ログインしてさらにmixiを楽しもう

コメントを投稿して情報交換!
更新通知を受け取って、最新情報をゲット!

感動するお話(つд;*)コミュのピエロ(自作)

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
あるところにピエロ役の青年がいた。
サーカスの中で働き、笑顔と花をふりまいていた。

彼は観客が笑ってくれることが幸せだった。
だって彼はピエロだったから。
彼は観客の笑顔を見ることが幸せだった。
だって彼は人間だったから。

ある日、彼に恋人ができた。
同じサーカスで、空中ブランコの番組を担当する女性。
美しい、賢い女性で、彼は夢中になった。
彼女もまた、素朴で実直な彼を愛した。

彼は以前にも増して、唇のメイクを大きく描いた。
観客に、よりたくさん笑顔をふりまくために。
だって彼はピエロだったから。
彼はサービスする花を、ちょっとだけ増やした。
自身を満たす幸せを、おすそ分けするように。
だって彼は人間だったから。

ある日、彼は素敵な指輪を用意した。
彼のように無垢な白金色に、ちょっと背伸びした金剛石があしらわれた指輪。
二人の未来を束ねるものになれ、と祈りをこめて。

彼はいつものようにメイクをした。
だって彼はピエロだったから。
彼は舞台に上がるよりも緊張した。
だって彼は人間だったから。

答えは予想外なものだった。
晴天のへきれきだった。
彼女はとある貴族と結婚すると言う。
後に続く彼女の謝罪は、彼の鼓膜を震わせたが、思考は震わせなかった。

彼は笑った。
メイクの形をなぞって。
だって彼はピエロだったから。
彼は祝福した。
煮えたぎる心中と裏腹に。だって彼は人間だったから。

そして彼はすぐさま慣れ親しんだサーカスを抜けた。
彼女の匂いは胸を、酸よりもきつく焼くから。
違うサーカスに流れ着き、やはりピエロをやった。

前と同じように笑顔のメイクで、花を配った。
だって彼はピエロだったから。
ただ一つ異なったのは、頬に大きな涙の粒を描いた。
だって彼は人間だったから。

四季が数巡したある日、彼女が未亡人になったと風の噂で知った。
親族に遺産を巻き上げられ、着の身着のまま追い出されたらしい。

彼は彼女の身を案じた。
彼女の顔に笑顔があるのか、と。
だって彼はピエロだったから。
彼は彼女の境遇をわずかに笑った。
裏切り者に似合いだ、と。
だって彼は人間だったから。

さらに四季が巡ったある日、彼は懐かしい顔を見た。
いや、ある意味では初めて見た。
血色悪く、やつれ、疲れた彼女の顔だった。

漏れそうになる声を必死に飲み下した。
だって彼はピエロだったから。
溢れ出る涙はとても止められなかった。
だって彼は人間だったから。

花を配る彼。
自分へ伸びる小さなもみじに、植えるように造花を渡してゆく。
そして、やつれた白百合を握る。
造花と、彼のように丸みを帯びた白金色に、しっくりなじんだ金剛石をあしらった指輪を一つ。

指輪を売れば、当面の生活費にはなるだろう。
少しは彼女に笑顔が戻るだろう。
彼は願った。
だって彼はピエロだったから。
指輪を左薬指にはめてくれるならば、彼は受け入れるだろう。
少しだけ時間を巻き戻せるだろう。
彼は少しだけ期待した。
だって彼は人間だったから。

コメント(2)

(^^)
ピエロ故に、道化に徹した彼に感動しました。

久しぶりにこのコミュニティに訪れて拝読させて頂いた作品、とても素敵でした。

ピエロに対する見方が変わってしまいますねw
>>[001]
感想ありがとうございます!
「彼」もきっとお礼の一礼をしていることでしょう…照れ隠しにおどけて。

素敵とおっしゃっていただき、汗顔の至りでございます。

ピエロってきっと過酷な仕事。
それを全うする「彼」には頭が下がります。
「彼」に幸あれ(笑)

ログインすると、みんなのコメントがもっと見れるよ

mixiユーザー
ログインしてコメントしよう!

感動するお話(つд;*) 更新情報

感動するお話(つд;*)のメンバーはこんなコミュニティにも参加しています

星印の数は、共通して参加しているメンバーが多いほど増えます。

人気コミュニティランキング