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chopstick undergroundコミュのmathias kadenがやって来る

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mathias kadenがやって来る。
彼はドイツ人。そしてとてもかっこいいDJ。minimal house music . no doubt

まちがいない。

それは一本の電話からわたしの日常の中に入り込む。

prprprprprprprprpr… ガチャ

「もしもし、POPくんかい?わたしだ、Mr.Tだ」

「やあ、ご無沙汰しとります。言っておきますが金ならないですよ」

「君に心配されるほど金には困っとらんよ。実は、今度のイベントで…」

「ぼくもうバニーガールの格好してテキーラ配るの嫌ですからね。あれ寒いし、処理した毛がはえてくるときちくちくして」

「あれは面白かったよ。POPくんなら新宿二丁目でも生きていけるとおれは確信したよ。実際、結構ノってただろう?」

「冗談やめてください。で、用件は?」

「mathias kadenを今度のイベントで呼んだ。3時間のロングセットプレイ。金曜の夜、いつものクラブだ」
「最高」
「バイ、ラブユー」


Mr.Tはわたしの十年来の友人であり先輩。数々のよくある、またありがちな苦楽を共にしたわたしの師でもある。今ではすっかり不良中年のおっさんになった彼がわたしに教えたもの。ゴアトランスとピンクフロイド、フェルナンドペソアの詩と大江健三郎の性的人間、ピカソのキュビスムとタイカレーの美味しいレシピ。
わたしが思うに彼は珍しいタイプのインテリである。拘置所でシェイクスピアの全集を読むような類いの。


金曜日は雨。わたしは終わらない仕事を思い、たて続けに煙草を二本吸い、タクシーのバックシートに体を埋める。繁華街に傘が開いていく。時折風と共に雨がガラス窓を強くうち、路肩の車のハザードやテールランプが水滴に反射して、乱視の強いわたしの眼には綺麗に光る。
どこかへ行きたい、と思う。どこか遠いところへ。例えばビールとソーセージとテクノの国、ドイツなんかへ。わたしは終わらない仕事を思う。酔った男女の二人連れが傘を放り投げて道路を横断する。すかさずタクシーはクラクションで注意を促す。彼らはどこへ行くのだろう?何か気の利いたセリフを思い出そうとしたが、以前読んだ小説の一節が頭から離れない。「遠くへ行けるのは天才だけだ」わたしは誰にも気づかれないようにそっと口笛を吹く。ダフトパンクの「仕事は終わらない」


階段で地下に降りる。四人組の男女とすれ違う。あっPOPさん、今来たとこ?うんそう、雨すごいね、わたしは曖昧に答えるが誰だか思い出せないでいる。
ドン ドン ドドン ドン ドラムマシーンの吐き出すキックの音が近くなってきている。この瞬間にはいつもちょっとした興奮がある。黒ペンキで塗装された重い鉄製の扉を引いて、わたしは大きな音のなかに入って行く。

「やあ、POPくん、来たね。いや、いいんだ入場料は。きみはゲストにしてあるから。それより酒をおごりたまえ。それで手打ちといこう」これがMr.Tのやりくちで結果、高くつく。まあ、いいさ。それでmathias kadenは何時から?
地下にあるクラブ内はモニター合わせてスピーカーが六発。大音量でテクノが鳴っているので、大きな声で耳打ちしないと、会話ができない。Mr.Tはわたしの耳元で叫ぶように答える。「もうすぐ、1時からだ」それでは乾杯といこう、楽しんで!
バーカウンターに寄りかかるわたしの背後をひときわな大男が通過する。oh.sorry 金髪のブルーアイ、首に引っ掛けたテクニクスのヘッドホン、彼だ。今夜の主役はフロアのひとごみをかき分けてDJブースに入って行く。プレイ中のDJに何か耳打ちをして、二三回頷く。彼はまぶしそうに目を細めフロアを見渡し、もう一度頷くとレコードの入ったバックをゆっくりと開いた。


http://www.youtube.com/watch?v=5OSLNSc74uw&feature=youtube_gdata_player


わたしたちは踊った。踊って踊って、ゼロになるまで踊り疲れて、その先で待っているはずの何か素敵な充足感を追い越すように、また踊った。もう足が動かない、みんながそう言いながら、笑い、踊った。
踊る、という行為はいわばマゾヒスティックで受動的な、音に対するリアクションであるが、mathias kadenの創り出す空間はわたしたちを能動的に、解放した。リアクションではなく、アクションとしてわたしたちに作用した。音を追い越してみんな踊った。先へ先へその先へ、もっと速く、もっと遠くへ!みんなが表現者であり、プレイヤーだった。フロアでは酒が飛び交った。知ったものも知らない人でも、今夜ひととき確かにわたしたちは同志だった。ナイスパーティー、最高だ、人々は口ぐちに叫んだ。最近年をとって涙もろくなったMr.Tは少し泣いた。わたしも目頭が熱かった。ところでmathias kadenのギャラってどれくらいなの?わたしはMr.Tの耳元で叫んだ。彼は少し考えた後 「時給で吉原の高級ソープぐらいだ。どうだ、十回の射精じゃ足りないくらい良い仕事だろう?」

no doubt まちがいない。



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