★いじめの弊害の恐ろしさ ★コミュのいじめの発生原理、経過、その周辺の問題等

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第３章　いじめの発生と諸問題

ここでは、いじめの発生原理、経過、その周辺の問題等を載せたいと思います。

1　いじめはなぜ発生するか

いじめは、人間が動物である以上避けられない行為だと、脳科学者は指摘しています。人間は集団生活をする生き物です。集団にはルールが必要です。つまり、社会性を学ばなくてはなりません。集団を乱すものは、排除しなければ集団は維持できません。そのため、社会性を学ぶ機能と、異物排除機能が組み込まれていると言われています。それがいじめ行為となります。

また、子供は幼少期より集団の中でトラブルを体験することで、社会性を育てていきます。つまり、子供達が、小さいときから友達と喧嘩をしたり嫌なことをしたりされたりする体験は、そうした意味で重要なものなのです。その過程で、集団になじまないもの（行動だけでなく能力や様々なものが対象になります。）を排除することが起こります。そうした、人間本来が持つ根元的な問題の中から、いじめは発生します。

つまり、いじめは、集団生活の中では避けられない現象です。また、トラブルは、社会性を身につけるために必要なもの、という認識も忘れてはなりません。したがって、子供のトラブルを必要以上に神経質に問題視することは、子供の精神的発達の観点からはよくないことといえますが、「うちの学校にはいじめなどない。」等と考えることも、全くのお門違いと言えます。

いじめは絶えず発生します。それが、長期化し、深刻ないじめに発展するかしないかり早期に発見し、いじめに歯止めがかけられるかどうかにかかっています。歯止めをかけるのは、回りの大人、つまり、集団生活の責任者である学校職員が介入の主体者になります。子ども自身で介入することは、とても難しいのですが、なぜ難しいかは【第４章　いじめの弊害】に詳しく載っています。

　「いじめの危険性は常にある。」こうした認識を、子供集団を預かる教育関係者は、特に忘れてはならないと思います。

２　ささいないじめのきっかけ

いじめは、こうした集団生活をする上でのトラブルから起こるだけでなく、差別意識からも生まれます。学力、体力、気力、身体、容姿。何かが劣っていれば、一段と低く見られます。また、そんなものばかりでなく、ちょっとしたきっかけで、からかっているうちに、その子への蔑視感情が生まれてしまうこともあります。

なぜ蔑視感情が生まれたのかすら分からずにやっている子もいます。「こういう立場の子には、こうするものだ」くらいの感覚ではないでしょうか。それが、１ヶ月、２ヶ月、１年、２年と経つうちに、その子は集団の最下位として位置付けられてしまうのです。しかし、子供達は、自分たちが差別意識を持っている、蔑視感情を持っている、あの子はクラスの最下位の子だ、などとは意識していません。しかし、この認識が、目に見えない子供の世界の構造になってしまうのです。これがいじめの構造です。

これは、小学校の中学年から発生しますが、小学校の高学年にまで持ち越すと、目には見えませんが、大変強固な子供のいじめの意識の構造になってしまいます。事例でも見られるように、ちょっとした担任の指導くらいでは壊すことは出来ません。担任は、子供を指導し、いじめ問題は解決したと思っていても、子供の世界では、密かにさらにひどい状態が続いてしまうことがあるのです。

子供集団の意識改革は、よほど用意周到に行わないと解決しません。中学まで持ち越すと、もっと強固になり、これを崩すのは容易ではありませんが、一方、小学校の中学年では教師の働きかけで、結構、簡単に崩すことが出来ます。何事も、早期発見、早期治療が効果的なのです。　　　

３　いじめ発生の時期は小学校中学年が最も多い

子供のトラブルは幼少時から有りますが、ここでは、【長期のいじめ】について述べます。

小学校の１，２年生頃までは、ほとんどの子供は、まだ関心が自分自身に向いていることが多く、周り、つまり友達を見る力はあまり発達していません。したがって、集団現象としての長期のいじめが発生するのは、小学校の中学年、集団遊びが本格化する時期に呼応しています。長期のいじめの体験者の手記を読んでいると、ほとんどの人が「小学校の中学年から、いじめが始まった。」と書いています。

集団遊びは、まさに社会性獲得のための試行錯誤の行為につながっています。集団遊びは、ルールを守ってこそ楽しいものです。自分勝手な子、幼さを持っておりルールが守れない子は、集団を乱し遊びを不愉快なものにします。したがって、こうした子は排除されます。

では、なぜいじめが集団化するのでしょうか。それは、やはり中学年からは、他の子がよく見えるようになるからです。集団遊びは、みんなの状態が分かっていないと出来ないのです。受けたボールをどこの誰に投げると効果的か、友達の能力や今いる状況が読めなくては、ボール遊びは出来ません。したがって、友達のことが見えるようになると、欠点もよく見えるようになります。担任をしていると、小学校の中学年が最もトラブルが多いのもうなずけます。

子供は友達についてうわさをするようになります。それがまた、友達を選ぶ情報源にもなります。集団になじまない子に対するみんなの対応も、見えてきます。そして、関係ない子までが、みんなの動きに同調します。同調行動も、この時期が最も盛んです。いじめのターゲットになった子は、ますます集団から疎外されていきます。もともと、日本人は同調行動の強い国民だと言われています。

４　攻撃対象になることの多い自閉傾向を持つ子ども

コミュニケーションの最も苦手な自閉傾向を持つ子は、その特性から、周りの状況を読むことが出来ません。自分は全くそんな気はないのですが、人が不愉快になることを言ったりしたりします。当然排除の対象となります。しかし、なぜみんなが怒るのか嫌がるのかが、本人は理解できません。トラブルを起こしたときに、教師が事情を聞き取ると、結局、周りの状況が分かっていない自閉傾向の子（当然なのですが）の非が、浮かび上がってきます。結局、結論として「おまえも悪い。」ということになります。自閉傾向の子供の９割り近くが、いじめの被害者だと言う人もいます。今は「特別のニーズを持つ子」として、その特性をふまえて、適切に対応するよう、教育界に要請されていますが、まだ自閉傾向の子供の特性が、教育関係者によく浸透していなくて、こうした子は、いまだにいじめの対象とされるケースが多いようです。この子の事情を、他の子にどう受け入れさせるかは、現在、教育界の重要課題となっています。

５　いじめの構造の中で

　①　子供集団の変化

いじめを生み出した子供の世界では、最下位と目された子供に、様々な嫌がらせが発生します。「からかいたくなったらあの子」「いたずらしたくなったらあの子の物」になります。靴隠し、靴を下駄箱から放り出す、画鋲を入れる、持ち物に落書きをする、机に落書きをする、ロッカーにある物を落としておく、集会では、周りの子はその子と少し間隔を空けて並んだり座ったりする。給食の時は、机を少し離してグループを組む等、様々な嫌がらせをします。

時に、通りすがりにぼそっと「ウザイ」「キモイ」「消えろ」「死ね」と罵声を浴びせる子も出てきます。それが本人をどれほど傷つけるか、言った子供には理解できません。単なる嫌がらせ感覚です。

　　

また一方、これらの中のいくつかの行動を、子供達は、嫌がらせとは思っていないふしがあります。こうすることが、この世界に住む子供達のあの子に対する常識的行動であり、やらないことの方がみんなから変な目で見られる、と思っているようです。

　②　いじめる子の変化

いじめる子の変化はどうでしょう。何かが優位で子供としての権力者の座に立つ子もいれば、その子自身がいじめを誘発する背景（家庭問題が多いように思いますが）を持っているために、いじめをする子もいます。子供の持つ道徳性の高さによって、いじめたり、いじめに参加しなかったりというようには感じられません。道徳性そのものには、子供にあまり差があるようには感じられません。したがって、文部科学省が言っているような、道徳教育の強化でいじめをなくそうという方法はあまり効果が無いように感じます。子供は状況や立場を判断して、行動しているように感じます。

しかし、大人がいじめを見つけることができず、いじめに歯止めがかからないと、子供の持つ未熟さのために、いじめは必ずエスカレートします。

いじめ自殺者を出すのは、最も悲惨な場合ですが、それ以外にも、万引き集団、暴力行為、金品の強要等、犯罪の領域にまで入り込んでしまうこともあります。

子供の未熟さをよくよく大人は配慮した指導を行う必要があります。

③　権力者やいじめっ子への服従

恐怖心とは少し感覚が違うような気もするのですが、力の強い子に対して無批判に従ってしまう習性が、子供には有るようです。これが同調行動を拡大させる要因かも知れません。ある子が権力の座にいることが長くなればなるほど、他の子はその子に対して恐怖心に近い感情が生まれるようです。一旦、身についた権力者への恐怖心は、簡単には取れません。これが前述したいじめの構造を壊すことのできない大きな要因です。

これは、一種の権力者の横暴から発生しているように思います。しかし、怖がられている子供に「権力の横暴」という考えはありません。自然にできあがった立場で、行動しているだけです。みんなが、自分の言うことを聞いてくれるのが当たり前の生活が、長く続くからです。権力のある子にへつらう子供、異議を唱えることもなく見守る子供。

　

こうした状態は、まったく、大人の社会と同じです。権力者の横暴は、歴史を紐解くまでもなく、新聞紙上をにぎわしています。大人と違うのは、子供はそうした自分の立場を意識して行動しているわけではないということです。「こうするものだ」と思って行動しているだけです。したがって、反省はありません。

　

そして、未熟さ故に、その行動がエスカレートする期間が、非常に短いことです。「１００円持っておいで」が一万円になるのに、さほどの期間を要しません。こうした子供の危険性に歯止めをかけられるのは、大人しかいないのです。子供は無意識の状態で、行動をエスカレートさせてしまうからです。

６　いじめが解決しないのは

いじめは、「先生に話して解決した。」というのも沢山あります。教師の力は、いじめに対して結構、強い力を発揮しているようです。

しかし、いじめの解決に失敗して、被害者をさらに窮地に追い込んでしまう例もよく報告されています。いじめが、経過の短いものであれば、解決はそんなに難しくはないように思います。

しかし、【長期のいじめ】にみられるように、子供の世界の意識、つまり、いじめの構造にまでなってしまったいじめに対しては、それを熟知した上で、対処しなくては、いじめの解決は失敗するかも知れません。

「今、あなた達がしていること、考えていることはおかしいんだよ」と、子供が当然と思っていた意識を壊すのです。それができないと、加害者として訴えられた子供は、先生の手前、一応謝って反省したように見せかけても、心は納得していません。「先生だけが、こんなこと問題にするんだ。あんなやつ、ああしてもいいんだ。みんな、そう思っている。」と自分の行為の正当性に加害者は自信満々なのです。

なぜなら、孤立化している子供については、一応子供達はそれなりに理由があるからです。不愉快な思いをさせる嫌な奴、レベルが低いじゃないか、いやな思いをしたことはないけど見ているとそう感じる、というおかしなものまで、理由は様々ですが、一応、あの子には嫌がらせをしてもいいという共通認識があるからです。

それは、大人から見ればとうてい納得できないものもありますが、子供たちには、その認識がいかに不当なものであるかを、分析するだけの力はないのです。「こんなことで先生に叱られるなんて。」と、叱られた子は自尊心を深く傷つけられることになります。そして、（僕達たちの気持ちの分からない担任）として、クラスをあげて反抗し、学級崩壊を招くこともあります。

今まで、子供達の世界で常識だった行為が、なぜいけないのか理解できないからです。ちょっとしたいたずらやからかいだと思っていた行為を「いじめ」という「極悪非道な行為をした」とレッテルを貼られた衝撃は、子供たちにとっては、とても大きいのです。現在は、子供達にとって、「いじめ」という言葉は、「とても悪い行為」、「理由もなく良い子をいじめる行為」と受け取られているからです。

７　直接の加害者ばかりが加害者ではない　

では、いじめの加害者は一体だれなのでしょう。事例の様に、「死ね。」「ウザイ。」等、通りすがりに言っていく子は、確かに加害者です。何時までも「バイ菌遊び」をする子も加害者と言えましょう。しかし、真の犯人は、こうした行為を容認してしまう子供集団の意識、いじめの構造なのです。

子供の中には、被害者に同情的な子も少しはいるし、絶対に「ウザイ」「キモイ」「死ね」と言わない子もいます。しかし、みんなで仲間はずれ体制を維持しているのも事実です。バカにした考えを持っているのも事実です。同調行動をしているのも事実です。その事実の上に立っているからこそ、直接の加害者は平気でいじめ行動を繰り返すことができるのです。そして、いじめの行動をどんどんエスカレートさせていくのです。

　　

「みんなも、自分と同じように思っている。」と、勘違いし、「みんな自分の味方だ」と自信を持って行動しているのです。

８　大人にはいじめは見えない

事件のたびに報道されていますが、教師がいじめに気づいたり、保護者がいじめに気づく割合は、非常に少ないのが現状です。

　

まず、本人が訴えません。自尊心や親に心配かけたくない、言ったためにもっとひどくなった経験があったり、言ってもうまく解決できないのではないかという心配やあきらめもあり、先生不信等もあります。

また、いじめられている状況かどうか、これをいじめというのかどうか、子供そのものが判断できないのではないか、と感じられることもあります。

教室で一人でいること、誰も誘ってくれないこと、たまに「ウザイ」といわれることが、子供がイメージしているいじめとは、ほど遠いためかも知れません。

しかし、つらいのです。子供に心身症が多いのも、その理由です。

本人すら、立場の危険性を意識できないのですから、周りの子が、一人でいることのつらさ、たまにいたずらされる子のつらさなど、分かるはずがありません。当然、先生に知らせるほどの重大なことだとは、考えません。いじめる子は、「ちょっとしたいたずら」と考えていますから、一応、先生には分からないように行動します。「見て見ぬ振りはいじめ」とどれだけ宣伝、啓発に努めても、子ども達が、なんとなく疎外していること、ちょっとしたからかいをすること、ちょっとしたいたずらをすることを、いじめだと認識していないのですから、誰も訴えることはありません。

これでは、教師も、保護者もいじめを知る手がかりは全くありません。

９　いじめにどう気づけばよいか

　①　子供がいじめに気づく仕組み

上述のように、子供自身が訴えないのですから、カウンセラーさんや相談箱なども効果はあまりないのではないかと考えます。電話相談も、子供自身の訴えはどれほどあるのでしょうか。

訴えないいじめにどう対処するか。これには「第８章　いじめ防止対策１　生活アンケート」の所に詳しく載せてあります。自分たちのしている行為の中で、どれがいじめ行為に当たるかを、子供達に自覚させることが必要条件だからです。「生活アンケート」には、そのための細かな質問事項が設定してあり、項目に答えることで、自分たちがいじめと認識していなかったことがいじめ行為であることに気づいたり、本人が訴えないいじめを友達が知らせる項目が設定してあるのです。

　②　いじめが見える教師の目の育成

次に、集団を預かる教師の目を育てることです。教室で、いつも本を読んでいる子、いつも絵を描いている子、先生の周りをうろうろしている子、職員室によく入って来る子。それを、まず「何かある」と感じる心です。

それを、「おとなしい子だ」「外遊びの嫌いな子だ」「本や絵を描くことが、とても好きな子だ」等、その子の個性だ、などと勘違いしないことです。

担任していた子供が急にこのような状態にになれば、担任も不審に思うでしょうが、去年も、その前の担任からも、「友達のいない子ですよ」と引継があったり、担任した当初からこういう状態であると、「そういう個性を持った子」と捉えがちです。

子供が友達と遊ばず静かにしていること事態がすでに異常な状態です。子供が友達と遊びたくないわけがありません。おしゃべりしたくないわけがありません。友達がほしくてほしくて、おしゃべりがしたくてたまらないのが子供なのです。　

事件を起こした子のことを尋ねられて、中学や高校の同級生が、「友達が少なかったな」「友達なんていなかったのでは」「おとなしい目立たない子だった」と、インタビューに答えている場面をよく見ます。友達や教育関係者は事件を起こしたその子のことを、当時どう思っていたのでしょうか。「つらい歴史を持っているのでは？」と考えたことはないのでしょうか。

私は、いじめの呪縛から解き放たれた子供（いずれも小学校４年生でしたが）が、今まで没頭していた本やお絵描きなど見向きもせず、みんなと生き生きと遊び回り、放課毎にびっしょり汗をかいて帰ってくるように変貌した姿を何人か知っています。

子供は本来、友達と遊び回るのが自然なのです。放課には、友達とおしゃべりを楽しむのが自然なのです。集団の中で孤立しているつらさは、どんなに深いことでしょう。

子供集団を預かる教師は、子供が病気でもないのに教室にいることに、疑問を持つくらいの目は、ぜひ、養いたいものです。

10 　いじめの世代間連鎖？

「いじめって何？」のところでも書きましたが、いじめ構造の中で無意識のような状態で体験し学習された考えや行為（それを構造主義と学問的には言うそうですが）は、修正される機会がなければ、そのまま本人の考えや行為となるようです。心理学的には内面化と言うそうです。

　

中学に行っても、いじめの構造がが多くの同級生によってすぐに再構築されます。知らない小学校出身の子供も居るはずなのに、わざわざ伝える子がいるからです。もっと多くの他学校出身者で占められる高校生になっても、同じようないじめの構造がすぐに出来上がります。

子供は誰が権力の座に付く子で、誰が下位に置かれる子か、すぐに見分けます。小学校から延々と学習してきた体験なのですから。

この実態から、いじめの構造の無意識的認識が、それぞれの生徒の中にも脈々と息づいていることを感じさせます。また、「バイ菌遊び」や「金銭の強要」が十数年にわたって、ある学校に密かに受け継がれていた例もあります。その学校の子供の悪しき裏文化の伝統として、次々と何十年も密かに、子供から子供へ引き継がれていくのです。

まるで、ＤＶや児童虐待の世代間連鎖のようです。もっと悪いことは、そのいじめ体制の世代間連鎖を受け継ぐ人数が、莫大な数にのぼるということです。大人のいじめも、あながち、こんなところに根元があるのかも知れません。