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ほぼ日刊『お兄ちゃん』コミュのみちこ!それオバケやない!オババや!

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歳をとればガタが来ます。
人も電化製品も建造物も、例外なく弱っていきます。

我が家はご近所でも有名なお化け屋敷です。
近代的に立て直されるはずだった周辺の家々もこの古びた屋敷に感化され、新築なのにまるで築20年な雰囲気に作り上げられてしまったほどです。違う意味で怖いです。

昔、夜に子供数人が我が家を懐中電灯で照らすという、何ともいやらしい悪戯をされたことがありました。
あまりに照らすので、トトロのぬいぐるみを窓に押し付けてやったところ、トトロを照らした子供達は悲鳴をあげ一目散に逃げ出しました。
慌てた1人が靴を一足落としていきましたが、メイの靴ではありませんでした。

そんなこんなで僕の家は、老朽化も甚だしいのです。



******



10年程前の話だ。
霜が降りだす季節だったと思う。
歩けばサクサク鳴る音が耳に残っている。

家に帰ると、僕はその足で台所へ向かい、食物を漁るのが日課となっていた。

「お兄ちゃん!!私のアイス食べないでね!!」

寒い中、アイスを好む人間は意外と多い。我が家の女性陣もまた例外にあらず。

「わかったよ。名前書いといて。あと、おばあちゃんにも言っときな」
「うん。でも、おばあちゃんは食べないでしょ?お年寄りはアイス食べないよ?」
「何その決めつけ。そうなの?初耳だよ?」
「お年寄りはアイス食べると死んじゃうんだよ?」
「・・・それ、おばあちゃんも初耳だと思うから教えてあげて」
「ふ〜ん、わかった!!」

まだ幼かったゆめは物分りもよく、その足でおばあちゃんの部屋に向かい「おばあちゃん!!アイス食べたら死んじゃうからね!!」と、脅しをかけていた。

お茶と肉まんを抱え、二階の自分の部屋に向かった。
戸を開けると、あみ(妹)がソファーに寝転び漫画を読んでいた。

「勉強はいいの?」
「休憩中なの〜」

まるで休憩室な僕の部屋がお気に入りなようだ。
あみは当時受験生で、普段から割と真面目に机に向かっていた。
その後、結局専門学校に入学することになるなんて、まだ誰も知らない。

「あ!!肉まんじゃん!!頂戴!!」
「年頃の娘が肉まん食べると死ぬらしいぞ」
「じゃあ死ぬ前の最後の頼みだ、その肉まん、寄こせ!!」

こいつは大物になりそうだ。
あみは僕から肉まんを奪い取り、我が物顔でかじった。

「お前、底抜けに肉まん好きだよね」
「うん・・・あ、底抜けで思い出したんだけどさ、台所の床、最近ギシギシするんだ。気をつけてね」
「うちも古いからな、わかった。お前も気をつけろよ」
「は〜い!!じゃ、トイレ!!!」

あみは勢いよくドタバタと階段を駆け下りていった。
言った側からやらかす辺りは、おそらく母親譲りだろう。
そして、トイレに行くことをわざわざ申告する辺りは、おそらく父親譲りだ。
そして、この流れだとあみはトイレに肉まんを持ち込むようだが、それが誰譲りかは、もはやどうでもよかった。

僕は残ったお茶を啜りながら、あみの読んでいた漫画に手を伸ばした。



******



僕がお茶を飲み干したとほぼ同時に、その悲鳴は僕の耳を劈いた。


「ぎゃあああああああああああああああああ!!!!!」


階下からだ。
ぼくは何事かとすぐさま部屋を飛び出し、階段を天狗の如く飛び降り、まずおばあちゃんの部屋を覗いた、が誰もいない。
その足でリビング、洗面所と周り、台所にやってきた時、その光景に直面した。



おばあちゃんが落ちていた。



片足が見事に台所の床をぶち破っていた。
我が家は構造上、車庫の上に台所がある。その為、台所の床だけは滅法脆い。
しゃがみ込んだ状態のおばあちゃんは「まいったね〜」と呟いている。
その脇では妹二人が睨み合っていた。



「なに!?床抜けたの?おばあちゃん大丈夫!?」



その僕の問いかけは空に塗れて、消えた。
この状況で一番相応しい問いかけだと思ったのに、思い切り無視された。
それはもう気持ちが良いほどに。

婆「喧嘩はやめなさいよ〜ほら、アイスなら買ってきてあげるから」
ゆめ「嫌だ!!だってすっごく楽しみにしてたのに!!なんで食べるの!?」
あみ「アイスがあれば食べるでしょ!!そんなに食べられたくないんだったら名前書いとけ!!」
ゆめ「書いてたもん!!お兄ちゃんに言われて書いてたもん!!」
あみ「ああ、これ?なんだ、ミミズの絵かと思った」
ゆめ「字だもん!!ひらがなだもん!!」

この程度の喧嘩なら日常茶飯事だが、冷静になってほしい。
今、目の前ではおばあちゃんが床に片足を突っ込んでいる。
にもかかわらず妹達はアイスをめぐって言い争い、おばあちゃんは喧嘩に片足を突っ込んでいた。
喧嘩をする妹。
片足が落ちているおばあちゃん。
それに全く触れない妹、とおばあちゃん。
「まいったね〜」はこちらの台詞だった。

僕「喧嘩やめなさい。とりあえず落ち着きなさい。で、今悲鳴上げたの誰?」
ゆめ「・・・は〜い」
僕「・・・おばあちゃんが落ちたから悲鳴上げたの?」
ゆめ「違う。お姉ちゃんがアイス食べたから」
僕「・・・ホントに?」
あみ「ホントで〜す」
婆「ホントで〜す」

ホントで〜す、その掛け合いはさながらコントで〜す。
とりあえず、アイスはあみが買ってくるということで喧嘩は収めた。
そして僕は、改めて質問を投げかけた。

僕「・・・でだ。おばあちゃんは、床抜けて落ちたんだよね?」
あみ「うん!!おばあちゃんが私の代わりに落ちてくれた!!」

こんな状況でうまいこと言ってる場合じゃない。
受験生おそるべし。
僕はそのままの勢いでおばあちゃんに近づこうとした。

「動かない!!」

おばあちゃんの一喝。

「今動いたら床が一気に抜けるよ。あんたらまで落ちちまうよ。特にあみちゃんは落とす訳にはいかないからね!」

冷静な判断には頭が下がるが、おばあちゃんまでうまいこと受験の話を絡めてる場合じゃない。
仮に受験の話を絡めていないんだとしたら、それはそれで悲しいぞ。
とりあえずそのままの状態で話を聞くことにした。

僕「とりあえず、なんで落ちたの?」
婆「いや〜なんてことはない。歩いてたら落ちてたよ」
あみ「私の目の前でおばあちゃんが消えたと思ったら、落ちてた」
ゆめ「おばあちゃんがアイス一口食べたいって言ったからダメって言って、お姉ちゃんがアイス勝手に食べて、おばあちゃんも来て、そしたらドーンってなって、見たら右足がなかった!!あ!!アイス食べたがったから落ちたんじゃないかな!?」

【歩いてたら落ちてた】
それが体重や血糖値ならどれだけ良かったことか。
そしてゆめ、何を言ってるのかよくわからないが【アイス食べたがったから足が消えた説】を提唱するのはやめなさい。
アイスを食べてもお年寄りは死にません。

僕は素朴な疑問が浮かんだので聞いてみた。

僕「・・・おばあちゃんいつ落ちたの?」
ゆめ「・・・早めに落ちた」

落語じゃないんだから。

話を聞いたところ、おばあちゃんのアイス食べたい願望を打ち砕いたゆめが、その後おばあちゃんと一緒にテレビを見ていたらあみがトイレから現れて台所でアイスを食べだした。
それを見たゆめが憤慨し喧嘩に発展。見るに見かねたおばあちゃんが台所に向かい、そこで落ちた。が、興奮した妹達はそれどころではなく喧嘩を継続。目の前でアイスをこれ見よがしにもう一口食べたあみにブチ切れたゆめが悲鳴をあげた。ここで僕、登場。
そんな流れらしい。確かに割りと早めに落ちていた。

とにかくどうしたらいいのか、僕は考えた。

僕「おばあちゃん、自力で立てない?」
婆「いやあ、どうかね。足を踏ん張った時に重さで落ちないか不安だよ」
僕「おばあちゃん軽いから多分大丈夫だよ。何キロくらいある?」
婆「体重?・・・うふふ」

これ見よがしに照れられた。
こんな時こそ乙女心を忘れちゃだめだ。
そんなメッセージを受け取った気がした。

僕「とにかく電話しよう。えっと、こうゆう事態のときはどこに電話すればいいんだ?・・・レスキュー?レスキュー隊って何番だ?」
あみ「みちこに電話でしょ!!」

みちこ(通称:みっちゃん)とは僕らの母親のことだ。
レスキュー隊を差し置いての母親の信頼感に感服する。
とりあえずみっちゃん(母上)に電話したが、スムーズに留守番電話へ案内された。

留守電に「おばあちゃんが大変だからすぐ帰ってきて」と吹き込み終えた丁度その時、外からエンジン音が聞こえ、止まった。
おそらく買い物へ行っていたであろうみっちゃんが帰ってきたのだと察した僕は、とりあえず何とかなるかもしれないと安堵した。さすがの信頼感だ。
が、次の瞬間・・・


「キャアアアアアアアアアアアア・・・・・」


うっすらとではあるが悲鳴が聞こえた。
外からだ。妹やおばあちゃんと視線を合わせる。どうやら空耳ではないらしい。
そして、家の前で止まったはずのエンジン音が再び鳴り出したかと思うと、そのまま徐々に小さくなっていった。
僕はそっと玄関に向かい、外に出た。
我が家のワゴンRが前方に見えた。
徐々に小さくなり、そして、消えた。
僕はもしやと思いその足で車庫に向かった。



足が生えていた。



車庫の天井から、老人の足が生えていた。
ブラブラしていた。
車で帰宅したみっちゃんが驚いて逃げ出すには充分な光景だった。
ホラーどころの騒ぎじゃない。
もう、それはものの見事に逆犬神家だった。

僕はおもむろに足の下へ移動し、足の裏に声をかけた。

僕「聞こえる?」
足の裏(婆)「聞こえるよ〜」
あみ「さっきの悲鳴なんだった?」
僕「みちこ。おばあちゃんの足が車庫の天井から垂れてて、それ見て逃げた」

言うや否や、上から聞こえた大爆笑の声。
一番目立っていたのは、おばあちゃんの声だった。

足の裏(婆)「私の足が大活躍だよ〜♪」

ブンブン足を振って喜ぶおばあちゃん。
活躍してない。
全く持って活躍じゃない。
床を蹴り落とした過去などもはや昔の話だった。
自分の娘を驚かせて喜ぶおばあちゃん。
オバケよりたちが悪い。
みちこトラウマ、逃げる様はハネウマだ。

後にみっちゃんがこの事件を【車庫足入道】という名前を付けて親戚の子供に聞かせていたが、その語り口はまさにカリスマだった。つまりはイナガワだった。

さて、本題に戻る。
この状況をいかに打破するか。
おばあちゃんの体力面、はさほど心配する必要もなさそうだ。
相変わらず足をブンブン振り回している。
問題は、さっきから何人かの小学生が定期的に家の前を通り過ぎることだ。
そのたびにみんながみんな、驚いて逃げていく。
そりゃそうだ。
僕の顔の横で老人の足が勢い良く動いているんだから。
逆に「珍しい形のひょうたんですね」なんて言いながら近づいてくるガキンチョがいなくて良かった。
なんならそっちのほうが怖い。
僕は提案してみた。

僕「おばあちゃん、足を下から押すからさ、立てない?」
婆「う〜ん、立てないことも無いけどね、あんたがあぶないでしょ?」

どんな場面であろうと孫を心配する冷静なおばあちゃんが僕は好きだ。

婆「だったらね、天井支えててくれる?踏ん張って立つから」

そっちの方があぶないだろこのトンチンカン。
冷静なおばあちゃん帰って来い!!
が、どうやら僕の返事を待つ気もないらしく、おばあちゃんが立とうとしている。
「あぶないからあみとゆめはそ〜っとこっちに移動して」なんて声も聞こえる。
僕は男の子だから心配されないんだ。
いや違う、これはきっと頼られてるんだ、そうに決まってる。
自分で自分を奮い立たせるしかなかった。

僕は天井を支えた。
軽く粉が僕の頭に降り注いだが、特に問題なくおばあちゃんは立ち上がったようだ。
片足だけで体を持ち上げる老婆、冷静に考えたら怖い。

屋内に戻り、三人を台所から避難させ、あぶないから台所に行く時は僕に言うようにと、ひとりで行かないように、と指導した。
ひとまずおばあちゃんが入れたお茶で一息いれる。
まるで、さっきまで足が嵌っていたのが嘘のように、おばあちゃんはひとり、台所へ軽快な足取りで茶菓子を探しにいった。馬の耳に念仏とはこのことだった。

僕がおばあちゃんに説教をしているとみっちゃんから電話があった。

みちこ「もしも〜し、留守電聞いたよ!!大丈夫?」
僕「うん、今はもう大丈夫。とりあえず帰ってきて」
みちこ「そうか〜。ねえねえ、さっきね・・・あ、聞きたい?この話」
僕「うん、なに?」
みちこ「さっきね、オバケを見たの」

ここまで先の読める話も無い。

僕「・・・何見たの?」
みちこ「足のオバケ」

この発言が一番怖かったことは、言うまでもない。



******



その後、台所の床のみをリフォームし、家はまた、健全な状態に戻った。
今思えば、あの事件で怪我をしたのは家だけだ。
おばあちゃんは「足で床を抜いてやった」と、まるで武勇伝のようにご近所に吹いて回っていたが、事実なので仕方がない。

ゆめとあみは今も相変わらずアイスで喧嘩をしている。
これがいわゆる冷戦ってやつなんじゃないかって思う。

そういえば、当時ゆめに聞いた話だが、なんでもうちの近所にオバケ屋敷があるそうだ。
日が暮れる頃、足だけの幽霊が現れて、道行く人を蹴ろうとするらしい。
同級生が言っていた、とゆめは興奮して話してくれた。
「いつか一緒に見に行こう!!お兄ちゃん!!」と。
それからだ。我が家がご近所でも有名なお化け屋敷となったのは。
勘の鈍さは母親譲り。
怖いもの見たさな部分は、おそらく父親譲りだ。

買ってきたアイスに名前を書きながら、僕は台所の床に視線を落とす。
思いのほか頑丈で、まだしばらくは僕らを支えてくれそうだ。
冷蔵庫がウォンウォンと気味の悪い音を出している。
お前までオバケを気取らなくてもいいのに、軽く小突くと氷の揺れる音がした。
そういえば、つい最近、冷蔵庫が案の定壊れたのだが、それはまた別の話だ。






追記

すいません。冒頭の文。
例外ありました。
【うちのおばあちゃん】です。



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