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chopstick undergroundコミュの祈りと呪い 魔法少女まどかマギガ

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わたしは自意識過剰な人間、である。
自意識過剰な人、というのは一般的に、他人の目を気にしすぎる人、うぬぼれ屋さん、なんて認識が妥当だろうか。
心理学にいわく、過去の過失に起因する心の痛みや傷が、過剰な自意識の人格を形成する、らしい。








そんなもん、知るか!



わたしには、時間がない。今、わたしの身体中を駆け巡り、ほとばしっているピンク色の情熱に、一刻も速く決着をつけるべきなのだ。必要なのは、方向と力だ、いつだって大事なのは、ベクトルだ、ああ、早く見たい、エッチな映像が見たい、急がなければ、生き急がなければ、死して屍ひろうものがおらなんでも…。


わたしは、キャスケットを目深にかぶって
サングラスで武装する真夜中のエロ・テロリスト。
標的はTSUTAYAレンタルアダルトコーナー。
いざ、進め!これは我らが聖戦、いや、性宣だ。わたしは宣言する、人類はみな平等であり、わたしたちは生殖の歴史過程だ、自意識をサングラスの奥に潜めた、小心者のエロ・テロリストだ!
しなしなるべく近所のTSUTAYAへの爆撃は避けたいところだが、さてどうしたものか…

PPPPPPPPPPPPPP…


武装準備完了、突撃の合図を待つわたしのポケットの中でケータイが鳴る。
くそ、この閉店時間のせまった忙しい時に… いったいどこのどいつだ!

「はい、もしもし、今ちょっとアレなんでまたすぐかけなおし…」
「POPくん、わたしだ、Mr.Tだ。ちょっとアレってどんなアレだい?」

まずい、よりにもよって緊急事態の一番大敵、その名もMr.T。彼は冷酷非道のヒューマニスト。わたしはもはやしどろもどろの元エロテロリスト。

「いやあ、あのぅ、本を読んでまして、そのぉ、なんて言うか、とても面白くて、いいところだったんです」
「ほう、秋の夜長に読書とは関心だな。参考までに聞くが、誰の、なんて本だい?」
「えーと、ミシェル・フーコーの、エクリチュールと差異、です」
「それはフーコーじゃない、ジャック・デリダだ。おれを騙そうなんてうぬぼれが過ぎるぞ。おおかた、アダルトビデオでも見てたんだろう?」
「うう…参りました。降参です。で、今日の用件は、いったい…」
「魔法少女まどかマギカ」
「えっ?」
「駅前のTSUTAYAのオリジナルアニメコーナーに全巻そろってる、1から6まで全部借りて、一気に見ろ。忘れるな、魔法少女まどかマギカ、これはミッション、つまり命令だ」


時間がない、速く、急げ。Mr.Tはそう言い残して電話は一方的に切られる。
わたしは彼を師と仰ぐ身分、つまりMr.T公認の直属の弟子である。どこの世界でも師弟関係は、隷属が絶対条件であり、弟子であるわたしに、プライベートはない。
王様の命令は絶対、である。
こうしてわたしは計らずしも、最も近所のTSUTAYAに出撃となる。
魔法少女まどかマギカ、わたしは鏡にうつる自分の姿を確認するようにつぶやく。
しかし、この完全武装は正解だったな…。

魔法少女まどかマギカ… AVのタイトル同様、くちにするのさえ戸惑いを隠せない…まったく恐ろしいミッションだぜ。




翌日のわたしはというと、ぼろぼろの寝不足で、引きずるように働き、仕事上、何人かの人と会った。
体調悪そうだけど、大丈夫ですか?
その何人かの人は口々にわたしの顔色から察したのか、そんなことを言った。
ええ、たいしたことではないんです、大丈夫です、お気遣いありがとうございます。
目を赤く腫らせ、浮腫んだ顔でわたしはそれに答えたが、言えねえよ、まどかマギカで泣き濡れて、朝を迎えたなんて、とてもじゃねえが、言えたもんじゃねえ。

わたしはつくづく、自意識過剰な人間である。




後日、わたしはMr.Tに呼び出されて、彼の行きつけの居酒屋で飲んだ。
その店は席数がカウンターと四人掛けがふたつあるだけの小さな割烹だが、完全予約制でとびきりうまい魚料理と店主おすすめの日本酒、ワイン、焼酎などが振る舞われる。旬のものが、絶妙なタイミングで突き出される、メニューのない店。モダンで洗練された和空間のこの店は、いつもわたしをとても良い気分にさせてくれる。

Mr.Tはこれまでわたしに数々の無理難題や過酷なミッションをぶん投げてはわたしを恐怖のどん底に叩き落とし続けて来たが、そんなあとは、決まってこの店でご馳走してくれた。
ここぞとばかりに煌びやかに盛り飾られた魚料理を食い散らかし、馬鹿高い酒をがぶがぶと飲むわたしを楽しそうに眺め、Mr.Tは杯を傾ける。
まったくPOPくんはよく食べるな、試合後のボクサーみたいだ。
わたしは杯に彼と同じ酒を受けて、ひとくち、ふたくち、それを飲む。

すごい、目を閉じて飲むとなにを飲んだのかわからない。白ワインのようでも、リンゴのブランデー、カルバトスのようでもある。これ本当に米の酒ですか?それに驚くのは、ひとくち目とふたくち目で味と香りが全然違う。ひとくち目はピリっと微発泡を感じるくらいシャープなのに、次からは甘い香りが鼻に抜けるほどマイルドになる。
わたしはわざわざ眉間にシワを作って山岡士郎よろしく言ってのける。それは本当に目をみはるほど美味い日本酒だったが、半分はわたしのリップサービス。大袈裟で芋っぽい、安芝居のつもりだった。わたしの得意な口からでまかせ、三文芝居で彼を笑わせようとしたのだが、しかしMr.Tは笑わなかった。そして言った。

「米は生きているんだ。そして、変化しつづけているんだよ」
まるで、まどかマギカ、魔法少女たちの祈りと呪い、ですね。
「そうだ。いつかはこの酒も、時間の制約と発酵によって絶対に駄目になる、あるいは蒸発して液体の形状すらを失うことになるだろう」

そう言ったMr.Tとわたしにしばらく沈黙の時間が流れた。考えていることはきっと同じだろう。魔法少女たちに課せられた過酷な運命とそのミッション。
お客さん、何かうちの方で不手際がありましたか?
カウンターの奥で仕事をしていた店主が、わたしたちの話を耳にしたのか心配そうに尋ねてくる。わたしたちは急激に現実に引き戻されるように、目を合わせて笑う。
「いや、違うんだ。それは誤解だから、気にしないでやってください、じゃあ、もう一合、同じ酒をいただこうかな」
なんだ、酒が駄目とか、まどかとか魔法なんとかって聞こえたから、なんのことかなって、つい心配になっちゃってね。それはこちらこそ失礼しました。で、いったい何の話をしていらしたんです?
だんまりを決め込むわたしを睨みつけながら、Mr.Tはたじたじで言う。
「いや、あの、そのね、仕事でね、色々とね…」
心地良く酔っ払ったわたしの腹の真ん中で小さな爆発が起きる。やがてそれが喉元まで駆けてきて、こらえきれず、わたしの口から溢れ出し、大きな笑いになって、ほとばしる。
余計な詮索だったかな、すいません。店主が照れたように詫びるが、わたしのはじまってしまたった笑いは止まらない。
「いや、本当にこんな酔っ払い連れてきちゃって、申し訳ない。それより、御主人もどうです、一杯。仕事中はやりませんか?」
やあ、かたじけない。今日は暇だし、いただいてもよろしいですか。
Mr.Tはカウンターの下でわたしの足を踏みつけながら、店主に酒を注す。

言えねえ。言えたもんじゃねえ。おっさん二人が魔法少女、なんて恐ろしくておれには、言えねえ。



わたしは、
いや、わたしたちは、自意識過剰な人間、である。


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