ここは、ある森のなかです。むこうから、りんごちゃんたちが歩いてきます。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
広場につきました。りんごちゃんは歌うのをやめました。しかし、オレンジちゃんとバナナくんは歌うのをやめません。
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」」
「うるさーい！」
りんごちゃんが怒鳴りました。
オレンジちゃんは、ドスン！としりもちをついてしまいました。
「「ドスン！」」
バナナくんは、おどろいて、ぺろん……と皮がむけてしまいました。
「「ぺろん……」」
「もうっ！ ちょっとは静かにしてよね（><）」
りんごちゃんは、うるさいのが嫌いです。
「「「「あー、おどろいた」」」」
他のくだものがいいました。そして、
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
また歌いはじめたのです。
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「静かにしてよー」
誰も、いうことを聞いてくれません。
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
りんごちゃんが、ふたたび歌いはじめました。
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
こうして、森のなかは歌声でいっぱいになるのです。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一人腰をおろしています。
「はー」
そこに、オレンジちゃんが通りかかりました。
「りんごちゃん、どうかしたの？」
オレンジちゃんＯが訊ねました。
「ちょっとねー」
「なにかあったら相談にのるわよ」
オレンジちゃんＲが言いました。
「うん……。ありがとう///」
少し元気が出たようでした。二人は去っていきました。
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一つ腰をおろしています。
「はー」
そこに、バナナくんが通りかかりました。
「はー」
「よう！ なにシケた面してんの？」
バナナくんＢが訊ねました。
「ちょっとねー」
そして、りんごちゃんはまたため息をつきます。
「顔、赤いんじゃないかなー？
お医者さんに診てもらったほうがよくない？」
バナナくんＡが言いました。
「もしかして、
こいつ、恋してんじゃねーの？」
「はー？」
同じ「はー」でも違う意味をもったように聞こえます。
「ああそうか。思春期だもんね」
Ａも、ひと安心です。
「失礼よ！ 顔が赤いのは生まれつきよ！」
「おう、相手は誰だ？ 協力するからよ！」
「ホレぐすりでもつくりましょうか？
僕、一度つくってみたかったんですよね♪」
「ちょっとー、人の話聞いてる？」
「じゃあさ、俺らで考えよーぜ☆」
「うん★ ホレぐすりは僕がつくるから」
「おう！ 俺は相手をよびだして、『ボコッ！』と気絶、な。」
「もう、なに考えてんのよー」
「となると、材料が必要ですね」
「他に要るもんあったらいってくれよ」
当のりんごちゃんをさしおいて、話はどんどん進行していきます。いつになくマジメな顔のバナナ二人をみて、りんごちゃんはおかしな気分になってきました。
「アハッ」
「は？」「ん？」
「アハッ！ アハハハ」
「おうどうした？」「なにかいいことでもありましたか？」
「ううん……なんでもない///」
「アハハハハハ」
「グワハハハハ」
「クスクスクス」
こうして、森のなかは笑い声でいっぱいになるのです。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。むこうから、オレンジちゃんＯが歩いてきます。こちらから、オレンジちゃんＲが歩いていきます。二人のオレンジのちょうどまんなかに、りんごちゃんがすわっています。
「ああ、オレンジちゃん。おはよー」
りんごちゃんが言いました。
「おはよう」「おはよう」
二つの声はそろいました。
「りんごちゃん、いまのはあたしにいったのよね？」
「りんごちゃん、いまのはあたしにいったんだよね？」
そのあいだにも、オレンジはりんごちゃんに近づいてきます。
「フーンだ」「ヘーンだ」
二つは、少しのあいだにらみあい、
「「くるっ！」」
そっぽを向いて、それぞれの方向へ帰ってしまいました。
りんごちゃんはしばし呆然としていましたが、「はっ」と立ちあがり、森のなかを全速力で駆けました。
「たいへん！」
「で、なんで俺らなわけ？」「相談しにきてくれて嬉しいよ」
「……あなたたち、いつでもいうことやること対照的ね」
「俺とこいつがおなじだったら気持ち悪いっつーの」
「僕も、遠慮したいですね」
「ああ？ なんだと？ 俺が兄貴で悪いか？」
「そんなこといってないじゃないですかー」
「なにお〜っ？ テヤッ！」
「きますか？」
いきなり格闘をはじめる二人です。Ｂはパンチが上手で、Ａはキックに定評があります。
「はー。あの二人も、いつもはこれくらい仲がいいはずなのに。一体どーしちゃったのかしら？」
「それはですねー」
バナナくんＡが、メガネをぽっけから出してふきます。
「おおっと出ました！ かっこいいぜ兄弟！」
スチャっとメガネをかけるＡ。落ち着いて、落ち着いて、のポーズをとっています。
「ま、マジメにやんなさい！（｀з´）」
りんごちゃん、怒り爆発です。
「あ……。そ、それでですね。オレンジちゃん姉妹は、よく似てるじゃないですかー」
「ああ、確かに似てるなあいつら」
「だから……なんだろう、相手が自分とは違うっていうことの証拠がほしいっていうか。もっといえば、相手より自分が優秀だっていう証拠がほしいんじゃないですか？」
「相手が自分とは違う……」
りんごたんは思いをめぐらせてみました。
「にしてもなー。俺ほんとにあいつらどっちがどっちかわかんないぜ」
「これだから男って……」
「僕、わかりますよ」
「Ａ君……！」
「Ｏさんは眉毛が下がり気味で、Ｒさんは上がり気味なんです」
「そう！ そうなのよ！」
「言ってったら他にもありますけどね」
「はー知らなかったなぁ。俺にも教えろよ」
その三人のおしゃべりを、オレンジちゃんＯが、聞くともなしに聞いていました。そして、オレンジちゃんＲはというと、川辺で一人考えこんでいました。
「はー。もう夕方になっちゃったわねー」
「こいつが変な知識ばっか話してるからー」
「でも、マントヒヒとマンドリルの違いは重要ですよー」
三つのくだものは森のなかを歩いています。すると、どうでしょう。あちらにオレンジちゃん二つが見えるのです。
「オレンジちゃん！」
りんごちゃんは叫びながら走っていきます。
「仲直り、したの？」
「え！？ あたしたち、もともとケンカなんかしてなかったわよ」
Ｒが言いました。
「そうよ。だってあたしたち仲良し姉妹ですもの」
Ｏもそう言います。
「そ、そっか……」
りんごはなんだか拍子抜け。そこに、後から走ってきたバナナも追いつきます。
「どうしたどうした？」
「えっとねー」
りんごちゃんは言葉をにごらせます。
「まあ、いいじゃないですか。みんなで遊びましょうよ」
「ちぇっ。よくわかんねーけど、俺らの出番なしじゃん」
「「今日は何する？」」
二つの声は、重なりました。
「「おにごっこ！」」
もう二つの声も重なりました。
「よーし！ やろっか♪」
りんごちゃんは、ちょっぴりワクワクしてきました。きっと、こんな楽しい毎日がつづくに違いない、そんな気がしたのです。そのときはまだ誰も、これから起こる事件のことを知りませんでした……。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、誰かが一人で腰をおろしています。
「はー」
その人はため息をつきました。
「はー」
「はー」
どうやらりんごちゃんではないようです。りんごちゃんは、そんなに多くため息はつきません。
「はー」
「はー」
「はー」
「はー」
むこうから、誰かが走ってきます。
「バナナＢ君、どうしちゃったの？」
やってきたのはりんごちゃん。すると、ため息をついていたのはバナナくんＢということになります。
「はー。なんでもないぜ」
「なんでもないっていっても……、
ふつうの人は、そんなにたくさんため息つかないわよ！」
「俺のことは気にすんな。みんなと遊んでこいよ」
むこうから、バナナくんＡが走りながら話しかけてきます。
「あー、こんなところにいたの？
今日は、一緒に川に行くって約束だったじゃないですか」
きりかぶにちかづくと、Ａは口をつぐみました。なぜなら、お葬式のような雰囲気だったからです。
「ど、どうしちゃったのかい？」
「川……」
Ｂは、うつろな顔をしてそういいます。
「なんかＢらしくないじゃないですね。恋でもしちゃったんですか？」
「ああ」
「なんてね」
「「えー！？」」
「んであたしたちのところに来る」
「あたし、Ｂさんちょっと心配」
「だからね、Ａ君にはＢ君についててもらうように言ったの」
りんごちゃんは、オレンジちゃんのところへ行きました。オレンジちゃんたちにも協力してほしいと思ったのです。
「あたし、ＢさんとＡさんのところへ行ってくる」
Ｏが言いました。
「「いってらっしゃい」」
二人はそれを見送りました。
まもなくすると、オレンジちゃんＯが帰ってきました。
「どうだった？」
「あいかわらず。でも、恋のお相手は、メロンさんだって」
「あのメロンさん！？」
オレンジちゃんＲが驚きます。
「知ってるの？ Ｒちゃん」
「ええ。川のむこうの町に住んでるわ。かわいくってモテモテなのよ」
「そうなんだ」
「でも、あたしたちの予想は外れちゃった」
そう言って、オレンジちゃんたちは顔を見合わせます。
「？」
「あのね、あたしたち、りんごちゃんはバナナＢ君が好きなんだと思ってたの」
「えー！？ なーに言ってんの？」
「違うんだ？」
「ただの友達！」
「じゃあＡ君は？」
「それもただの友達！」
「ふーん」
「ねえ、今日オレンジちゃん家に泊まってもいい？」
「「あったりまえじゃん」」
りんごちゃんは、その夜とても楽しくすごしました。兄弟姉妹のいないりんごちゃんは、いままでさびしかったのかもしれません。
次の日、りんごちゃんとオレンジちゃんは、川のむこうへ向かいました。メロンちゃんを、偵察するためです。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
バナナくんの歌声がないからか、女声合唱のようなキレイな歌声になりました。川が見えてきました。
「川だー」「川だー」「川だー」
三人は、森から出ました。すると、川の向こう岸から音楽が聞こえてきます。
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
とてもかわいらしい声です。
「メロンちゃんだわ。隠れましょう」
三人は、茂みのなかから様子をうかがいます。
「どうしてこんなところに？」
オレンジちゃんＲは、メロンちゃんの普段の生活を、ちょっと知っているのでした。
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
りんごちゃんは、メロンちゃんの顔を見ました。
「かわいい！」
確かに、メロンちゃんはかわいいのでした。
「……。あれ、誰？」
りんごちゃんは、メロンちゃんの隣にいる人を指さしました。
「あれは……スイカくんだわ！」
「まるまるまるーのスイカくん
まるまるまるーのスイカくん」
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
「まるまるまるーのスイカくん
まるまるまるーのスイカくん」
スイカくんとメロンちゃんは、いい雰囲気です。二人は、歌いながら川のむこうを通りすぎていきました。川のこちらの三人には、その様子を黙って茂みのなかから見ていることしかできませんでした。
しょんぼりと、三人がバナナくんのもとへ帰ってきました。
「おかえり」
バナナくんＡがいいました。昨日と変わらない、お葬式のような雰囲気。もっと暗くなっている気もします。
「あのね、Ｂ君……」
「知ってるよ」
「？」
「言いたいことはわかるさ。おまえらの顔見れば」
りんごちゃんもオレンジちゃんも、いまにも泣きだしそうな顔をしています。
「おまえらが泣くことじゃない」
「う、うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
「ひっくひっく」
「うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
森のなかは、泣き声でいっぱいです。明日になれば、きっと、元気がもどっていることでしょう。みんなで笑って遊ぶでしょう。ただ、いまだけは、
「ひっくひっく」
「グスグス」
「うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一人腰をおろしています。
「ああ、やっちゃった……」
誰にともなくつぶやいています。そして髪をさわりました。
むこうから、オレンジちゃんがやってきます。
「きゃー、中っちゃったー」
「きゃー、中っちゃったわー」
二人して、お腹をおさえています。
こちらから、バナナくんがやってきました。
「暑い……死ぬ」
「暑い……死にそうです」
この二人は、見るからに変色していました。
「みんな、大丈夫！？」
「りんごちゃんこそどうしたの！？」
「髪の毛が一枚しかないわよ」
「そうなの……。昨日、かんざしを付けてたんだけど、
外すときに髪も抜けちゃって」
りんごちゃんの緑色の髪は、半分の量になってしまっていました。
「オシャレなんかしようとするからだろ」
「なによ、そう言うＢこそ、日サロでも行ったの？」
「それなんですよ……。
僕たち、連日の陽射しにやられてしまって」
バナナくんは、全身真っ黒です。
「わたしたちは食中り」
「広島産のカキフライ、
おいしかったから昨日は生で食べてみようと思ったの」
オレンジちゃんは、言うとお花を摘みに行きました。
「わたしたち、みんな、体がどうかしてるわ！」
「そうですね……。しいたけ先生のところに行ってみます？」
「「しいたけ先生！？」」
「ああ、この森のたよれるお医者さんだ」
「「「そうしましょう」」」
こうして、五人はしいたけ先生に体を診てもらうことにしました。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」」
五人は、体調が悪いせいか、短調のように歌いながら歩いています。
「あっ！ なんか見えてきた」
髪の毛が一本しかないりんごちゃんが言います。
「おう、あれがしいたけ先生の病院だ」
真っ黒なバナナくんＢは、話すと歯が白いのが強調されます。
「見たかんじ、ふつうのお家みたいなのね」
オレンジちゃんＯ、そしてＲは、ここへたどり着くまでにも、何回か茂みに用を足しに行きました。
「はい。ここはしいたけ先生がお一人でやっている病院ですから」
バナナくんＡとＢは、変色しすぎて、見分けがつきにくくなっています。
「お手洗いは二つあるかしら……」
オレンジちゃんＲは変なことを気にしています。
「とにかく行きましょ！」
りんごちゃんが、率先して病院のドアをノックしました。
「トントン」
「はーい」
落ち着いた、ある程度、歳のいった男性の声が聞こえます。
「僕たち、以前にお世話になったバナナ兄弟です」
礼儀正しくＡが呼びかけます。
「どうされました？」
と、ドアを開けながらしいたけ先生が問いかけました。
しいたけ先生をひと目見たとき、りんごちゃんは「川で拾ったブロマイドの「こひさん」という男性に似てるな」と思いました。
「おや、バナナくんたちだけかなと思ったら、みなさん、ご一緒で」
「ホレぐすりはもう要らないぜ」
「Ｂ君、いくら私が単なる森の医者だからといって、
今日の要件がそれではないことは、見ただけでわかります」
「「すいません、お手洗いお借りします（＞＿＜）」」
猛ダッシュでオレンジちゃんたちがトイレに駆け込みます。
「あの二人は？ 何か心あたりを言っていましたか？」
「カキフライ用のカキを、生で食べたって言ってました」
りんごちゃんは、学校の先生に言うように答えました。
「そう言うあなたは、もしかして髪のお悩みですか？」
「はいっ」
答えながら、りんごちゃんは「この先生はなんて頭がいいのだろう」と思っていました。
「それでは、オレンジ姉妹が戻ったらみなさん治療をしますからね」
「「「はーい」」」
悪ガキちっくなＢも、エセ優等生のＡも、しいたけ先生の前では一人の生徒、いや患者、というかんじです。
「「ふー」」
オレンジちゃんがお手洗いから戻ってきました。どうやら、お手洗いは二つあったようです。
「それでは始めます。まず、オレンジ姉妹はこの薬を飲んでください」
オレンジちゃんには錠剤が渡されました。
「次に、りんごちゃんは患部にこの薬を塗ってください。こんなかんじで……」
りんごちゃんは頭皮のマッサージをしてもらいました。
「最後に、バナナ兄弟は、今の肌を全部むいて、それから新しい肌を再び生成する必要がありますね」
「「！？」」
「……手術ですか？」
「ちょっと、二人には他のみなさんとは別になってもらいます」
そう言って、しいたけ先生はバナナくんを別室に連れて行きました。
ドアが閉まると、ピカッと「手術中」のランプが点ります。
「ドキドキするわね……」
緊張のせいでしょうか、オレンジちゃんＯがひたいに汗をかいています。
「うまくいくといいのだけど……」
Ｒの手は、お祈りのときのように組まれています。
「きっとだいじょうぶよ。
だって、しいたけ先生って、すごく信用できるかんじだもの」
りんごちゃんは、もうしいたけ先生の大フアンです。
そのとき、
「うわーあーおー○▲×Ａ☆◆……」
「ぎゃーぐわーひー▽●Ｂ◇★×……」
と、バナナくんが叫ぶのが聞こえてきました。
「「「バナナくん！？」」」
りんごちゃんとオレンジちゃんは、思わず顔を見合わせました。
すると、別室のドアが開き、白い手袋をはめたしいたけ先生が、汗をぬぐいながら出てきました。
「無事、終わったよ」
三人がオペ室に入ると、そこには、まだ黄緑色のバナナくんがいました。
「バナナくん……！？」
二人が腰をおろしているベッドにりんごちゃんが駆け寄ると、
「なんだか、生まれ変わったような気分だぜ……」
バナナくんＢは放心状態になっていました。
「ホレぐすりの作り方を教わりに来たときは、
まさかしいたけ先生がこんな先生だとは思いませんでした……」
いったい、Ａはなぜそんなに驚いたのでしょう。
「まあ……どうにかなってよかったわね」
りんごちゃんは、オペ室内でのことについては触れない方がいいと思いました。
「あら、りんごちゃん、髪が生えてきているわよ」
まだ短いですが、りんごちゃんの髪がもう一本誕生しました。
「ほんと、名医ねー」
オレンジちゃんＲも、しいたけ先生のことを評価しはじめました。
「じゃあ、なにかあったらまたいらっしゃい」
しいたけ先生が、病院の外までお見送りに出ました。
「「「「「はーい。ありがとうございました！」」」」」
五人は、帰路につきます。
お空の低いところには、もう夕日が見えます。
「一日がつぶれちゃった……」
りんごちゃんには、なにかやるべきことでもあったのでしょうか。
「でも、こんなこと滅多にないぜ。俺たちがみんな体壊すなんて」
「そうですよ。一生に一度の記念になるかもしれませんよ」
バナナくんたちは、ポジティブシンキングです。
「もしまた具合が悪くなったら、
今度は一人で先生のところに行けるし」
「すごくいい先生だったものね。紳士で真摯」
数えきれないほどお花を摘んでいたのに、道なんか覚えているのでしょうか。
まあとにかく、オレンジちゃんたちはみんなが回復したことの方に重きを置いているようです。
「そうね……。こんな一日、もう二度と来なくていいわ！
でも、たとえこの先どんな辛いことがあっても、こうやって乗り越えていける気がするわ！！」
りんごちゃんは、こっ恥ずかしいセリフのようなことを言います。
誰もツッコミません。みんな、その通りだと思っていたからです。
こうして五人が一緒にいられる時間は、ひょっとしたら限られているのかもしれません。一人ずつ、それぞれが別の道を歩むことになるのかもしれません。それでもきっと、五人は今日の日のことを忘れずに生きていくのでしょう。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
ここは、森のなかです。森のなかでは、ときには悲しいことや辛いこともあります。ですが、みんな、楽しくやっています。さあ、あなたもこの森へ来てみませんか？
＊ ＊ ＊
＊ ＊ ＊
【おうちにかえるまでがえんそくです】
【あとがきまでがさくひんです】
この作品は、小学四年生のときにクラス内の学期末の発表会（？）で発表した劇を元にしています。台本を途中までしか書いていなかったので（めんどうくさかったらしい）、その後は、ほぼ高校生のときに考えました。作品の一部しかテーマ（恋愛（悲恋））に沿っておらず、大変申し訳ありません！ いやー、しかし、小学生には前衛的すぎたのか（？）、発表会では「シーン……」としていました。しかし、クラス替えするときに、ビデオに撮ったのを先生が見せてくれたら大爆笑でした（笑） そんなわけで、今回書き下ろした部分に、こっそりと今までの文芸部会のテーマをぶち込んでみました。お読みいただき、本当にありがとうございましたｍ（＿）ｍ
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
広場につきました。りんごちゃんは歌うのをやめました。しかし、オレンジちゃんとバナナくんは歌うのをやめません。
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」」
「うるさーい！」
りんごちゃんが怒鳴りました。
オレンジちゃんは、ドスン！としりもちをついてしまいました。
「「ドスン！」」
バナナくんは、おどろいて、ぺろん……と皮がむけてしまいました。
「「ぺろん……」」
「もうっ！ ちょっとは静かにしてよね（><）」
りんごちゃんは、うるさいのが嫌いです。
「「「「あー、おどろいた」」」」
他のくだものがいいました。そして、
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
また歌いはじめたのです。
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「静かにしてよー」
誰も、いうことを聞いてくれません。
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「「ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん」」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
りんごちゃんが、ふたたび歌いはじめました。
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
こうして、森のなかは歌声でいっぱいになるのです。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一人腰をおろしています。
「はー」
そこに、オレンジちゃんが通りかかりました。
「りんごちゃん、どうかしたの？」
オレンジちゃんＯが訊ねました。
「ちょっとねー」
「なにかあったら相談にのるわよ」
オレンジちゃんＲが言いました。
「うん……。ありがとう///」
少し元気が出たようでした。二人は去っていきました。
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一つ腰をおろしています。
「はー」
そこに、バナナくんが通りかかりました。
「はー」
「よう！ なにシケた面してんの？」
バナナくんＢが訊ねました。
「ちょっとねー」
そして、りんごちゃんはまたため息をつきます。
「顔、赤いんじゃないかなー？
お医者さんに診てもらったほうがよくない？」
バナナくんＡが言いました。
「もしかして、
こいつ、恋してんじゃねーの？」
「はー？」
同じ「はー」でも違う意味をもったように聞こえます。
「ああそうか。思春期だもんね」
Ａも、ひと安心です。
「失礼よ！ 顔が赤いのは生まれつきよ！」
「おう、相手は誰だ？ 協力するからよ！」
「ホレぐすりでもつくりましょうか？
僕、一度つくってみたかったんですよね♪」
「ちょっとー、人の話聞いてる？」
「じゃあさ、俺らで考えよーぜ☆」
「うん★ ホレぐすりは僕がつくるから」
「おう！ 俺は相手をよびだして、『ボコッ！』と気絶、な。」
「もう、なに考えてんのよー」
「となると、材料が必要ですね」
「他に要るもんあったらいってくれよ」
当のりんごちゃんをさしおいて、話はどんどん進行していきます。いつになくマジメな顔のバナナ二人をみて、りんごちゃんはおかしな気分になってきました。
「アハッ」
「は？」「ん？」
「アハッ！ アハハハ」
「おうどうした？」「なにかいいことでもありましたか？」
「ううん……なんでもない///」
「アハハハハハ」
「グワハハハハ」
「クスクスクス」
こうして、森のなかは笑い声でいっぱいになるのです。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。むこうから、オレンジちゃんＯが歩いてきます。こちらから、オレンジちゃんＲが歩いていきます。二人のオレンジのちょうどまんなかに、りんごちゃんがすわっています。
「ああ、オレンジちゃん。おはよー」
りんごちゃんが言いました。
「おはよう」「おはよう」
二つの声はそろいました。
「りんごちゃん、いまのはあたしにいったのよね？」
「りんごちゃん、いまのはあたしにいったんだよね？」
そのあいだにも、オレンジはりんごちゃんに近づいてきます。
「フーンだ」「ヘーンだ」
二つは、少しのあいだにらみあい、
「「くるっ！」」
そっぽを向いて、それぞれの方向へ帰ってしまいました。
りんごちゃんはしばし呆然としていましたが、「はっ」と立ちあがり、森のなかを全速力で駆けました。
「たいへん！」
「で、なんで俺らなわけ？」「相談しにきてくれて嬉しいよ」
「……あなたたち、いつでもいうことやること対照的ね」
「俺とこいつがおなじだったら気持ち悪いっつーの」
「僕も、遠慮したいですね」
「ああ？ なんだと？ 俺が兄貴で悪いか？」
「そんなこといってないじゃないですかー」
「なにお〜っ？ テヤッ！」
「きますか？」
いきなり格闘をはじめる二人です。Ｂはパンチが上手で、Ａはキックに定評があります。
「はー。あの二人も、いつもはこれくらい仲がいいはずなのに。一体どーしちゃったのかしら？」
「それはですねー」
バナナくんＡが、メガネをぽっけから出してふきます。
「おおっと出ました！ かっこいいぜ兄弟！」
スチャっとメガネをかけるＡ。落ち着いて、落ち着いて、のポーズをとっています。
「ま、マジメにやんなさい！（｀з´）」
りんごちゃん、怒り爆発です。
「あ……。そ、それでですね。オレンジちゃん姉妹は、よく似てるじゃないですかー」
「ああ、確かに似てるなあいつら」
「だから……なんだろう、相手が自分とは違うっていうことの証拠がほしいっていうか。もっといえば、相手より自分が優秀だっていう証拠がほしいんじゃないですか？」
「相手が自分とは違う……」
りんごたんは思いをめぐらせてみました。
「にしてもなー。俺ほんとにあいつらどっちがどっちかわかんないぜ」
「これだから男って……」
「僕、わかりますよ」
「Ａ君……！」
「Ｏさんは眉毛が下がり気味で、Ｒさんは上がり気味なんです」
「そう！ そうなのよ！」
「言ってったら他にもありますけどね」
「はー知らなかったなぁ。俺にも教えろよ」
その三人のおしゃべりを、オレンジちゃんＯが、聞くともなしに聞いていました。そして、オレンジちゃんＲはというと、川辺で一人考えこんでいました。
「はー。もう夕方になっちゃったわねー」
「こいつが変な知識ばっか話してるからー」
「でも、マントヒヒとマンドリルの違いは重要ですよー」
三つのくだものは森のなかを歩いています。すると、どうでしょう。あちらにオレンジちゃん二つが見えるのです。
「オレンジちゃん！」
りんごちゃんは叫びながら走っていきます。
「仲直り、したの？」
「え！？ あたしたち、もともとケンカなんかしてなかったわよ」
Ｒが言いました。
「そうよ。だってあたしたち仲良し姉妹ですもの」
Ｏもそう言います。
「そ、そっか……」
りんごはなんだか拍子抜け。そこに、後から走ってきたバナナも追いつきます。
「どうしたどうした？」
「えっとねー」
りんごちゃんは言葉をにごらせます。
「まあ、いいじゃないですか。みんなで遊びましょうよ」
「ちぇっ。よくわかんねーけど、俺らの出番なしじゃん」
「「今日は何する？」」
二つの声は、重なりました。
「「おにごっこ！」」
もう二つの声も重なりました。
「よーし！ やろっか♪」
りんごちゃんは、ちょっぴりワクワクしてきました。きっと、こんな楽しい毎日がつづくに違いない、そんな気がしたのです。そのときはまだ誰も、これから起こる事件のことを知りませんでした……。
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、誰かが一人で腰をおろしています。
「はー」
その人はため息をつきました。
「はー」
「はー」
どうやらりんごちゃんではないようです。りんごちゃんは、そんなに多くため息はつきません。
「はー」
「はー」
「はー」
「はー」
むこうから、誰かが走ってきます。
「バナナＢ君、どうしちゃったの？」
やってきたのはりんごちゃん。すると、ため息をついていたのはバナナくんＢということになります。
「はー。なんでもないぜ」
「なんでもないっていっても……、
ふつうの人は、そんなにたくさんため息つかないわよ！」
「俺のことは気にすんな。みんなと遊んでこいよ」
むこうから、バナナくんＡが走りながら話しかけてきます。
「あー、こんなところにいたの？
今日は、一緒に川に行くって約束だったじゃないですか」
きりかぶにちかづくと、Ａは口をつぐみました。なぜなら、お葬式のような雰囲気だったからです。
「ど、どうしちゃったのかい？」
「川……」
Ｂは、うつろな顔をしてそういいます。
「なんかＢらしくないじゃないですね。恋でもしちゃったんですか？」
「ああ」
「なんてね」
「「えー！？」」
「んであたしたちのところに来る」
「あたし、Ｂさんちょっと心配」
「だからね、Ａ君にはＢ君についててもらうように言ったの」
りんごちゃんは、オレンジちゃんのところへ行きました。オレンジちゃんたちにも協力してほしいと思ったのです。
「あたし、ＢさんとＡさんのところへ行ってくる」
Ｏが言いました。
「「いってらっしゃい」」
二人はそれを見送りました。
まもなくすると、オレンジちゃんＯが帰ってきました。
「どうだった？」
「あいかわらず。でも、恋のお相手は、メロンさんだって」
「あのメロンさん！？」
オレンジちゃんＲが驚きます。
「知ってるの？ Ｒちゃん」
「ええ。川のむこうの町に住んでるわ。かわいくってモテモテなのよ」
「そうなんだ」
「でも、あたしたちの予想は外れちゃった」
そう言って、オレンジちゃんたちは顔を見合わせます。
「？」
「あのね、あたしたち、りんごちゃんはバナナＢ君が好きなんだと思ってたの」
「えー！？ なーに言ってんの？」
「違うんだ？」
「ただの友達！」
「じゃあＡ君は？」
「それもただの友達！」
「ふーん」
「ねえ、今日オレンジちゃん家に泊まってもいい？」
「「あったりまえじゃん」」
りんごちゃんは、その夜とても楽しくすごしました。兄弟姉妹のいないりんごちゃんは、いままでさびしかったのかもしれません。
次の日、りんごちゃんとオレンジちゃんは、川のむこうへ向かいました。メロンちゃんを、偵察するためです。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
バナナくんの歌声がないからか、女声合唱のようなキレイな歌声になりました。川が見えてきました。
「川だー」「川だー」「川だー」
三人は、森から出ました。すると、川の向こう岸から音楽が聞こえてきます。
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
とてもかわいらしい声です。
「メロンちゃんだわ。隠れましょう」
三人は、茂みのなかから様子をうかがいます。
「どうしてこんなところに？」
オレンジちゃんＲは、メロンちゃんの普段の生活を、ちょっと知っているのでした。
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
りんごちゃんは、メロンちゃんの顔を見ました。
「かわいい！」
確かに、メロンちゃんはかわいいのでした。
「……。あれ、誰？」
りんごちゃんは、メロンちゃんの隣にいる人を指さしました。
「あれは……スイカくんだわ！」
「まるまるまるーのスイカくん
まるまるまるーのスイカくん」
「メロメロメローのメロンちゃん
メロメロメローのメロンちゃん」
「まるまるまるーのスイカくん
まるまるまるーのスイカくん」
スイカくんとメロンちゃんは、いい雰囲気です。二人は、歌いながら川のむこうを通りすぎていきました。川のこちらの三人には、その様子を黙って茂みのなかから見ていることしかできませんでした。
しょんぼりと、三人がバナナくんのもとへ帰ってきました。
「おかえり」
バナナくんＡがいいました。昨日と変わらない、お葬式のような雰囲気。もっと暗くなっている気もします。
「あのね、Ｂ君……」
「知ってるよ」
「？」
「言いたいことはわかるさ。おまえらの顔見れば」
りんごちゃんもオレンジちゃんも、いまにも泣きだしそうな顔をしています。
「おまえらが泣くことじゃない」
「う、うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
「ひっくひっく」
「うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
森のなかは、泣き声でいっぱいです。明日になれば、きっと、元気がもどっていることでしょう。みんなで笑って遊ぶでしょう。ただ、いまだけは、
「ひっくひっく」
「グスグス」
「うえーん」
「うえーん」
「うえーん」
＊ ＊ ＊
ここは、ある森のなかです。広場のきりかぶに、りんごちゃんが一人腰をおろしています。
「ああ、やっちゃった……」
誰にともなくつぶやいています。そして髪をさわりました。
むこうから、オレンジちゃんがやってきます。
「きゃー、中っちゃったー」
「きゃー、中っちゃったわー」
二人して、お腹をおさえています。
こちらから、バナナくんがやってきました。
「暑い……死ぬ」
「暑い……死にそうです」
この二人は、見るからに変色していました。
「みんな、大丈夫！？」
「りんごちゃんこそどうしたの！？」
「髪の毛が一枚しかないわよ」
「そうなの……。昨日、かんざしを付けてたんだけど、
外すときに髪も抜けちゃって」
りんごちゃんの緑色の髪は、半分の量になってしまっていました。
「オシャレなんかしようとするからだろ」
「なによ、そう言うＢこそ、日サロでも行ったの？」
「それなんですよ……。
僕たち、連日の陽射しにやられてしまって」
バナナくんは、全身真っ黒です。
「わたしたちは食中り」
「広島産のカキフライ、
おいしかったから昨日は生で食べてみようと思ったの」
オレンジちゃんは、言うとお花を摘みに行きました。
「わたしたち、みんな、体がどうかしてるわ！」
「そうですね……。しいたけ先生のところに行ってみます？」
「「しいたけ先生！？」」
「ああ、この森のたよれるお医者さんだ」
「「「そうしましょう」」」
こうして、五人はしいたけ先生に体を診てもらうことにしました。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」」
「「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」」
五人は、体調が悪いせいか、短調のように歌いながら歩いています。
「あっ！ なんか見えてきた」
髪の毛が一本しかないりんごちゃんが言います。
「おう、あれがしいたけ先生の病院だ」
真っ黒なバナナくんＢは、話すと歯が白いのが強調されます。
「見たかんじ、ふつうのお家みたいなのね」
オレンジちゃんＯ、そしてＲは、ここへたどり着くまでにも、何回か茂みに用を足しに行きました。
「はい。ここはしいたけ先生がお一人でやっている病院ですから」
バナナくんＡとＢは、変色しすぎて、見分けがつきにくくなっています。
「お手洗いは二つあるかしら……」
オレンジちゃんＲは変なことを気にしています。
「とにかく行きましょ！」
りんごちゃんが、率先して病院のドアをノックしました。
「トントン」
「はーい」
落ち着いた、ある程度、歳のいった男性の声が聞こえます。
「僕たち、以前にお世話になったバナナ兄弟です」
礼儀正しくＡが呼びかけます。
「どうされました？」
と、ドアを開けながらしいたけ先生が問いかけました。
しいたけ先生をひと目見たとき、りんごちゃんは「川で拾ったブロマイドの「こひさん」という男性に似てるな」と思いました。
「おや、バナナくんたちだけかなと思ったら、みなさん、ご一緒で」
「ホレぐすりはもう要らないぜ」
「Ｂ君、いくら私が単なる森の医者だからといって、
今日の要件がそれではないことは、見ただけでわかります」
「「すいません、お手洗いお借りします（＞＿＜）」」
猛ダッシュでオレンジちゃんたちがトイレに駆け込みます。
「あの二人は？ 何か心あたりを言っていましたか？」
「カキフライ用のカキを、生で食べたって言ってました」
りんごちゃんは、学校の先生に言うように答えました。
「そう言うあなたは、もしかして髪のお悩みですか？」
「はいっ」
答えながら、りんごちゃんは「この先生はなんて頭がいいのだろう」と思っていました。
「それでは、オレンジ姉妹が戻ったらみなさん治療をしますからね」
「「「はーい」」」
悪ガキちっくなＢも、エセ優等生のＡも、しいたけ先生の前では一人の生徒、いや患者、というかんじです。
「「ふー」」
オレンジちゃんがお手洗いから戻ってきました。どうやら、お手洗いは二つあったようです。
「それでは始めます。まず、オレンジ姉妹はこの薬を飲んでください」
オレンジちゃんには錠剤が渡されました。
「次に、りんごちゃんは患部にこの薬を塗ってください。こんなかんじで……」
りんごちゃんは頭皮のマッサージをしてもらいました。
「最後に、バナナ兄弟は、今の肌を全部むいて、それから新しい肌を再び生成する必要がありますね」
「「！？」」
「……手術ですか？」
「ちょっと、二人には他のみなさんとは別になってもらいます」
そう言って、しいたけ先生はバナナくんを別室に連れて行きました。
ドアが閉まると、ピカッと「手術中」のランプが点ります。
「ドキドキするわね……」
緊張のせいでしょうか、オレンジちゃんＯがひたいに汗をかいています。
「うまくいくといいのだけど……」
Ｒの手は、お祈りのときのように組まれています。
「きっとだいじょうぶよ。
だって、しいたけ先生って、すごく信用できるかんじだもの」
りんごちゃんは、もうしいたけ先生の大フアンです。
そのとき、
「うわーあーおー○▲×Ａ☆◆……」
「ぎゃーぐわーひー▽●Ｂ◇★×……」
と、バナナくんが叫ぶのが聞こえてきました。
「「「バナナくん！？」」」
りんごちゃんとオレンジちゃんは、思わず顔を見合わせました。
すると、別室のドアが開き、白い手袋をはめたしいたけ先生が、汗をぬぐいながら出てきました。
「無事、終わったよ」
三人がオペ室に入ると、そこには、まだ黄緑色のバナナくんがいました。
「バナナくん……！？」
二人が腰をおろしているベッドにりんごちゃんが駆け寄ると、
「なんだか、生まれ変わったような気分だぜ……」
バナナくんＢは放心状態になっていました。
「ホレぐすりの作り方を教わりに来たときは、
まさかしいたけ先生がこんな先生だとは思いませんでした……」
いったい、Ａはなぜそんなに驚いたのでしょう。
「まあ……どうにかなってよかったわね」
りんごちゃんは、オペ室内でのことについては触れない方がいいと思いました。
「あら、りんごちゃん、髪が生えてきているわよ」
まだ短いですが、りんごちゃんの髪がもう一本誕生しました。
「ほんと、名医ねー」
オレンジちゃんＲも、しいたけ先生のことを評価しはじめました。
「じゃあ、なにかあったらまたいらっしゃい」
しいたけ先生が、病院の外までお見送りに出ました。
「「「「「はーい。ありがとうございました！」」」」」
五人は、帰路につきます。
お空の低いところには、もう夕日が見えます。
「一日がつぶれちゃった……」
りんごちゃんには、なにかやるべきことでもあったのでしょうか。
「でも、こんなこと滅多にないぜ。俺たちがみんな体壊すなんて」
「そうですよ。一生に一度の記念になるかもしれませんよ」
バナナくんたちは、ポジティブシンキングです。
「もしまた具合が悪くなったら、
今度は一人で先生のところに行けるし」
「すごくいい先生だったものね。紳士で真摯」
数えきれないほどお花を摘んでいたのに、道なんか覚えているのでしょうか。
まあとにかく、オレンジちゃんたちはみんなが回復したことの方に重きを置いているようです。
「そうね……。こんな一日、もう二度と来なくていいわ！
でも、たとえこの先どんな辛いことがあっても、こうやって乗り越えていける気がするわ！！」
りんごちゃんは、こっ恥ずかしいセリフのようなことを言います。
誰もツッコミません。みんな、その通りだと思っていたからです。
こうして五人が一緒にいられる時間は、ひょっとしたら限られているのかもしれません。一人ずつ、それぞれが別の道を歩むことになるのかもしれません。それでもきっと、五人は今日の日のことを忘れずに生きていくのでしょう。
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
「りんりんりーんのりんごちゃん
りんりんりーんのりんごちゃん」
「ピカピカのーオレンジちゃん
ピカピカのーオレンジちゃん」
「つるつるるーんのバナナくん
つるつるるーんのバナナくん」
ここは、森のなかです。森のなかでは、ときには悲しいことや辛いこともあります。ですが、みんな、楽しくやっています。さあ、あなたもこの森へ来てみませんか？
＊ ＊ ＊
＊ ＊ ＊
【おうちにかえるまでがえんそくです】
【あとがきまでがさくひんです】
この作品は、小学四年生のときにクラス内の学期末の発表会（？）で発表した劇を元にしています。台本を途中までしか書いていなかったので（めんどうくさかったらしい）、その後は、ほぼ高校生のときに考えました。作品の一部しかテーマ（恋愛（悲恋））に沿っておらず、大変申し訳ありません！ いやー、しかし、小学生には前衛的すぎたのか（？）、発表会では「シーン……」としていました。しかし、クラス替えするときに、ビデオに撮ったのを先生が見せてくれたら大爆笑でした（笑） そんなわけで、今回書き下ろした部分に、こっそりと今までの文芸部会のテーマをぶち込んでみました。お読みいただき、本当にありがとうございましたｍ（＿）ｍ
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コメント(27)
>>[6]
そうですね、（冒頭部だけの）台本とビデオがあるというのもありますが、なんせ人生の絶頂期だったんで……笑。
バナナくんの変色は、第五回部会のお題で一二を争うほど早く思いつきました。最初はアンパ○マンみたいに元に戻そうかと思っていたのですが、某ジャンプマンガの某エピソードの影響受けまくりの展開になってしまいました……。
第五回部会のタイミングで一度考えたのと、あと、第八、九回の「コメディ」「ナンセンス」のタイミングでも出そうかな……と思っていました。なので、シュールとおっしゃってくださり嬉しいです！
駄洒落はWordで打ってたら変換に出てきたので取り入れてしまいました。ノリです苦笑。
新しい世界をお見せできていれば幸いです（＾＾）
そうですね、（冒頭部だけの）台本とビデオがあるというのもありますが、なんせ人生の絶頂期だったんで……笑。
バナナくんの変色は、第五回部会のお題で一二を争うほど早く思いつきました。最初はアンパ○マンみたいに元に戻そうかと思っていたのですが、某ジャンプマンガの某エピソードの影響受けまくりの展開になってしまいました……。
第五回部会のタイミングで一度考えたのと、あと、第八、九回の「コメディ」「ナンセンス」のタイミングでも出そうかな……と思っていました。なので、シュールとおっしゃってくださり嬉しいです！
駄洒落はWordで打ってたら変換に出てきたので取り入れてしまいました。ノリです苦笑。
新しい世界をお見せできていれば幸いです（＾＾）
>>[10]
コメントありがとうございます。
「絶対的に共有できない」とはどういうことなのでしょうか。内容は無いに等しいギャグなので、理解できないということではないでしょうし……。なので、一気に読めないということについて、私が思っていることを書いてみました。
�，困辰斑亟砲靴討い謄瓮螢魯蠅�ない（高校時代の文芸部では「作品内のテンションが下がり気味なところがある」と言われたことがありますが、緊張感を入れることや保つことができていないのではないかと） ��地の文やセリフがくどい（読者からのツッコミ待ちが多すぎる？） このどちらか、あるいは両方なのでしょうかね？
直接お聞きしたかったですが、今回エントリーされていないとのことで、またの機会にでもお願いします。
コメントありがとうございます。
「絶対的に共有できない」とはどういうことなのでしょうか。内容は無いに等しいギャグなので、理解できないということではないでしょうし……。なので、一気に読めないということについて、私が思っていることを書いてみました。
�，困辰斑亟砲靴討い謄瓮螢魯蠅�ない（高校時代の文芸部では「作品内のテンションが下がり気味なところがある」と言われたことがありますが、緊張感を入れることや保つことができていないのではないかと） ��地の文やセリフがくどい（読者からのツッコミ待ちが多すぎる？） このどちらか、あるいは両方なのでしょうかね？
直接お聞きしたかったですが、今回エントリーされていないとのことで、またの機会にでもお願いします。
>>[019]
あっもちろん、説明というのは、「文章表現、特に今回に関しては、前半部分を私の意図が伝わる方面に工夫する」という意味ですよ。それで作品のノリをわかってもらう、と。
私の書き方が足りなかったですかね……。
「その新鮮さとともに見えなくなる」というのは一体どういう意味でしょうか。
正直、私バカなので、エディーさんのコメントが禅問答のように思えてなりません。
もう少し私の方に下りて説明していただけないかと思うのですが、難しいでしょうか……。
まあでも、作品は世に公開した以上作者のものではなく読者のものになる(と私は考えてます)ので、ムリに作者の意図とか言わなくていっかー！とも思ってきました。
「人の数だけ読みがある」と考えなければ、作品を発表するのは辛くなってしまう気がします(個人の意見です)。
あっもちろん、説明というのは、「文章表現、特に今回に関しては、前半部分を私の意図が伝わる方面に工夫する」という意味ですよ。それで作品のノリをわかってもらう、と。
私の書き方が足りなかったですかね……。
「その新鮮さとともに見えなくなる」というのは一体どういう意味でしょうか。
正直、私バカなので、エディーさんのコメントが禅問答のように思えてなりません。
もう少し私の方に下りて説明していただけないかと思うのですが、難しいでしょうか……。
まあでも、作品は世に公開した以上作者のものではなく読者のものになる(と私は考えてます)ので、ムリに作者の意図とか言わなくていっかー！とも思ってきました。
「人の数だけ読みがある」と考えなければ、作品を発表するのは辛くなってしまう気がします(個人の意見です)。
>>[20]
「文章表現、特に今回に関しては、前半部分を私の意図が伝わる方面に工夫する」っていうのが説明するっていうことだったんですね。
先述の「その新鮮さとともに見えなくなる」というのは、「その新鮮さがなくなるとともに見えなくなる」というふうに訂正させてください。
最後の段落で書かれたのは、いわゆる作者の死ということですね。ある意味、常識的な考え方だと思います。そこで読者は、作者の意図を受け取ることで、またはそれ以上に作者に対する面識や仲の良さがあることによって、読者が持ち得るはずの固有の読み方のジャマをするのではないでしょうか。
例えば「内輪にしか通じないヴァンサンノリ」に含まれる要素が面識や仲の良さの一部としてあるのではないかと感じたので。
「文章表現、特に今回に関しては、前半部分を私の意図が伝わる方面に工夫する」っていうのが説明するっていうことだったんですね。
先述の「その新鮮さとともに見えなくなる」というのは、「その新鮮さがなくなるとともに見えなくなる」というふうに訂正させてください。
最後の段落で書かれたのは、いわゆる作者の死ということですね。ある意味、常識的な考え方だと思います。そこで読者は、作者の意図を受け取ることで、またはそれ以上に作者に対する面識や仲の良さがあることによって、読者が持ち得るはずの固有の読み方のジャマをするのではないでしょうか。
例えば「内輪にしか通じないヴァンサンノリ」に含まれる要素が面識や仲の良さの一部としてあるのではないかと感じたので。
>>[21]
なるほどなるほど〜理解したと思います。
それで結局、エディーさんはテクスト論的にこの作品を読まれるように書いた方がいいとお考えになるってことですか？
なーんて！
たぶん私は書き手としてはテクスト論者ですが、読み手としてはテクスト論でも作家論でも自分が好きな風に読みたいと思っているので、そういう意味ではやっぱりテクスト論者なのかなぁ……。
でも、このコミュニティの部会は作者との対話がメインですから、作家論を否定することはできないですよ。
作者である私のことを理解したいと思う人や特に理解しなくていいという人や、色々な人が好き勝手に読んでくれればいいんじゃないかな〜と思ってます（この作品については、これ以上書き直して発表することがないと思います）。
なんだか考え込んでしまう話題なので、とりあえずこれくらいで……。
なるほどなるほど〜理解したと思います。
それで結局、エディーさんはテクスト論的にこの作品を読まれるように書いた方がいいとお考えになるってことですか？
なーんて！
たぶん私は書き手としてはテクスト論者ですが、読み手としてはテクスト論でも作家論でも自分が好きな風に読みたいと思っているので、そういう意味ではやっぱりテクスト論者なのかなぁ……。
でも、このコミュニティの部会は作者との対話がメインですから、作家論を否定することはできないですよ。
作者である私のことを理解したいと思う人や特に理解しなくていいという人や、色々な人が好き勝手に読んでくれればいいんじゃないかな〜と思ってます（この作品については、これ以上書き直して発表することがないと思います）。
なんだか考え込んでしまう話題なので、とりあえずこれくらいで……。
>>[023]
このリプライ先のコメントの意味はわかるのですが、結局エディーさんが何をおっしゃりたかったのかは理解できませんでした……。でもコメントありがとうございました！
いただいたコメントを読み返すと、[14]の下の段落について返信した所から迷走していった気が……。
上の段落の「表現」の具体例をお聞きできればよかったです。
他の方は理解できるのかもしれませんが、私は抽象的な言葉だけでは理解できないので……。
そして、自作について語りたいわけでもない(話すの苦手ですし)私が、なぜこのコミュニティで作品を発表するのか、というのも、「どこがよかった、どこがイマイチだった」という具体的な感想が欲しいからなんだな〜と結論付きました。
沢山コメントいただきありがとうございます。
このリプライ先のコメントの意味はわかるのですが、結局エディーさんが何をおっしゃりたかったのかは理解できませんでした……。でもコメントありがとうございました！
いただいたコメントを読み返すと、[14]の下の段落について返信した所から迷走していった気が……。
上の段落の「表現」の具体例をお聞きできればよかったです。
他の方は理解できるのかもしれませんが、私は抽象的な言葉だけでは理解できないので……。
そして、自作について語りたいわけでもない(話すの苦手ですし)私が、なぜこのコミュニティで作品を発表するのか、というのも、「どこがよかった、どこがイマイチだった」という具体的な感想が欲しいからなんだな〜と結論付きました。
沢山コメントいただきありがとうございます。
>>[026]
うん、ですので、エディーさんが本作から「共有できない」と思わされた表現が具体的にどの部分だったりするのか、というのが私がお聞きしたいことだと結論付いたということです。
そして、具体的に感想をお聞きしたいと考えているのは参加当初からでした(第一回イベントトピック[29]をご参照下さい)。
ということは、自己分析というよりかはエディーさんのコメント分析？
エディーさんからいただいた感想が、私の想定の範囲外のものだったので理解に苦しんだのかな〜というところです。
まあそもそも、自分では認識できないものを他の方に問いたいから感想が欲しいのであり、想定外の感想をいただくのは当たり前なんですけどね！
お付き合いいただきありがとうございました。
うん、ですので、エディーさんが本作から「共有できない」と思わされた表現が具体的にどの部分だったりするのか、というのが私がお聞きしたいことだと結論付いたということです。
そして、具体的に感想をお聞きしたいと考えているのは参加当初からでした(第一回イベントトピック[29]をご参照下さい)。
ということは、自己分析というよりかはエディーさんのコメント分析？
エディーさんからいただいた感想が、私の想定の範囲外のものだったので理解に苦しんだのかな〜というところです。
まあそもそも、自分では認識できないものを他の方に問いたいから感想が欲しいのであり、想定外の感想をいただくのは当たり前なんですけどね！
お付き合いいただきありがとうございました。
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