紅い竜と四天王女コミュの策士の手腕２

軍議室には王女たちルドミラ、リュイがいるがアルスはいない。
「アルスは？」
「どこに行ったの〜よ〜？」
「僕も分らないんだ。リュイは知ってる？」
「私もどこに行ったのかは。多分、街か森にはいるとは思います」
「何しているの！？　まったく、呑気な領主だわ」
　円卓の机にそれぞれの暗黙の了解で決められた指定の椅子に座っている。
誰もアルスがどこに行ったか分からず、話し合いも始められない。
「どこに行ったか分かりませんが、いつもの顔ではなく、真剣な表情で出て行った所は見ました。何だか、話しかけないでくれと言わんばかりの気を放ってました」
　ルドミラの報告にリュイは考え込んだ。
（アルス様も何か考えているのでしょうか？　ここは、この話し合いをまとめ最終判断をアルス様に言ってもらうのが良いですね）
　リュイはこの場で自分とユリアの策、どちらかを決めアルスの判断を仰ごうと決めた。
　彼には領主として総指揮官としてザルム家にどう立ち向かうか考えている。
　リュイはそうアルスが考えているのではないかと思っている。
「アルス様はいませんが、この場で私とユリア様の策、どちらの策を用いるか決めましょう」
「そうね。アルスには最後の判断だけ任せましょう。彼には違う考え事がありそうだし」
　ゼノヴィアもリュイの気持ちを汲み取り、リュイに賛同した。
「では。私とユリア様の策はこうです」
　リュイは自身とユリアの建策した策を話し始めた。
　シャラント周辺の地図と駒を使い具体的に説明した。
「以上が私とユリア様の策です」
　リュイの説明が終わると、ユリア以外、皆、考え込み始めた。
　どちらの策も良策で甲乙つけがたく決め難い。
「私はリュイの策が良いと思う。ルドミラの名は知れ渡っている。逃げ出す兵がいるなら、そこを突けば壊滅に追い込めると思うし」
　エレンはリュイの策に賛同し理由も述べた。
「わたしはユリアお姉ちゃんの策が良いと思うな。森から敵が迫って来ると警戒させ、実際は何もない。それで、敵は安堵し警戒心を解く、その瞬間に伏兵で襲い掛かれば一気に敵を倒せると思うし、外に出たらルドミラがいる。こっちの挟撃策が効果的かと思う」
　アリエルはユリアの策に支持した。
　ゼノヴィアはまだ考えている。
　彼女はどちらの策も良策だとは思ってはいるが、果たして確実にそれを遂行出来るかと心配している。
　自分とエレンも戦は数えるくらい。ましてや、ユリア、アリエルは初陣。
　このような策を出来るかと問われれば、自身を持って出来るとは言えない。
　出来ないと言った方が正しいかもしれない。
（より確実に出来る策が良いわね。でも、どちらも伏兵を出す見極め所が難しいわ）
ルドミラが伏兵の指揮をするわけにもいかない。
「私はリュイの策が良いと思うわ。ユリアの策も非常に良策だと思う。敵が壊滅する可能性だってあるわ。でも、同時に伏兵がいると逆に警戒心を強め危険性もある。そうなれば、こちらが不利になるわ」
　ゼノヴィアはリュイの策が良いと言いつつも、きちんと姉として妹の心を気遣い策の内容を褒めて指摘もした。
　ここがゼノヴィアの姉としての立派な所。
「私はどちらの策でもやり遂げます」
　ルドミラは自身の意見はなかった。
　これで、リュイの策に決まった。
　あとは、領主アルスの一言を待つだけ。
「リュイ、シャラントの兵力はどのくらいなの？」
「最大で四百です」
「四百。厳しいわね」
「アルヌルフ様が生きていた頃はもっといたのですが、アルス様の代になった時に去りました。そのころのアルス様は部屋に閉じこもった生活をしていましたから。話し相手は私とアルヌルフ様くらいでした」
「信じられない。今のアルスにそんな時代があったなんて」
　驚きを隠せないエレンだが、ユリア、アリエル、ルドミラも同様だった。
「アルヌルフ様の実力は誰しも知っているから、アルスが領主になって軽んじられたのでしょう。今のシャラントを作り上げたアルスは苦労と努力を重ねたと思うわ」
　ゼノヴィアだけは慈悲の言葉をかけた。
「アルス様は人知れず努力を重ねてきました。領民も次第にアルス様の人柄を知り好感を持ち始め、今に至っています」
「私もそう思うわ。皆、この兵力で頑張りましょう」
　ゼノヴィアの声に一同は力強く頷いた。


　アルスは森から帰って来て自室にいた。
　先ほど、リュイがザルム家との戦で用いる自身の策を説明し承諾を求めに来た。
　アルスは一言返事で承諾し、今は自身の策をどうするか考えている。
「ギーゼラさんに助力を請おう。あの人なら分かってくれる」
　アルスは椅子から立ち上がり、すぐさま旅支度を始めた。