろ>いのです。
そして、空気全体が、<しろ>いのです。
<しろ>くかすんで、<しろ>くぼやけて、そこに何があるのか、輪郭がよくわからないのです。

「何も、見えないよ」
二人は、巣穴から外を眺めながら言いました。

「あれを見て、シュシュ」
「なあに?」
「またあの子がいるよ」

<しろ>だけの世界に、ぽつんと人間の姿が見えました。
<しろ>い中に、その子だけは、はっきりとわかりました。

「こんな日に、何をしているのかな」

その子は、一人でした。
何も喋らないのです。
やっぱり、手に握った何かを、四角い何かに向かって一生懸命描きつけています。

「頑張ってるね」
「風邪、引かないかな?」

その子は、ずっと同じことをしていました。

「あれ?」
「なあに?シュシュ」
「これ。色が違うわ」

シュシュは、巣穴の入り口に積もったものを、手に取りました。
「冷たくないの」
「本当だ」

それは<しろ>くなくて、なんだか幸せな色をしていました。
「見て!空から、同じ色のが降ってくるよ!」

シュシュとムームーは、空を見ました。
さっきまで、<しろ>い雪ばかりが降っていたのに、どうでしょう。
その、何とも言えない不思議な、幸せそうな色のものが、ふわふわと、降ってくるではありませんか。
それは、<ぴんくいろ>や<ももいろ>や<きいろ>や<はだいろ>より、ずっと薄くて、ほんわかした色なのです。
でも、<しろ>ではないのです。
「すごいよ。あったかい!」
「本当だ!なんでだろう?とっても幸せ!」

二人は、その不思議な色をしたとても喜びました。

『このゆきのいろは、
リスさんのすあながある、その木のおかげでした
花がさくのをまちきれないので
雪を、その花の色にそめたんです
二人のリスさんは、おかげで、とってもしあわせになりました』



寒い季節が、やっと終わりました。
ちゅんちゅん、と、鳥のさえずりが聞こえてきました。

シュシュとムームーは、水浴びをしています。
池は鮮やかな、<るりいろ>の水に満たされています。
「なんだか、すごくいい気分!」

鳥がさえずりながら、二人に話しかけてきます。
「ホケキョ。この林も、少しずつお花が咲いて、素敵だねえ」
シュシュは、鳥さんに答えました。
「お花が咲いてるの?この林に、お花があるの?」
「おいらも見たい。お花ってどこにあるの?」
「ホケキョ。奥に行くとあるんだよ」
<うぐいすいろ>したその鳥さんは、そう言いました。

「ムームー。この林って、素敵だと思わない?」
「素敵って?」
「光や虹で遊んだり、果物を食べたり、大好きなどんぐりを食べたり。それに、お花まで見られるんだもの」
「そうだね!昔は何もなかったのに、今はすっごく素敵だよね!」

しばらく行くと、そこには確かに、椿の花が咲いています。
鮮やかだけど品のある<うすべにいろ>です。
「きれいだね」
「かわいいね」
二人はそう言いました。

更に少し行くと、梅の花も咲いています。
シュシュは、木に登ると、花びらを一枚ちぎって、ムームーの所に持ってきました。
「梅の花だよ!かわいいよね」
花びらの<うめむらさき>色が、シュシュの周りを春の雰囲気に染めています。
「うわあ、綺麗!なんか、花びらのにおいがするね!」
二人は花でたくさん遊びました。

その後、二人は自分たちの巣穴がある気に戻っていました。

「でもさあシュシュ」
と、ムームーが言いました。
「ずーっと寒くて寝ていた時に、空から降ってきた、あったかいふわふわしたもの」
「うんうん、覚えてる」
「確かね、あれとさ、おんなじ色の花があるんだよ」
「そうなんだ!それは見てみたいなあ」
「おいら、あの色が一番好きなんだ!」
「なんていう花なの?」
「うーん、なんだったっけ」
「どの木に、咲くの?」
「おいらも、わかんないよ」

二人が話をしていると、
また、人間の声が聞こえてきました。
「あっ、あの人たちの声だ」
「本当だ。なんだか、来るのが楽しみになっちゃうね」
二人は、巣穴を出ると、木の上に登って、その声のする方を眺めました。

『本当にえらいなあ。こんなにたくさんの絵を描けて。どの絵も素敵よ』
『でも、もっと絵を描きたい。リスさんの絵をたくさん描くの』

「また、リスさんって」
「きっと、あの子はリスさんっていうのが、とっても好きなんだね」

『小学生になっても、たくさん素敵な絵を描けるといいわね』
『うん!図工の時間が、楽しみ』
『あら、図工なんてもう知ってるんだね』

「ねえ、小学生って何?図工って何?」
「全然わかんないよ」
「でも、きっと人間の世界って、楽しいんだろうなあ」
「そうだね、シュシュ。おいらもそんな気がする!」

『先生、もう少ししたらね』
『うんうん』
『あの木に、お花が咲くんだよ』
『まあ。楽しみにしてたあの花が、ようやく咲くんだね』

その二人の人間は、そういうと、シュシュとムームーの方を見ました。

「あっ」
「こっちを見たよ」

『ねえ先生。リスさんがいる!』
『えっ?どこに?』
『あそこ!あそこ!』
『う、うーん、何も見えないけど…』

「私たちの事を話してるのかな?」
「手を振ってみよう」
シュシュとムームーは手を振りました。

『うーん、リスさん、いるのかな?ごめんね、ちょっとわからなかったわ』
『先生、見えなかったの?』
『でも、先生、目が悪いから。きっとちゃんといると思うわ』

「あれ?気づかないのかなあ」
「でも、きっと見えてたはずだよ。おいらたちのこと」

二人の人間は、その場にある切り株に腰を掛けました。
『先生、私、小学生になっても、また先生んちにあそびにくるよ』
『まあ、すごく嬉しいわ』
『リスさんの絵を描いて持っていくね。それでね、そのリスさんたちは、花が咲いて、幸せだねって言うんだよ』
『ありがとう!その時には、なんていう花の名前なのか教えてね』
『うん!先生、ヒントを上げるね』
『えっ?』
『あのね、4月に咲く、いちばん有名な花だよ。それでね。私とおなじ名前なの』
『まあ』



林の中を、幸せな風が包んでいます。
<みずいろ>に澄んだ空に向かって、<きみどり>の葉っぱたちが背伸びをしています。
みんな、大きくなりたいみたいです。
<だいだいいろ>、<ぴんくいろ>、<うすむらさきいろ>、いろんな花が咲いています。
太陽の<きいろ>い光はまっすぐに伸びて、その光に当たったいろんなものを、幸せにしています。

そんな沢山の種類の花がある中で、
シュシュとムームーは、その巣穴のある木が、一番沢山の花をつけているので、幸せになっていました。
「シュシュ、おいら思い出したよ。桜っていうんだ」
「桜?」
「そうだよ、おいら、桜が大好きなんだ」
「私も、なんだか桜大好きになっちゃった」
「おいらたちが住んでいる巣穴が、桜の木だったなんて」
「すごいね!知らなかったね!」
二人は、桜の花びらを手に取って、とても幸せな気分になりました。
「ねえムームー。この色って、あの時のとおんなじね」
「あっ。あの雪の日の」
二人は、雪の中に見た不思議な色を思い出していました。

「不思議だね。今まで、何もない林だったのに」
「もしかしたら、誰かが、不思議な力で、この林を幸せにしてくれたんだよ」
「うん、私もそう思う!」
「ねえシュシュ」
「なあに、ムームー」
「なんだか、とっても、幸せだね!」
「うん!そうだね!幸せだね!」

二人は、幸せを噛みしめています。
その林中の鳥や、草木や、池や、光たちもみんな、その幸せを噛みしめています。

「これからも、たっくさん、楽しい事があるといいね!」
「うん、幸せになれるといいね!」

<さくらいろ>の花びらが、林中に降り積もりました。
シュシュとムームーは、また素敵な季節が繰り返すことを待ち遠しくなりました。


『シュシュとムームーは、
いつまでも幸せに暮らしました。
これで、二人のリスさんのお話はおしまいです』

コメント(14)

こんにちは。
また直前の投稿ですみません。

あまり推敲できていないため少々わかりにくいかもしれませんが、
この作品自体が、「ある幼稚園児の女の子がクレヨンで描いた世界の中の話でした」
という、作中作のようなことがやりたかったのです。
伝わっていれば幸いです。

そして、申し訳ないのですが、
言葉としては、「クレヨン」のクの字も出てこないで終わってしまいました。
「クレヨンで描かれた話」という事を、小説として表現したかったので、言葉を言葉として出してしまうとかえって興醒めと思った事と、
「文章表現からクレヨンらしさは出せているはず」という自負心から、結局入れずじまいとしたのですが、
こういう事がルール違反でしたら次回からはちゃんと言葉を入れるようにします。

絵は私が描いたものです(笑)
このお題でどんな作品にするべきか、思いつかなかったため、実際にクレヨンを買ってきてリスの絵でも描いてみたら何か思いつくんじゃないかと考え、気分転換で描いていました。
この絵を描いたことで、物語のアイディアが浮かびました。
>>[1]

桜を背にしたリスの絵が可愛いです。ご自分で書かれたんですね!

色彩豊かで、美味しそうな描写も多く、楽しかったです。
リサとガスパールのような、クレヨンぽい絵柄の絵本やアニメになりそうなお話ですね〜。
>>[1]
こんばんは。作中のさくらちゃんが描く世界が、物語になってシュシュとムームーに幸せを与えていく様子。そしてさくらちゃんがクレヨンで一生懸命描いている様子。この2点、しっかりと伝わってきました!作品の雰囲気が温かくて素晴らしいです。
画像のリスの絵があまりにも可愛いので、それだけで和んでしまうというか、ちょっとその可愛らしさがずるいなと感じました笑。
>>[2] ありがとうございます。そういうアニメがあったらどんな作品になるかな?というのを想像して書いてみました。
現実世界ではありえない、「物の色同士が混ざっていく描写」とかを小説という形で表現できるのも楽しかったです。もっとその手の描写が多いと面白かったかもしれません。
>>[3] ありがとうございます。ちゃんと伝わったならとても嬉しいです。
この三題話からは、絵本のような作風にせざるを得ないだろうと思い、思い切って童心に帰りました。

画像は、実際にはリスの絵を動画検索して、模写して描きました。リスというものがそもそも可愛いだけであって絵は大したことないです。私は全く絵心がないので、模写しないときっとリスなのか何なのかわからない絵になりますからね^^;
あまりにも可愛らしい絵のでたかーきさん作とは思いませんでした。
クレヨンで描かれた作中作というのが伝わってきて、非常に良かったです。小説表現の可能性を感じました。
>>[6]
ありがとうございます。
あまり推敲できていない部分も多いですが、このような表現の小説があってもいいかなという実験作と思っていただけたら幸いです。
人間以外から見た世界という設定が好きです。
特に、リスたちが自分たちを「リス」という言葉で表現されているのだと認識できておらず不思議がるというのが哲学的でいいですね!
桜のくだりもやり取りがかわいくて、けっこう好きです。

ひとつ分からなかったのが、芋虫のくだりの、白いふわふわしたものです。これは何を想定してるのでしょう?
ほのぼのとした、とても穏やかな雰囲気が伝わってきて、心があたたまる思いがしました。

それと同時に、たかーきさんの作品は「最後にどんでん返しがあるのでは?」と思ってビクビクしたのですが(笑)、心配ご無用だったようで安心しました♪

哲学的な表現も大変興味深いと感じました!
>>[8]さん
ありがとうございます。
その下りですが、要するに芋虫自体のことを言っているつもりです。
最初の構想のとき、ドングリのことを「茶色くて、堅いもの」などと表現している箇所があって、対比させたのです。
そこだけ消して白の方の表現を消すの忘れてしまいました。

あと芋虫を、白くてふわふわしているよ、といってシュシュがかじると、本当に辺りに白いものが綿毛のように、もやもやと現れました、なんて表現をいれるつもりでした。(それも要するに、白クレヨンの質感の表現です)
>>[10]
ありがとうございます。読んでいて絵が浮かんでくる作品になれていたら、とても嬉しいですね。
リス達はかわいくなるように書きました。
小説と言うより、童話を目指しました。
>>[11]
ありがとうございます。
ほとんどの方に、どんでん返しがあるのではないかと言われていますね(笑)
今回は徹底的に素直に書こうと思いました。
リスが自分をリスとわかってないという表現など、いろいろ凝ってみたのは、哲学的な含みを持たせられたようなので入れて正解だったのかなと安心しました。

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