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半蔵門かきもの倶楽部コミュの第122回『何がJUNYに起ったか?』中編・チャーリー作(三題噺:「A子」「とあるバー」「キャンディ」)

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 こちらも僕の知らない方でした。もちろん、書くもの倶楽部でも見かけたことはありません。
 なのでA子さんの例にならい、仮にB子さんとしましょう。


 B子さんは、見た目から雰囲気、そしておそらく性格まで、A子さんとはまるで正反対でした。
 まず目に飛び込んできたのは、嫌でも目立つその外見です。
 JUNYさんは、『【キャンディ・キャンディ】』という、有名な少女漫画をご存じでしょうか。
 二十世紀初めの西欧を舞台に、明るく前向きな孤児の少女・キャンディが、周りのいじめや偏見に葛藤しながらたくましく成長していく物語です。アニメ化もされ、一世を風靡しましたが、現在では著作権絡みの問題のため、再版もアニメの配信もできず、お蔵入りしているという不遇の作品でもあります。
 こういったあらすじや著作権のゴタゴタは、B子さんにはおそらく関係ありません。なぜ僕がこの少女漫画を知っているのかもどうでもいい話です。
 そうではなく、重要なのはB子さんの格好が主人公のキャンディみたい……いや、そのものだったのです。今で言う、量産型に近い感じでしょうか。
 遠くから見てもそれとわかるくらいの、どぎついピンクのワンピースに、胸元は可愛らしいフリルと真っ赤なリボン。鮮やかな金にカラーリングされた髪はツインテールになっていて、傍らを歩くJUNYさんとは不釣り合いも甚だしい。
 しかもB子さんはA子さんよりも一回り小柄で、顔立ちも幼いのです。そのせいで、彼女はあからさまに未成年にしか見えません。
 ひいき目に見てもJUNYさんとB子さんが親子であるとは到底思えず、下手をしなくてもいかがわしいニオイがするどころか、充満しています。僕が警官だったら、速攻であなたをひっ捕らえて職務質問していることでしょう。ひょっとしてJUNYさん、そういう危ない趣味もお持ちなのですか……?
 さらにA子さんと対照的だったのは、B子さんの醸し出す空気というか、雰囲気です。
 A子さんは余裕ある大人の女性といった感じで、少々の男女関係のこじれや軋轢にも動じない芯の強さのようなものが外見から感じ取れましたが、一方のB子さんはいじいじして優柔不断そうで、いかにも情緒不安定といった風。
 その証拠に、彼女は思いつめた表情でひどく落ち込んでいる様子でしたし、時折、鼻をすすって泣いているらしいのです。あまつさえ、席に案内されるときには、片手でJUNYさんのコートの袖を掴んだまま、叱られた子犬のようにうつむいてとぼとぼと歩いているのです。
 陽気で派手派手しいコスチュームとは裏腹に、鬱々とした負のオーラが全身から放たれていて、その雰囲気の異様さに僕はちょっと怖くなりました。
 しかもJUNYさんとB子さんが通されたのは、さっきまでA子さんとイチャついていた、あのソファ席。好む好まざるにかかわらず、二人の姿が視界に入ってきて、僕は目のやり場に困りました。
 二人が何を話していたかは、当然知りません。
 ですが、雰囲気や表情、仕草でだいたいの察しはつくというものです。僕の見た限りでは、B子さんはあなたに身の上相談――それも恋愛絡みの相談をされていたのではないでしょうか。
 会話の最中、B子さんはテーブルの木目を一本一本数えているかのように視線を落としたまま、ぼそぼそ喋っていて、そんな彼女にあなたはひたすら優しく微笑みかけ、励ましている様子。
 さらにあなたは、ジャケットのポケットからタロットカードを取り出して、B子さんの運勢を占ってあげ、B子さんも真剣な面持ちでそれに聞き入っているらしい。カフェの一席が即席の占いの館に早変わりしたのは、火を見るよりも明らかでした。
 (というか、そのカード、いつも持ち歩いているんですか)




 B子さんが登場したことで、僕は頭がだんだん混乱してきました。
 A子さんとあなたの関係は、まだなんとなく想像できます。たぶん僕の妄想通り、JUNYさんの奥様には内緒の(もしかしたら、小説のように奥様公認かもしれませんが)親密な男女のご関係なのでしょう。
 あなたが女性二人に二股をかけたうえ、一晩のうちに会う女性を取っ替え引っ替えしているのも、まあギリギリ想定の範囲内です。あんなふしだらな小説を書かれるあなたなら、この程度のプレイボーイっぷりを発揮してもなんら不思議ではありません。
 でも、なぜよりによってB子さんなのでしょうか。
 あなたと付き合うには明らかに年が離れすぎていますし、そもそもJUNYさんとB子さんでは馬が合わない気がします。B子さんの趣味は存じませんが、きっと彼女はジャズは聴かないでしょうし、絵画や文学にも興味は示さないでしょう。だからと言って、パパ活のようなお金と体だけで結ばれた関係にも見えません。
 百歩譲って、あなたとB子さんが付き合っているのだとしましょう。
 そうだとしても、なぜ、ついさっきまでA子さんと密会していたカフェでわざわざ会う必要があったのでしょうか。
 よっぽどの緊急事態で、やむにやまれない事情だったのでしょうか。
 例えばA子さんを家に送っている最中に、B子さんから急を要する連絡がJUNYさんに入った。電話口でのB子さんのただならぬ様子に、あなたはA子さんにどう言い繕ったのか、ともかく彼女と別れてB子さんのもとへ急ぎ駆けつけた。で、取り乱す彼女をなだめるため、手近なこのカフェに引き返してきた――とか?
 しかし、それでも疑問は残ります。
 万が一JUNYさんがB子さんと会っているところを、A子さんに見られたらどうするおつもりだったのですか。
 女性とデートするためだけに、あなたがM市に来るとは思えませんから、やっぱりA子さんのお住まいはこの近辺ということになります。JUNYさんと別れた後、買物か散歩かで外出し、偶然この店の前を通りかかる可能性だって無きにしもあらずです。もし見つかってしまったら間違いなく痴話げんかか、果てはA子さんともB子さんとも関係が破綻してしまいます。そんなリスクをJUNYさんが犯すでしょうか。
 それとも、もしやB子さんとは、奥様どころかA子さんもご承知のうえで付き合っていたりするのでしょうか……?
 まったく、僕のような凡人には、想像の及びもつきません。
 唯一確かなのは、B子さんとこの夜カフェで会うのは、きっとJUNYさんにとっても予定外のことだったのでしょう。
 そうでなければ、あんな修羅場は未然に防げたはずです。




 話を戻しましょう。
 ほとほと驚き呆れかえる事態が立て続けに続いたため、ちょっとやそっとのことではびっくりしない自信が芽生えつつあった僕ですが、事実は小説よりも奇なり。どうやら見込みは甘かった模様です。本日三度目のサプライズドッキリにして大トリが、入り口のチャイムを鳴らして店に乗り込んできました。
 C夫のお出ましです。
 (例のごとく、顔見知りではないので仮にC夫としています)
 見た目は、良く言えば真面目でおとなしそう、悪く言えばチー牛まんまの陰キャといった感じでしょうか。童顔で、歳はおそらく三十前後ですかね。イオンの冬物セールで揃えました、みたいな安っぽいスーツとコート姿はサラリーマンというより、どちらかと言うとお父さんの背広を借りパクした中学生といった方がふさわしい。
 この特徴だけだったら、取り立てて印象には残らなかったでしょう。顔を見た次の瞬間には、忘れてしまっていたかもしれない。
 ところが、C夫は人畜無害そうな見た目の反面、その言動は完全に常軌を逸していました。
 なにしろ、あなたとB子さんの席へつかつかと歩み寄ったかと思うと、テーブルの上のコーヒーカップを手で弾き飛ばして割ったうえ、意味不明なことを怒鳴り散らしたのです。
 心臓が凍りつくとは、このことですかね。
 店内は一瞬にして静まり返りました。
 その場にいた全員の血の気がサーッと引くのが、目に見えたような錯覚すら覚えました。
 しかし、これで驚くにはまだ早かったのです。
 C夫があなたの胸ぐらをつかみ、もう一方の拳を振り上げ、殴ろうと振りかぶったところで――
 思わぬ闖入者が、両者の間に割って入りました。
 ……と、まあ、こんな風にいちいち大げさに描写するのも今さら白々しいですね。
 
 
 なぜなら、その闖入者は他ならぬ僕だったのですから。


 正直、どうして自分がとっさにあんな行動を取ったのか、僕自身もよくわかりません。
 気がついたら、瞬間移動したとしか思えないような速さでC夫の背後に回り込み、腕を掴んで後ろから抱きすくめていたのです。
 別に英雄を気取りたいわけじゃないのですが、考えるより先に体が動いていたと言ったらいいのでしょうか。とにかく、無我夢中だったのです。照れ臭い話ですが、どうやら僕のどこかでJUNYさんを助けなければいけない――というような本能が働いたらしいのです。
 しかし問題はこの後です。
 映画やドラマなら、格闘術に通じた登場人物が華麗に関節技を決めたりなんかして、悪漢をたやすく床にねじ伏せて一件落着、となるのがセオリーなのでしょうが、 あいにく僕にはその経験もなければ心得もありません。
 何をどうしよう、と迷っている間も、相手は「放せよ!」などと網にかかった魚のごとくじたばたするものですから、どうにかこうにか抱きすくめているのがやっと。とても床にねじ伏せるなどできたものじゃありません。
 しかもこのとき初めて気づいたのですが、C夫はかなり泥酔していたみたいですね。
 明らかにC夫の目は充血して据わっていますし、口からモワ〜ッとお酒の臭いが漂ってきて、僕は思わず鼻をつまみたくなりました。
 酔っぱらって気が大きくなっているだろうとはいえ、勢いでカフェに殴り込みに来るとは、相当酒癖が悪い。
 さらにC夫はろれつが回っていないというか、そもそも何を言っているのかがさっぱりわかりません。はっきりしているのは「放せよ」ぐらいで、かろうじて他に聞き取れたのは「イモウト」とか「ケイサツ」ぐらい。
 もちろん、こちらとの会話のキャッチボールもままならず、C夫がB子さんとどんな関係にあるのか、何が原因でこんな暴力沙汰に及んだのか、尋ねようにもそれ以前の問題です。
 そんな相手に、いくらこんこんと言って聞かせたところで、聞く耳など持つはずありません。
 JUNYさんもちょっとは加勢してくれたらいいのに……、と思ってあなたを見ると、まるで観劇でもしているかのように、どっかりソファに腰を据えて落ち着き払ってらっしゃる。
 ついさっきまで鉄拳の餌食になろうとしていた人とは、とても思えません。動揺した素振りさえ見せない姿に、場違いにも僕はちょっと感心してしまいました。
 ……というか、あのときJUNYさん、僕のこと見てちょっと笑ってませんでした?
 けんかの仲裁に入った僕に感心するというより、なんとなく「おまえ、よくやるな」とでも言いたげな、面白がっているような感じでニヤニヤしていたような気がするんですけど……。ううむ、僕の記憶違いですかね?
 さて、手に汗握る格闘戦とは程遠い、野郎が野郎を後ろから抱き締めているだけの小康状態も、そう長くは続きません。
 けんかもしたことのない僕に、いつまでもC夫を取り押さえておける力などないのは明白です。
 業を煮やしたC夫が、おそらく僕のすねを蹴ったか何かしたのでしょう。ともかく弁慶の泣き所に刃物を突き刺したような痛みが走り、僕は苦悶のあまり体勢を崩しました。
 その隙を狙い澄ましたかのように、すかさずC夫は体をひねって僕の頬に肘鉄をお見舞い。そのまま後ろに倒れ込んだ僕は、あえなく後頭部から床に激突し、その瞬間、頭上で雷鳴が轟いたような衝撃を感じて――
 

 そのまま、意識が飛んでしまったのです。



<つづく>

コメント(2)

続きが気になります。この修羅場からどのような展開になるのでしょうか。また何のためにA子とそうした場所で会って、さらにB子を連れてきたのか、C夫の正体とは? 謎が謎を呼びます。
続きが楽しみです。
>>[1]
感想ありがとうございます!!
大したオチではないのですが…(笑)
続き、頑張ってかきます〜

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