紅い竜と四天王女コミュの目覚める赤き竜１４

ザルム軍本陣ではフェリスとルイスが出陣の準備をしていた。
　彼らもそろそろ戦に決着が付く頃だと判断した。
最後は自分たちも出て味方を鼓舞し、一気にシャラント軍を壊滅させようと思っていた。
「決着は俺がつける。アルヌルフはやはり死んでいたか。馬鹿息子はとうとう怖気着いて戦には出てこなかったな。なんという愚か者だ」
「アルヌルフは強かったですが、今は赤子の手を捻るくらいの弱さでございましね。これで、シャラントはフェリス様の物ですぞ」
「ルイス。シャラントをお前に任せる」
思わぬ褒美にルイスは驚いた。
「シャラントを私に下さると？」
「そうだ。お前が統治しろ」
「あ、有り難き幸せでございます」
　二人はもう戦後の事を話していた。
　それほど、シャラント軍が追い込まれた状態とも言える。
「うおぉぉぉぉー」
　荒ぶる声が二人の耳に入った。
「何事だ？」
「騒がしいですね」
　二人は何があったのかと疑問に思っていた。
　すぐに、慌てて来た伝令兵が駆けつけて来た。
「申し上げます。森からシャラントの軍勢が押し寄せ、背後を突かれました。お味方は混乱しております」
「アストーラは死んだか。よし、俺が直々に殲滅してやろう。ルイス、お前はここに居ろ」
「畏まりました」
「馬を持ってこい！」
　フェリスは自ら出陣して混乱を収めようと考えている。
　そのまま、後背の敵を倒した後、正面に突撃し一気に片をつける算段。
　フェリスの愛馬は栗毛の毛並みをした一般的な愛馬だが、毛並みの艶が美しい。
　飼い主に似たのか眼は鋭い。
「お前たち俺に付いて来い。本陣を襲撃した愚かなシャラント兵を根絶やしにするぞ！」
「おぉぉぉぉー」
　フェリスは愛馬を走らせてエレンたちの許へ行った。
　率いる手勢は二百。
　フェリスの進撃にエレンたちはまだ気付いていない。
「邪魔だ。どけ雑魚ども！」
　フェリス馬上から剣を振るい敵を薙ぎ払った。
　斬られたシャラント兵は血飛沫と悲鳴を上げ倒れていく。
「お前たち、一気に片づけろ！」
「おぉぉぉー」
　総大将の一言だけで兵士たちは意気軒昂した。
　彼の統率力もあるが、総大将とはそれほど軍を鼓舞することが出来る。
　よほどの愚将でなければ。
　リュイはフェリスの存在に気づいた。
「エレン様、フェリスです。フェリスが自ら出てきました」
「総大将が直々に来るとは、そろそろここも危ないわね」
　エレンは押され始めていることに気付いている。
「ここは、一度、本隊と合流しましょう。このままでは討ち死にします」
「そうね。そうしましょう。ルドミラたちと合流した方が良いわ。皆ー、撤退よー、本隊と合流するわよー」
　エレンの声にシャラントの兵は撤退し始めた。
　五十も満たないシャラント兵はエレンとリュイの後に続いて撤退する。
「逃がすなー。殲滅しろー」
　フェリスの命令でザルム兵たちはシャラント兵に襲い掛かる。
　逃げる敵ほど狩りやすい物はない。
　ザムム兵は面白い様にシャラント兵を斬り殺して行く。
「逃がすか！」
　フェリスはエレンとリュイの前に立ち塞がった。
　見下ろす眼は睨みを利かせ、その中に冷酷さも忍ばせていた。
　馬も鼻息を荒して飼い主と同様、威嚇している。
「シャラントの者か？　俺は何度も戦ったがお前を見たことが無い。何者だ？」
　エレンを見てザルムは名を訊いた。
　リュイには面識があるようだ。
「私はアルスの従姉よ。名はエレオノーラ・シャティオン」
　エレンも名を偽装した。
　王の娘だと口が裂けても言えない事実。
「アルヌルフは名将だ。あいつはこうも呼ばれていた『シャラントの虎』と。それほどまでに、近隣諸領から畏怖されていた。俺も何度か戦ったが敗け続けた。正直、今、生きているのが不思議なくらいだ。あいつは俺の首を取れたはずだった。だが、それをしなかった。それが、今になって大きな誤りだ。俺があいつの無能な愚息を殺すからだ」
「アルスを殺すのね」
「そうだ。あいつは無能な奴だと周りから言われている。現に今、あいつはこの戦場にいない。どこに行ったか知らないが、怖気着いているのはたしかだ。アルヌルフも馬鹿な息子を持ったものだ。俺があの世に送ってやる。無能な者は当主には向かない。俺がシャラントを奪い当主になってやるよ。それが、シャラントのためだ」
「アルスは何を考えているか分からないし、そんなに剣の腕も良くない。でも、彼は民に慕われているのよ。兵士達だってアルスのために命を懸けて、今、戦っているのよ。あんたより立派な領主よ。アルスは！」
　数々のアルスの侮辱がエレンに火を付けた。